真選組副長と銀さんの恋人との違い
いつもと変わらぬのどかな昼下がり、行きつけの団子屋までの道のりを万事屋の三人は並んで歩いていた。
だが、もう少しで団子屋というところで、たくさんの人によって道が塞がれていた。
「はーい、ちょっと通してくださいなー」
銀時が人混みをかき分けて進もうとしたが、すぐに進めなくなってしまった。
立入禁止と書かれた黄色いロープに、パトカー…爆破でもされたのか、一軒の店の入り口が大破していた。
行こうとしていた団子屋は無事のようだが、すぐ近くがこんな物騒な状態では、営業どころじゃないだろう。
「いったい何アルか?ガス爆発カ?」
「いや、事件なんじゃないかな?ほら、真選組の人たちがいる」
銀時は無言で新八の指し示した方を見る。するとそこには、見慣れた制服がなにやら忙しなく動いていた。
そしてその中央には、隊士全員に指示を出す恋人―真選組副長土方十四郎の姿があった。
「本当ネ。税金ドロボーどもがうじゃうじゃいるネ」
「神楽ちゃん…今はどう見ても仕事中だよね?あっ、近藤さんがいた。…局長がいるってことは
かなり重要な事件なんじゃない?被害はそれ程でもないみたいだけど…あっ、銀さん、土方さんもいますよ!」
「ああ、そうね」
「局長と副長がそろってるなんて、やっぱり重大事件なんですね」
「ああ、そうね」
「それにしても土方さんの周りは、やたらと真選組の人たちがいますね。」
「副長、店主の話によると…」
「副長、爆発物の入手経路ですが…」
「副長、数日前にもヤツらはここを訪れて…」
「副長、先月の爆破事件との関連は…」
「副長、マスコミが嗅ぎ付けて…」
副長、副長、副長……土方のもとには次から次へと隊士が訪れ、その度に土方は何か指示を出している。
「ったくよー、局長もいるってのに、何でアイツら土方にばっか…」
「えっ、銀さん何か言いました?」
「別にー」
「この分じゃ、今日は団子屋に行くの無理みたいですね。帰りますか?」
「えー、ワタシ団子食べたいヨ。もう、ワタシの口は団子を受け入れる準備ができてるネ!」
「そんなこと言ったって…銀さん、どうします?」
「ああ…」
「ああ…じゃなくて!このままここにいても仕方ないじゃないですか」
「ああ…」
新八の話など耳に入っていない様子で、銀時はじっと土方を見ていた。
新八は「はあ…」と溜息をつき、その場で銀時が動くのを待つことにした。
神楽も「団子を食べるまでは帰らないネ」と言ってその場に留まっている。
* * * * *
夕刻近くになると立入禁止ロープが外され、何台も止まっていたパトカーもどこかへ行ってしまった。
大勢いた野次馬もどこかに消え、今ここにいるのは隣近所の店の者と万事屋一行、そして後処理をしている数人の真選組隊士のみ。
その中にはもちろん、土方の姿もあった。ふと、隊士の一人がこちらに気付き、土方に何やら耳打ちしている。
銀時は土方に近付いていった。
「よう」
「万事屋…てめー何してやがる」
「いや、ね?そこの団子屋に行こうと思ったら、道が物騒なことになっててよー」
「そうか。もう終わったから、どこへでも好きな所に行け」
「そんなこと言ってもさー、もう夕メシの時間じゃね?
