※単独でも読めますが「さっちゃんの忠告」の続きとなります。
 よろしければ、そちらをお読みになってからお進み下さい。


土方さんの努力と銀さんの誤解


屯所で本日最後の書類を片付けている土方の元を銀時が訪れた。

「よー、お疲れさん」
「テメー何しに…あっ、いや、よく来たな。もう少しで終わるから待っててくれ」
「う、うん…」

いつものようにつれない言葉が返ってくるとばかり思っていた銀時は唖然とする。

(土方のヤツ、どうしたんだ?「何しに来やがった」みたいなこと言おうとして止めたよな?
そんで出た言葉が「よく来たな」?「待っててくれ」?…ありえねェよ。一体どうなってんだ…)

銀時の戸惑いになど気付きもせず、土方は大声で山崎を呼び付ける。
ほどなくして山崎が副長室にやって来た。

「失礼します…あっ、旦那、いらしてたんですね」
「おー、邪魔してるぜ」
「山崎…」
「あっ、副長すみません…報告書に不備でもありましたか?」
「いや…コイツに茶を持って来てくれるか?」
「えっ、旦那にですか?」
「…それ以外に誰がいるっつーんだよ」
「そ、そうですよねー…」
「あー…それから今日もらった饅頭があっただろ?それも一緒に出してくれ」
「えっ!?あ、はい、分かりました…」
「あのー、土方くん…ちょっと厠借りるね」
「ああ」

銀時と山崎は一緒に副長室を出た。


「旦那、厠はあっちですよ」
「んなモン口実に決まってんだろ?ちょっとジミーに聞きたいことがあるんだ」
「俺も旦那に聞きたいことがあるんですけど…」
「おう、何だ?」
「いえ、旦那からどうぞ…」
「じゃあ聞くけどよ…土方に何かあったのか?」
「何かって?」

銀時は腕を組み「うーん…」と考えてから言った。

「沖田くんあたりに、言いたいことと逆のことを言っちまう薬を飲まされたとか…」
「何ですかそれ…。あっ、じゃあ副長が優しかったのは旦那のせいじゃないんですか?」
「もしかしてジミーが俺に聞きたいことってそれか?」
「はい。…今まで旦那が来ても、副長からお茶を出すように言うことなんてなかったじゃないですか。
むしろ持ってきたら『コイツに茶なんか出すんじゃねェ』って怒られるくらいで…」
「そうなんだよねー」
「だから俺はてっきり旦那が副長の喜びそうなもの…例えば珍しいマヨネーズとかを持って来たのかと…」

話しながらも山崎はテキパキとお茶を淹れていく。

「何もしてねェよ。いつも通り手ぶらで来たし…」
「じゃあどうして急に…」
「知らねェよ。やっぱ沖田くんに何かされたんじゃねェの?薬じゃなけりゃ罰ゲームとか…」
「旦那…罰ゲームで優しくされるって、言ってて空しくないんですか?」
「うるせェよ。アイツはツンデレなの!ツンが9割以上を占めてるツンデレ!」
「もうそれ、ツンデレじゃないですよね…」
「ツンデレの定義なんかどうでもいいんだよ。とにかくジミーは心当たりねェんだな?」
「はい。仕事中はいつも通り厳しい副長でしたよ」
「そっか…あっ、自分で持ってくからいいよ」
「そうですか」

銀時は山崎から湯呑と饅頭を受け取ると、その辺にあった盆に乗せて副長室へ戻った。

その後も土方は嫌みの一つも言わず、待っている銀時が退屈しないようにとテレビをつけたり
局中法度違反で没収したというジャンプを持ってきたりと、常にはない気の遣いようだった。


*  *  *  *  *


仕事が終わって私服に着替えた土方を、銀時は飲みに誘った。
冗談めかして「そのまま朝までコースね」と付け加えたたところ、土方は顔を真っ赤にしてコクリと頷いた。
いつもなら「テメーはそれしかねェのか」と言って睨まれているところである。

「なあ土方…何かあった?」
「何のことだ?」

屯所を出て暫く歩いてから銀時は土方に聞いてみた。
銀時が想像するように沖田から何かされたのであれば、屯所から離れないと話してもらえないと思ったからだ。
だが銀時の期待しているような応えは返ってこなかった。

