「俺ァ行かねーぞ」
「あ?」

金時達が持ち帰った依頼―かまっ娘倶楽部の手伝い―を、銀時は断固拒否した。

「お前が依頼されたんだからお前が行け。今日一日、お前が万事屋銀ちゃんだから」
「勿論俺も行くが、あと二人連れてくって約束したんだよ」
「……トシーニョくんも入ってんの?いいのかよおい」
「俺は構わねぇよ。仕事を選べる立場じゃねーしな」

こうは言ったものの、むしろ自分のために金時が受けたのではないかと思っていた。
好きな服装ができないトシーニョに女装の機会を作ってやろうと。
当然のことながらそんな事情を知らない新八達は感心し、銀時を窘める。

「銀さんだって仕事を選べる立場じゃありませんよ。先月から家賃払えてないし……」
「ちゃんと営業もかけてきたし、一緒に頑張ろうぜ!」
「営業……?」

金時の笑顔には嫌な予感しかしなかった。まさか、まさか……

「俺達で副長さんを持て成してやろう!なっ?」
「ああああ〜……てめっ、その格好で土方と会ったのか!?まさか俺のフリしてねぇだろーな!」
「アンタの代わりに仕事を探す約束だろ?アンタのフリするに決まってんじゃねーか」
「仕事だけだな?仕事の話しかしてねェな?」
「銀ちゃん、マヨラーと何かあったアルか?」

土方と聞いて慌てふためく銀時に、神楽も疑念を抱く。

「ななな何かってナニ!?何にもねーよ!」
「金時さんは銀さんの代わりにお礼を言いに行ったんですよ」
「礼っ!?何の!?」
「銀さん昨日、潰れるまで飲んだらしいですね……土方さんがここまで送ってくれたんですよ」
「で、礼を言ったのか?それだけだな!」
「……言われちゃマズイことでもあんのか?」

言われてマズイことはある。それを知っていて……というか、銀時自身は何も決定的なことを
言っていないにもかかわらず確信を持って、挑むような笑みを湛える金時。自分とほぼ同じ顔で
ありながら殴りたくなる程の憎らしさを醸していた。

「とにかく!普通に礼を言って、普通に営業しただけだな!?」
「そのつもりだったんだけどよー……」

何だ?何かあったのか?もしや土方の方から何か……

「すぐに俺だってバレちまった」
「……は?」

てへぺろっと舌を出した金時の表情はやはり、張り倒したくなるくらいムカつくものだった。

「すぐに、バレた……?」
「ああ。アンタと俺じゃ鍛え方が違うからって」
「あ、ああそう……。まっまあね!そうじゃないかと思った!そうだよな〜……いくら顔が
似てても、侍とホストじゃ体格が全然違うよな〜」
「そんなに違うようには見えませんけどね」
「銀ちゃんは限りなく侍に近いニートアル」
「おいぃぃぃぃっ!それ、ニートになってるから!俺は自営業だから!」
「はいはい……じゃあニートにならないよう頑張って働いて下さい」

何だかんだと丸め込まれ、今日の職場はかまっ娘倶楽部に決まってしまった。


*  *  *  *  *


午後になり、仕事の準備を始めた男四人。
銀時が金時に、新八がトシーニョに女物の着物を着せてやり、自らも着替えてお化粧タイム。
神楽は定春を連れて遊びに出ていた。慣れた手つきでツインテールやお下げの付け毛を装着する
銀時達。何でもやる万事屋というのは伊達じゃないな等と感心しつつ、見様見真似で金時も耳の
上に髪の束を付け、メイクをしてみたのだが……

「ぎゃははははは!」
「るせェ!テメーも同じ顔だろ!」
「けど、けどっ……ぎゃははははは〜!」
「笑うなっ!」

どうにも上手くいかない。目の前で笑い転げる銀時―否、パー子―の顔はそれなりに見られる
形になっているのに、自分はただケバいだけ。何が違うんだ一体……

「オメー塗り過ぎなんだよ。ちょっと貸してみ?」
「ん……」

言われるままに化粧道具を手渡して銀時の前で目を閉じる。けれど、銀時の持つ紅筆は明らかに
唇の外側をなぞっていて、

「ぎゃはははははは!」
「もっと酷くなったじゃねーかァァァァ!」

金時は怒り心頭で、失敗メイクを落とすため洗面台に向かった。

「ぷっくっくっ、この仕事の大変さが分かったか。……トシーニョくん、できたァ?」
「こんな感じでいいか?」
「うっ……」

振り向いたトシーニョを見て銀時は言葉を失う。
薄紅梅の口紅に琥珀色のラメ入りアイシャドー、控え目にカールさせた睫毛には栗色のマスカラ。
メイクに邪魔な前髪は横に流してピンで留めてあるから、一瞬、人が変わったように……
というか、性別が変わったように見えた。
午前中の仕返しも兼ねて、金時同様からかってやろうと思った銀時の当ては大きく外れてしまう。
動かなくなった銀時の代わりにトシーニョは新八に尋ねた。

「夜の仕事だし、もう少し濃い方がいいか?」
「えっと……そのままで充分キレイだと思います」
「どうも」
「っ!」

思いもよらぬ「出来栄え」に新八も平常心ではいられない。その上ふわりと微笑まれたから、
声が低いとか素顔は鬼の副長と同じだとかそんなことは全て吹っ飛び、胸を高鳴らせてしまった。

「あっあのこれっ、トシーニョさんのです」

橙色の鬘を渡す新八の声が若干裏返って聞こえたのは気のせいではないだろう。

「金髪じゃなくてすみません」
「いや、ありがとう」

神楽の髪と同じ色の緩くウェーブがかったロングヘアーの鬘を被り、軽く形を整えつつ洗面台へ。
大きな鏡に姿を写して最終チェック。左右に体を捻りながら横や後ろも確認。

「着物も似合ってるよ」
「……悪ィな」

顔を洗いに来ていた金時から褒められたものの素直に喜べなかった。自分の趣味のせいで
金時まで女装するはめになったのだから。

「謝る必要ねーよ。俺も、いつもと違うことができて楽しいから」
「ありがとな」
「いえいえ……なあ、俺のお化粧もしてくんない?」
「ああ」

二人揃って居間に戻り、今度はトシーニョが金時のメイクを担当。

「銀さんと同じ感じでいいな?」
「どうせならアイツより可愛く……」
「はいはい……」

等閑に返事をして化粧道具を手にするトシーニョ。「パー子」の顔を確認しつつ手を動かしていく。

そして、「パー子」をベースにしつつアイラインで目元を強調させ、唇にもパール感をプラスして、
注文通り「パー子より可愛いパー子」が完成した。



「凄いアル!可愛いネ!」

帰って来た神楽もトシーニョの変身ぶりに大喜び。

「金ちゃんの言った通りネ!」
「だろ?」
「おい、何言ったんだ?」
「トシ子ちゃんの美しさは一見の価値ありって」
「お前なァ……」

土方に迷惑がかからぬよう、女装趣味については秘匿を決め込んでいるというのに……
あくまでも生活のため仕方なく、を装いたいトシーニョは呆れるばかり。けれど、普段の姿に
近い恋人を目にして気分が高揚したのか金時は「俺も銀さんより可愛いだろ?」と自分の姿にも
妙に自信たっぷりで上機嫌。

皆でかまっ娘倶楽部へ向かう時も金時一人、やたらと足取りが軽やかだった。

(12.12.09)


金さんは女装に目覚めた訳ではありませんのでご安心を(笑)。続きはまた少しお待ち下さいませ。

追記:続きはこちら