※純情シリーズですが、前作を読んでいなくても大丈夫です。




月のない静かな夜、屋形船の窓辺に腰掛けて高杉晋助は煙管をくゆらせていた。
そこへ河上万斉がやってくる。

「例の物、坂田銀時の手に渡ったでござる」
「そうか…」
「それにしても何故あのような物を?」
「幕府の狗と温い付き合い続けてるアイツに、刺激的な夜をプレゼントしようと思ってな」
「なるほど…。確かにあれは、今日のような月のない夜にピッタリでござるな」
「だろ?くくくっ…楽しい夜になりそうだ」



みいみいみ〜純情な二人と旧友からの贈り物〜



「い、いらっしゃい」
「お、お邪魔します」

非番前夜、いつものように土方は万事屋を訪れた。今日は仕事が多く、深夜の訪問になってしまった。
神楽は既に新八と志村家へ行っているので、万事屋には銀時一人である。
伏し目がちにはにかみながら銀時は土方を迎え入れ、土方も恥ずかしそうに玄関をくぐる。

土方が草履を脱いで上がると、どちらからともなく手を取り合い廊下を進んでいく。
長くもない廊下を抜け、居間の長イスに並んで腰かける。
すると土方は、普段と違うものがテーブルに置かれているのを見付けた。

「坂田、これは…」
「ゲーム。…依頼で預かってるだけだけどね」
「ゲーム?」

銀時は「ゲーム」と言うが、ディスクは真っ白でタイトルも何も書かれていない。
見ただけでは、どんな内容か想像もつかなければ、本当にゲームなのかどうかも分からなかった。

「うん。なんか、お通ちゃんからの依頼とかで、新八が置いてったんだ」
「…なんでメガネが持って行かないんだ?」

大好きなアイドルから預かったゲームなら、新八自身で持っているのが自然である。
それなのに何故、銀時の元に置いておくのか土方には分からなかった。
銀時はボソボソと言いにくそうに答えた。

「このゲーム…R18なんだって」
「はぁ!?なんでそんなモンをアイドルが…」
「お通ちゃんはプロデューサーにもらったんだって。そんで、すぐに返そうと思ったけど
何か考えがあって渡されたのかもしれないって思って、中身の確認を万事屋に依頼してきたってわけ」
「それ、プロデューサーのセクハラじゃねェのか?」
「さあ?何でも凄腕のプロデューサーらしくて、普通の感覚とは少し違う人らしいんだ」
「少しどころじゃねェだろ…」

若い女性にR18のゲームを渡すなど、土方には信じられなかった。
しかし、更に信じられない事態が土方を襲う。

「それでね…中身の確認を、一緒にしてほしいんだけど…」
「はぁ!?ななな何で俺が…」
「だって、こういうの…土方に内緒でやったら、悪い気がするし…」
「ししし仕事なんだから、仕方ないだろ」
「でっでも…」

縋るような瞳で銀時に見つめられ、土方の心が揺れる。
どちらかといえば土方はこういったものが苦手だ。そして表情を見る限り、銀時も苦手なように思えた。
それならば銀時の力になってやりたいと土方は決心した。

「わっ分かった。一緒に、やってやる」
「本当?ありがとう!…あっ、面白くなさそうだったらすぐ消すから」
「おう」

実際に銀時がゲームを止める基準は面白いか否かではなく、激しい性描写の有無である。
土方も何となくそれは分かっているが、互いのプライドのため、そのことには触れなかった。

「じゃあ、やるよ」
「お、おう…」

銀時がテレビをつけ、ディスクをゲーム機にセットした。

「………」
「………」

二人は片手でコントローラーを、もう片方の手で相手の手を握り、固唾を飲んで画面を見つめた。
そして真っ暗な画面から徐々にタイトルが浮かび上がってくる。

「「!!」」

血の滴るような文字で書かれたゲームのタイトルは―死霊の館。蝙蝠の飛び交う廃墟のような建物が映る。
おどろおどろしいゲーム開始画面が表示されたところで銀時がテレビのスイッチを切った。

「ぜぜぜ全然、面白くなさそうだなっ!」
「そそそそーだな!全く面白くなさそうだ!」

二人が想像していたR18とは違っていたものの、このままゲームを進めれば
性描写以上に見たくないシーンが繰り広げられることは明らかだった。

銀時はディスクを元のケースにしまい、土方の隣に戻ってぎゅっと手を握った。

「なんか…ゴメン。変なモン見せて…」
「いいいいや、気にするな。お前も大変だな…」
「………」
「………」
「えっ、えっと…もう、寝る?」
「そっそうだな。もう寝るか」

