万事屋にいる時との違いを指摘されて焦る土方さん

 

 

「おや、旦那がたじゃねーですかィ」

「あっ沖田さん。それに、山崎さんも…こんにちは」

「昼間っから税金で団子とはいい身分だなーオイ」

 

真選組の一番隊隊長・沖田と監察の山崎が店先の長椅子に座って団子を食べていると、

その前を万事屋一行が通りかかった。

 

「珍しいですね。お二人がこんなところにいるなんて」

「そうだなぁー…沖田くんだけならともかく、ジミーも一緒なんてな」

「はははっ…まあ、今日はちょっと…」

「鬼の居ぬ間に洗濯ってヤツでさァ」

「どこが洗濯アルか。団子食ってるだけだろー?」

「神楽ちゃん、鬼の居ぬ間に洗濯っていうのは、怖い人や気兼ねする人なんかがいない間に

思う存分くつろごうっていう意味のことわざなんだよ」

「なら初めからそう言えヨ」

「まあまあ…ナニ、副長さんいねーの?」

 

銀時から副長という言葉を引き出した時、沖田はニヤリと黒い笑みを浮かべた。

 

「土方さんとは言ってやせんぜ、旦那」

「あれっ?違うの?」

「違いやせんけど…土方さんのことばかり考えてるんですねィ」

「そりゃあね」

「認めるんですかィ…死ねバカップル」

「ちょっ、ヒドくない?自分から話題に出しといて、俺が乗っかったら死ね?」

「俺はただ鬼と言っただけなのに、旦那が勝手に土方さんの話にしたんでさァ」

「いや、だって…沖田くんを咎める人なんて真選組の中じゃ土方くらいだろ?」

「そうとも限らないかもしれやせんぜ?」

「あー、もうそういうのいいから…で、土方はどうしたの?」

「残念ながら部外者に隊士の情報を漏らすわけにはいきやせん」

「部外者って…俺と土方は将来を誓い合った仲だからね?もう一心同体、運命共同体だから!」

「旦那ァ…聞いててサブいぼが立ちますぜ」

「るせェよ」

「まあ、一心同体なら土方さんがどこにいるか分かりますよねィ?

そもそも…昨日だってそちらに泊まったんじゃありやせんか」

「そ、そうだけど……目が覚めたらいなかった。たまにはいってきますのチュウくらいしてもいーじゃねーか、

チクショー!アイツがデレんのは夜だけかよ!あー、夜明けなんか永遠にこなきゃいいのに!」

「あ、あの…銀さん」

 

勝手に落ち込んでいく銀時を見かねて新八が話に加わる。

 

「何だよ新八…」

「土方さん、今日は近藤さんとお城に行くって言ってましたよ」

「城って江戸城か?つーか、なんでお前が知ってんだ?」

「新八だけじゃないネ。私も知ってるアル」

「えっ?何で?…この中で知らないの俺だけ?」

「今朝、土方さんが言ってたんですよ」

「はっ?ナニ、どこで土方と会ったんだよ!俺に内緒で!」

「どこでって…万事屋で、ですよ!僕らが万事屋行ったら土方さんがいて…」

「そうアル。朝ごはん作っててくれたヨ!」

「朝ごはんんん?オメーら俺が寝てる間に土方と仲良くメシ食ったってのか?」

「銀さんが起きないからいけないんですよ」

「豆腐とワカメの味噌汁がおいしかったアル」

「味噌汁?んなもん俺が起きた時には…」

「全部食べたに決まってるダロ」

「てんめー…土方の手料理、食ったことなかったのに…」

「いやぁ、土方さんはすっかり万事屋の一員になったようで…このまま真選組からいなくなってくれねーかな」

「ちょっと隊長、言いすぎですよ」

「何でィ山崎…いたのか」

「ひどいっ!」

 

 

 

こうして暫くの間、五人は団子屋の前で井戸端会議をしていた。そこへ…

 

「おー、何だお前らこんなとこに集まって…」

「総悟に山崎…テメーら俺がいないと思ってサボってやがったな?」

 

城での会議を終えた近藤と土方がやって来た。沖田は相変わらずの表情だが、山崎は青褪めていた。

 

「あっ、お疲れ様でーす」

「ふふふ副長、こここれは…その…」

「鬼の居ぬ間に洗濯ネ」

「ほーう…いい度胸じゃねーか」

「ねぇねぇ、土方ァ…」

「テメーら俺があんだけ言っといたのに…」

「土方ってばー」

「覚悟はできてんだろーな」

「ねぇ、ひじか…」

「うるせェェェェ!ちょっと黙ってろ万事屋!俺ァ今こいつらと話を…」

「話すんなら奥に入りやせんか?店先にこんな大勢いたら迷惑この上ないでさァ」

「それもそうだな。よし、入るぞトシ」

「お、おい近藤さん…」

 

鬼の副長も近藤には逆らえない…結局全員で店内へと入っていった。

 

