企画部屋の「純情な二人のクリスマス」の続きとなります。


純情な二人で「くつがなる♪」


ある朝のこと。出勤してきた新八がいつものように神楽を起こし、銀時も起こそうと和室へ向かうと
起きてきた神楽に呼び止められた。

「何?神楽ちゃん。僕、これから銀さんを起こしに…」
「その前に言っておくことがあるネ。…次の作戦が決まったアル」
「えっ、作戦って何の…?」
「そんなの、銀ちゃんとマヨラーを立派な恋人同士にする作戦に決まってるアル」
「ああ。…まだやってたの?」
「当たり前ネ!あの二人がキモい状態を脱するために、私たちのサポートは絶対必要アル!」
「サポートねェ…で、今回は何をするの?」

二人の進展があまりに遅いので新八は諦めかけている。
それでも、相変わらずやる気の神楽に合わせて一応、どんな作戦なのか聞いてみた。

「今回は手を繋いでデートさせるネ!」
「えっ!もう、そこまで来てたの?この前、僕が提案した時には『まだ早い』って言ってたじゃない」
「それが、どうやらクリスマスで進んだみたいアル。二人でクリスマス会やったあの日、ちょっとだけ手を繋いだって
銀ちゃん嬉しそうに言ってたヨ……顔真っ赤にしてプレゼントの手袋見つめてて、かなりキモかったけど」
「そ、そうなんだ…。意外とやるね、あの二人」
「そうダロ?自分たちだけでも少し手を繋げたんだから、私たちが後押しすれば手繋ぎデートも夢じゃないネ!」
「神楽ちゃん…何だか僕もいけそうな気がしてきたよ」

客観的に見れば大した進展ではないのだが、自分が思う以上に進んでいた二人の関係に
先程まで消極的だった新八も徐々にその気になってきた。

「それで…どうすればいいの?」
「今日、マヨラーは仕事休みらしいネ。だから私たちで銀ちゃんを屯所に連れて行くって約束したアル」
「約束って、沖田さん?…それで、銀さんを連れて行ったらどうするの?」
「アイツがいい考えあるって言ってたアル」
「沖田さんの考えって…まあ、いいか。この二人には多少の強引さが必要だもんね。…じゃあ僕、銀さん起こしてくるよ」
「銀ちゃん起きて着替えたらすぐ出発ヨ」
「分かった」

新八は改めて和室に向かった。



*  *  *  *  *



「お、おい…朝っぱらからどこ行くんだよ!」

新八に叩き起こされ、神楽に着替えを投げつけられた銀時は、現在二人に挟まれて定春の背中に乗っている。
銀時の問いに、後ろから銀時を支えている神楽が答える。

「付いてくれば分かるアル。…定春、急いでヨ」
「付いてくればって…オメーが無理矢理定春に乗せたんじゃねェか。おい新八、どこ行くんだ?」

神楽から答えをもらうのは諦め、常識人の新八に再度訊ねた。
けれど、新八からも「もう少しで着きます」と言われただけだった。


「着いたアル」
「お、おい、お前ら…」

真選組屯所の前で定春が止まり、銀時の顔が引きつる。
二人はそんな銀時をさらりと無視して、定春に乗ったまま屯所の敷地内に入っていった。

「お、おい、この状態で入っていいのかよ?」
「ちゃんと許可はもらってるネ」
「きょ、許可っていったい…」
「おーう、来たか。こっちに回ってくれィ」
「沖田、くん…」

当たってほしくない予想が当たり銀時の顔はますます引きつる。できるだけ早くこの場を立ち去らないと面倒なことになる。
そう思ってはいるのだが、後ろから神楽がガッシリと押さえているため身動きできなかった。
ここまで来たのだから向かう所は決まっている…銀時は、心の中で大きな溜息を吐いた。


