<十三>
十月十日、体育の日。爽やかな秋晴れに恵まれたこの日、銀時は十八歳の誕生日を迎えた。祝日の
今日は高校も休み。意気揚々と恋人の家を訪ねている。
恋人の母は出掛け、弟は塾通い。銀時にとって絶好のチャンスが到来した。
「今日は俺の誕生日!」
「知ってる。おめでとう」
誕生日ではしゃぐ、まだまだ子どもな恋人の髪をくしゃりと撫でて、プレゼントは何がいいかと
トシが聞く。だがその答えは、まだまだ子どもだなどと悠長に構えてはいられないもので、
「トシさんでお願いします!」
「……は?」
「トシさんと一つになりたいです!」
「…………」
最近、キスも強請らず大人しくしていると思ったが今日に賭けていたのか……却下だと一蹴して
やった。
「お願い!先っぽだけでいいから!」
「ダメだ」
「じゃあBまでで我慢する」
「それもダメ」
「一緒に風呂……」
「ダメ」
誕生日なのにと頬を膨らませ、銀時は頑なな恋人から譲歩を引き出そうと躍起になる。
「キスもダメ?」
「何処に?」
「いっ色々と……」
「ダメだ」
こちらの作戦など容易く看破してしまう鋭さに惚れ直しつつ、最終手段に打って出た。
「じゃあ見るだけ!トシさんの裸を見せて下さいィィィィィ!!」
「…………」
カーペットに額を擦り付け懇願する銀時を見ていると幾ら何でも可哀相に思えてくる。自分と
付き合ったせいでしなくてもよい我慢を強いられて、それでも己を愛してくれる恋人の誕生日。
文字通り、一肌脱ぐ程度なら構わないか。
「分かったよ」
遂にトシが折れ、銀時は飛び起きてカーテンを勢いよく引いた。
日当たり良好なこの部屋は電気を点けていない。布一枚では遮り切れない光が薄暗い室内へ
洩れ注ぎ、淫靡な雰囲気を醸している。
よろしくお願いします――深々と頭を下げて銀時は、ベッドを背にして座るトシの前に正座した。
「……面白いもんじゃねぇと思うぞ」
「大丈夫!」
何も大丈夫ではないのだけれど誕生日だから仕方ない。見たいと言うなら見せてやろう。
覚悟を決めたトシはまず、ベルトをしゅるりと抜き取り脇へ放る。
次にシャツのボタンに手を掛けた。一つ、また一つと外す度、露わになる胸元。そこへ突き刺さる
熱視線。三十年の人生の中で、これ程までに注視された経験などないのではなかろうか。
幼い頃より続けてきた剣道のおかげで、平均的な同世代のそれよりは幾分締まってはいるものの、
それ以外はどうとでもない己の体。こんなものを見るために、見るだけのために、誕生日祝いと
土下座のコラボレーションを披露した、恋人の愚かしさが愛しくて胸が熱くなる。
バサリ。
シャツの裾をスラックスから引き抜いて、左右に開き腕を抜き、丸めてベルトの上へ。間もなく
肌着が積み重なると、銀時の喉の鳴る音が聞こえた。
先刻まで、ペラペラとよく回っていた銀時の口がピタリと止まっている。だが彼の瞳は早く脱げと
強く訴えかけていた。
靴下も投げて立ち上がったトシは、ファスナーを摘んで手を止める。自分の体の変化に気付いて
しまったから。
けれど今更中止にはさせてもらえない。全てを晒す前に鎮められれば何とかなると腹の底から熱を
吐き出し、スラックスを真下に落とす。左足を抜き、右足でこれまで脱いだ服の方へ蹴飛ばした。
残るは一枚。
トランクスのゴムに指を掛け、体ごと横を向く。視界の端で捉えた銀時の下半身。座っていても
ありありと分かる隆起したそこに、トシの血流も引き摺られる。最早真正面からここを露出できる
状態ではなくなっていた。
「……脱いだぞ」
呟くように言って、「前」は両手で包み隠し、俯き加減に立つトシ。ぎらぎらと欲を纏った瞳に
捕えられ、手中のモノは意に反して脈打ってしまう。
「手、どけて」
「だっダメだ」
こんな状態が露顕すれば「見るだけ」では済まなくなる。己がそれを望んでいると勘違いさせて
しまうから、ここだけは死守せんとする。