それからまた暫く歩き―その間も適当に会話はしたが、土方は相変わらず優しかった―行き付けの店に入った。

「いらっしゃい!…あっ、土方さん先日はどうも」
「ああ…」
「なに?一人で来たの?」
「ああ、まあ…」
「ふぅん…」

何となく土方の返事が気になったものの、それ以上は追求せず奥の座敷に入った。

だが今日の土方の態度がおかしいことと繋がりがあるような気がして、土方が厠へ立った隙に
銀時は店主に聞いてみた。

「オヤジ、ちょっと聞きたいことがあんだけど」
「どうしたんだい、銀さん」
「土方ってこの前、誰とここに来たんだ?」
「ああ、そのことか。銀さんも早くいい娘見付けないと…いつまでも土方さん連れ出しちゃ彼女に悪いよ」
「…彼女?」

店主は銀時と土方を単なる飲み友達だと思っている。
こういったことをオープンにしたがらない土方のため、銀時もあまり話さないようにしているのだ。

「多分そうなんじゃないかと思ってるだけだけどね。気の強そうな美人でさ…ありゃあ、土方さん尻に敷かれるね」
「でもさァ…本当に彼女なのかよ。ただの知り合いじゃねェの?」
「土方さんに先越されて悔しいのは分かるけどさ、友達の幸せは祝福してやらなきゃ」
「だからそういうことじゃなくて…」
「恋人ってのは間違いないと思うけどなァ。夜のことについて話してたから」
「夜ぅ!?」
「聞いちゃ悪いと思ったから詳しい内容までは聞いてないけど…近頃は女性も積極的なんだね」
「へぇー…」
「あっ、土方さん戻って来たよ」
「ああ、じゃあな…」

それから銀時は土方と何を話したか覚えていなかった。

(土方が浮気をするとは思えねェ。でも女と二人でここに来て、それを俺に隠してることは事実だ。
それと急に優しくなったことと関係があんのか?…もしかして、俺と別れてその女と付き合うつもりか?)

「…っ!」
「ぎ、銀時?」

憶測に過ぎないことは分かっているつもりでも、銀時は徐々に自分の出した結論に支配されていく。
ボーっとしていたと思ったら急に蒼褪めていく銀時を土方は心配そうに見つめる。

「銀時どうし…」
「誰と来た?」
「はっ?」
「この店に…誰と来て、何を話した?」
「そっそんなの…関係ないだろ」

土方がやや頬を染めて視線を逸らしたことは、銀時の憶測を確信に変えるのに充分であった。

「それよりお前、具合でも悪いのか?」
「…ちょっと来て」
「えっ、ちょっ…」

銀時は土方の手首を掴むとそのまま店を出た。慌てて声を掛けてきた店主には「ツケで」と叫ぶように答えた。

そして土方を引き摺るような形で近くの路地裏に連れて来た。

「銀時…どうしたんだ?」
「…やっぱり女の方がいいのか?」
「はぁ?なに言って…」
「抱かれるのが嫌になったのか?それとも俺が嫌になったのか!?」
「銀時、落ち着けって。ワケ分かんねェよ。…とりあえず、痛いから手ェ離してくれ…っ!」

銀時は手を離すどころかもう一方の手も捕らえて、土方を壁に押し付けた。
そして強引に唇を奪う。

「んっ…ぷはっ!おい、銀時!」
「今更、女になんか渡さねェから」
「お前、何か勘違いして…んんっ!んんっ!?」

再び唇で唇を塞ぐと、銀時は土方の着物の裾を割り、帯を解いて肌を露わにしていく。
路地裏とはいえ、誰に見られるか分からないようなところでコトに及ばれては堪らないと
土方は最終手段に打って出る。

「うごっ!」

土方はありったけの力を込めて銀時の股間を蹴り上げた。
さすがの銀時も押さえていた手を離し、呻きながらその場で蹲る。

「ったく、ちったァ頭、冷やせ」
「ううっ…男のお前がキン○マ狙うかよ。そんなに俺が嫌なのか?」
「あの状態のテメーを止めるには他に方法がなかったんだ」

蹲る銀時の腰をトントンと叩きながら、土方は溜息混じりに言った。

「で、オメーは何を勘違いしてんだ?俺が厠に行ってた間に何かあったのか?」
「…何かあったのはそっちだろ」
「だから何のことだって!」
「オヤジに聞いた」
「……もしかして、この前俺があの店に行った時のことか?」
「ああ。…エロい話するくらい親しい美人なねーちゃんと二人で来たって」
「エロいって…オヤジ、あん時の話聞いてたのか!?」

