後編
ある日、定食屋で食事中の土方を銀時は見付け、自分もその店に入った。
周りに他の隊士がいないことを確認し、銀時は土方の隣に座る。
「よっ、元気〜?」
「…一昨日会ったばかりじゃねェか」
「そうだけどさァ…あの日は一緒にいれたの三十分くらいだったじゃん」
「三十分でも、会えたのに…」
銀時はデートの邪魔をされたと確信しているが、沖田の想いに気付いていない土方は
本当に仕事だと思っている。つまり、呼び出されることが分かっていても銀時に会いに行っているのだ。
「…ごめんね。いつも忙しい中、会ってくれて俺も嬉しいよ」
「………」
「あのさ…今、ちょっと時間ある?」
「…俺は仕事中だぞ」
制服姿の土方は、食事をしたらすぐに仕事へ戻るつもりなのだろう。
「分かってる。でも五分だけ…三分でもいいから、ねっ?」
「それくらいなら…」
「ありがと」
土方の食事が終ると、二人揃って店を出る。
「………」
「おい、どうした?」
店の前で立ち止まった銀時を訝しんで土方が問う。
「あっ、何でもない。俺の気のせいだったみたい。…さっ、行こう」
「行くって…ほんの数分でどこに?」
「ちょっとその辺」
銀時は近くの路地に土方を引き込む。
(まだいるな…)
店を出た銀時が感じたのは「誰か」の視線。
袋小路に入っても襲ってこないことを考えると、土方を狙った攘夷浪士の類ではないようだ。
(となると…敵は敵でも恋敵ってとこかな?)
視線の相手を沖田だと仮定し、銀時は土方を抱き寄せた。
「お、おいっ」
「少しだけだから…」
「…少しだけだぞ」
「うんっ」
土方も銀時の背中に腕を回した瞬間、ほんの一瞬だが「誰か」の影が銀時には見えた。
(やっぱり沖田くんだ…。たまたま通りかかったのか、土方を尾けてたのか…まあ、どっちでもいいや。
せっかくだからこの機会に、土方くんが好きなのは誰かってこと分からせてあげよ)
「んっ…」
銀時はわざと沖田から見える角度で土方と唇を合わせた。
「舌、出して」
「んっ」
ほんの少し唇を離し、土方の唇を舐めて舌を出させる。
そして唇を離したまま舌先だけをぴちゃぴちゃと舐めあう。
銀時は沖田に見せ付けるため、敢えて見えるところで舌を使った。
「んっ…んうっ」
口内に溜まった唾液を飲み込もうと土方が舌を引っ込めた瞬間、それを追うように銀時が唇を重ねる。
「んっ…んんっ!」
銀時は土方のスカーフを手馴れた手つきで外すと、唇を合わせたまま沖田に挑むような視線を送る。
「っ!!」
銀時に気付かれたと悟った沖田は慌ててその場を後にした。
* * * * *
(さてと…どこに行ったかなァ)
土方と別れた銀時は沖田を探していた。
沖田が路地裏から逃げ出した直後「これ以上は無理だ」と土方に止められ、束の間のデートは終わったのだ。
暫く歩いていると、川縁の土手に座っている沖田を発見した。銀時は気配を消して沖田に近付く。
「ねぇ、団子食いに行かねェ?」
「!?」
「おっと…」
急に背後から声を掛けられ、沖田は咄嗟に刀の柄に手を掛ける。
だが銀時は刀の柄の頭を押さえて抜刀を阻止した。
「おいおい…善良な一市民に向かっていきなり刀向けないでよねー」
「…善良な市民は気配を絶って背後から近付いたりしやせんぜ」
「ちょっとしたお茶目じゃん。…で?団子でも食いに行かない?」
「…仕事中なんで」
「今私服じゃん。そんなあからさまに避けなくてもいいんじゃない?取って食ったりしねェよ」
「別に…避けてません」
「そう?じゃあ、行こうぜ」
「………」
沖田は渋々銀時の後を付いていき、近くの団子屋に入った。
「二十本。あんこ多めね」
「………」
「あれっ?沖田くんは頼まないの?」
「…二十本、旦那が一人で食べるんですかィ?」
「もっちろん」
「…俺は一本だけでいいです」
「あっそ」
銀時は沖田の分の団子も注文する。銀時の真意が分からない沖田は伺うように話し出す。
「随分たくさん食うんですねィ」
「そりゃあ奢ってもらえるんだから食うよー」
「…誰が奢るんで?」
「沖田くんに決まってるでしょ?」
「…そんなこと言いましたか?」
「言ってないけどさー…あんないいモン、タダで見られるとは思ってないよね?」
「何のことだか…」
「またまたァ…さっき路地で俺と十四郎がいちゃついてるトコ見たでしょ?」