おやつ食いに来たってのに、なかなか道が開かなくてよー。つーわけで、団子おごれや」
「ああ!?何で俺が…「副長!」
二人の会話に隊士が割って入った。
「先ほど連行したヤツらの一人が脱走したと…」
「何!?すぐに非常線を張れ!手錠をしたままじゃ遠くへは行けねーはずだ」
「はいっ、分かりました!」
「俺もすぐ行くと伝えておけ!」
「はいっ、お願いします!」
「ここは…任せていいな?」
「はいっ、お任せ下さい!」
そう言って土方は走り去ってしまった。
「俺には挨拶もなしかよ…」そう呟きながら、銀時は新八、神楽とともに団子屋に入っていった。
* * * * *
その日の夜、前々から土方と会う約束をしていた銀時は、神楽を志村家に預け一人万事屋にいた。
「遅ェなー。やっぱ事件の後だから無理なのかな…。でも、一応約束してたワケだし、来られないなら連絡くらい…」
そんなことを考えていると、玄関の呼び鈴が鳴った。
銀時は玄関へ飛んで行った。
「土方!」
「ぎ、銀時?どうしたんだ、そんなに慌てて…」
「あ…いや、今日は来られねーかと思ってたから」
「…遅くなって悪かった」
「いいよ。昼間、事件があったし、あの後も大変だったんだろ?」
言いながら土方を中へ招き入れる。
「まあな」
「あの後、逃げた犯人をお前が捕まえたんだってな?ニュースでやってた」
「そうか…あの、これ…」
そう言って土方が差し出した包みの中には…
「あの団子屋の団子?」
銀時行きつけの店の団子が入っていた。
「ああ。事件のせいでかなり売れ残ってたみたいだったからな。それに…食べたかったんだろ?」
犯人を追って行ってしまった土方は、銀時たちがあの後団子屋に入ったのを知らない。
もちろん銀時はそんなことを言うつもりはないし、何より、自分の言ったことを覚えていてくれたことが嬉しかった。
「ありがと。じゃあ、一緒に食べよ?」
「…マヨネーズあるか?」
「あるよ」
「そういえば、さあ…」
「ん?何だ?」
二人は和室で団子を食べながらまったりと会話を楽しんでいた。
「何でお宅の部下は、副長、副長言ってんの?」
「そうか?」
「そうだよ。今日だって、ゴリラは一人でふらふらしてんのに、お前の周りには常に誰かがいてよー…」
「近藤さんはフラフラなんかしてねーよ。ただ、ちょっと指示を出すのに言葉が足りねーことがあって…」
「あー、分かる気がする。アイツ、どうすればいい?って聞かれても、頑張ればいい!とか答えそうだもんな」
「…よく分かってるじゃねーか」
「そりゃあ、ね。どうせ犯人が逃げた時だって、お前よりゴリラの方が近くにいたんじゃねェの?」
「あ、ああ…」
「やっぱねー。でもゴリラじゃしょーがねェか。…でも、今日は屯所に残ってんだろ?」
「お前、どうしてそれを…」
「いくらお前が捕まえたっつっても、一度犯人逃がしたんだぜ?
そんなことした日くれー、屯所にいんだろ。あれでも組織のアタマなんだからよー」
「…その通りだ。俺も残るっつったんだが…」
「お前はずっと休んでなかったし、お前のおかげで大事に至らなかったんだ。お前はここに来ていいんだよ」
「…近藤さんにも、行ってこいって言われた」
「そうか…ゴリラもたまにはいいこと言うな」
「……」
「おい、どうした?」
「銀時…お前…」
「ん?何?」
「近藤さんのこと…好きなのか?」
「ぶっはあー」
銀時は盛大に団子を噴き出した。
「ちょっ、おまっ…何言ってんの!?」
「近藤さんじゃ、俺に勝ち目はねェし…」
「いや、だから!どうしてそうなんのよ!?」
「…好きなんじゃねーのか?」
「好きじゃねーよ!いや、まあ、嫌いじゃねーけど…あっ、誤解すんなよ!だからって、お前が言ってるような『好き』じゃねー」
「そう、なのか?」
「俺が好きなのは土方だけだって」
「なっ…!だ、抱きつくな!」
「いや、離さない!俺の愛を疑ったバツですー」
「あ、愛って…何を…」
「…なあ、何で俺がゴリラを好きとか思ったワケ?」
「だって…近藤さんの言うこともやることもよく分かってるし…」
「はあ…そういうことか。…あのね、ゴリラのことが分かるのは、お前を見てるからだよ」
「お、俺を?」
「そっ。お前がどんなヤツらとどんな仕事をしてるか、いつも見てるから
だから、周りのヤツらがお前にどう接するかも分かるんだよ」
「銀時…」
「土方、愛してるよ」
そう言って銀時は土方を抱く腕に力を込める。
「お、俺もだ」
応えるように、土方も銀時の背に腕を回す。
こうして恋人たちの夜は更けていく。
(09.08.07)
photo by スマイルライン
仕事中は「万事屋」と呼び、二人の時だけ名前で呼ぶ土方さんが書きたかっただけです。ついでに、恋愛に関してはマイナス思考で泣き虫だけど、仕事はデキる土方さんってのも書きたかったんですが
…あまり書けなかったです。いつか、ちゃんと仕事をしてる土方さんを書きたい。 ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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