純情な二人で「くつがなる♪」の続きです


純情な二人もカブト虫を通し生命の尊さを知るのかも


「かぶと狩りじゃああああ!!」

夏のある日。
銀時、新八、神楽の万事屋一行はカブトムシを捕まえるべく森に来ていた。
神楽はカブトムシ相撲で沖田を倒すため、銀時は高価なカブトムシを売るため、そして新八は二人に連れられて来たのだ。
宿営地を定め、三人は森の奥に入っていく。

「意外に見あたりませんね」
「スグ見つかると思ったのに…どうすればイイネ?」
「身体中にハチミツ塗りたくってつっ立ってろ。スグ寄ってくるぞ」

そんなことを話しながら歩いていると、身体中にハチミツ塗りたくった「ゴリラの妖精」に出会う。
そして次に三人が出会ったのは…

「「「…………」」」

「銀サン、帰りましょうよ。やっぱりこの森恐いですよ」
「マヨネーズ木に塗りたくってたネ」
「きっ気にするな。妖怪魔妖根衛図だよ。ああして縄張りにマーキングしてんだよ」
「でも、明らかに見たことある人だったんですけど」
「ニコ中ネ。ニコチン中毒だったアルネ」
「じゃあ…妖怪ニコチ○コだ。ああして二個チ○コがあるんだよ」
「いや、二個チ○コないですから…ていうか、まだ見てもいないのによくそんなことが言えますね」
「一個でも二個でもいいから使ってみろヨ、このヘタレが」
「ちょっ、オメーら何か誤解してねェ?俺アイツとは知り合いでも何でもねェから!アイツは妖怪だから!」
「何言ってるんですか。さっきのは土方さんでしたよね?」
「そうアル。銀ちゃんの恋人のニコ中マヨラーネ」
「ななな何言ってんの?おおお俺があんな、木にマヨネーズ塗りたくるようなヤツとつっ付き合うわけねーだろ」
「銀さん、気持ちは分かりますけど…」
「いい年して恋人に夢見てるんじゃないネ。アイツと言ったらマヨネーズ、マヨネーズと言ったらアイツしかいないアル」
「そうですよ。そういう欠点も全て受け止めてあげてこそ、真の恋人同士ですよ」
「なっ何言ってるか全然分かんないんだけど…。あー、あんなところにでっかいカブトムシが!」
「話し逸らそうったってそうはいきませ…うおぁぁぁぁ!!なっ…なんじゃありゃぁぁ!!」

木にしがみ付いている超巨大カブトムシを見付け、万事屋の三人はそちらに向かっていく。
銀時は話が終わったことで、そっと一息吐いた。
そして三人で木の幹を蹴って落とした巨大カブトは、カブトムシに扮した沖田であった。

「お前、こんな所で何やってるアルかァァ!!」
「見たらわかるだろィ。…フー、全く、仲間のフリして奴らに接触する作戦が台無しだ」
「オイ何の騒ぎだ…ん?坂t…」
「あっ、お前ら!!こんな所で何やってんだ!?」
「何やってんだって…全身ハチミツまみれの人に言う資格があると思ってんですか?」
「これは職務質問だ。ちゃんと答えなさい」
「………」
「ちょっと銀さん。銀さんからも何か言ってやってくださいよ!」
「あ、ああ…えーっと…」
「新八、今の銀ちゃんには無理ネ。おいマヨラー、お前のせいで銀ちゃんの乙女心はズタズタに…」
「あ?俺が何したって…」
「おいチャイナ。面白そうじゃねェか…俺にも教えてくれィ」
「耳の穴かっぽじって聞くネ。マヨネーズのせいで銀ちゃんは…」
「ああああ何でもねェ!神楽、変なこと言うんじゃねーよ!」

余計なことを沖田に吹き込まれては堪らないと、銀時が慌てて神楽を止めた。
だがそんなことで諦める沖田ではない。神楽の言葉から土方のことで銀時に何かあったことだけは分かった。

