最初に会った時から、気に食わねェ野郎だと思っていた。
だがおそらく、最初に会った時から好きだったんだ。
野郎は俺の気持ちになんざ気付いちゃいねェ。
今好きだと言ったところでガキの戯言だと思われるだけだ。…本当に気に食わねェ。
もう少し年を重ねたら、俺が本気だってこと、野郎に伝わるだろうか…。
みつごせん〜坂田銀時VS沖田総悟〜
かぶき町を巡回中、沖田が茶屋で休憩という名目でサボっている間に、土方の姿が見えなくなった。
視界から消えた土方を探すために沖田が茶屋を出ると、すぐそばの路地で土方を見付けた。
土方は一人ではなかった。おそらく、一緒にいる男にここへ連れ込まれたのだろう。
男は土方の手首を掴んで離さない。滅多に見ない男の必死な表情に、沖田は物陰に潜んで様子を伺った。
「土方!お前のことが好きだ!」
「えっ…」
男―坂田銀時は土方に愛の告白をした。沖田はさっさと二人に声を掛けなかったことを後悔した。
自分が何年も胸の内に秘めているだけで言えなかったことを、銀時はさらっと言ってのけたのだ。
しかも告白された土方は、顔を真っ赤にして俯いていて、満更でもない様子だ。
だがもちろん、このままハッピーエンドで終わらせるような沖田ではない。
土方が返事を口にする前に、沖田は二人の元へ進み出た。
「姿が見えなくなったと思ったら、こんなトコでサボってやがったのか、土方コノヤロー」
「あぁ!?サボってたのはテメーの方だろーが!」
「はいはい…じゃあ休憩も終わったんで、仕事に戻りましょうかねィ」
「ちょっと沖田くん?俺、今、副長さんとだ〜いじな話をしてたんだけど…」
「そんなに大事な話をしてる最中だったんですかィ?土方さん」
沖田は敢えて土方に聞いた。銀時との話の内容を言うわけにはいかない土方は口篭る。
「いや、それは…」
「仕事を中断してまで話すほど重要なことって、何なんですかィ?」
「いや、そこまで重要ってわけじゃ…」
「あのさァ、沖田くん…」
「じゃあ仕事に戻っていいんですねィ?」
「あ、ああ…」
「そういうことみたいなんで旦那、仕事の邪魔しないで下せェ。さあ土方さん、行きやしょう」
「お、おう…」
土方は銀時を気にしつつも、沖田との巡回に戻るしかなかった。
沖田は土方と腕を組むようにして路地を抜けていく。
そしてその途中、銀時にしか見えないようにニヤリと笑う。その瞬間、銀時は沖田の想いを悟った。
「なるほどね…」
残された銀時は、独り言のようにつぶやいた。
* * * * *
その日の夜、土方の仕事が終わった頃を見計らって銀時は屯所を訪れた。
「旦那じゃないですか…どうしたんです?」
「ようジミー。副長さんに用があんだけど…いる?」
「副長、ですか?」
「そっ。昼間、偶然会ったからちょっと話したんだけど…仕事が忙しいみたいで途中で終わっちゃんたんだよねー」
「そうだったんですか。…ちょっとお待ち下さい」
山崎が中へ引っ込み、銀時は門の外で土方を待つ。
しかし、暫くして出てきたのは土方ではなく沖田であった。
「これは旦那、わざわざこんな所までご苦労なことで…」
「あれェ?俺、ジミーに副長さん呼んでって言ったんだけどなァ」
「ああ、そのうち俺が副長になるんで…」
「いやいや…俺が会いたいのは現在の副長さんだからね」
「まあまあ…とりあえず用件を聞きやしょう」
「俺はね…昼間の返事を聞きに来たの」
「昼間?何かありましたかねィ?」
「沖田くんさァ…分かってて言ってるでしょ?」
「さて、何のことやら…」
「俺と土方くんの話、聞いてたでしょ?分かってんだから」
「話?へェー…それは知りやせんでした」
「とぼけるつもりならそれでもいいや。あのね、土方くんに告白したんだけど、返事もらう前に
どこかの部下が連れてっちゃったから返事聞きに来たの」
「っ!」
ストレートに用件を言われ、沖田は言葉に詰まる。
「というワケだから…土方くん呼んでくれる?」
