※「純情な二人と純情でない二人」の続きです。
すっかり定例となった「デート前の作戦会議」の場。参加者は四人―山崎、沖田、新八、神楽。
ここで言う「デート」とは、もちろん銀時と土方のデートである。
最初に口を開いたのは沖田であった。
「さて…今回はどうするかねィ」
「この前は大失敗だったから今度こそ成功させたいアル」
前回の作戦は二人にAVを見せるというものだった。AVを見て気分を高揚させることが狙いだったのだが
純情過ぎる二人には刺激が強すぎたため、映像を見ながら気絶してしまったのだった。
AV作戦の言い出しっぺである沖田は「失敗」と言われたことに納得いかない様子である。
「特に後退したわけじゃねェから、失敗じゃないだろィ」
「前進もしてませんけどね」
ハハハ…と笑う山崎を沖田がギロリと睨み付ける。
「そんなに言うなら山崎、オメー何か作戦考えろィ」
「えー、そんないきなり言われても…えっとー、手は繋げるんだからハグとかはどうですか?」
「はぐ?それ何アルか?」
「抱き合うことだよ、神楽ちゃん」
新八がすかさず説明を加える。
「じゃあ、また二人を接着剤でくっ付けるアルか?」
「手だけだったらそれで良かったが…大の男二人をくっ付けるのは容易じゃねェぜ」
「それに、体全体がくっ付いたら流石にすぐ離れようとするんじゃないですか?
手の時みたいに、繋いだまま丸一日過ごすとかは無理そうですよね」
「それならいっそのこと、キスはどうですか?」
「お前、銀ちゃんを窒息させる気アルか?」
新たな提案をした山崎を、今度は神楽が睨み付ける。山崎は慌てて訂正する。
「いやだから、ずっとくっ付けるんじゃなくて一瞬チュッってするくらいで…」
「一瞬だと終わった後、また元の二人に戻っちゃうんじゃないですか?」
「だったら証拠写真でも撮っておくかィ?」
「いいアルな!二人がチューしてるとこ写真に撮るアル!」
「でも…僕らの前で二人がそんなことできますかね?」
「二人をぶつければいいんじゃねェか?」
「いいと思いますよ。副長と旦那は同じ身長だから、立って向かい合っていれば調度いいんじゃないですかね」
「じゃあ明日、土方さんが万事屋に来た時に実行しますか?」
「そうだな。俺たちがこっそり付いていって土方さんの背中を押してやるぜィ」
「銀ちゃんは私がやるネ」
「僕ら、カメラ持っていないので撮影もお願いしていいですか?」
「任せてよ。バッチリ収めてみせるから」
「じゃあ、そういうことで」
本日の作戦会議はこれにて終了した。
純情な二人の二度目のキス
部下達が作戦会議をしていることなど知りもしない土方は、約束通り仕事を終えてから万事屋へ向かった。
その後を山崎と沖田がこっそりつけていく。
土方は万事屋へ続く階段を上り呼び鈴を押す。
その時、山崎と沖田は階段の一番上から数段下がったところで身を潜めていた。
「い、いらっしゃい…」
「おじゃまし、ます」
やや節目がちになりながら銀時が土方を迎え入れる。その時…
「今ネ!」
「うおっ!」
「うぶっ!」
カシャッ!
神楽が掛け声とともに銀時を扉の外まで押し出し
咄嗟に後ずさった土方を沖田が押し戻し、キスというより二人の顔と顔をぶつける。
そこをすかさず山崎がカメラ付き携帯電話で撮影した。
「やったアル!」
「山崎さん、どうですか!?」
「バッチリだよ!」
山崎は得意気に携帯電話の画面を見せる。三人はそれを覗き込んだ。
「二人とも目ェ開いてるが、まあ、こんなもんだろィ」
「充分ですよ。さすがです山崎さん」
「いやあ、それほどでも…」
「やるアルなジミー!それに比べて新八は何の役にも立ってないネ。同じ地味でもこっちは使えないジミメガネアル」
「酷いよ神楽ちゃん。今回はちょっとアレだったけど、僕だって他の時は…って、あれ?
そういえば二人は?」
すぐに怒鳴り声が響くかと思いきや、四人がわいわい騒いでいる間も二人はずっと黙っている。
四人は改めて玄関先でヘタり込んでいる二人に視線を向けた。
「ス…スマン坂田。そ…そういうつもりじゃなかったんだ」
「こっちこそゴメン。べ…別に…気にして…ないから」
「えっ、何これ?何このフワフワした空気」
顔を赤らめて斜め下に視線をずらしながら謝る二人は、完全にギャラリーの存在を忘れているようで
新八はツッコまずにはいられなかった。
(な…なんだよ。ハプニングキスしちゃった位で…。べ…別に、か…関係ねーよ。キ…キス位…
そもそもアレはキスっていうか事故みてェなものだったし。べ…別にアイツは好き好んで俺とキスしたワケじゃな
いし…)
「頭の中覗いて申し訳ないんですが、モノローグしてないで早くこっちの世界に帰って来てください」
新八のツッコミむなしく、土方も銀時もフワフワした空気に包まれたまま正気に戻らない。
土方を山崎と沖田が、銀時を新八と神楽が支えて何とか立ち上がらせる。
そしてそのまま二人を事務所の長イスに並んで座らせた。
相変わらず二人はボンヤリと前を見ているだけで互いの方を見ようとしない。
だが、その表情はどことなく嬉しそうに見えたので、四人は気になるものの二人きりにさせることにした。
(坂田と、キキキキス、しちまった…。ぶつかっただけだが…でも、でもっ、どういう形であれ
キキキキスしたことは、事実だよな…。すげェ恥ずかしかったし、今でもドキドキ心臓がうるせェ。
けど…何だか体が温かい。…これが幸せってヤツなのか?)
