後編
翌日、黄金色のカブトムシを上手い具合に神楽が見付け、万事屋一行は屯所の宴会に招待された。
近藤と共に上司の松平の元へカブトムシを届けに行った土方が屯所へ戻ると、そこには既に酔い潰れた銀時がいた。
「あっ副長、お疲れ様です」
「山崎、これは一体…」
「将軍様のペットが見つかったのは万事屋御一行のおかげでしょう?だから旦那にはいっぱい飲んでもらおうと思って…」
「旦那にはって、ガキ共はどうした?」
「遅くなったんで二人は帰りました。…その前に山ほど食べていきましたけどね」
「そうか…。じゃあコイツは俺が車で送るか」
「土方さん、それにはおよびませんぜィ」
「総悟…だってコイツ、こんなんじゃ一人で帰れないだろ?」
「今日はここに泊まってもらうことにしやしたから」
「はぁ!?民間人を屯所に泊めるなんて…」
「民間人ったって旦那なら大丈夫でしょう?…アンタの家族みたいなもんじゃないですかィ」
「かかか家族って…そそそそれはいくらなんでも、言い過ぎだ…」
「まあまあ、とにかく近藤さんには俺から言っとくんで…旦那を布団に運びませんかィ?」
「あ、ああ…」
「じゃっ土方さん、そっち持ってくだせェ」
「あっ俺、先に行って布団敷いときますね」
そう言って山崎は宴会場を出た。
寝ている銀時の上半身を沖田が持ち、土方は脚を持って山崎の後に続く。
「おっおいココに泊まんのか?」
「そうです…何か問題でも?」
沖田に先導されて着いた先は土方の私室。既に山崎がどこからか布団を運んできて中に敷いていた。
促されるままに土方は、銀時を布団に寝かせる。
「あっ、副長の布団も敷いときましょうか?」
「あ…自分でやるからいい」
「そうですか…それじゃあ失礼します」
「おう…」
沖田と山崎を見送った土方は部屋の隅の引出しから書類を取り出して文机に並べた。
急ぎの仕事ではないが、何となくこのまま眠る気にもなれないので仕事をすることにした。
* * * * *
二時間後、銀時が目を覚ますと知らない布団で寝ていた。
ゆっくり辺りを見回すと机に向かって仕事をしている土方の背中が見えた。
銀時はのろのろと体を起こす。
「ひじかた?」
「あっ起こしちまったか?」
「いや…。あれ?ここお前の部屋?何で…」
「覚えてねェのか?お前、酔って寝ちまったんだぞ?」
「あー、そうだった…。何かやたらと酒を勧められてよー…もしかして、土方が運んでくれたの?」
「俺と総悟で、な」
「そっか…世話になっちまったな」
「気にすんな。アイツらだってお前と飲めて楽しかったんだろ…あっ、水でも飲むか?」
「お、おう…」
「じゃあちょっと待ってな」
土方は立ち上がると水を取りに部屋を出た。
すぐに土方は戻ってきて、銀時に冷たい水を手渡す。
水を飲むとぼんやりしていた頭の中が冴えるような気がした。
そこへ沖田がやって来た。
「旦那、起きたんですって?」
「よう沖田くん、世話になったみたいで…」
「気にするこたァありやせん。土方さんの大事な人なんだ…当然でしょう?」
「そっ総悟!お前、そういうことを…」
「何を今更…。あっ、そうだ旦那、起きたんだったら風呂に入りやせんか?」
「えっ、風呂?」
「隊士たちはもう皆入ったんで、気兼ねなく使えますぜ」
「で、でも、いいの?」
「構いませんよねィ、土方さん?」
「ああ…泊まるのがいいなら、風呂だっていいだろ」
「つーわけで、お二人さん、どうぞごゆっくり」
「「……へっ?」」
沖田の言葉に銀時と土方はピシリと固まった。
「土方さんも風呂まだでしょう?だから旦那と一緒に…」
「いいいや、おお俺はまだ仕事が途中だから、後でいい…」
「…急ぎの仕事はないはずでさァ」
「でででも切りがいいトコまでやんねェと、なんか…」
「ひひひ土方もああ言ってることだし、おお俺一人で入ってくるわ」
「待ちなせェ。酒飲んだ後に一人で風呂に入るってのは危険ですぜィ?」
「じっじゃあ別に一日くらい風呂に入らなくてもいいかなぁー」
「昨日もキャンプで入れなかったんだから気分悪いでしょう?遠慮せずにどうぞ…」
そこへ山崎がコンビニの袋を持ってやってきた。
「替えの下着買って来ました。はい、旦那」
「えっ、わざわざ買ってきたの?」
「ええ。着替えは副長のを借りられるでしょうけど下着まではと思って…」
「ああそう…」
「ほら、土方さんも突っ立ってないで風呂の準備をしなせェ…あと旦那の着替えも」
「あ、ああ…」
納得がいかないまま急かされて、銀時と土方は浴室へ押し込められてしまった。
(どどどどうしよー!坂田と一緒に風呂!?無理無理無理無理無理、絶っ対に無理だ!