万事屋一行は中庭を回り、とある部屋の前まで来た。
部屋の障子は閉められているが、先回りして縁側に待機していた沖田が中に声をかける。

「土方さーん、漸くご到着ですぜィ」

沖田が声をかけた瞬間、勢いよく障子が開いて中から部屋の主・土方十四郎が出てきた。
土方はすぐさま庭に出て定春の上の銀時に駆け寄る。

「坂田!…大丈夫なのか!?」
「えっ、なに?大丈夫って…」

自分と同じく何も知らされていないと思っていた土方の意外な行動に、銀時はどう反応してよいか分からない。
そこへ、土方と共に庭へ下りていた沖田が、いかにも銀時の代わりといった風に答えた。

「全体的にはあまり問題ないみたいなんですがね…ただ、手がちょっと…」
「手!?手って右手か?まさか刀が握れなく…」

土方が慌てた様子で銀時の右手を取った瞬間、沖田は二人の手の上に粘着質の液体をふりかけた。

「えっ、ちょっ…」
「総悟!?お前なにやって…」
「旦那がケガしたなんて嘘っぱちでさァ」
「はぁぁ!?何でそんなことを…」
「俺がケガ?つーか、コレ、離れないんですけど…」
「あっ!」

沖田のかけた液体のせいで、土方の左手が銀時の右手の甲を握ったままくっ付いている。
ここで作戦成功を確認した神楽は、これまで押さえていた銀時の身体を離した。

「いやァ〜、今日はこの接着剤の効果を試したくて旦那をお呼びしたんでさァ」
「「接着剤ィィ!?」」
「何でも、どこかの星の植物をすり潰した物らしいんですが…コレで付けるとどんなに引っ張っても取れないけれど
中和剤をかけると瞬く間に剥がれるみたいですぜィ。ああ、中和剤ってのも、別の植物から作ったもので…」
「…説明はいい。完全にくっ付いて離れねェよ。効果は充分に分かったから、とっとと中和剤よこせ!」

土方はイラつきながら沖田に言ったが、沖田は涼しげな貌を崩すことなく続けた。

「そうはいきやせん。もしかしたら時間が経つにつれて効果が弱まるかもしれないんで、お二人にはこのまま…
そうですねィ…明日の朝くらいまで実験に協力してもらいます」
「「明日の朝ァァァ!?」」
「そうでサァ。…ささっ、そうやってじっとしてても実験にならないんで、いつも通り動き回って下せェ」
「う、動き回るって言ってもよー沖田くん、この状態じゃ…」
「お二人は恋人同士なんだし、そのまま往来を歩いても変じゃないでしょう?」
「おお往来って、俺が明日までココにいるんじゃ…」
「部外者の旦那を屯所に泊められるワケないでしょう?ねっ、土方さん」
「そっ、それはそうだが…コイツは何度もココに来たことあるんだし…」
「来るのと泊まるのとではワケが違いますぜ?まさか副長ともあろうお方が規則を破るようなマネしませんよねィ」
「うぅ…」
「というわけで、お二人は明日の朝、土方さんの仕事が始まる時間までに戻って来て下せェ」
「じゃあ銀ちゃんは降りるネ。…いつまでも定春の上じゃマヨラーがキツいアル」
「ちょっ…」

銀時の返事を待たず、神楽は銀時を定春から下ろした。
手を貼り付けられたまま呆然と立ち尽くしている二人の眼前に、沖田が風呂敷包みを差し出す。

「土方さんの荷物、まとめておきやした。…それでは、いってらっしゃい」
「えっ?あっ…」
「ほら、銀ちゃんも行くアル」
「えっ?あっ…」

新八と神楽を乗せた定春が来た道を逆に進み、銀時もそれに続いた。当然のことながら土方もそれに同行する。



屯所を出てすぐ、新八が後ろを歩く二人に振り返って言った。

「あの…僕ら先に万事屋戻って掃除とか洗濯とかしておくんで、お二人はゆっくり来て下さい」
「「えっ!」」

定春に隠れながら歩こうと思っていた二人は、早速計画変更を余儀なくされた。
更に神楽が二人に告げる。

「そうネ。お昼ご飯まで帰ってこなくていいアル」
「昼って、おい神楽。俺ァまだ朝メシも…」
「その辺で食べればいいじゃないですか。…せっかく土方さんが来てくれるのに、汚い万事屋じゃ失礼でしょ?」
「い、いや俺は別に気にしないから…」
「土方さんが気にしなくても僕らが気にするんです。銀さんの大切な人をキレイな部屋で迎えたいという…」
「新八ィ、早く行かないと昼までに片付け終わらないネ」
「そうだね。じゃあ定春、急いで帰ってくれるかい?」
「アン!」
「「あ、待っ…」」