「土方さん、旦那は土方さんだけに話があるみたいなんで、後のことは俺らに任せてどうぞ旦那と…」
「何言ってやがる。今は仕事中だぞ?」
「マヨネーズでカブトムシとろうとする野郎は邪魔なんでさァ」
「トシ、お前まだマヨネーズでとろうとしてたのか。無理だといっただろう。ハニー大作戦でいこう」
「いや、マヨネーズ決死行でいこう」
「いや、なりきりウォーズエピソードIIIで…って、その前に土方さんは旦那と話を…」
「そうだったな!気が利かなくてすまん。じゃあ、俺たちは向こうの方を探してるから…」
「近藤さん…総悟の言うことを真に受けてんじゃねェよ」
「何を言ってる!恋人との時間は仕事よりも重要だぞ。カブトムシは俺たちが何とかするから、な?」
「あ、いや、その…」
「銀さん、そういうことみたいなんで僕らも向こうの方に行きますね」
「ちゃんとマヨラーに言うアルよー」
「えっ、ちょっ…」

銀時と土方を残し、他のメンバーは森の奥へと消えていった。

暫くの間、無言で立ち尽くしていた二人であったが、黙っていても仕方ないと銀時が口を開く。

「えっと…こんなトコで仕事なの?」
「あ、ああ。実は将軍様のカブトムシを捜してるんだ」
「将軍のカブトムシ?」
「なんでも、黄金色に輝く生きた宝石のようなカブトムシらしいんだ」
「へぇ〜そんなカブトが…あっ、そんな特別なヤツだからエサも普通と違ってマヨネーズなのか?」
「…マヨネーズは皆好きだろ?」
「あ、そっそうだね…」

本気でマヨネーズの力を信じきっている土方を前にして、銀時はそれ以上ツッコむ気にもなれなかった。

「お前は、依頼なのか?」
「あっ俺?俺は、神楽の付添いのような…」
「チャイナの?」
「ああ…。神楽がよー、おたくの沖田くんにカブト相撲で勝ちたいんだと」
「総悟のヤツか…。でもチャイナのためにこんな所まで来てやるなんて…やっ優しいんだな」
「そそっそんなことねェよ。土方だって、本来の仕事じゃねェはずなのに…偉いよな」
「べっ別にたいしたことじゃ…」

頬を染めて俯き加減で話す二人を、三人―沖田、新八、神楽―は草葉の陰から見ていた。

「ケッ、なーにが付添いアルか。カブトムシ売って金にするために来たくせに…」
「ったく…マヨネーズで環境破壊してるヤツのどこが偉いんでィ」
「何か…見ていて腹が立ちますね。あれっ?辺りをキョロキョロ見回してる…」
「徐々に近付いていってるネ…あの二人、何するつもりアルか?」
「あっ手を繋いだぜィ」

見られていることにも気付かず、二人はそのまま森を進んでいってしまった。

「そういえば手を繋げるようになったんでしたね。…ていうかあの二人、僕らと合流する気ないですよね」
「ないアルな。いくらなんでも、あの二人が人前で堂々と手を繋げるとは思えないネ」
「繋ぐ前にわざわざ誰もいないことを確認してたしな…」
「仕方ないな…神楽ちゃん、僕らだけでカブトムシ捜そう」
「そうするネ」
「じゃあ俺も仕事に戻るとするかねィ」


