※「銀さん教えて」の続きです。
※第二百九十三訓(食事はバランスを考えろ)その後という設定です。
※銀さんと土方さんはお付き合いをしていますが、前編は山→土で過去のキス描写があります。
※「銀さん教えて」でも書きましたが、全体的に真選組→土の土方さん総受け気味の話になっています。
大丈夫と思われた方のみお進み下さい↓



銀さん教えてレッスン2


六十三日間にも及ぶ「パン祭り」という名の張り込み生活を終え、見事楢崎姉弟を確保した山崎は意気揚々と屯所へ戻った。
真っ先に向かうのは副長室。
山崎は土方からの「ご褒美」目当てで辛く苦しいあんパン生活を耐え抜いたのだ。

(今日は絶対に副長とキスできる!)

山崎が目指すご褒美とは、土方とのキス。
しかもその日、特に頑張った数人にだけ与えられる唇同士のキスである。
山崎以外にも同じように土方の唇目当てで仕事に精を出す隊士は多い。
ライバルは多いが、山崎には自信があった。

(二ヶ月以上粘って漸く捕まえられたんだ。副長は絶対に褒めてくれる!あの日みたいに…)

山崎は土方と初めてキスした日のことを思い出していた。



*  *  *  *  *



数年前。
真選組は結成して間もなく、隊士の数も少なければ幕府からの信頼も薄かった。
そのため、充分な安全策を講じられないままに任務を遂行しなければならないことも多かった。
隊士がもっといれば、もっと武器があれば…そんな弱音を吐いている暇もなく
ただ手柄を挙げることで信頼を勝ち取るしかなかった。

そんな中、監察の山崎は一人でかなり危険な潜入捜査をすることになった。

「山崎、すまん。せめてもう一人付けられればいいんだが…」
「そんな謝らないで下さいよ、副長。これで手柄を挙げれば、隊士も増員されるんでしょ?
そしたら俺にもたくさん後輩ができるから、今までの武勇伝を存分に聞かせてやりますよ」
「山崎…」
「危険があるっていうのは入隊の時から覚悟してます」
「…やはり俺も行く」
「ダメです。捜査に何日かかるか分からないんですから…そんなに長く副長がいなくなるわけにいかないでしょう」
「だが…」
「心配してくれてありがとうございます」
「本当にすまん。…戻ってきたら、お前の好きなモン食わせてやるからな」
「あの…食べ物じゃなくてもいいですか?」
「ああ。何でも買ってやる」
「いえ、買うんじゃなくて…副長にしていただきたいことがあるんですが…」
「俺に?何だ?」
「あ…戻って来たら、言います」
「分かった。俺に出来ることなら何でもする。だから…気を付けろよ」
「はい」



その後、山崎は攘夷浪士のアジトを突き止め、キズを負いながらも何とか生きて戻ることができた。

包帯だらけの山崎を土方は誰よりも先に迎えた。

「山崎、よくやった!」
「ありがとうございます」
「お前の調べてくれた攘夷浪士の残党は、近藤さんと総悟が中心になって捕まえてるからな」
「はい。あの…副長は行かなくていいんですか?」
「俺は監察の仕事を見届ける義務があるからな」
「それで、俺が病院から戻ってくるまで待っててくれたんですか?」
「ああ」
「嬉しいです。それで、あの…任務の前にした約束、覚えてますか?」
「ああ、俺にしてほしいことってやつか?いいぞ、何でも言え」
「あの…ここ(玄関)では何なんで、副長の部屋で、いいですか?」
「ああ」

土方は山崎を副長室へ招き入れた。

「それで?俺は何をすればいいんだ?」
「あっあの…おおおお俺と、きっキスを、してくれませんか!」

意を決して言った山崎を、土方はポカンとした表情で見ている。

「キス?…口と口くっ付ける、あれか?」
「はっはい!あっ、別にそんな深い意味はなくて、その任務成功の喜びを共有というか、その…ダメですか?」
「いや…ダメじゃねェが…そんな大ケガと引き換えにしちゃあ、小せェ頼み事だと思ってよ…」
「じゃあ、いいんですね!」
「別に構わねェよ。…ただ、やったことねェから上手くできるか分かんねェぞ」
「えっ…副長、キスしたことないんですか?」
「ああ」
「………(ファーストキスを俺にくれるってことは副長も俺のことを!?…いや、どう見てもそういう感じじゃない。
副長は恐らく、キスの意味を知らないんだ。だから初めてで俺相手でも平気なんだ…)」
「おい、どうした?」

