※「みいみいみ〜純情な二人と旧友からの贈り物〜」の続きです。



土方は非番前夜、いつものように万事屋を訪れた。
いつものように銀時がはにかんで出迎え、土方もいつものように、はにかみながらそれに応えた。
そしていつものように軽く酒を飲みながら夕食を共にし、交代で入浴し、並べて敷いた布団で就寝する…はずだった。



純情な二人と真夜中の葛藤



(相変わらずすげェ数だな…)

先に入浴を済ませた土方は、銀時が敷いてくれた布団の上に座って部屋を見渡す。そこには新八と神楽によって
貼られた自分達がキスしている写真の数々。大判ポスターのように引き伸ばされたものから切手大のものまで。
土方はふと、自分の携帯電話を取り出して開く。すると待受画面にも同様の画像が表示されていた。

「………」

じっと画面を見つめていると、僅かに鼓動が速くなった気がした。何となく体温も上がった気がした。

「何してんの?」
「うぉわ!」

ふいに後ろから声が掛けられ、土方は驚いて携帯電話を放り投げる。幸い、布団の上に落下して大事には至らなかった。

「な、なんだ坂田か…」
「あ…驚かせちゃった?ごめん」
「い、いや、大丈夫だ」
「もしかして…仕事の電話?」
「あ、違うんだ。ただ、見てただけで…」
「そう?…あっ、何か飲む?」
「麦茶、もらった」

土方は枕元に置いてあるグラスへと視線を向ける。

「じゃあ、俺も麦茶持って来ようっと」

銀時は台所へ麦茶を取りに行き、土方はその間に携帯電話を拾って再び画面を見た。

「…っ」

先程よりもはっきりと、鼓動の高鳴りと体温の上昇を感じ、土方は携帯電話を閉じた。

(一体どうしたんだ、俺…。あの写真はとっくに見慣れたはずなのに、なんでこんなにドキドキすんだ?)

そんなことを思っているうちに、銀時が自分の分の麦茶を持って和室に戻ってきた。
隣の布団に座り麦茶を飲む銀時の口元を、土方は無意識のうちに見つめていた。

(土方…なんかコッチ見てない?見てるよね?何?俺、何かした?やっぱりさっきの電話が仕事のことで
今すぐ戻らないといけないけど言い出しにくいとか?いや…そういうことなら普段だって遠慮なく言ってくれるし…
じゃあ何だ?何となく顔の下の方を見てるような…麦茶がほしいとか?いや、土方の麦茶だって残ってるし…)

銀時は麦茶を半分ほど飲んで自分の枕元に置いた。銀時が動いたことで土方は自分のしていたことに気付き
慌てて視線を逸らす。

(俺…今なにしてた?坂田の口元をじっと見てなかったか?何やってんだよ俺!坂田が変に思うじゃねーか!)

土方は気持ちを落ち着かせようとグラスを手に取り、残りの麦茶を一気に飲み干した。


「ふー…毎日暑いな」
「あ、うん。ウチ、クーラーなくてゴメンね」
「そそそそういう意味で言ったんじゃ…夏は暑くて当然だ」
「えっと……麦茶、もう一杯どう?」
「あ…自分で、持ってくる」

土方は空のグラスを持って台所へ向かった。


*  *  *  *  *


「じゃあ、そろそろ寝ようか」
「ああ」

二人は其々の布団に入り、相手側にある腕を伸ばして手を握る。
ホラーゲームの一件以来、こうして手を繋いで寝ることが習慣になっていた。

「おやすみー」
「おやすみ」

明かりの消えた和室で手を取り合った二人は、天井を向いて目を閉じた。


*  *  *  *  *


(ドキドキして眠れねェ…やっぱり今日は変だ。坂田はもう眠っちまったか?)

土方が暗がりに慣れた目で隣を見ると、目を閉じている銀時がいた。土方は繋いだ手を動かさないようにそっと
体を起こした。そして上から銀時の顔を覗き込む。

(あれっ?土方、起きた?暑すぎて眠れねェのかな?でも今夜は比較的涼しいし…ていうか、めっちゃ視線を
感じるんですけどォォォ!どどどどーしよう…このまま寝たフリすべき?)

銀時が起きるべきか否か迷っている時、土方は心の中で葛藤していた。

(ななな何でこんなこと…坂田は寝てるのに…。そりゃあ、起きてたら恥ずかしくて絶対無理だけど…でも…
だからって寝てる時にそんな…。だいたい、今まで考えたこともなかったのに…この部屋のせいか?)