「土方さんは、まだ仕事中で…」
「ちょっとくれェいいだろ?YESかNOか聞くだけだから。…一分もかからねェよ」
「物凄く忙しいんで無理です」
「じゃあ上がらせてもらう。俺が行けばもっと早く済むから」
「部外者は入れられません」
「沖田くん……俺が怖い?」
「…何のことですかィ?」
不敵な笑みで顔を覗き込んでくる銀時に対し、沖田は必死で平静を装った。
だがどうにも相手が悪すぎる。銀時は既に、昼間の態度で土方の心が自分に向いていることを確信している。
だからこそわざわざ返事を聞きに来たのだ。
沖田もそれが分かっているからこそ、銀時を通すわけにはいかなかった。
土方を巡る争いでは明らかに銀時が有利だが、ここは真選組屯所。
この状況で余所者である銀時が敷居を跨ぐには、沖田の許可をもらうしかない。
二人は暫くの間黙って睨み合っていた。
(このまま強行突破してもいいけど…土方くんをここから連れ出すのは難しそうだな。
隊士が大勢いるところで告白の返事なんかできるわけねェだろうし…また今度にするか)
「まあ、今日のところは引き下がってあげる」
「えっ…」
突然諦めた銀時に沖田はホッとするより前に驚いた。
銀時はやや腰を屈めて、沖田をじっと見据える。
「でも、次はねェから」
「………」
「じゃあね〜」
すぐにいつもの人当たりの良い笑顔を見せ、銀時はヒラヒラと手を振りながら帰っていった。
「くそっ…」
銀時の影が見えなくなると、沖田はその場にしゃがみこんで頭を抱えた。
* * * * *
それから二日後。非番の土方は朝からかぶき町内をぐるぐる歩きまわっていた。
二日前、銀時から受けた告白に何の返事もしていないことをずっと気にしていた。
けれどあれから銀時には会えなかったし(実際には土方に会えなかっただけで銀時は屯所を訪れている)
仕事も忙しく、外に出る機会そのものがなかった。
そこで非番の今日、思い切ってかぶき町に来たものの、家を訪ねるまでの勇気はなく
結局、今まで銀時を見かけたことがある場所を回るだけだった。
「おはようございます」
「あ…おう」
土方に声を掛けたのは新八だった。
「制服じゃないってことは、土方さん今日はお休みですか?」
「あ、ああ…お前は?」
「僕はこれから万事屋へ行くところで…あっ、土方さんも一緒に来てくれませんか?」
「えっ…」
「もちろんお急ぎじゃなかったら、なんですけど…。何か、銀さんが土方さんに聞きたいことがあるとかで
見かけたら連れて来いってうるさくって…」
「そう、か…」
実は、銀時が土方のことを好きだというのは新八だけでなく神楽も知っている。
随分前から、銀時自身が堂々と宣言していたのだ。初めは驚いたものの、土方の魅力を目を輝かせて語る銀時を見て
新八も神楽も素直に応援したい気持ちになった。そして二日前、遂に告白したと銀時は言っていた。
しかし、返事をもらう前に仕事へ戻ってしまったらしい。
その後の銀時と沖田のやりとりなどは知らされていないが、新八はここで土方と別れたら銀時に恨まれると思った。
「土方さん、いかがですか?」
「ああ…別に急ぎの用事はねェよ」
「そうですか!じゃあ…」
「ああ…」
新八は土方を連れて万事屋へ向かった。
「おはようございまーす。銀さーん、土方さん連れて来ましたよー」
「は?えっ、ちょっ…うおっ!」
ガタガタガタと慌ただしい物音がして銀時が玄関に転がり出る。
今まで寝ていたのか、いつもよりも髪の量が増しているように見えた。
呆れたように新八が溜息を吐く。
「全く…まだ寝てたんですか?土方さん、すいませんね。せっかく来てくれたのに…」
「あ、いや、その…」
「ちょっと待て。何で新八が土方くんと一緒にいんの!?」
「たまたま会ったんですよ。それで、無理言って来てもらったんです。ほら…銀さん話があるんでしょ?」
「おぉー!でかした新八!オメーはやれば出来る子だと思ってたよー」