(土方と、キキキキス、しちまった…。ぶつかっただけだけど…でも、でもっ、どういう形であれ
キキキキスしたことは、事実だよな…。すげェ恥ずかしかったし、今でもドキドキ心臓がうるさい。
けど…何だか体がぽかぽかしてきた。なんか…幸せっぽい)
黙ってキスの余韻に浸っていた二人はどちらからともなく手を取り合い、更なる幸せに浸っていく。
そんな幸せいっぱいの土方の元に一通のメールが届いた。
土方は繋いでいない方の手で携帯電話を操作する。
「あっ…」
「どうした?」
メールを見た土方が声を発したことで、銀時も現実世界に戻ってくる。
「メール?もしかして、仕事?」
「いや…山崎、と総悟から…嫌がらせのようなモンだ」
「嫌がらせ?…あっ!」
土方は黙って携帯電話の画面を銀時に向けた。
そこには先程の―キスしている二人の画像が添付されていた。
もともと赤くなっていた銀時の顔が更に真っ赤になる。
「けけけ消して!今すぐ消して!」
「俺だってそうしてェよ!でも、消したら爆発するって…」
「はぁ!?そんなワケ…」
「ないって言い切れるか?メール自体は山崎の携帯からだが、この文面、明らかに総悟だぜ?」
「うっ……沖田くんなら…あるかも」
「だろ?…まっまあ、消さねェけど、もう見ねェから…」
「うん。そうして」
「…あっ、またメールが来た」
土方は恐る恐るメールを開く。
「マジかよ…」
「こっ今度は何?」
再び土方は無言で銀時に画面を見せた。そこには次のような文章が書かれていた。
お二人の写真を土方さんだけが持っているのは不公平だと思うんで
旦那にも送りたかったんですが、あいにく旦那は携帯を持っていやせん。
なのでプリントしたものをチャイナに持たせやした。
恐らくそろそろ届くころだと思います。
失くすといけないんで、出来る限り大きく引き伸ばしておきやした。
それでは、旦那によろしく。
「えっと…さっきの写真の、もっとデカいのを神楽が持ってくるってこと?」
「…そのようだな」
「それ…俺が、持ってなきゃ、ダメ?」
「…お前以外に、誰が?」
「だよなァ…。あの…押入れの奥、とかにしまっとくから…」
「ああ、そうしてくれ」
二度目のメールが届いてから少しして、神楽によって例の写真が届けられた。
神楽は玄関に写真を広げる。新聞を開いた程の大きさがあるそれは写真というよりポスターのようだ。
「じゃあ私はこれで…」
「ちょっ、神楽ちゃん?玄関にそんなの広げてちゃ邪魔だから、畳んでおいてくれる?」
「嫌アル。お前らの写真なんだからお前らで片付けるネ」
「いや、だってそこに置いたのは神楽、オメーだろ!」
「私はここに置くのがいいと思うネ。ここに置いておけば恋人同士がいちゃついてるって一目瞭然ネ。
これで玄関勝手に開けられても、部屋まで入って二人の邪魔されることはないアル」
「勝手に開けるって神楽、まさかこの状態でオメー鍵かけねェつもりか?」
「銀ちゃんいつも『取られるモンなんか何もねェ』って言ってるアル」
「それとこれとは別だろー!取られるモンはなくても、見られちゃ困るモンがあんだろーが!」
「私は困らないネ。…じゃあな」
「あっおい!」
玄関にキス写真を広げたまま神楽は出て行ってしまった。
「どどどどーしよう、土方!」
「どーするって…片付けるしかねェだろ」
「そそそそー思うんなら、土方が片付けろよ」
「はぁ?ななな何でだよ!お前ん家の玄関だろ?」
「ででででも…あんなにでっかく、おおお俺達がキキキキ…」
「ああああ…言うな!分かった!じゃあ二人で行こう」
「おおおおう」
「せーの、で行くぞ。裏切んじゃねーぞ」
「分かってるよ。…せーの!」
「うぅ…」
「あぅ…」
二人は手を繋ぎ直し(神楽が来たので離していた)掛け声とともにそろそろと廊下を進んでいく。
なるべくキスの写真を見ないようにするためか、二人とも薄目になっている。
「なっなんじゃこりゃぁぁぁ!!」
「総悟の野郎!」
何とか写真まで辿り着き、二つ折りにしてキスシーンが見えなくなって一安心…かと思いきや
裏には小さいサイズの同じ画像がビッシリと印刷されていた。
「ととととりあえず畳もう!」
「そそそそうだな。できるだけ小さくな!」
二人は不自然に上を向いて、手探りで床に置かれた写真を一緒に折り畳んでいく。
手のひら大まで畳んだところで銀時が両手で写真を挟み、和室へ走った。
同時に土方も和室に走り、両手が塞がっている銀時の代わりに押入れを開ける。
「これでよしっと」
土方が開けた押入れに銀時が奥まで手を突っ込み、そこで両手を開いて畳んだ写真を落とす。
銀時が手を抜くと、土方が瞬時に押入れを閉めた。
二人は満足そうに息を吐き、漸くいつもの穏やかな時が戻ってきたのであった。
(10.04.02)
たかがキス写真で危険物処理みたいですね。しかも消すと爆発って、前回と同じ脅し文句に騙されてます(笑)。毎度のことですが、原作の二人とかけ離れていてすみません。
キスした時の反応の元ネタはパンデモニウムのアレです。一応、二度目のキスなのですがどう見ても初めてですね。というか、本当の初キスの時より初々しくなってます。
ちょっとずつ関係は深まっているのですが、なかなかそうは見えないのがこの二人の特徴ですね。 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
追記:キリリクで純情シリーズ番外編書きました→★
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