土方は銀時から視線を外し、部屋を見回す。暗い室内は家具の影が見えるだけであった。
しかし、明かりが付いていた時に見た部屋の状況を思い出し、土方の鼓動がまた少し早くなった。

(この部屋がこうなってからだって、何度も来てるのに…。ヤバイ…どうしよう…)

土方は再び銀時の顔を覗き込む。それと同時に繋いでいた手をギュっと握っていた。

(ダメだダメだ…坂田が寝てる時にそんな…。でも…起きてる時にそんなこと頼めねェし…。ていうか、そもそも何で
こんなことを…。ダメだって!坂田の許可なしにそんなこと…)
(ななな何!?手をギュってされてる!土方…どうしちゃったんだろ…やっぱ起きるべき?)

銀時が迷っている間にも、土方は吸い寄せられるように銀時との距離を縮めていった。



「えっ…っ!!」

ほんの僅かだが唇に何かが当たった感触がして、銀時は驚いて目を開けた。すると至近距離に土方の顔があり
息が止まりそうになる。そして自分のしでかしたことと銀時が起きたことに、土方も驚いていた。

「ひひひ土方?」
「さささ坂田…おおおお俺は一体なにを…」
「ななな何って…キキキキ…」
「ああああ…言うな!すまん!今日の俺はどうかしてたんだ…」
「どっどうかって、だって…」
「本当にすまない。こんなこと、するつもりはなかったんだ…」
「で、でも…土方が、俺に…その…」
「そう、なんだが…その…今日は、なんだかおかしくて…」
「おかしい?」

土方はぽつりぽつりと今日の自分について話し始めた。銀時はきちんと布団から出て、土方の正面に座った。

「ここへ来た時は、いつも通りだったんだ。…だが、風呂上がりくらいから、何つーか…ドキドキしだして…」
「ドキドキ?」
「あ、ああ…。そんで、気付いたら坂田の、その…くっ口とか、見ちまうし…全然、眠れねぇし…それで…すまん」

土方は深々と頭を垂れた。

「あっあのさ…土方は、その…そういうこと、したかったの?」
「ちちちち違う!本当に、あんなこと、するつもりはなかったんだ。だが、何だか急に…」
「したくなった?」
「…すまん」
「謝んないでよ。俺達、その…つつっ付き合ってんだし、こういうことすんの、初めてじゃないし…」
「確かに俺達は、その…こっ恋人同士だが…お前の許可もとらずにあんなことを…」
「べっ別に俺…土方と、あの……そういうことするの、嫌じゃないよ。だから、あのっ…えっと…」
「坂田…ありがとな。それと、本当にすまなかった」
「もう、いいって。突然でビックリしたけど、大丈夫だから。…じゃあ、今度こそ寝ようぜ」
「ああ」

二人は再び手を取り合って其々の布団に入って目を閉じた。


*  *  *  *  *


(ヤバイ…なんか、めっちゃドキドキしてきた…。土方はもう眠っちまったかなぁ?)

銀時が暗がりに慣れた目で隣を見ると、目を閉じている土方がいた。銀時は繋いだ手を動かさないようにそっと
体を起こした。そして上から土方の顔を覗き込む。

(さっきは、あの口が俺の口に…っ!やべェ…ますますドキドキしてきた!どうしよう…なんか、変だ…)
「坂田…?」
「ひょわっ!」

土方が目を開けたため銀時は飛び上がって後ずさる。…手は繋いだままなので大して離れてはいないが。

「ごごごごめん、土方。起しちゃって…」
「い、いや別に、寝てなかったから…。それより、どうした?」
「え、えっと…その…あの…」
「…具合でも悪いのか?あっ…もしかして、俺があんなことしたから…」
「ちちち違う!でも、強ち違うとも言い切れないというか、その…」
「…やっぱり、あんなこと嫌だったよな…」
「そそそそうじゃなくて、その…嫌、とかじゃなくて、あのね…えっと…だから…」

言いにくそうに目を泳がせる銀時の両手を土方はギュッと握った。

「坂田、言いたいことがあるなら遠慮なく言ってくれ。おっ俺と坂田の、仲じゃないか」
「土方…」

握った手を見つめながら俯き加減でそう言った土方の黒髪が銀時の眼前で揺れる。銀時はそれを感動とともに見詰めた。

「ありがとう土方…。すげぇ嬉しい…」
「坂田…」

土方が顔を上げると銀時と目が合い、二人は恥ずかしさから慌てて俯いた。それから銀時はスゥッと深呼吸して
今の思いを伝えようと決意を固めた。

「あっあの…じゃあ、言うね」
「お、おう」
「じっ実は、その…えっと…さっき、土方がしてくれたアレ…おっ俺も、したい…かも、しれない」
「あ、アレって…その………キ……」
「う、うん。あの…土方さえ、よければ、だけど…」
「おっお前がしたいなら、いいぞ」
「…本当?」
「あ、ああ」
「じゃ、あ……します」
「おう」