「いらっしゃいませー…七名様ですか?」

「そうアル!」

「おいチャイナ…いつからテメーらと一緒になったんでィ」

「まあまあ、いいじゃないか総悟。今まで楽しく話してたんだろ?」

「違いますぜ近藤さん。俺が店先で団子を食ってたらコイツらが勝手に来たんでさァ」

「お前が私たちを呼び止めたネ。だからここの支払いはお前がするヨロシ」

「あ?ふざけんじゃねェよ」

「まあまあ…団子くらい俺が奢ってやるから、な?」

「本当アルか、ゴリラ?きゃっほーう!」

「あの、お客様…お席の方、四人席が二つでもよろしいでしょうか?」

「ああ、はいはい。いいですよー」

「それでは、こちらへどうぞ」

 

 

「…おい総悟、この並びは何だ?」

 

 

縦に並んだ四人席――その一つに近藤、沖田、山崎が座り、もう一つに万事屋三人と土方が座らされていた。

 

「旦那が土方さんとお話したいようだったので…何か問題でも?」

「俺は万事屋とじゃなく、テメーらと話すために店に入ったんだ」

「いいじゃないかトシー。コイツらには俺からちゃんと仕事するように言っとくから」

「チッ…厳しく言っといてくれよ、近藤さん」

「おう、任せとけ!」

 

 

「…で、何だよ」

 

あからさまに不機嫌な顔で土方は、向かいに座った銀時に声を掛けた。

 

「えーっと何だっけ?…あー、そうそう、味噌汁!」

「味噌汁?」

「そう、味噌汁。今朝、作ったんだって?」

「ああ…マズかったか?」

「マズいも何も、俺が起きた時には跡形もなく…」

「…オメーら全部食ったのか?」

「そうネ。おいしかったアル!」

「ごちそうさまでした、土方さん」

「そうか…そりゃあ良かった」

 

おいしかったと言う子どもたちに、土方は満足そうに微笑んだ。

 

「良くねーよ!俺は一口も食えなかったんだぜ?」

「知るかっ!いつまでも寝てるテメーが悪ィ。」

「起こしてくれれば良かったのに…」

「つーか、万事屋…」

「えっ、なに?」

「テメーもうちょっと冷蔵庫にマシなもん入れときやがれ。いちご牛乳とプリンしかなかったぞ?」

「それだけあれば充分だろ?」

「充分じゃねーよ!おかげで朝からコンビニに走るハメになったじゃねーか!」

「えっ…わざわざ材料買ってきて作ってくれたの?」

「炊飯器をセットした後で食材がねーことに気付いたんだよ。メシ炊いちまったんだから、

何か作るしかねーだろーが…」

「いやぁ〜、いつも悪いね」

 

「さっきから気になってたアルが…」

 

隣に座っていた神楽が土方の袖をクイクイと引っ張って話し掛ける。

土方は銀時の時とは打って変わって穏やかな表情で向き直った。

 

「ん?どうした、チャイナ」

「何で銀ちゃんのこと、万事屋なんて呼んでるネ?」

「ななな何言ってんだよ。こいつは万事屋じゃねーか!」

「よー、チャイナ…土方さんは旦那のこと、いつも何て呼んでるんでィ」

 

土方の背後から沖田の声が聞こえた。沖田の表情は見えないが、ニヤけているに違いないと土方は思った。

 

「いつもは銀時って呼んでるアル」

「へー、そうだったんですかィ。いやぁー知りやせんでしたね、近藤さん」

「そうだな…俺らの前では万事屋って言ってたからな」

「そうですよねィ。恋人同士にしては他人行儀だと思って心配してたんですぜ。山崎もそうだろ?」

「そ、そうですね」

「総悟も山崎もトシのことを思ってくれてるんだな。良かったな、トシ!」

「良かったですねィ…これからは、俺たちに気兼ねせず銀時って呼んでくだせェ」

「そうだぞートシ。お前と万事屋の関係はみんな知ってるんだ。気にすることなんかないぞ」

「ささ…早く呼びなせェ」

「……ェ」

「どうしたんですかィ、土方さん。そんなんじゃ旦那に聞こえませんぜ。ほら…ぎーんーとーき」

「うるせェっつってんだよ!俺ァ帰るからな!」

「ちょっ…トシぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 

 

ガタンと椅子を倒して立ち上がると、顔を真っ赤にした土方は一目散に駆けだしていってしまった。

 

 

 

 

…ったく、漸く万事屋メンバーの前でも銀時って呼んでくれるようになったのによー。

あの感じだと、また呼ばなくなるぜ?どーしてくれんのよ。

 

銀時はそんなことを思いながら、土方の席にある手付かずのみたらし団子を口に運んだ。

 

(09.10.19)


以前にも同じような話を書きましたが、「銀時」と「万事屋」呼びを使い分けてる土方さんに萌えます。ジャンプアニメツアー'05の銀時呼びは、酔った勢いでいつもの癖が出てしまったんだと信じています。

この後の土方さんは、銀さんの予想通り名前で呼ばなくなります。でも普段から「おい」とか「お前」とかが主なので、それほど変わりません(笑)。でも沖田にはからかわれ続けると思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

追記:これの後日談書きました。よろしければどうぞ

 

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