<八>

「おはよー」
「…………」
二学期初日の朝。笑顔で手を振る改札横の銀髪に、土方は溜息を漏らした。
夏休みの間中、暇を見付けては抱き合っていた二人。それも昨日で終わりだと土方が言ったところ、一緒に登校するのだと坂田は言い切った。
恋人らしい触れ合いをしてからというもの、どこか吹っ切れた様子の坂田。周りの目などお構いなしに外でも手を繋ぎ、腕を絡めてくる。それはそれは楽しげな表情で。
街中ではそれでも良い。むしろ土方にとっても嬉しいことであった。
けれども学校となれば話は別。友人知人達の前で交際をひけらかすような態度はいかがなものか。しかも好奇の的となりやすい同性カップル。ゲイを公言している自分はまだしも、耐性のない坂田がからかわれでもしたら可哀相だ。
そんな土方の気遣いも虚しく、坂田は待っていた。
「今日だけだぞ」
「やだね。言いたいヤツらには言わせとけばいいじゃねーか」
土方と一緒なら何をされても気にしないと豪語するのに根負けし、明日からの登校も約束してしまう。手を繋いだり腕を組んだりするのは辛うじて阻止できたけれど。

「朝からお熱いことで」
高校の最寄駅で二人を早速冷やかしてきたのは沖田であった。坂田と知り合えたのが彼のおかげだけに、土方は頭が上がらない。
「おはよー」
一方の坂田は、理解のある友人の一人と捉えており満面の笑み。からかい甲斐のあるその様子に沖田もにんまりと笑った。
三人で校舎へ向かう道すがら、沖田の興味は専ら坂田へ。
「まさか男もいける口だったとはねィ」
「土方だけね」
「流石はノンケキラー土方」
「その呼び方やめろ」
これまで土方と付き合った相手は――告白されたが交際に至らなかった者も含めて――自称ノンケばかりであった。土方としては、ゲイだと認めたくないか気付いていないか、さもなくばバイだと踏んでいるのだが、沖田から言わせると、女好きの男も虜にする妖しい力を土方が持っているのだとか。
「ノンケキラー……ああ、分かる分かる」
「えっ」
驚くことに坂田はすんなり受け入れている。
「土方ってさァ、なんかピンクのオーラ出せるんだよね。アレ至近距離で浴びたらコロっといっちゃうから」
「はぁ?」
「もう二人っきりの時以外、出すんじゃねーぞ」
「そうだ土方。死ね土方」
「意味分かんねェ……」
坂田に便乗した沖田は益々調子に乗っていった。
終始こんな態度であるから、二人の交際はその日中に校内の知人殆ど全てに知れ渡ることとなる。


「一緒に帰ろう」
放課後。手早く荷物を纏めた坂田は土方の机を叩いて急かした。一部の級友達がそれを横目にひそひそと話しだしたのに舌打って、土方は乱雑に帰り支度をする。
今日は始業式とホームルームのみ。昼飯はどうするのかと問われて買って食べると答えた土方。
「俺も今日は買い弁なんだよねー」
共働きの土方家、歳の離れた兄姉は独立し、基本的に日中は誰もいない。
期待に満ちた瞳に見詰められ、家に来るかと誘ってしまった。
「行く!」
今日こそはきちんと話しをしようと心に決めて。
*  *  *  *  *
「あっ……ん、む……」
一時間弱の通学時間。まだ昼食には早いからと、二人はベッドへ直行した。坂田が上になり唇を合わせ、下腹部を土方のそこに押し付ければみるみる硬く膨れていく。
「ハァッ……」
毎日のようにシていても飽きる様子はない。寧ろ、ヤればヤるだけヤりたくなる。坂田はもう、自身のみで満足することはできなくなっていた。
下を全て脱ぎ、シャツの前を開け、土方も同じ格好にさせる。
「土方はこっちをよろしく」
「あっ!」
二本を一纏めに握らせて、自分は恋人の胸に付いた控えめな粒を摘んだ。土方が胸で感じるたび、股間の手がきゅっきゅと締まって気持ちいい。
「乳首、気持ちいい?」
「分かってん、だろ」
「土方の口から聞きてェの」
「んうっ!」
強めに両胸を抓られて土方の腰が浮いた。
坂田に主導権がある時は大抵、土方が辱めを受けている。非常に恥ずかしいけれどそれに興奮してしまう己も確かにいて、土方は拒みきれなかった。
「あっ、気持ちいい。坂田ぁ……」
「じゃあもっと気持ち良くしてあげる」
左手をベッドに付き身を屈め、今度は舌でねっとり愛撫する。
「うっ……あ!」
芯の通った小突起の感触が堪らない。夢中で舐めていると、下半身の手が意図を持って動き始めた。
胸の刺激を受け、握っているだけでは耐えられなくなった土方が、共に昇り詰めるため上下に擦る。
「んー……」
「ひぁっ!」
舐めていた箇所にちゅうと吸い付き舌先で先端を転がした。土方の体はビクンビクンと跳ねていく。
もうじき限界――顔を上げた坂田は左手を胸へと差し戻した。恋人の悶える様を堪能しつつ、愛しい手の内で腰を振る。
「あっ、あっ……坂田ぁ!」
「土方っ……いく……!」
「んんんんっ――!!」
「はあぁっ!!」
土方の腹の上で、二人分の精が混じり合うのだった。
*  *  *  *  *
「お前、ちゃんと勉強してるか?」
「は?」
軽くシャワーを浴びて昼休憩。行きに買ってきた弁当を温め、テレビを見ながらの昼食中、土方の質問に坂田は眉間を寄せた。
「何でそんなこと聞かれなきゃなんないわけ?」
「すまん。ちょっと心配になって」
「ふーん……土方は人の心配する余裕あるんだ」
「あ、いや……夏休みに受けた模試はまあまあだったが、余裕というほどでは……」
「そうなんだ」
気怠い風を装いながら坂田は内心で焦っていた。本当は碌に勉強できていない。一人では充足できないけれど我慢もできなくて土方を思う日々。実を言えば学校でも危なかった。今日は短時間だから何とか乗り切れたものの、半日以上土方の近くにいて欲情しない自信はない。
つまりは家でも学校でも勉強どころではないのだ。
「変なこと聞いて悪かったな。一緒に大学行けるの楽しみにしてる」
「おっ俺だって!」
そうだ。自分達は同じ夢に向かう同志でもあったのだ――弁当を掻き込むと坂田は気合い一発立ち上がった。
「ごめん。今日、塾あるの忘れてた!あと、明日からあんまり会えなくなるけど、受験終わったらいっぱいデートしよう!」
「ああ」
嘘を見抜いた上で土方は大人しく騙される。坂田の両手を取り、お互い頑張ろうと励ました。

外ではジリジリと照り付ける太陽がアスファルトを焼き、蝉時雨が最後の力を振り絞って降り注ぐ季節。この暑さがすっかり鳴りを潜めた頃にはきっと、二人の元に真冬のサクラサク季節。

(16.02.27)


というわけで完結です。実は坂田くんのお父さんが、土方くんの初恋の人という設定もあったのですが、入れられませんでした^^;
真冬に真夏の馴初め話、最後までお付き合いいただきありがとうございました。


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