しかし拒まれる程に暴きたくなるのが人の常。
「見せてくれる約束」
「ここもとは言ってない」
「裸って言ったら全裸に決まってる!」
「服は全部脱いだんだから全裸は全裸だ」
屁理屈上等。最後の砦を守るためなら論理の飛躍もお構いなし。だが本日の主役は飛躍の更に上を
いった。
「えい!」
「てめっ……」
不毛な水掛け論は早々に終止符を打つべく、トシの手首を掴んで強引に目的を達成してしまう。
覆うもののなくなったソレは真っ直ぐ前に、覆いを外した者に向かって伸びていて、銀時は考える
より先にソレを咥えていた。
「っ――!」
トシの膝からかくんと力が抜けてベッドへ尻餅をつく。興奮した様子で一物に舌を這わせる銀時と
一秒でも早く距離を取らねばならないのに、体が震え思うように動かなかった。
「くっ……んっ……!」
頭とは裏腹にそこは銀時を歓迎し、舌のうねりに合わせて腰が揺れる。
この交際を始めてから、トシは禁欲生活を送っていた。
想像上の教え子にだって手を出すべきではなく、恋人がいるのに他者との交わりを思い描くのも
憚れる。だから自己処理もせずにここまで来た。その結果、吐き出されない欲が体内で燻り続け、
軽微な刺激にも敏感に反応するようになってしまったのであるが。
「ハァー、ふっ、んく……」
「う、んんっ……!」
服の上から自身の股間を揉み拉きながらトシの体液を啜る銀時。その姿に煽られ益々逃げ場を失う
トシは、左手の甲で口を塞ぎ、右手で腿の間の頭を押して抵抗を試みる。
「んんんんんっ!」
尤も、言うことを聞かない体では、右手も銀髪の中で震えるのみ。自ら押さえ付けているようで
すらあった。
「も、やめっ……で、る……!」
自力で剥がせないのなら離れてもらうしかない。だがこんな台詞を聞いて止まるはずもなかった。
唾液をたっぷり含んだ舌と唇が、トシの根元から先端までを素早く上下する。
「〜〜〜〜っ!」
込み上がるものを全力で耐えるトシの足が痙攣を始めた。そこをするりと撫でられて、
「はあっ――!!」
降服。銀時の口内にどろりと欲を放出し、横向きに倒れ込む。枕に当たってズレた眼鏡を外す際、
現実に戻されかけたトシであったが、ぼやけた視界を幸と、考えることを止めた。
久しぶりの吐精と耐えに耐えたせいで体が酷く怠い。着衣のまま出してしまったらしい銀時が、
服を脱ぐ気配も察してはいたけれど抵抗する気力も体力もなかった。
「とっトシさん」
「ん……」
次に浮上した時、トシは仰向けに寝かされており、裸の銀時が覆い被さっていた。ふぅふぅと肩で
息する銀時の、硬く膨れ上がったモノが時折肌を掠める。
裸眼でも表情が読み取れるくらい近くにある顔。眼は血走っているというのに叱られる寸前の
悄気た顔。この顔にトシは弱かった。
「俺、トシさんとシたいっ……」
「…………」
「我慢できないんだ。ごめんなさい。一回だけ……」
「ぎんとき……」
我慢ができなくとも許可を得るまで決して無理強いはしない。どこまでも己を思いやってくれる
愛しい人。拒むなどという選択肢は既に存在しなかった。
「好きにしろ」
「!」
くっと息を飲み、体を起こそうとした銀時がはたと止まる。
「あ、あの……俺が入れていいの?」
「……入れられてェのか?」
「どっちも!あ……やっぱり入れたいです」
「そうか……」
トシには銀時の考えが手に取るように推察できた。初めてキスをした時と同じ。トシの立場を
慮り、自分主導で進めようとしているのだ。
人差し指に唾液を塗してトシの入口に触れる。
「んっ……」
いきなり挿入されても構わないと思っていた。だが銀時はきちんと手順を踏む気らしい。
我慢できない程に切迫しているというのに。
「あ、んっ……」
募る愛しさが快感に変わる。声の漏れる口は手の平で蓋をして最後の理性を保っていた。
窓の縁に沿い四角く差し込む太陽の光。昼間から未成年と男同士で――秘匿すべきことが目白押し。