「………」
銀時は一度も呼んだことがないのに土方を「十四郎」と呼び、仲の良さをアピールする。
「俺のキスにメロメロになってる十四郎…本当はあんな可愛い顔、誰にも見せたくなかったんだけど…」
「…だったらしなきゃよかったじゃねェですか」
「でも、十四郎が期待するような目で見てたからね?あそこで何もしなかったら十四郎が可哀想だから」
「…そうですかィ」
「つーワケで、ここの代金は見物料ってことで。…あっ、でももう見ちゃダメだよー。
お子様が見るようなモンじゃないからね。いくら俺達がラブラブで羨ましいからって…」
「…羨ましくなんてありやせん」
「そう?俺が十四郎にしたみたいなこと、してみたかったんじゃないのー?」
「別に…」
「あっ、もしかして逆だった?十四郎にされたいの?」
「別に…」
「まっ、どっちにしても無理だけどね。十四郎はもう、俺のモンだから」
「………」
「沖田くんはまだ若いんだから…この失恋をバネにして次は頑張ってねー」
「………」
その後、沖田は一言も口を聞かず、銀時が食べ終わる前に代金だけ置いて先に店を出た。
(ちょっとやりすぎちゃったかな…。でも、まあ、これで諦めてくれたでしょ)
銀時は沖田が手を付けなかった団子も平らげて店を出た。
* * * * *
その夜、土方が万事屋を訪れた。
仕事が忙しくて今日は会えないと言っていたが、頑張って都合を付けてくれたのかと銀時は意気揚々と玄関を開ける。
「いらっしゃ…ぐほぉっ!」
土方の顔が見えたと思った次の瞬間、銀時は土方の拳によって地面に沈められていた。
「痛ァァァ!!」
「テメーがそこまで最低のヤツだとは思わなかった!見損なったぜ!」
「ちょっ…待って!全然分かんないんだけど!」
「自分の胸に手を当ててよく考えてみるんだな!」
それだけ言うと土方は踵を返して帰ろうとする。銀時は慌てて土方の腕を掴んで引き止めた。
「待ってってば!俺、何かした!?」
「総悟に聞いた」
「沖田くんから…何を?」
「昼間のあれ、総悟が見てたんだろ?テメーはそれに気付いた上であんなマネして
更には見物料までせしめたそうじゃねーか」
「それはそのー…」
「しかも総悟に勝手なこと抜かしやがって…俺がいつ物欲しそうな目でテメーを見た!?
いつテメーの所有物になった!?あぁ!?」
「それは誤解だって!」
「テメーの顔なんか二度と見たくねェ!!」
「待っ…」
土方は銀時の手を振り払い、一目散に走り出す。
追いかけようとする銀時を家の中から新八が呼び止める。
「銀さん、電話です!」
「後だ、後!」
「でも、土方さんのことで大事な話があるって…」
「土方」の名に銀時の動きが止まった。
「…誰からだ?」
「沖田さんです」
「…分かった」
少しの逡巡の後、銀時は電話に出ることを決めた。
「もしもし」
『昼間はどうも』
「何?」
『ちょいと旦那にお伝えしたいことがありまして…』
「なら早く言ってくれる?今、忙しいんだから」
『まあまあ、落ち着いて。…旦那もまだ若いんだし、この失恋をバネにして次は頑張って下せェ』
「なっ!」
銀時が言い返そうとした時には既に電話は切れていた。
(あんのクソガキ!全っ然、懲りてねェじゃねーか!ちょっと可哀想だったかなァとか思ってたのによ!)
声の聞こえなくなった受話器を握り締め、銀時は少しでも沖田に同情してしまったことを悔やんでいた。
それから銀時は、土方に何日も頭を下げ続け、どうにかこうにか別れ話は撤回してもらった。
一向にめげない沖田に邪魔されながら、銀時は細々と土方との付き合いを続けていくのであった。
(10.06.06)
「ラブラブ銀土で落ちるけど、総悟くんは全然メゲてないと良いです」というリクエストだったのですが…すみません、最後は全然ラブラブじゃないですね^^;
一応、銀土のお付き合いは継続中なのでラブラブと言えなくもないような…。この話を書いていく中で、他の人とも争わせてみたいなァとか思うようになりました。
私の場合、最終的に銀さんと土方さんがくっつくのは決定ですけど(笑)。リクエスト下さったくね様、こんなのでよろしければ、くね様のみお持ち帰り可ですのでどうぞ。
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