*  *  *  *  *


「沖田隊長、大変です!」

新八や神楽と別れた沖田が黄金色のカブトムシ捜索を再開すると、山崎が慌てた様子で走ってきた。

「山崎じゃねェか…。なんでィ、将軍様のカブトムシが見つかったのか?」
「それはまだですけど…それより、副長と旦那が…」
「あの二人がどうしたんでィ」
「てっ手を繋いでたんですよ!」
「…お前の前で繋いでたのか?」
「い、いや…俺を見付けると慌てて離してましたけど、あれは絶対に繋いでましたよ!」
「あの二人の関係は知ってるだろ?手ぐらい繋いだって…」
「それはそうなんですけど、副長が仕事中にこんなことするなんて意外で…」
「まあな…」
「それに、旦那だって新八くん達を放っておくなんて…」
「そうだな…」
「あの二人、一体どうしちゃったんでしょうね?」
「さあね…こっちが聞きてェや。ちょっと進展したと思ったらバカップルになりやがって…」
「はははっ…隊長はあの二人が付き合う前から色々やってましたもんね」
「ったく、旦那が来ると土方さんが使いモンにならなくて、おちおちサボってられねェや」
「でもあの二人、結構幸せそうですよ?何だかこっちまで和むような…」
「山崎ィ、そのセリフ、あの二人を五分見続けてから言ってみな」
「えっ、五分?なんでですか?」
「見てみりゃ分かる。…おっ、ちょうどいいとこに来たぜィ。隠れろ」
「は、はい…」

話題の二人の声がして、沖田と山崎は近くの藪に姿を隠した。
見られていることに気付かない二人は、手を繋いだまま沖田と山崎の前を通り過ぎる。
沖田と山崎はそっと二人の後を追った。

「しょっ将軍様のカブトムシ、見つからねェな…」
「おっ俺の仕事に、付き合わせちまって、悪ィな…」
「きき気にすんなよ。…こっこ恋人、同士なんだから、助け合うのは、当然、だろ?」
「そそうだな。俺たち…こっ恋人、同士、だもんな」
「おうっ、任せとけ」
「あー…坂田が困った時は、俺が助けるから、な?」
「あっありがと…頼りにしてるぜ」
「へへへ…」

顔を真っ赤にして、つっかえつっかえ愛の言葉を紡ぎ合う二人を見て山崎は硬直してしまった。
沖田の腕を引き、二人の後を追うのをやめたいと訴える。

「す、すいません隊長…もう、無理です」
「分かったか山崎…」
「分かりました…ていうか、何なんですかアレ?ツッコミなしですか!?
手を繋いどいて『仕事に付き合わせて悪い』も何もないでしょう!?悪いと思ってるなら手を離せよ!」
「俺に言うなよ…」
「すいません。でもツッコまずにはいられないですよ!吃りながら『俺たち恋人同士』とか言っちゃって…
恥ずかしいなら言うなよ!そんでずーっと顔真っ赤なんだから、恥ずかしいなら手なんか繋ぐなよ!!
だいたい、俯きながら歩いててカブトムシが見つかるわけないでしょ!!」
「だろィ?だから俺ァあの二人をまともな恋人同士にしようと色々…」
「そうだったんですね…。初心だとは思っていましたが、まさかこんなに気持ち悪かったなんて…」
「身体の関係ができれば少しはまともになるかと思ってるんだが…なかなかねィ」
「先は長そうですね…。俺も協力しますよ。あんな二人、見てられません!」
「おう、頼むぜィ」

山崎は初めて心から沖田に協力したいと思った。



結局その日は目当てのカブトムシを見付けることができず、真選組も万事屋も森で一泊することになった。
夕飯は一緒にバーベキューをし、テントで就寝という時になって沖田が土方に待ったをかける。

「土方さんは朝までに旦那と仲直りしといてくだせェ」
「仲直りって、俺たちは何も…」
「何ィ?トシは万事屋とケンカしたのか?」
「近藤さん違う。総悟が勝手に…」
「俺ァ森の中で見たんでさァ」
「み、見たって何を…」
「お二人が取っ組み合いのケンカをしてやした…山崎も近くにいたんだろィ?何か見なかったか?」
「あっそうですね…争う声みたいなのは聞きました。『このクソ天パ』とか『マヨネーズ野郎』とか…」
「や、やまざき…」