二人を残し、定春は猛スピードで駆けていってしまった。


(どどどどーしよう…接着剤のせいとはいえ土方と手を繋いだまま明日の朝まで!?ムリムリムリムリ…絶対ェムリだって!
いいい今だって右手がやたら熱い…ていうか、手だけじゃなく右半身が熱くなってるって!どーすんのコレェェェ!?
しかも昼まで家に帰れねェって…あああ通行人の視線が痛い!別に土方とつつっ付き合ってることは隠してねェけど
だからって、こんな朝っぱらから手ェ繋いで歩くって有り得ねェだろ!!)

辺りをキョロキョロ見回しながらそんなことを思っていた銀時の横で、土方は微動だにせず心の中だけで焦っていた。

(どどどどーすんだよ…接着剤のせいとはいえコイツと手を繋いだまま明日の朝まで!?ムリムリムリムリ…絶対ェムリだって!
いいい今だって左手がやたら熱い…ていうか、手だけじゃなく左半身が熱くなってる!どーすんだコレェェェ!?
しかも昼まで万事屋にも行けねェって…あああ通行人の視線が痛い!別に俺たちがつつっ付き合ってることは隠してねェけど
だからって、こんな朝っぱらから手ェ繋いで歩くって有り得ねェだろ!!)


暫くの間佇んでいた二人であったが、不特定多数の目があるよりはマシだと、食事処へ入ることにした。
袖を通していない銀時の右側の着流しで手を隠すようにして、個室のある食事処を選んで入った。

テーブルに並んで座り、注文した食事が来ると二人は漸く一息吐いた。

「あー、とりあえず一安心だな」
「…総悟が、すまねェ」
「気にすんなよ。それに、新八と神楽も共犯だろ?」
「お、まえ…左で箸持てんのか?」

右手を土方と繋がれているため銀時は左手しか使えない。それでも器用に食事をする銀時に土方が目を見張る。

「ああ…前にケガした時練習したからな。右と同じってワケにはいかねェが、何とか使えんだ」
「お前って本当にすげェな…」
「べっ別に大したことじゃねェよ…」

素直に感心され、銀時は気恥かしくなる。
その時、土方はあることを思い出した。

「そういえば…お前、本当にケガしてねェのか?」
「へっ?ケガ?…そういえば沖田くんが何か言ってたな」
「お前が、ケガして…でも金がなくて病院に行けないって聞いて、応急処置ができる屯所に連れて来るようにしたって
総悟が言ってたんだ。お前んとこのガキ共が泣きながら電話してきたって…」
「それでか…」
「俺も少し変だとは思ったんだが…実際にテメーが来て、しかもいつものスクーターじゃなくて犬に乗ってるし
ガキに支えられるようにしてるし、本当にケガしたんだと…」
「そうだったのか…大丈夫。ピンピンしてっから」
「そうか…。じゃあ何で犬に乗って来たんだ?」
「ワケも分からず連れて来られたんだよ。朝叩き起こされたと思ったら、すぐに出かけるから着替えろって言われてよー
行き先聞いても教えてくれなくて、でも神楽の怪力で押さえられてて動けずに…」
「はははっ…とんでもねェガキ共だな」
「おたくの沖田くんもね…。…というわけでさァ、俺、金持ってねェんだけど…」

かなり言いにくそうに銀時が言う。

「あのな…そういうことは店入る前に言えよ」
「ゴメン。…あっ、じゃあツケにしとく」
「構わねェよ。…メシ代くらい払ってやる」
「あ、ありがとう」

(09.12.28)


長くなったので一旦切ります。タイトルは有名な童謡から。「おててつないで〜野道を行けば〜♪」ってやつです。銀さんの右手と土方さんの左手を繋げたのは、銀さんの方が器用そうだからです。

銀さんなら左手だけでも生活できそうな気がします。続きはこちら