※この話は「土方十四郎VS猿飛あやめ」の続編となります。
また、「後戻りもたまにはいいかもしれない・後編」を前提とした話です。
そちらをお読みになってからお進み下さい↓






師走に入り、年末年始に向けて皆が忙しくなる頃、彼女は再び真選組屯所の副長室を訪れた。
いや…訪れたというよりは、忍び込んだと言った方が適切だろう。



さっちゃんの忠告



「…何しに来た?」

天井裏から降り立った彼女に背を向けたまま、土方は訪問の理由を問う。

「決まってるじゃない。銀さんのことでアナタに言いたいことがあるのよ」
「仕事中だ。後にしてくれ」
「仕事ですって?アナタ、仕事と銀さんとどっちが大事なの?」
「とりあえず…アンタと話すよりは仕事の方が大事だ」
「何よそれ?そんなことで私が喜ぶとでも思って?エム方に冷たくされたって全然気持ちよくなんかないわ!」
「………」

何を言っても無駄だと、土方は彼女を無視して仕事を続けることにした。そこへ…

「おやまあ、旦那というものがありながら女を連れ込むたァいい度胸ですねィ」
「総悟!オメー何しに来た?」

襖が開き、一番隊隊長の沖田が現れた。

「たまたま通りがかったら女の声がするんで来てみたんですがね…まさか浮気現場に遭遇するとは思いやせんでした」
「浮気じゃねェよ。この女が勝手に…」
「失礼なこと言わないでちょうだい!銀さんという人がありながら、エム方なんかと浮気するわけないじゃない!
私はただエム方に話があって来たのよ!」
「そうなんですかィ、エム方さん?」

ニヤニヤと至極楽しそうな笑みを沖田は浮かべている。

「始末屋テメー、その呼び名はやめろっつっただろ」
「うるさいわね!私に命令しないでちょうだい。私に命令していいのは銀さんだけよ!」
「なるほど…旦那をめぐって本妻と愛人の泥沼バトル勃発ってとこですかィ」
「…もうツッコむ気にもならねェ。いいから出てってくれ…俺は仕事があるんだよ」
「私の話は終わってないわよ!△月□日のデキてない設定…」
「ああああ分かった!この書類が終わったら話を聞いてやるからちょっとだけ待て!」

彼女の「言いたいこと」が何となく分かり、沖田の前で言われては堪らないと土方は慌てて言葉を遮った。

「私に命令しないでって言ったでしょ!」
「…分かりました。もう少しで仕事が一段落するので待ってもらえないでしょうか」

額にピキリと青筋を浮かべながらも土方は何とか自分を抑え、丁寧に対応する。

「仕方ないわね。少しなら待ってあげても…あっ、そろそろバイトの時間だわ。
じゃあ、バイトが終わったらまた来るから首を洗って待ってなさい。さらばっ!」
「あっ、ちょっ…」

どこまでもマイペースな彼女に溜息を吐きつつ、とりあえずこれで仕事に戻れると土方は安堵した。


*  *  *  *  *


夜になり彼女は再び副長室に現れた。その頃には土方も仕事を終え、制服から着流しに着替えていた。

「逃げずによく来たわね」
「あの…ここは俺の部屋で、来たのはアンタの方…」
「そんなことはどうでもいいのよ!△月□日のデキてない…」
「あああのよー、場所を移さねェか?ここだと…昼間みてェに邪魔が入るかもしれねェ」

屯所には隊士たちが大勢いる。特に沖田は昼間のこともあり土方と彼女の会話を聞きたがっているのだ。
彼女との話を聞かれてはマズいと思っている土方は、何とかして外へ連れ出したかった。

「いいでしょう…。じゃあ、付いてらっしゃい」
「おっおい…」

彼女は障子を開けて庭の垣根を跳び越え、外へ出てしまった。
土方もすぐに玄関から表へ出て彼女を追いかけた。



「ところで…どこへ行くのかしら?」

百メートル程進んだ所で彼女は止まり、後ろを振り返り土方に聞いた。

「決めてねェのかよ!なら先に行くなよ!」
「うるさいわね!そういうアナタは当てがあるって言うの?」
「…その辺のメシ屋とかでいいだろ?…その先の店なら奥に座敷があるから…」
「分かったわ」
「あっ、ちょっ!…アイツは普通に歩けねェのかよ」

またしても猛スピードで駆けていく彼女を、土方は溜息交じりに追いかけた。


*  *  *  *  *


土方が店に着いた時に彼女の姿はなかった。
店主に「忍者の格好をした女が来なかったか?」と訊ねると、奥の座敷にいると言うので土方もそちらに向かった。

「遅かったじゃない」
「…俺は忍者じゃないんでね」

座敷に入り、店主に食事を注文してから彼女の向かいに座った。


「…で、話ってのは何だ?」
「何度も言ってるでしょう?△月□日のデキてない設定エッチについてのことよ」

ハァ…と土方は大きな溜息を吐く。
大方の予想通り、彼女は銀時と土方の性生活について言いたいことがあるようだ。

「あの時のアナタの態度について色々と言いたいことがあるのよ」
「…俺とアイツが何をしようと、アンタには関係ないだろ?」
「関係あるわよ!アナタがMとして情けない態度を取り続けると、銀さんのS値が低下するかもしれないじゃない!」

自分に合わせて銀時のドS加減が緩和されるなら、いいことではないかと土方は思っていた。
だが、彼女にそんな理屈は通用しないことは経験上分かっているので敢えて黙っていることにした。