沖田だけならまだしも、山崎にまで身に覚えのないことを言われ土方は信じられない思いでいた。

「そうなのかトシ?確かにお前たちは昔からケンカばかりしていたが…今は恋人同士だろう?仲良くしなきゃいかんぞ」
「近藤さん…」
「だから総悟の言う通り、今夜は万事屋とじっくり話し合え」
「で、でもガキ共もいるし…」
「心配するな!新八くんとチャイナさんはこっちのテントに来てもらうから」
「真選組のテントかぁー。万事屋のよりずっと高級そうですね…じゃあ銀さん、僕らのことは気にせず
土方さんときちんと話し合って下さい。ケンカしちゃだめですよ?」
「い、いや俺たちケンカなんか…」
「おやすみヨー」
「おっおい待っ…」

万事屋のテント前に二人だけを残し、後のメンバーは少し離れた真選組の宿営地へ行ってしまった。
何が何だか分からなかったが、とりあえず二人はテントの中に入ることにした。

一つの明かりを前に置き、土方の右側に銀時が座る。
相手の顔を見て話すのが恥ずかしい二人は、たいていこうして横に並んでいるのだ。

「ったくよー、俺たちがいつケンカしたっていうんだよ…」
「総悟だけならまだしも山崎まであんなことを言うなんてな…」
「もしかして俺…真選組のヤツらに嫌われてる?」
「そんなことねェよ!お前はむしろ俺よりも慕われてると思うぜ」

土方が銀時の左手をそっと握った。
銀時も土方の手を握り返す。

「そそっそれは言い過ぎだよ。土方は皆から頼りにされてると思うよ」
「そっそんなことは…。だって坂田は、強いし、優しいし…」
「土方だって、仕事はデキるし、いつも一所懸命だし…」
「ほっ褒めすぎだ…」
「おおお前こそ…」


仲の良い恋人たちは恥ずかしがりながらも楽しい夜を過ごしていた。


一方、真選組の宿営地では、いつもの十代三人に山崎も加わって今後の相談をしていた。

「山崎さんも協力してくれるなんて心強いです」
「俺に何ができるか分からないけど、このままじゃいけないってことは分かったから」
「とりあえず手を繋ぐまではクリアしたわけだが…何かおかしなことになってねェか?」
「あの二人は最初っからおかしいネ」
「何となく分かります。二人がそろうと周りが見えなくなるっていうか…」
「もともと周りを見る余裕なんざあの二人にはなかったが…今は互いに相手しか見えてない状態だな」
「このままじゃただのバカップルになるアル。どうしたらいいネ?」
「…やっぱり身体の関係を持たせるのが一番じゃねェか?」
「そんなこと言ったってあの二人、何回万事屋に泊まりに来てると思ってるネ」
「…ラブホに泊めたって何もなかったしなァ。山崎、何かいいアイデアはねェか?」

やり尽くした感のある三人は、新しく仲間に加わった山崎に期待をかける。

「そうですね…いっそのこと一泊旅行とかはどうです?」
「そんなことしたってただ泊まって帰ってくるだけネ」
「でも、温泉とかにすれば一応裸の付き合いになるわけだし…」
「それいいですよ!万事屋のお風呂じゃ狭くて一緒に入れないけど、温泉だったら自然と一緒に…」
「…あの二人なら別々に入ることもありうるネ」
「じゃあ銭湯とかは?」
「それなら屯所の風呂でもいいんじゃねェか?」
「あっいいと思います。旦那を屯所に泊まらせて、その時に副長と一緒に風呂へ入ってもらえば…」
「屯所なら沖田さんと山崎さんが見張れますもんね。…お願いしていいですか?」
「もちろんだよ」
「いつにするアルか?早い方がいいネ!」
「いっそのこと、カブトムシとりが終わったらそのまま全員で屯所へ来るってのはどうでィ」
「それいいですね!協力してくれたお礼とか何とか言って…」
「じゃあそういうことで…」

明日からの作戦も決まり、四人は安心して床に就いた。


(10.01.11)


真冬に夏の話をすみません^^;一万打記念企画で(勝手に)盛り上がった初期銀魂への萌えをこっちでも!後編はほとんどカブトムシ関係ないです