店主の発言を肯定するかのような土方に、銀時は膝を抱えて背を丸め、目には涙を浮かべている。

「話の内容までは聞いてないって。客の話を盗み聞きするわけにゃいかねーだろ…」
「それでか……なあ、銀時」
「っ!」

銀時はビクリと体を震わせたが、じっと地面を見つめていて顔を上げようとはしない。

「オヤジの話を聞いて俺とその女の関係を疑ってんだったら、完全にオメーの勘違いだ」
「でも土方、あの店に行ったこと隠してたじゃん」
「それは、まあ、色々あって…」
「やっぱり俺に言えないようなことがあったんだ…」
「だから違ェって!その女ってのは始末屋のことだ!」
「えっ!」

銀時は漸く顔を上げた。

「始末屋って…さっちゃん?」
「そうだ…」
「何で土方がアイツと?しかもエロい話してたって…」
「それは、始末屋が…お前と、俺がヤってるのを見てて…」

土方は頬を赤らめ、話しにくそうに言葉を紡いでいく。

「それで、始末屋は、俺に説教しに…」
「説教?」
「俺の、言葉で、お前が傷付いたとか…」
「…あっ、もしかしてそれで優しくしてくれたの?」
「ああ…。まあ、俺も少し、やり過ぎたと思う所もあったし…」
「そうだったのかァ。アイツがオメーにそんなことを…SMの話しかしねェヤツだと思ってた」
「…SMの話しかしなかったぞ」
「あれっ?だって銀さんに優しくするように言ったんじゃねェの?」
「アイツは、オメーが傷付けられる快感に気付いてMになるって心配してた」
「あ、そうなのか?…じゃあ、土方も銀さんがMにならないように優しくしてくれたの?」
「違ェよ!SとかMとかはどうでもいいが、オメーが傷付いてんなら態度を改めようと…」
「そっかー。でも大丈夫だよ。坂田のSはドSのSだから!」
「だから違ェって!」

誤解が解けた反動で調子付く銀時は、土方の言うことなどお構いなしである。

「そんで土方のMは…あれっ?ひ・じ・か・た・と・う・し・ろ・う…Mがないじゃん!」
「イニシャルとSMは無関係だろーが。だいたい、俺はMじゃねェよ!」
「いーや、坂田のSはドSのSですぅ」
「んなこと言ったら総悟はどうなんだ…あっ、総悟もSだ」
「なっ?ドSの人は名前もSなんだって。つーわけで、オメーは今日からM方くんね」
「誰がM方だァァァ!オメーも総悟もただの偶然だ!…ていうか俺はMじゃねェ!」
「往生際が悪いよ、M方くん」
「ふざけんな!そうだっ…始末屋もSじゃねーか!」
「あっ、本当だ…」
「ほら見ろ。やっぱりイニシャルとSMは無関係じゃねーか」
「くっそー…。でも、俺はドSでオメーはドMだから!」
「ったく…勝手にそう思ってろ。…回復したんなら行くぞ!」

土方はいつの間にか乱れた着物を整えていて、通りに向かって歩き出す。

「ちょっ…どこ行くんだよ?」
「どこって…『朝までコース』なんだろ?テメーが言ったんじゃねェか…」
「土方…」
「まっ、俺が蹴ったせいで使いモンにならねェってんなら、今日のところは帰るけどよ…」
「大丈夫だからっ!…あっ、でも、土方くんが舐めてくれたら完全に治ると…」
「………」

土方は無言で振り返って銀時を見つめた。

「あっ、嘘です。調子に乗りました。ごめんなさ「…舐めたら、治るんだな」
「…へっ?」
「だったら…やってやる」
「ママママジで?」
「だから…行くぞ」
「うん、行こう!今すぐ行こう!」
「ちょっ、引っ張んな!」


路地裏に来た時と同じく、銀時は土方の手を引いて進んでいく。
路地裏に来た時とは異なり、その表情は晴れ晴れとしていた。


(10.03.06)


銀土で路地裏エッチだー!と思って書き始めたのですが、思いのほか銀さんがヘタレでキス止まりでした^^;期待していた方がいらっしゃいましたらすみません。

いつかリベンジ!お詫びにおまけ付けました。18禁です。