「いい?じゃあアナタにも分かりやすいように順を追って説明してあげる」

そう言うと彼女は懐から一冊のノート―愛しの銀さん監察日記―を取り出した。

「まず初めに…銀さんが『シよう』って言った時のアナタの態度…『ナニ企んでやがる』ですって?
…これはナイわね。ご主人様である銀さんが何か素敵なプレイを考えてくれたのよ?
そこは敢えて気付かないフリをするのが礼儀ってものでしょ?」
「ああ、そうかよ…」
「そして銀さんが今夜のプレイ名『デキてない設定エッチ』を伝えた時のアナタの反応…
『おやすみなさい』ってナニよ!銀さん傷付いた顔してたわよ!?
繊細な銀さんが傷付いて…痛めつけられる快感に気付いてMになったらどうしてくれるのよ!!」
「どうもしねェよ…」

彼女の言うように銀時がMになるとは思えないが、傷付いた顔をしていたというのは気になった。
銀時に繊細な面があるのは確かだ…もう少し別の反応の仕方があったかもしれないと土方は思った。

「でもまあ…結果的に銀さんに従ってプレイを始めたところは良かったわよ。
銀さんくらいのドSだと、ただ従順なだけのMより抵抗される方が燃えるかもしれないわね…。
もしかしてそれを狙ってたのかしら?さすがはエム方ね」
「狙ってねェよ」
「そしてプレイが始まってキスされた時の『万事屋やめろ』…もっと真面目にやりなさいよ!
アナタね?始まるまでは散々抵抗しておいて、プレイが始まったら即言いなり?どんだけ淫乱なのよ!?」
「誰が淫乱だ、誰が!」

淫乱呼ばわりされたことで土方は思わず声を荒げる。

「アナタに決まってるじゃない!キスされた途端に抵抗を止めるなんて…」
「うっ…」
「その後ちゃんと抵抗したのは良かったんだけど…舌を噛むのはやりすぎよね?
いくら抵抗される方が燃えるって言ったって、銀さんを傷付けるまでやっていいと思ってるの?」
「そ、それは、ちょっと…やりすぎだったと…」

いつの間にか話に引き込まれていることに土方は気付いていない。

「でも、その後はなかなか良かったわよ。『やめろ』とか『離せ』とか言って適度に抵抗しながら
ちゃんと銀さんの言う通りにして…。アナタいつもメス豚モードになるのが遅いのよ」
「俺はメスじゃねェよ…」
「実際の性別なんてどうでもいいの。気持ちの問題よ!」
「気持ちだってメスじゃねェよ!」
「とにかく!いつだって最後には銀さん好みのドMな反応をするんだから、最初から素直になりなさい!」

SとかMとかの言い回しはアレだが、銀時に対して素直になれという彼女の指摘は的を射ているような気がした。

「分かった?銀さんほどの人なら、淫乱なメス豚のアナタでもちゃんと満足させられるはずよ。
だからアナタは無駄な抵抗をせずに、銀さんの言う通りにすればいいのよ!
あっ、でも、銀さんが傷付かない程度に抵抗するのはいいと思うわよ。逆に燃えるから…」
「結局…今まで通りでいいってことか?」
「いいわけないでしょ!アナタ何を聞いてたの!?もっと自分を曝け出せと言ってるのよ!
銀さんはねぇ…アナタが果てて眠った後も、アナタの後処理をしたり、アナタの寝顔で自己処理をしたりしてるのよ!?」
「自己しょ……はぁ!?」

自分が意識を飛ばしてしまった後のことまで話が及び、土方は驚愕する。

「アナタは充分すぎるほど満足してるんでしょうけど、銀さんは満足してないのよ!足りないのよ!
ご主人様を満足させられないなんてメス豚失格よ!このままだと銀さんは他のメス豚の所に行くわよ!」
「………」

メス豚は失格でも何でもいいが、銀時に他の相手を探されては堪らない。
土方はつい、目の前の彼女に助けを求めてしまった。

「俺は…どうしたらいいんだ?」
「だから素直になればいいのよ。見たところ、アナタにはメス豚の才能がちゃんと備わってるわ。
そういうことだから、本能に従って行動すればきっと銀さんを満足させられるわよ!」
「………」

土方は彼女の言葉からSM要素を抜いて解釈してみることにした。

(つまり…メス豚ってのは銀時の好みってことだろ?つまり、俺は銀時に好かれるタイプってことか?
そんで本能に従って…つまり、遠慮なんかせず、もっと素直に行動すれば銀時も喜ぶと…)

「…本当に、そんなことでアイツが喜ぶのか?」
「もちろんじゃない!いい?銀さんの前では鬼の副長モードはオフにして、メス豚モードをオンにするのよ?」
「(攘夷浪士に対するような冷徹さは捨てて優しくしろってことか?)…わ、分かった」
「分かればいいのよ…。じゃあ次からはしっかりやるのよ?ちゃんと見てるからね!」
「いや、もう見なくて…」
「さらばっ!」


彼女は言いたいことだけ言うと去ってしまった。

相変わらず人の話を聞かない彼女であったが、今日話したことは無駄ではなかったと土方は感じていた。
次に銀時と会う時は、もう少し柔らかく接してみよう―土方はそんなことを思って一人店を後にした。



(09.12.17)


銀土+さっちゃん話の続編でした。銀土といっても銀さん出てきてませんが^^; 今回さっちゃんはただのいい人ですね。そして土方さん、素直すぎます(笑)

さっちゃんによるM指南を受けた土方さんは、今後立派なメス豚へと成長し…ないと思います(笑)。銀さんに会ったら「今まで通りでいい」とか言われて元に戻ると思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

追記:続き書きました

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