前にホテル泊まった時だって一緒に入らなかったのに…無理だって!!)
(どどどどうしよー!土方と一緒に風呂!?無理無理無理無理無理、絶っ対に無理だ!
前にホテル泊まった時、一瞬ガラス越しに見ちまっただけで心臓バクバクだったのに…無理だって!!)
青くなったり赤くなったりしながら二人は葛藤を続けていた。
浴室の扉の前では沖田と山崎が聞き耳を立てている。
「…まだ入ってませんよね?」
「入ってねェな…」
「まさか、一人が上がるまで脱衣所で待ってるなんてことは…」
「あの二人ならやりそうだな…。俺たちも入るか?」
「それだと二人の進展にはならないんじゃないですか?」
「じゃあどうするんでィ」
「うーん……あっ、とりあえず一緒に入るフリをして、二人が服を脱いだ頃に適当に理由を付けて
出たらいいんじゃないですか?」
「それでいこう」
沖田と山崎は勢いよく浴室の扉を開けた。
「「うぉわっ!」」
「何やってんですか…まだ入ってなかったんで?」
「そっ総悟に山崎、オメーらも入るのか?」
「お邪魔でしたかねィ」
「いいいや、そんなことはねェ。なっ!」
「あ、ああ…もっもともとおたくらの風呂なんだから好きに入ればいいじゃねェか」
((よっ良かったー!大丈夫、二人きりじゃねェなら何とかなる!))
銀時と土方は安心して―だが相手のことを極力視界に入れないようにして―服を脱いで浴室へ向かう。
二人が入ったのを見届けてから、沖田と山崎はそっと脱衣所を出た。
「すっげぇ広いな…」
「そ、そうか?」
「銭湯みてェ…まあ、大所帯だからこんくれェ必要か」
「ああ…。そこのイスと桶を使えよ」
「あ、うん」
土方に言われた通りイスと桶を取り、銀時は土方の隣…ではなく、間をひとつ空けた洗い場に置いた。
(きっ、来た!…なんか、近くねェか?で、でも間はひとつ空いてるし…くそっ、屯所の風呂狭すぎだ。
もっと隣の蛇口と距離を…って坂田は今日しか入らねェんだから改装計画しても無駄だ)
(うっ…座るトコ、近すぎたかな?でもあんまり離れんのも感じ悪ィよな…
ていうか、一旦座っちまった時点で場所移動なんかできねェよ。そんなことしたら土方、変に思うだろ…)
二人は無言で前だけを凝視して体を洗っていく。
極度の緊張感に包まれた二人は、一緒に入ると言ったはずの沖田や山崎が来ないことに疑問を抱く余裕もなかった。
銀時が先に体を洗い終わり、湯船に浸かる―もちろん土方に背を向けて。
少しして、土方も湯船に入る。銀時が横にいるだけで、湯温がいつもより熱く感じた。
恋人と一緒に入浴するという事態に心臓がフル活動している二人は
恥ずかしさで全身が染まるほど熱くなっていて、湯船に長く浸かることなどできなかった。
その後もほぼ無言のまま二人きりの入浴時間は過ぎていく。
無言で髪を洗い、無言で体の水気をタオルで拭って脱衣所に戻った。
そして無言で服を着終わったところで漸く銀時が気付いた。
「そういえば…沖田くん達は?」
「あっ…いつの間にかいなくなってたな」
「風呂場には来なかった、よな?(土方のこと気にしてて気付かなかったけど)」
「あ、ああ、多分…(坂田のこと気にしてて気付かなかったが)」
「まあ、いいか…」
「そうだな…」
「あっ、コレありがとな」
銀時は自分が今着ている、土方から借りた着流しを指した。
「お、おう…」
いつも自分が着ている服のはずなのに、銀時が着ると特別な服のように感じた。
二人が土方の部屋に戻ると、二組の布団が並べて敷かれていた。
酔った銀時が寝ていた布団もきちんと整えられている。
「もしかして、ジミーが敷いてくれた?」
「多分な…。…もう時間も時間だし、寝るか?」
「そうだね」
部屋の襖を閉めると、どちらからともなく手を差し出して繋ぐ。
「お、おやすみ…」
「お、おやすみ…」
布団に入った二人は、そのまま朝まで手を繋いで眠った。
(10.01.11)
手を繋げるようになったらバカップルになってしまいました!そういえばこの二人、猫編がきっかけでくっ付いたのに今更カブト狩りって変ですね…まあ、原作の二人とは全く違うのでいいか^^;
この二人だと、カブト狩りの見せ場ともいうべき二人のケンカシーンが全然ありません。そして二人が心配で沖田と神楽もケンカする暇がないので、将軍のカブトは無事捕獲できました。というか後編はカブト狩り無関係ですね。
あのままカブト狩りを続けても、ますますバカップルになるだけに思えたので、次のステップに進んでもらいました(笑)。 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
追記:続きを書きました。猫編です→★
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