土方は握っていた手を離し、やや顔を上げて固く目を閉じた。銀時の手が土方の肩に触れると土方の体がビクンと
跳ねた。その反応に銀時もビクビクしながら、息を止め、固く目を閉じて土方との距離を詰めていく。


「っ!」


唇の先端同士が微かに触れた瞬間、銀時は土方から離れて元の位置に戻った。

「ああああの、ありありありがとうございます」
「どどどどういたしまして」
「………」

何となく銀時から礼を言ったものの、それからどうしてよいか分からない。二人はいつも以上に恥ずかしさで溢れていた。

沈黙を破ったのは土方だった。

「ねっ寝るか?」
「そそっそうだね」

二人は三度(みたび)手を取り合って其々の布団に入って目を閉じた。



*  *  *  *  *



「おはようございます」
「おー…」
「銀ちゃん、どうしたアルか?マヨラーは帰ったアルか?」
「んー」

翌朝、新八と神楽が出勤してくると既に土方の履物はなく、寝間着姿の銀時が事務所のソファで突っ伏していた。

「もしかして二日酔いですか?」
「違ぇよ…。寝不足なだけ…」
「何で寝不足ネ?」
「何だっていいだろ…おやすみ」
「ちゃんと布団で寝ればいいじゃないですか」
「…じゃあアレ、剥がしてくれよ」
「アレって何ですか?」
「ポスターとか、シールとか…」
「銀ちゃんとマヨラーがチュウしてるやつアルか?」
「うん」
「何で今更…。昨日、土方さんと何かあったんですか?」
「…別に」

銀時は、話すために若干上げていた顔を完全に腕の間に沈めた。これは何かあったと言っているようなものである。

「話してみるネ。そしたら剥がしてあげるヨ」
「……なんか、変な気分になった」
「変な気分?」
「ムラムラしたアルか?ムラムラしてマヨを襲ったアルか?」
「ちっ違ぇよ!そんなんじゃ…」
「じゃあムラムラしたマヨに襲われたアルか?」
「だから違ぇって!ただ、ちょっと…」
「ちょっと?ちょっと何したネ?」
「………」
「言わないと剥がしてあげないアルヨ」
「そっそれと、同じこと…した」
「それ?それって何ネ?」
「だっだから…和室に貼ってあるやつと、同じ…」
「もしかして銀さん、土方さんとキスしたんですか?」
「………」

新八の言葉に、銀時はますます深く顔をソファに沈めた。

「本当アルか?銀ちゃん、マヨとチュウしたアルか?」
「………」

うつ伏せている頭が僅かに上下に揺れた。新八と神楽は目を輝かせて顔を見合わせる。

「おめでとうございます!」
「良かったアルな!どっちからチュウしたネ?」
「りょ、両方…」
「両方?銀ちゃんからとマヨラーから、二回もチュウしたアルか?」
「………」

また僅かに頭が上下した。

「「おぉー!」」
「もっ、いいだろ…。言ったんだから、早く剥がして…」
「分かったアル。剥がしてあげるヨ」

新八と神楽は楽しそうに和室へ入っていった。


その頃、真選組屯所では、土方が携帯電話の待受画面をキス画像から変更していた。それに気付いた沖田は
再びキス画像にしようと機を伺っていた。だが、その前に新八と神楽から昨夜の話を聞かされたことにより
土方の待受画面はそのまま変更されることがなくなった。

こうしてまた少し、二人の関係は深まった。


(10.08.22)


前作から二ヶ月以上経ってしまいましたが純情シリーズの続きです。このシリーズは原作設定と言っても、原作の二人とはかけ離れているので暫く書かないと書き方を忘れます^^;

実際、この話を書いている途中で前作と前々作を読み返しまして「あっ、手を繋ぐんだった」と思い出しました(笑)。そんなこんなで、今回ちょっぴり発情(?)しました。

しかもキスと呼べるかどうか怪しいくらいに軽〜く触れただけです。…まあ、二人にとっては確実にキスですけどね。そして「キス」という単語が言えない二人がかなりツボです^^

ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

追記:続き書きました。

 

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