後編


真選組屯所。 土方は戻ると真っ先に沖田の元へ向かった。

「おい総悟!」
「お帰りなせェ。少しは旦那とお近付きになれましたかィ?」
「余計なことするんじゃねェよ。俺ァ、万事屋とお近付きになんかなりたくねェんだよ」
「何言ってんでィ…好きなんでしょう?」
「それはっ…一時の気の迷いだ」
「気の迷いねィ…。男専門でもない、女に不自由しないアンタが、わざわざ好きになったのに?」
「…そ、そうだ!」
「別にいいですけどねィ。…でも土方さん、アンタまた好きな人に好きだとも言わずに終わらせる気ですかィ?」
「っ………」

また―沖田が誰のことを言っているのか、土方には痛いほど分かっている。
若くしてこの世を去った女性…他ならぬ沖田から言われ、土方はそれ以上何も言うことができなかった。
土方は黙って自室に戻った。

(くそっ…アイツと万事屋は違うだろーが。だがいくらなんでも総悟にそんなことは言えねェ。
それに総悟の言うように、このまま黙っていて万事屋への想いが消えそうもないことも事実だ。
…よし。こうなったら告白してやろうじゃねーか。どうせフラれるのは分かってる。
というか、フラれるために告白する。フラれたらそこで終わって、きれいサッパリ忘れられるはずだ!)



*  *  *  *  *



一ヶ月後。依頼帰りの万事屋三人は、またしても土方と沖田に出会う。
しかし、土方の姿を遠くに確認した途端、銀時が逆方向へ駆けだしたのだ。

「新八ィ、私は銀ちゃんを連れ戻すから、お前はマヨラーを足止めしてるネ!」
「えっ、えっ?」

早口で捲し立て、神楽は銀時を追った。
新八は戸惑っていたが、神楽に言われたとおり土方を足止めすべく話しかけることにした。

「こっこんにちは…」
「おう。…一人か?」
「いやァ、旦那がいなくて残念でしたねィ」
「総悟、テメーは黙ってろ」
「あ、あの…お二人は、お仕事中ですか?」
「いや、終わって戻るところだ。…オメーは?」
「あっ、僕も依頼が終わったところで…」
「…一人で仕事してたのか?」
「いえ、銀さんと神楽ちゃんも一緒だったんですけど、途中から別になったというか…」

まさか土方が見えて逃げ出したとは言えない新八は、モゴモゴと口ごもる。
だが、銀時と神楽の勝手な振る舞いに手を焼いている(ように見えた)新八に、土方は親近感を覚えていた。

「オメーも苦労してんだな」
「あ、いえ、そんな…」
「仕事は順調なのか?」
「順調って程では…。でも、食べるのに困るって程でもないです。それに…姉上が、その、色々いただいているので…」
「あー…近藤さんか。スマンな」
「いえ。あの、ちょっとアレな所はありますけど、それなりに助かってる部分もあるんです」
「そうか」
「ははははは…」


思いがけず会話が続いている土方と新八の様子を、銀時は物陰に隠れて見ていた。

「アイツら、仲良いな…」
「銀ちゃんも行って、一緒におしゃべりしてくるといいネ」
「俺が行くと、ケンカになるし…」
「銀ちゃんがニコニコしてたら大丈夫アルヨ」
「でも…急にそんなんしたら、変に思われるんじゃ…」
「銀ちゃん…マヨラーのキラキラ、見えてるアルな?」
「…見えてる。この前、消えたと思ったのに…」
「いい加減、認めるネ。マヨラーと仲良くなりたいんでしょ?」
「うー…」
「ほら、素直になるアル。行くヨ」

神楽は銀時を引き摺るようにして土方のいるところまで連れて行った。

「よ、よう…」
「よう…何やってんだ。ガキ一人置いて…」
「あん?」
「あ、土方さん、僕は別に…」

姿を見るなり銀時を咎めようとする土方を新八が止めに入る。
一方神楽も、土方につられて悪態を吐きそうになる銀時を宥めようと、銀時に耳打ちする。

「ダメよ銀ちゃん。ニコニコするんでしょ」
「だってアイツがよー…」
「ここはグッと我慢アル」
「ちぇー…分かったよ」

本当は何一つ納得していないが、渋々神楽の言うことを聞いて無理矢理に笑顔を作る。

「あー、今日はいい天気だな」
「あ?ナニへらへらしてんだ、テメー」
「………」

眉間に皺を寄せた銀時に、神楽が後ろから「はい笑って〜」と念を送る。
銀時は笑顔を貼り付けたまま怒りのオーラを放つ。

「あー、お仕事ゴクロウサマデス。…それじゃ、俺はこれで」
「ちょいと待ちなせェ」
「えっ?」

このままでは顔の筋肉が崩壊しそうだと、全く心のこもらない挨拶をして銀時が去ろうとすると沖田が止めた。

「土方さんが旦那に話があるみたいなんで、ちょいと待ってくだせェ」
「お、おい総悟、俺ァ別に…」
「じゃあそういうことなんで…ガキ共は俺が責任持って万事屋まで送り届けるんで、安心してくだせェ」
「ふざけるなヨ。お前の力なんか借りなくても帰れるネ!」
「いいから来い。…アイツら二人きりにしてやるぜィ