黙っていると「死霊の館」が脳裏に浮かんでくるため、銀時はさっさと寝てしまおうと提案した。
土方も同様のことを思っていたため、二人は手を握ったまま和室へ向かう。


和室にはいつものように微妙な距離を空けて二人分の布団が敷かれていた。

「………」
「………」

それぞれの布団の上に座ってみたものの、どちらも互いの手をきつく握ったまま離そうとしない。
ほんの少しだけ見たゲーム画面が恐ろしすぎて、相手に縋っていたいのだ。

「あ、あのよー坂田…布団、くっつけて寝ないか?」
「えっ!」
「そそその、怖い、とかじゃなく…おっ俺達、それなりに、長い付き合いだし、その…」
「そっそーだよなっ!そろそろ、布団くっつけても、いいと思う。…怖いとかじゃなく」
「じゃあ…」
「うん」

一旦手を離し、布団をピッタリとくっつけて再び手を握る。
銀時が部屋の明かりを消し、二人は手を繋いだまま隣合う布団に入った。

「………」
「………」

月明かりのない今夜は窓から差し込む光もない。
手は繋いでいるものの、闇に包まれて相手の姿も見えず、二人の恐怖心は募っていく。

そして遂に銀時がガバリと起き上がった。
つられて土方も体を起こす。

「…坂田?」
「ああああの…いっ一緒に、寝ない?」
「えっ!」
「こここ怖い、とかじゃなくて…そろそろ、いいかなー、なんて…」
「そそっ、それも、そうだな…。いいと、思う…」
「じゃあ…」
「おう…」

土方が自分の枕を端にずらし、銀時がその隣に枕を置く。
二人で一つの布団に入り、相手側の腕を絡めるようにしてからしっかりと手を繋ぐ。

互いの呼吸が聞こえるほどの距離に、漸く安心することができた。

その日二人は、朝まで寄り添って眠った。

*  *  *  *  *

翌早朝。

「ちょっと!大変アル!」

二人の様子を見にこっそり万事屋に戻った神楽は、一緒に来た新八を呼ぶ。

「どうしたの、神楽ちゃん」
「しっ!声が大きいネ!二人が起きちゃう…」
「一体どうし…
あっ!」

つい声を上げてしまい、新八は慌てて口を塞ぐ。だが驚くのも無理はない。
ロクに目も合わせられず、手を繋ぐことしかできないはずの二人が同じ布団で寝ているのだから。

「どうしたんだろう…」
「きっと、お通ちゃんのゲームで気分が盛り上がったネ」
「つんぽさんからもらったっていう、あのゲーム?」
「そうヨ」
「実はこのゲーム、R18って言ってもそっち系じゃなくて、ホラーなんだけど…」
「…何でそんなこと知ってるネ」
「ゲームを受け取る時にお通ちゃん本人から聞いたんだよ。怖くて見られないからお願いって。
でも、そんなこと言ったら銀さん、依頼を断ると思ったから…」
「お通ちゃんにいいカッコしたくて、銀ちゃんを騙したアルか?」
「騙すなんてそんな…」
「でも、マヨラーと仲良くなったみたいだから許してやるネ」
「あ、ありがとう」


新八と神楽はそっと襖を閉めて、再び万事屋を後にした。


「あっ!記念撮影して、ドSとジミーにも見せてあげればよかったネ」
「まあ、たまにはそっとしといてあげるのもいいんじゃない?」
「新八ィ…お前、騙してたからって弱気になっちゃだめヨ!」
「ハハハハ…」


結局その日、銀時と土方は何も知らず、万事屋で穏やかな休日を過ごすのであった。


(10.05.15)


前作で出てきたキス写真の行方が気になるところですが、その前に31313HITで素敵なリクエストをいただいたので先にアップさせていただきました。

「純情シリーズで、ホラゲーをプレイ」でした。「ケタケタ笑いながら銀さんにホラゲーを送る高杉が浮かんだ」とのことでしたので、初めて高杉(と万斉)出しました。

リクエスト下さった舞夜様、ゲームをプレイする前に終了させてすみません。リクエストのおかげで、純情な二人は少し近付くことができました。

こんな小説ですが、よろしければ舞夜様のみお持ち帰り可ですのでどうぞ。 ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

追記:続きはこちら→

 

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