土方は、急に黙ってしまった山崎を心配そうに覗き込む。

「あ、いえ…何でもありません(知ってても知らなくても、副長のファーストキスをもらえるんだから
それでいいじゃないか、退!)」
「やっぱり、別のことにするか?」
「いいえ!副長がしたことないなら、俺からキスさせて下さい!」
「…それでいいのか?」
「むしろそっちの方がいいです!」
「分かった」
「では…目を閉じてください」
「ああ」

山崎はゴクンと唾を飲み込み、土方の頬と後頭部に手を添え、自身の唇を土方の唇に重ねた。



*  *  *  *  *



(副長がまっさらだったのには驚いたけど、あれから「頑張ったらキス」が定着したんだよなァ…。
すぐ、沖田隊長にバレて副長とキスできるのは俺だけじゃなくなったけど、でも初めての相手は俺なんだ!)

深く考えず、ただ「ご褒美」として多くの隊士と口付けを交わしてきた土方にとって
初めてのキスも単なる昔の出来事で、朧げな記憶しか残っていないことなど山崎は知る由もない。

山崎は満面の笑みで副長室の襖を開けた。

「副長ー!山崎退、ただいま戻ってまいりました!」
「おう…よくやったな」
「はい!」

土方は仕事の手を止めて山崎の元へ歩み寄り、ぎゅっと抱き締めた。
山崎も土方を強く抱き締める。
暫くそうした後、土方は腕を解き、もう一度「よくやったな」と言って仕事に戻ってしまう。

「あ、あの…副長?」
「…どうした?」
「俺、今回はかなり頑張ったと思うんですが…あっもしかして、あんパンスパーキングしたこと怒ってるんですか?」
「あれはその場で殴って終わりにしたろ?もう怒ってねェよ」
「だったら何で…」
「…何が?」
「何で…キスしてくれないんですか?」

そのために頑張ったのに…とは言えないが、今回は絶対の自信を持っていただけにキスがなければ納得できなかった。
そんな山崎に衝撃の事実が伝えられる。

「もう、お前とはキスできねェんだ」
「な、何でですか!?それって俺だけですか!?」
「お前だけじゃねェ…総悟とも、他の隊士ともしてねェ」
「何で急に…」
「恋人ができたんだ」
「こっ、恋人ぉぉぉ!?」
「ああ。恋人がいるヤツは恋人以外とキスしちゃいけねェんだろ?」
「そ、そんなことは…」
「だって俺は、所帯持ってるヤツとキスしたことねェぞ」
「それはそうですけど、でも…」
「もう約束したから、俺はアイツ以外とキスはしねェ」

土方の意志は固く、山崎が何を言っても覆りそうにはなかった。

「分かりました。…じゃあ、一つだけ教えて下さい。副長の恋人って誰なんですか?」
「銀さんだ」
「はあぁぁぁ!?銀さんって…万事屋の旦那ですか!?」
「そうだ」
「いつからですか?どうして付き合うことになったんですか?何で銀さんなんて呼んでるんですか!?」
「次から次へと…俺ァまだ仕事が残ってんだ。その辺のことは総悟が詳しいから、聞いてくれ」
「ちょっ…」


土方は完全に自分の仕事へ戻ってしまい、その後、山崎が話しかけることはできなかった。


(10.05.26)


銀土なのに銀さん出てこないし山→土だし、色々すみません。そして何故かこのシリーズはタイトルが思い浮かびません。いつも大したタイトル付けてないのですが

その大したことないタイトルすら思い浮かびません^^;前作もやたら悩んで結局「銀さん教えて」でいいや〜って付けたのですが、今回もこれで行きます。

それでは、お待たせしました!中編は途中から銀さん出てきます!