中編
(チッ…総悟のヤツ、余計なことを…。俺ァ別に、コイツと仲良くなりたいなんて思ってねェぞ!
だいたい、コイツの何処に惚れたのかサッパリ分かんねェんだよ。何かの間違いだと思ってんだよ。
あー…でもこのまま仕事に戻ってマジで俺の気持ちバラされたら…くそっ!!)
土方が脳内で沖田を睨みつけていると、銀時が話し掛けてきた。
「あの二人…もしかしてデートしたかっただけだったりして」
「…アイツら、そういう関係なのか?」
「さぁ?でもなんか、話が通じてたっぽいし…俺には分かんねェけど」
「そうだな…それなりに気が合うんだろうな」
「それで、あの…俺達は、どうする?」
「どうするって……そこの団子屋でいいか?」
ザッと辺りを見回して、土方は一軒の団子屋を顎で指す。
銀時はバツが悪そうに視線を斜め下に向けた。
「あ、あのよー…俺、ただ散歩してただけだから、その…」
「あ?嫌なら散歩を続けていいぞ(コイツが断るなら仕方ねェだろ。それならバラされずに済む。
つーか断れ!俺はテメーと仲良く団子食うなんざゴメンだし、コイツだって俺といてもつまらねェだろ)」
「あ、嫌とかじゃなくてね、その…」
「…何だよ(別に断っても傷付かねェから、むしろ嬉しいから断わってくれ!)」
「あの…ひっじょーに言いにくいんだけど……金がねェ!」
言いにくいと言う割に、銀時はかなりキッパリと言い切った。
「しょーがねェな…団子くらい、奢ってやるよ(おいィィィ!何で俺、奢るなんて言ってんの?
今すぐ訂正しろ!今ならまだ間に合う!「なーんちゃって」とか言えばいいんだ!)」
「えっ、マジで?サンキュー」
「じゃあ行くか(「なーんちゃって」はどうしたァァァ!何故だ?
何故俺の口なのに思ったことと真逆の言葉が出てくるんだ?)」
「…土方?」
銀時は団子屋に向かって数歩進んだところで振り返り、立ち尽くしたままの土方を呼ぶ。
「っ!お、おう、今行く…(ちょっ、何で心臓がドキドキした?コイツが首傾げたから何だってんだよ!
可愛いなんて思ってねェぞ!全然、決して、ほんの少しも思ってねェからな!)」
心の中で自分に対して言い訳をしながら、土方は銀時と団子屋に入った。
座席に向かい合って座ると、銀時がじっと土方を見つめる。
(やっぱりキラキラしてる…。コイツの何かが日の光に反射してるんじゃねェのか?
それとも、今は店の明かりに反射してキラキラしてんのか?…つーか、キラキラのせいで男前に見えるな。
…ムカつく。まあ、神楽の言うことが本当なら、俺にしかこのキラキラは見えてねェみたいだけどさ…
あれっ?ってことは、俺にだけコイツがカッコよく見えるってこと?…ナイナイ。それはナイ!)
自分の考えを打ち消すように、銀時は夢中で団子を頬張った。
「…もう一皿、頼むか?」
「あ、いいの?」
銀時があっという間に団子を平らげたのを見て、土方は追加注文しようとする。
ここは土方の奢りであるので、銀時は本当に追加していいのか土方に確認した。
「好きなだけ食えよ(何言ってんの俺ェェェ!確かに、好きなヤツと少しでも長く一緒にいたい気持ちは分かる
。
だがコイツは例外だ!俺はコイツとなんか、これっぽっちも一緒にいたくねェはずだ!)」
「あ、ありがと…(今、コイツのキラキラが増えた!何コレ?さっきより男前になってねェ?
いやいやいや…そんなはずはねェ。だってコイツ今、団子にマヨかけてて…あっ、キラキラ減った)」
愛して止まない糖分をマヨネーズで汚されて、銀時はこめかみに青筋を浮かべる。
「テメー、お団子様にナニかけてやがる!」
「なにがお団子様だ!俺がどう食べようと俺の勝手だろーが!」
「っざけんな!糖分虐待を黙って見過ごせるとでも思ってんのか!?」
「どこが虐待だ!マヨネーズ様に謝れ!」
「お前がお団子様に謝れ!」
「オメーはマヨネーズ様に土下座しろ!」
「お団子様に平伏せ!」
「マヨネーズ様に…」
「お団子様に…」
店内で言い合いを始めた二人は、営業の邪魔だからと店主に追い出されてしまった。
「「チッ…」」
お互いに舌打ちをして、振り返りもせず別々の方向に歩いて行った。
* * * * *
「あー、ムカつく!あのマヨネーズ野郎!」
家に帰った銀時は乱暴にブーツを脱ぎ捨ててドカドカと廊下を進んでいく。
「神楽ァ!オメーよくも…」
「銀ちゃんお帰り。マヨラーとのデートは楽しかったアルか?」
「何がデートだ。オメーと沖田くんじゃあるめェし…」
「ふざけるんじゃないネ!私、あんなドS野郎とデート何かゴメンヨ」
「じゃ、何で俺を置いてったんだよ」
「マヨラーと二人きりの方がいいと思って」
「だから何でだよ。アイツと団子屋行ったせいでめちゃくちゃ腹立ってんだけど!」
「そうアルか…」
「やっぱり神楽ちゃんの勘違いだったんじゃない?」
一足先に帰って来た神楽から、例のキラキラの謎について聞かされていた新八は半信半疑であった。
会えばケンカしかしない土方のことを銀時が好きになるなんて…と思っていたのだ。
そして帰って来てからの銀時の態度を見て、完全に神楽の早合点だと思うようになっていた。
「そんなことないネ!だって銀ちゃん、マヨラーだけがキラキラして見えるって…」
「ああ、そういえば、いつの間にかキラキラなくなってたな」
思い返せばマヨネーズと団子のことで言い合いをしている最中から、キラキラが見えなくなっていた。
「えっ!本当アルか?もう恋が冷めてしまったアルか?」
「恋ィィィ!?おいおいナニ言ってんの?俺も土方も男だぜ」
「そんなの関係ないネ。銀ちゃんはマヨラーに恋してるからキラキラ見えたネ。ほら、こんな風に…」
神楽は自分の寝室(押入れ)の中から少女漫画を取り出して銀時の前に広げた。
そこにはキラキラのトーンを背景に立つ男性キャラクターが描かれていた。
銀時はマジマジと漫画を見つめる。
「…確かに、土方の周りがこんな風に見えたけどよー…でも、だからって恋じゃねェだろ」
「銀さん、本当に土方さんがこんな風に見えたんですか?」
「ああ…。何かムカつくくらい男前に見えてよー…でも別に好きとかそんなんじゃねェから」
「じゃあ銀ちゃんはマヨラーに恋人ができてもいいアルか?」
「あ?恋人ォ?………」
土方に恋人が…そう考えると銀時の胸がチクリと痛んだ。
「土方に恋人ができたら…なんか、嫌だ」
「銀さん…」
「それが恋ってことアルヨ」
「…恋、なのか?」
「そうアル!」
「うーん…」
納得はいかなかったが、だからといって上手い反論も思い付かず、結局キラキラは恋のせいということになって
しまった。
(恋なァ…したことねェから本当に恋かどうかなんて…まっ、ケンカ中にキラキラは消えたし、
例え恋だったとしても、もう終わったことだ。気にするこたァねーな)
初恋の相手が土方だというのは甚だ不本意ではあるが、銀時はこの想いを過去のこととして忘れようと心に決めた。
(10.05.10)
その頃土方さんは?→★