「はいはい…土方さん、申し訳ないんですが少しだけ待っててもらえますか?」
「えっ…」
「ゴメンねー。すぐだから、そこに座って待ってて。お願い!」
「あ、ああ…」
言われたとおり、土方は玄関に腰を下ろして待つことにした。
銀時と一緒に奥へ入った新八は神楽と定春を起こし、その間に銀時はいつもの服に着替える。
「お待たせー。さあ、どうぞ」
「ああ…」
「じゃあ土方さん、ごゆっくり」
「えっ…」
土方と入れ違いに新八、神楽、定春が玄関へ向かう。
「銀ちゃん、酢こんぶ五個アルヨー」
「おう、任せとけ!」
状況が理解できない土方を置いて、二人と一匹は外へ出てしまった。
「おっおい、アイツら…」
「ちょっと買い物に行ってもらった」
「…俺が来たからだよな?」
「気にしなくていいって。…新八に連れて来られたんだろ?」
「だが…」
「いいからいいから…さっ、座って」
納得は出来なかったが今更帰るわけにもいかず、土方は渋々事務所の長イスに座る。
すると銀時は隣に―しかも触れ合うくらい近くに座った。
あまりに近くなった距離に、土方は銀時の方をまともに見られない。
銀時は土方の背後の背もたれに腕を回し、土方の耳に直接話しかける。
「ねえ…新八に何て言われて来たの?」
「おっお前が俺に、聞きたいこと、あるって…」
「ふぅん…。もちろん何のことか分かってるよね?」
「二日前の…」
「せーかい。…それで?」
「それでって…」
「だからー…銀さんとお付き合いしてくれる?」
「っ…」
土方は真っ赤になって俯いてしまう。銀時はクスリと笑って更に距離を詰める。
「二日空けても来てくれたってことはさァ…銀さん、期待しちゃうよ?いい?」
「…ぃぃ」
「わーい!」
「っ!?」
銀時に抱きつかれ土方は硬直したが、銀時は構わずぎゅうぎゅうと抱き締めた。
こうして二人は恋人同士になった。
「よしっ、じゃあ早速デートしよう!」
「で、デート?」
「まずはメシ屋に付き合って?俺、朝メシまだだからさ」
「あ、ああ…」
「それから…映画でも見る?」
「あ、ああ…」
「決まり〜。じゃあ、行こう」
銀時は土方の手を引いて玄関に向かう。各自でブーツや草履を履くと、銀時は再び土方の手を取る。
そしてそのまま玄関を出てしまった。
「おっおい、手…」
「えー…ダメ?」
「ダメってわけじゃ…」
「じゃあこのままー」
土方は恥ずかしかったが、嬉しそうに手を繋いで歩く銀時に向かってダメだとは言えなかった。
しかし、幸せな二人の時間はすぐに終わりを告げる。
食事処へ着く前に土方の携帯電話が鳴り、土方は屯所へ戻ってしまったのだった。
仕事柄仕方がないかと、その時の銀時は思っていた。
だが、その次もその次もその次も…銀時と会うと必ず途中で土方は呼び出された。
後で何があったのかを聞くと、本当に緊急事態なのは十回に一回がせいぜいで、その他は大したことないように
銀時には思われた。近藤がお妙にボコボコにされただの、隊士同士が酔ってケンカをしただの…
けれど土方の話では、今までもそういうことで呼ばれては対処していたらしい。
以前はそれで休みが丸々潰れることもあったから、銀時と少しでも会えるだけ隊士も気を遣っているのだという。
(他の隊士はそうでも…沖田くんは違うだろうなァ。沖田くんからの呼び出しってのはほとんどないみたいだけど
近藤の留守中に沖田くんが何かやらかしたら、他の隊士は土方に頼るしかねェだろうし…
お付き合い始めても特に何も言ってこないから諦めたのかと思ってたけど…そう簡単にはいかなそうだな)
沖田をどうにかしない限り落ち着いて二人で過ごすことは難しいという結論に至り
銀時はそれから、どうしたら沖田が諦めてくれるのかを考えて過ごした。
(10.06.06)
35000HITキリリクより「沖田も土方さんが大好きで、銀さんと奪い合う話」です。相変わらず意味不明のタイトルは35000HITだからです。後編はこちら→★