後半は神楽にしか聞こえないように言った。
そこで漸く神楽も沖田の魂胆を理解し、新八と三人で万事屋へ向かっていった。

残された銀時と土方の間に気まずい沈黙が流れる。

(総悟の野郎ォォォ…余計なことしやがって!コイツに話すことなんか何もねェよ!
アレか?告白か?今ここでか?くっそー…こうなりゃヤケだ!)

土方はガッと銀時の両肩を掴み、銀時の目を睨みつけるように見つめて言った。

「万事屋、テメーのことが好きだ」
「えっ…」

(よしっ、これで万事屋が「俺はお前が大嫌いだ」とかなんとか言って終わりだ!)

だが銀時の反応は土方の予想に反するものであった。

「えっ…あ、あの、すすすす…すきって、あの…」

耳まで真っ赤にして視線を彷徨わせる銀時を、土方は信じられない思いで見ている。

(これがあの憎たらしい万事屋か?もしかして中身は別人なんじゃ…いや、そんなアホなことがあるか。
でも、まあ、こんな可愛げがあるんだったら…って、何を考えてるんだ俺ェェェ!目を覚ませ!
俺はコイツへの想いにケリをつけるため告白したんだ!早く俺をフリやがれ!)

今まで自覚していなかった想いを自覚し始めた自分を否定し、土方はなおもフラれることを願う。
銀時は俯き加減に、いつになく弱々しい口調で話し始める。

「あ、あの、俺…こういうこと、初めてで、よく分かんねェけど、その…」
「…初めて?」
「この歳になるまで、恋とか、したことなくて…でも、その、すっすきって、言われて…
めちゃくちゃ恥ずかしくて、今も心臓ドキドキしてるけど、あの…う、うれしかった」
「万事屋…」

真っ赤な顔ではにかむ銀時を、土方は心の底から愛おしいと思った。
そして肩に置いたままだった手で銀時を引き寄せようとした瞬間…


ドッカーン

二人の足元目掛けてバズーカ砲が発射された。

「なななな…」
「総悟ォォォ!てめー何しやがる!」
「おめでとうございます、お二人さん。つーワケで祝砲でさァ」
「どこが祝砲だ!明らかに実弾だったじゃねーか!」

バズーカを担いで逃げる沖田を土方は刀を抜いて追いかけていく。
取り残された銀時の元に、新八と神楽がやって来た。

「銀ちゃん、おめでとうネ」
「おめでとうございます」
「え…あ、あり、がとう?」
「新八、今日は赤飯ヨ」
「そうだね。小豆なら買い置きがあるし」
「ちょっ、アレはあんこにするヤツだから。あんこにして宇治銀時丼に…」
「小豆と米を一緒に食べるなら赤飯でいいでしょ。今日はお祝いなんですから」
「いや…お祝いとかそういうの、別にいいから」
「遠慮することないアル」
「そうですよ。…さっ、早く帰って準備をしなきゃ」
「おうネ」

新八も神楽も、銀時本人より嬉しそうに万事屋へ帰っていく。


何はともあれこうして二人のお付き合いは始まったのであった。


(10.05.10)


めでたしめでたし…って、漸くくっ付いたのに二人のいちゃこらがなくてすみません^^; 3万HITキリリクより「銀さんに惚れてるけどありえないと思い込んで悩んでる土方さんと、

恋をしたことがないせいで惚れてることにすら気付かない銀さんが両思いになるまで、とそれを横からニヤニヤしながら見てる神楽と沖田」でした。沖田と神楽、あまりニヤニヤしてませんね。

むしろ普通に応援してます。リクエストと一緒に<リバを増やして>の簡単メッセージも送って下さったのでCPはどちらにも取れる感じにしようとしたのですが…土銀っぽい?

銀さんがオトメなのがいけなかったんだと思います。こんなのでよろしければリクエスト下さった舞夜様のみお持ち帰り可です。舞夜様、もしサイトをお持ちで「載せてやってもいいよ」って時には

拍手からでもお知らせください。  ここまでお読みいただきありがとうございました。

 

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