<七>


鼻に抜ける声を漏らし、くちゅくちゅと舌を交わらせれば、忽ち回復してくる体の中心。今度は俺からね――最後に頬へ口付けて、坂田は絨毯の上に戻った。
「土方バージョンでヤってみようかな」
一度目よりやや強めに握った恋人へ好きにしろと告げて、土方は天然パーマで手の平を弾ませる。自然と前傾姿勢になった坂田。ふとした思い付きで目の前のモノをぺろりと舐め上げてみた。
「んー……意外といけるな」
「なっ!?」
そこまでしなくていいと足掻くも、快楽を引き出すことに楽しさを覚えてしまった男は止まらない。初めてだとか、少し前まで男同士に抵抗があったとか、そんなことは些細なこと。そして気持ち良くなってもらいたいという奉仕の精神よりもむしろ、感じている姿を見て己が興奮したいという欲求の方が強かった。
手指で感じる脈動と舌で味わう快感の雫。ずくずくと重くなる下半身に腰をくねらせながら、坂田は手で口で、恋人を愛撫していく。
「くっ――!」
坂田を「この世界」へいざなった桃色オーラは健在で、息を詰める控え目な喘ぎも扇情的だ。早くイッてもらわないとこちらが我慢できなくなる――危機感を募らせ、一物をぱっくりと咥えた。
慌てたのは土方。ここまで本格的に口淫されるとは予想外であったから。
じゅるじゅると汁を啜り、根元は扱かれる。二人きりになっただけで落ち着きをなくしていたのとはまるで別人。現実に理解が追いつかぬまま、高められていった。


「んんっ!!」
達しそうだと宣言されても口を離す気にはならず、口内へ吐き出させた粘液を坂田は嚥下した。
「うっ……ゲホッ!ゴホッ!」
思った以上に喉越しが悪く、盛大に噎せてしまったけれど。
「大丈夫か?」
服を整えベッドから下りて背中をさする土方。自分のために頑張ってくれた愛しさと頑張らせてしまった申し訳なさが入り混じる。
「あー……平気平気。ちょっとつっかえただけ」
完全に強がりではあったものの、坂田にはこの場を早急に終わらせたい事情があった。
土方の肩を支えに立ち上がり、ズボンと下着を一緒に脱ぎつつベッドに上がる。のっぴきならない状況の一物を握り、あっけにとられている恋人へ熱い視線を送った。
「次は土方がしてくれる?手でいいから」
「ふざけんな」
俺にもしゃぶらせろ――ベッドの上に引きかえした土方は坂田の足元へ蹲ると、股間の手を外させてそこへ顔を埋める。
「お願いしまーす」
後ろ手をついて恋人の動向を見守りつつ、どこまで経験済みなのだろうかと考えて頭を振った。
変えられない過去に嫉妬しても無意味。美味そうに己のモノへ舌を這わせている今に満足しようと。
「ん、ハッ……!」
何より、気持ち良過ぎて思考が上手く回らない。感じて感じて感じて感じて……その間に少しだけ、相手も同じように感じさせたいと土方の動きを記憶するので精一杯。
「うぐっ……!」
ドピンクオーラを放つ男が先端を口に含みながら目線を上げれば、坂田は一気に込み上げてきた。
これはもう視覚の暴力だ。見ているだけでイッてしまいそう。
腕も疲れたことだしと上体を倒し、天井を見上げた。
「はあっ!」
それが裏目に出る。
視界の外で繰り広げられる淫らな行為。優位になった触覚がその快感を余すことなく拾い上げてしまう。元の体勢に戻ろうにも、既にそんな力は入らなかった。
「あっ、あっ、あっ、あっ……」
体は痙攣し、声が抑えられない。目には涙も滲んできた。
「土方、土方ぁ……あっ!待っ……ああぁっ!!」
喉の奥まで咥え込んで吸われ、堪らず口内にぶちまける。
当然のようにそれを飲み込むと土方は、うつろな目で横たわる愛しい存在をきつく抱き締めた。
「何これ気持ち良過ぎ……」
「それは良かった」
「……土方は?」
「気持ち良かったに決まってるだろ」
「そっか。良かった」
夢うつつの心地でヘッドボードに手を伸ばし、リモコンを手に取るとエアコンを入れる。人工の冷たい風が、饐えた臭いと熱気に包まれた空気を徐々に散らしてくれた。
「坂田」
「ん?」
「ありがとよ」
「何が?」
「俺なんかと、付き合ってくれて」
「それはこっちの台詞。ギリギリ間に合ったし」
「間に合った?」
「いちご牛乳の賞味期限、今日だったんだよね」
「え……」
勿体なくてずっと飲めずにいたのだと舌を出せば、更に強く抱き締められる。
「あんまり可愛いこと言うな。またシたくなる」
「そっちこそエロオーラしまってくれる?またシたくなるから」
「は?」
「あー、やっぱり無自覚か!」
結局この日、坂田の家族が帰ってくるまで睦み合うのだった。

(16.02.20)


あと1話で完結です。まずはここまでお読みくださりありがとうございました。

追記:続きはこちら(18禁ですが直接飛びます)

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