中編


「沖田隊長!一体、どういうことなんですか!?」

副長室を出て山崎が向かったのは沖田の元。

「山崎か…どうしたんでィ」
「副長が、副長が旦那と…」
「ああ、そのことか…」
「何でそんなに落ち着いているんですか!」
「オメーは今知ったのかもしれねェが…土方さんが旦那と付き合い出したのは一ヶ月以上前のことだぜィ」
「そんな前から!?それなのに隊長は何もしなかったんですか!?」
「何もしなかったわけじゃねェ。だが、相当旦那に惚れこんでるみてェで…色々教わるんだって
旦那のことを『銀さん』なんて呼んでよー…」
「それで隊長は副長を諦めたんですか!?」

山崎と同様、もしくはそれ以上に沖田が土方に執心していたのを山崎は身を以って知っている。
土方のファーストキスを奪ったと知れた時、山崎は死ぬほど恐ろしい目に遭わされたのだ。

当然、この二人は土方を巡るライバル同士になるわけだが、土方本人に全くその気がないどころか
「その気」が何なのかも分かっていない状態だったので、争うだけ無駄であった。
更にこの二人以外にも土方に懸想している隊士は大勢いて、結局「抜け駆け禁止」ということで落ち着いていたのだった。

「諦めるわけねェだろィ」
「ですよね!副長は俺らの、真選組の副長ですよね!」
「ああ。今更ポッと出の旦那なんかに渡せるかってんだ」
「さすが隊長。…でも、どうするんです?副長は旦那とお付き合いを始めちゃったんですよね?」
「付き合ったって…別れるかもしれねェだろ?」
「…それもそうですね」

ニヤリと腹黒い笑みを浮かべた沖田に、山崎も似たような笑みを浮かべる。

「そもそもだ…あっちの知識が何もねェ土方さんが、大人の男とまともに付き合えると思うか?」
「ですよねー。…あ、でも、旦那は口が達者だから、副長を言い包めてコトを進めようとするんじゃ…」
「そうでもねーみたいだぜィ。付き合った初日にキスはしたらしいが、それ以降は何もしてないらしい」
「えっ、本当ですか?それって誰から聞いたんですか?」
「土方さん本人からだ」
「それなら信用できますね。副長は嘘なんか吐けませんから。でも…何で旦那は手を出さないんでしょう?」
「大方、何も知らねェ土方さん相手に紳士ぶってんじゃねェかィ。それか、恋人の余裕ってやつかねィ」
「…どちらにしてもムカつきますね」
「ああ」

二人はその後も、どうやって銀時と土方の関係を邪魔するか作戦を練っていた。
だが二人は失念していた。性の知識が皆無とはいえ、土方は真選組の頭脳であるということを。



*  *  *  *  *



午後三時。土方は副長室を出て玄関へ向かった。

「副長、どちらへ?」

門番が尋ねる。

「タバコ買いに行きがてら、その辺巡回してくる」
「副長…今日は非番ですよね?それなのに書類が溜まってるからって仕事して、その上巡回なんて…
タバコなら、自分が買って来ましょうか?」
「いいんだよ。一日中部屋に籠ってるより、少し動いた方が仕事も捗る」
「そういうことでしたら…行ってらっしゃい」
「おう」

門番に送り出された土方は、宣言通りコンビニでタバコを買い、そのまま一人で街を歩いていく。

そして一本の路地を入り、食事処の裏を通り、民家の脇を抜け、突き当たりの扉を開けて中へ入った。


「銀さんっ!」
「十四郎!」

扉の中には愛しい銀時の姿。ここはラブホテルの秘密の入口なのだ。
お忍びで入れるようにと、ホテル側が正面入口とは別に用意した裏口である。

「ごめんな。待っただろ?」
「ううん。時間ピッタリだよ、十四郎。じゃあ部屋に行こうか」
「ああ」

銀時は土方の肩を抱いてホテルの一室に入った。


部屋に入ると冷蔵庫から飲み物を出して、二人はソファに寄り添って座る。

「それにしても十四郎は凄いよなァ。こんな入口知ってるなんてよ」
「仕事柄、人が隠れそうな場所は色々知ってんだ。でもここがラブホテルだって知ったのは最近だけどな」
「ハハハッ…俺が教えたんだよねー」
「ごめんな。こんな風に隠れて会わなきゃなんなくて…」
「気にすんなよ。俺は十四郎とお付き合いできるだけで嬉しいんだからさ」

二人の関係を隠そうと言い出したのは土方だった。
真選組の副長である自分と恋人同士だと知れたら、銀時に危険が及ぶと判断したからだ。
銀時としては、今更誰に狙われようが返り討ちにする自信があったが、敢えて土方の考えに乗ることにした。
その理由は…

「十四郎も、俺と会うことを誰にも言ってないんだろ?」
「言ってない。最初のデートのことは総悟に言っちまったけど…その後、銀さんに言われてからは
総悟にも近藤さんにも言ってない」
「そう。俺達が付き合ってるってことは、十四郎が信頼できる仲間になら言っても構わない。
新八と神楽も俺達の関係は知ってるしな。でも、いつどこで会って何をするかは、二人だけの秘密だ」
「おうっ。…敵を欺くには味方から、だな」

あどけなく笑う土方に、銀時は良心がチクリと痛むのを感じた。
銀時は土方のように真選組を「味方」だとは思っていない。真選組に恋敵が多数いると知った銀時は
二人の逢瀬を邪魔されないように、こっそり会うことに決めたのだ。

「でも心配だなァ…。十四郎がどんなデートしてるか、しつこく聞いてくるヤツとかいるんじゃねェ?」
「銀さんと会ったと分かると、総悟とかはしつこいな。でも適当にかわしてるから大丈夫だぞ」
「かわすって?」
「映画見たとかメシ食ったとか言って誤魔化してる」
「…それで信じるの?」
「ああ。何度も聞かれて隠してるのが面倒になったフリして『るせェな…映画見ただけだ』とか
ちょっとキレ気味に言うと大丈夫だぞ」
「へェ(さすがは真選組の頭脳…ってか?)」

土方の頭の良さは銀時にとって嬉しい誤算だった。
性の知識は全くないが、その他のことに関しては自分よりよっぽど頼りになると思っている。

見付かりにくい所に出入口がある宿を幾つも知っていたり、帰る前に次の約束をきちんとしておいて
電話等で連絡を取る必要がないようにしたり(急な仕事が入り約束がダメになる時もあるが
デートの日を悟られなければいいので「会えなくなった」という電話は聞かれても問題ない)
合図を決めていて、すれ違うだけで意志疎通ができたり…

(頻繁に電話したり会ったりできないのは寂しいけど…まあ、こういうのは障害があるほど燃えるんだよな)

恐らく真選組の面々も、恋愛経験のない土方がこんな工作をするとは思ってもいないだろう。
そんな風に銀時が思いを馳せていると、土方が銀時の着物の裾を引いた。

「どうしたの?」
「銀さん、そろそろ…」

やや俯き加減の土方は上目使いで銀時を見上げ、恥ずかしそうに頬を染めている。
その様子に銀時は自然と口元が緩んでしまう。

「なに?もう我慢できなくなっちゃった?」
「…銀さんの、バカ」

土方は膝を擦り合わせて悔しそうに唇を尖らせる。
銀時には、デートの日時以上に秘密にしておかなくてはならない事があった。


(10.05.26)


銀さんの秘密とは!?…って、次が18禁の時点で予想つきますよね。