<六>
よく晴れた空の下、思いを通わせ合ったばかりの二人が並んで歩いていた。 けれど一方の表情は硬く、思い詰めているようでいて、もう一方はそれを憂いているように見える。付き合いたての初々しさや気恥ずかしさの中に見え隠れする幸福感は何処へやら、といった風情の恋人同士であった。 「ここ」 「坂田あのな……」 鍵を開け、土方を家に招き入れた坂田の顔は、初めてできた恋人と過ごす時のものではない。その上、 「……あれ?おーい……」 家族の留守が判明すると冷や汗までかく始末。 「出直して来ようか?」 「何でだよ!むっ寧ろ好都合だろ。俺の部屋、こっちな」 曲がりなりにも両思いの自分達。偶々出会った男同士が結ばれるという奇跡を大切にしていきたいと、土方は思っている。 坂田に案内されて部屋へ入ってからも、怯える恋人をどう落ち着かせるかを考えていた。自宅にいるとは思えぬ程ガチガチの坂田。進められるまま一先ずベッドへ腰掛ければ、緊張状態にもかかわらず拳一つの至近距離に座ってくれる。 「坂田……」 「はっはい!」 ピシッと伸ばされた背筋。恐怖を与えたいわけではないのにと土方は、躊躇いがちに恋人の右手を取った。 当然、坂田の体はその先を思い描きますます硬直していく。できる限り柔らかな声を意識して土方が口を開いた。 「これで充分だ。お前の部屋で二人きり。それで充分だから。ありがとよ」 「…………」 だが坂田としては納得できない。最早、相手との問題ではなく自分との戦いなのだ。触れ合う覚悟もなく恋人になるなど、土方が許しても自身が認められなかった。 キッと目を吊り上げて優しい恋人をこちらに向かせると、その両肩をがしっと掴む。 「きっキスしよう!」 「そういうのはもう少し後でいいから」 「俺とはキスできないってのか?」 「そうは言ってねぇだろ」 「じゃあキス!」 微かに震える唇を見詰めて土方は息を吐いた。無理をさせたくはないが何もせずに済ませてくれそうもない――意を決した土方の右手が坂田の左耳に触れる。 「ぁ……」 俄かに立ち込めた甘美な空気。これに心を奪われたのだと坂田が思い出すより先に、体は反応を示していた。 震えが止まり、ふらふらと距離を詰めて瞳を閉じる。それから唇に温もりを感じるまで、時間はかからなかった。 「土方……」 「さかっ……」 掠めた程度で離れた唇。それを追うように名前を呼び、己とは正反対の真っ直ぐな黒髪に指を差し入れて今度はこちらから。しっかりぴったり口付けた。
エアコンを入れそびれ噎せ返るような暑さの中、恋人達は幾度も唇を重ね、舌を絡ませ、互いの思いを味わっている。 口付けと口付けの合間を縫って吐き出される息は溶けるように甘く、唇を通して愛しい人の熱が全身を巡った。いつまでもこうしていたいけれど下半身がそれを許してはくれない――断腸の思いで坂田は土方の両肩を押し、上半身のみで背を向ける。 それを拒絶と捉えた恋人に謝られ、銀髪が横に揺れた。 「違っ……その……もう、ヤバくて……」 Tシャツの裾を引っ張り隠しているのは盛り上がる股間。「ああ」と呟くように言って土方は坂田の背を抱き締めた。 「触ってもいいか?」 「そそそれってお前がヌく……」 「あ、どうしてもってわけじゃねェよ?」 積極的にキスを仕掛けるくらいには同性との交際に抵抗がなくなっている模様。せっかく育った気持ちを萎縮させるわけにはいかないと、土方は突き進みたい欲望を押さえ込もうとした。 しかし土方と対等に付き合いたい坂田も、気遣われてばかりはいられない。 「お……お願いシマス」 再び震えだしてしまった唇を必死で動かし、前を寛げた。若干萎んでしまったモノへ土方の手が後ろから伸びる。 この体勢は、男同士をなるべく意識しなくて済むようにという配慮から。焦りは禁物と自身の下腹部に活を入れ、坂田の性感を引き出すことに集中した。
「ハァ……あっ、ん……!」 土方の手に擦られて陰茎が反り返る頃には、僅かにあった戸惑いも消え失せる。上体を背後の恋人に預け、一人では得ることのできぬもどかしくも淫靡な快感に酔い痴れていった。 「土方、土方ァ……」 荒い呼吸とともに発せられる己の名。縋り付くように絡む腕。ぬるつく手の感触。 痛い程に激しく主張しだした自分自身を無視して、土方は坂田を導いていく。 「あ、すごっ……気持ちいいっ!」 すっかり土方の虜となった坂田は、与えられる快楽を余すところなく享受しようと目を瞑る。 「ハッ、あっ!イク、イク……ああぁっ!!」 噴出した白濁液は土方の両手で受け止められた。 こんなの初めて――吐き出しきった男は恋人に凭れ、恍惚として率直な感想を述べる坂田。汚してごめんと手の平をティッシュで拭われて、土方の限界が訪れた。 エロ可愛い恋人をもっと見ていたいけれど見ているだけでは到底我慢できない。後ろ髪引かれる思いで立ち上がり、トイレへ駆け込もうとする。 「待てよ。次は土方の番だろ?」 「!?」 達した余韻も治まらぬ赤い顔でニヤリと挑むような目を向けられて、危うく出そうになった。同性経験のなかった相手を案じる余裕など今の土方にはない。高ぶりを曝け出し、再度ベッドに腰を下ろすのだった。 坂田は絨毯の上に膝をつき、血管の浮き出る熱い一物を握る。 「なあ……自分でする時、さっき俺にしてくれたみたいにすんの?」 「まあ……」 膨らみきったモノは握られただけでビクビクと震えていた。 「何それマジで興奮する」 「あっ!」 こちらを見上げながら坂田の手が動き始める。 「俺はこんな感じ。土方より扱くのは速くて握りは緩い系」 「ハッ、う……!」 目の前には悪戯っ子のごとき笑みを浮かべた恋人がいて、目を閉じれば蘇る乱れた姿。一人の方法を伝授されれば、そうして自ら慰める様が容易く思い描けた。 「うあ……坂田っ!」 「イキそう?」 現実と記憶と妄想に苛まれ、耐えることなど不可能である。 「ううっ!!」 足元にティッシュは準備していたけれど、土方に倣って両手で受け止めてみた。自分の手の上に広がる愛の証が、坂田を一気に燃え上がらせる。 乱雑に手を拭うと、片膝をベッドの縁に乗り上げてキスをした。
(16.02.15)
坂田くんがノッてきたところで一旦切ります。続きも18禁となりますがアップまで少々お待ち下さいませ。
追記:続きはこちら(18禁ですが直接飛びます)→★
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