「痛くない?」
「ん」
指が増えても痛みどころか喜びを感じる。求められて繋がることがこんなに幸福だったなんて。
「んうぅ!」
指先が前立腺に当たりトシは背を仰け反らせた。
「ごめん。大丈夫?」
「ん」
頷きはしたものの状況はかなり不味い。先程触れられた箇所からじくじくと快楽が生まれ、もっと
欲しくて堪らなくなってしまう。
これは請われて受け入れただけの行為。積極的に求めるなど以っての外とトシは銀時のやりたい
ようにさせる。
「ふぅ……ハァ、ハァ……」
「ん……」
自分のモノにも緩い刺激を与えつつトシの内部を広げていく。感じ入る声が聞けないのは非常に
残念であるけれど、復活し涎を垂らすトシのモノを見るだけでも充分に興奮できる。この姿を
オカズに何度でもイケそうだと喉を鳴らし、未だ残る精液の味で更に高揚した。
「そろそろ、いい……?」
「ああ」
二本の指が楽に動けるようになり、銀時はナカから抜けた。と同時にトシは右手を己の腿の裏に
入れ引き付ける。誘うような仕種に銀時は面食らっていたが、トシはもう委ねるのみでいられ
なかった。刺激が強過ぎると気遣われたのか、あれから殆ど前立腺には触れてもらえず、欲求を
抑えることが困難になっていたのだ。
「早く……」
「トシさん!」
トシの左足を抱えて銀時は先走りを漏らす先端を入口に宛がい、一息に挿入した。
「あ、んんーっ!!」
通過際に前立腺を擦られ、トシのモノから白濁液が放たれる。
扱かずに出るとは予想外であったのか、呆然としている銀時の腰に足が巻き付いた。
「ト、シさん……?」
「はぁ……あ、んっ、んっ……」
「ととととトシさん?」
自ら腰を振り、快感を求めだしたトシ。左手の甲で唇を塞ぎ、右手は自分のモノを擦っている。
トシが感じるのに合わせて内部が蠢き銀時は堪らず腰を引いた。
「んんんっ!!」
張り出しに快楽点を抉られトシが出さずに達すると、足の力を保っていられず布団に落下。それを
両脇に挟んで銀時は腰を打ち付けた。
「ハァ〜、気持ちいい……」
「んぐぅっ!!」
反応の大きい箇所ばかりを責め立てられ、トシの体はガクガクと震える。目尻の涙を指で拭って
やり、銀時はトシの両手首を掴んだ。
「んんんっ!」
この手は外せないと首を振り抵抗するトシ。その間も銀時の切っ先でぐりぐりと性感を煽られて、
吐精なくイカされ続けている。こんな状態では口を塞いでいないとあられもない声をあげてしまう。
「キスしたい。ねっ?」
「…………」
歯を食い縛り腕の力を緩めれば、銀時がそっと左右に開く。枕の横に手首を縫い付けられてトシは
目を閉じた。
「んむうっ!!」
奥までずっぽり繋がって舌が絡め取られる。自身の腹が生暖かく濡れたのを感じ、銀時は律動を
数回。愛する人の中へ己の証を注ぎ込んだ。
* * * * *
「あの……大丈夫?」
「……大丈夫に見えるか?」
「見えません」
裸のままベッドに突っ伏すトシの枕元。下だけ履いて正座した銀時はしゅんと背を丸める。
あれからひっくり返されてバックで二回銀時が達するまで、トシは空になるまでイカされた。
精根尽きて動かなくなった恋人の、体に飛び散る粘液を拭き取りながら目覚めを待っていた。
「次からは気を付けます」
「…………」
トシは反応に窮してしまう。謝られるのは当然のこと。しかし次があるのを疑いもしないのは
どうしたら良いのか。この行為は誕生日プレゼントの「一回だけ」。そう易々と次の確約はできない
はずなのだ。
けれど銀髪の上に垂れた犬の耳が見える気がして無下には突き放せない。結局、「そうしてくれ」と
言うしかないトシであった。
(14.08.25)
Z3組初エッチ銀土Ver.でした。Z3組の土銀Ver.と3Z組の初エッチはもう暫くお待ち下さいませ。
追記:続きはこちら。18禁ですが直接飛びます。→★