※単独でも読めますが「愛しの銀さん観察日記」の続きとなります。
よろしければ、そちらをお読みになってからお進み下さい。
土方十四郎VS猿飛あやめ
ここは真選組屯所副長室。部屋の主である土方がいつものように文机に向かい仕事をしていると、天井裏に人の気配を感じた。
「…そこにいるのは誰だ」
低く、ドスの効いた声で姿の見えぬ天井裏の「敵」を威嚇する。
すると天井板が一枚外れ、一人の女性が下りてきた。女性は気付かれたことに臆することなく不敵な笑みを浮かべている。
「さすがだわ。鬼の副長と恐れられてるだけのことはあるようね…」
「…オメーは一体、何モンだ?」
「そう易々と敵に素性を明かすとでも思ってるのかしら?随分とマヌケな鬼もいたものね……私は始末屋さっちゃん!」
「易々と素性を明かしてんじゃねェか…」
放っておいても害はないと判断した土方は、彼女を無視して仕事を再開した。
「ちょっと!エム方のくせに放置プレイとはいい度胸じゃないの!そんなんで私を興奮させられるとでも思ってんの!?」
「誰がエム方だァァァ!!………んっ?エム方?」
エム方―その呼び名に土方は覚えがあった。
(あれは確か万事屋で…そうだ!変なノートがあると思って見てみたら中に俺と銀時のことが書いてあって…
そういやぁ、あれを書いたのは紫髪のストーカーだって銀時が言ってたな?もしかして…コイツのことか?)
「…テメーもしかして、銀時のストーカーか?」
「ストーカー?ふっ…アナタの上司のゴリラと一緒にしないでちょうだい!」
「近藤さんはゴリラじゃねェ!」
「そんなコトどうでもいいのよ。とにかく、ストーカーはアナタの上司であって、私は銀さんを見守る妖精的な役割なのよ!」
「…で、その妖精的ストーカーが何しに来た?」
「決まってるじゃない…敵情視察よ!」
「敵情視察だァ?」
「そう。銀さんをストーk…じゃなかった、見守っていて気付いたのよ。
アナタが私と銀さんの間に立ちはだかる最大の障壁だということをね!」
「おい今、ストーカーって言いそうにならなかった?自分でもストーカーだと思ってるんだよね?」
「話を逸らさないでちょうだい!アナタさえいなくなれば私と銀さんの愛に障害がなくなるってことよ!」
土方は漸く彼女の目的が分かった。自分と銀時の関係を知った彼女は、その関係を壊すべく屯所まで来たのだ。
「テメーの言いたいことは分かった。…で、俺をどうするつもりだ?」
「私は始末屋なのよ。もちろん、アナタを始末するに決まってるじゃない」
「ほう…俺とやり合おうってのか?敵とあらば女とて容赦はしないぜ?」
傍らに置いてあった愛刀を手にすると土方はニヤリと笑った。
「望むところよ」そう言って彼女も懐からくないを取り出して構える。そこへ…
「副長、お仕事中失礼します…って、えぇっ!?」
襖を開けた山崎は、中の状況に驚いた。
書類仕事をしていると思っていた土方は今にも抜刀する勢いで、その向かいにはく
ないを構えた見覚えのある女忍者…
「ななな何があったんですか、副長!この女、いつの間に…」
「天井裏に忍び込んでいやがった。山崎、コイツのこと知ってんのか?」
「ええ…局長のストーカー仲間ですから何度か会ったことがあります」
「そこの地味な男!私をゴリラストーカーと一緒にしないでちょうだい!」
「地味な男ってなんだよ!つーかお前、勝手に副長の部屋に入るんじゃない!早く出て行け!」
山崎は侵入者を追い出そうと掴みかかった。
「離しなさいよ!今からエム方と銀さんを賭けて勝負…」
「だから俺はエム方じゃねェって…」
「おーマジで?土方が銀さんのためにストーカー退治してくれてんの?うわぁー感激だな!」
「「…えっ?」」
突如聞こえてきた気だるげな声に土方も、そして山崎に押さえられて暴れていた彼女も動きを止めた。
入口の襖に寄りかかるようにして銀時が立っている。
「ぎ…銀、時?」
「よお。ストーカー退治ご苦労さん」
「お、お前…いつの間に?」
「いつの間にって…ジミーと一緒に来たんだけど?つーか、ジミーは俺をここに案内するために来たんだけどね」
「そ、そうなのか?」
土方は山崎に向き直ると、山崎はコクリと頷いた。
「そうなんです。旦那が副長に会いに来たと言うのでお連れしたんです。そしたら部屋が大変なことになってて…」
「銀さぁん、私に会いに来てくれたのね?嬉しいわ〜!」
「失せろ、ストーカー」
「あぁん!いいわ…もっと、もっと私を蔑んでちょうだい!」
愛しい人を見付けた彼女は、山崎の手を振り払い銀時に突進していく。
冷たい態度でそれをかわす銀時だったが、彼女はめげるどころか喜んでいる。
銀時はそんな彼女を無視して土方の元へ近付くと肩を抱き寄せた。
「なあなあ、今日は非番なんだろ?だったらさ…仕事なんかやめて映画、行かねぇか?」
「お前も、今日は仕事だって…」
「その仕事がもう終わったの。そんで依頼料と一緒に映画の招待券もらってよー…となりのペドロシリーズ最新作!
お前、
このシリーズ好きだったろ?」
「あ、ああ…」
「じゃあ決まり。早く行こうぜ!その後メシ食いに行くだろ?たまには俺が奢ってやるよ」
「あ、ああ…でも、ソイツは?」
土方は未だ銀時に纏わりつく彼女を指差す。
銀時と土方が話している間も、銀時に抱き付こうとしたり土方を攻撃しようとしたりしていた。
それらを銀時が殴ったり蹴ったり木刀で叩いたりして防いできたわけだが、彼女は何度倒れても向かってきた。
「気にすんなって!真面目に向き合ってたらこっちが疲れるだけだぞ。
お前だって、コイツにゃ話が通じねェってこと、何となく分かったんじゃねェの?」
「それは、まあ…」
「だろ?だからさ、早くデートしよ?」
「…ダメだ。出かけるのはコイツと話をつけてからだ」
「はぁ!?俺の話聞いてた?この女は俺たちの常識が通用しないんだって!」
「でもコイツはお前のことが好きなんだろ?だからこんなトコまで来たんだ…それなのに無視するだけなんて可哀相だ」
「ひっ土方?」
「話が終わったら連絡するから…お前は家に帰ってろ」
「ちょっ…えぇ!?うそ…マジで!?」
「山崎、お前も仕事に戻っていいぞ」
「あっはい…」
銀時と山崎を追い出し、土方は彼女と二人きりになった。
(09.12.10)
続き(中編)は土方さんとさっちゃんの会話のみになります→★