参
土方は屯所で仕事をしていた。…確か、今日は非番だって言ってたよな?
「あのコレ、忘れていっただろ?」
「ああ、わざわざ悪ィな」
「別にいいよ。どうせ暇だし。…オメーは忙しそうだな」
「そうなんでさァ、旦那」
イキナリ沖田くんが入ってきた。
「土方さんは休みの日でも仕事仕事でいけねェや」
「ふーん…副長ともなるとなかなか休めねェんだな。大変だねェ」
「違いますぜ?友達のいねェ土方さんは休みでもすることがないってんで、仕事をしてるんでさァ」
「るせェよ。俺が休みの日に何をしようと俺の勝手だろーが」
「そうはいきやせん。副長のアンタが休まねェと、部下達も休みにくいんでさァ。
だから昨夜は帰ってこなくていいっつったのに、帰って来た途端また仕事とはね…」
沖田くんはハァーと大袈裟に溜息を吐いた。
「ところで旦那、今日のお仕事は?」
「あったらココに来るかよ…」
「ですよねィ?だったらひとつ依頼を引き受けてくれませんかィ?」
「…何だよ」
「そんな警戒しなくても大丈夫でさァ。ただ、そこの仕事の虫を外に連れ出すだけですぜィ」
「おい総悟!何言って…」
「休めったって休まねェアンタには、こんぐらいしないとダメでさァ。…というわけで旦那、頼みました」
「あっ、ちょっと…」
俺の返事も聞かず、沖田くんは部屋を出てしまった。
「あの…どうする?」
「仕方ねェ…適当に外で時間潰すか。…とりあえず、映画でも行くか?」
「えっ…あ、でも俺、金持ってない…」
「俺が出してやるよ。…依頼料代わりだ」
「後で払うよ。ていうか、依頼じゃなくていい」
「そうか?」
「うん」
休みの土方と一緒に過ごせるなんて、こっちからお願いしたいくらいなのに依頼料なんかもらえない。
多分、沖田くんは分かってて俺に依頼なんて言ったんだろうな。
* * * * *
土方と二人で近くの映画館に行く。そういやあ、大分前に土方と映画館で会ったことがあったな。
ちょうどやっていたのがペドロシリーズ最新作。となりのペドロSuper…いや、Zだったか?
マックスハートだったかも?とにかく、隣に土方がいるってだけで落ち着かなくて内容なんか全く頭に入らなかった。
映画が終わるとテキトーに歩いて川沿いの土手までやって来た。土方が土手に座ったので俺も隣に座る。
…本当にデートっぽいなコレ。まあ、そう思ってるのは俺だけなんだけどな。
「今日は悪かったな」
「えっ?」
視線は前の川に向けたまま突然土方がそんなことを言った。
何で謝られたのか全然分からない。
「マヨ届けてもらった挙句、俺の休みに付き合わせちまって…」
「そんなことか…構わねェよ。俺も休みみたいなもんだし」
「でもよ、お前ん家にはガキもいるんだし、休みなら一緒に過ごすとか…」
「新八と神楽ならそれぞれ楽しい休日を過ごしてんだろ」
「そうか…じゃあ、メシでも食いに行くか?」
「あ、うん。でも…」
「ああ、金持ってないんだったな。だったら俺が…」
「あ、いやさすがにそれは…」
「気にすんな」
土方はメシ屋に向かって歩き出した。
* * * * *
「ここでいいか?」
「う、うん」
連れて来られてのは一軒の食事処。定食屋ほど大衆向けでなく、かといって料亭みたいに格式ばっていない。
でも俺にとっては高級店の部類に入る店だ。…土方っていつもこんな店でメシ食ってんのか?
中は小さな座敷がいくつもあって、個室みたいになっていた。土方と二人きり…嬉しいんだけど
昨日の今日でちょっとヤバイんだよね…。何がって、銀さんのムスコさんが。
さすがに外では謙虚にしてたけど店とはいえココは個室だし、向かい合って座ってるから自然と視線が唇に集中しちまう。
…昨日はあの唇がくっついたんだよなァ。
あっ、口開けたら舌が見えた!あの舌が俺の口の中に…気持ちヨかったなァ。
…これ以上はマズい。でも土方が口開ける度に昨日のキスが……そういやぁ、何で口を開けてんだ?
「…ぃ、おい万事屋!」
「あああ…なっ何?」
「何じゃねェよ…注文は決まったかって聞いてんだよ。ったく、店に入った途端黙りやがって」
「悪ィ、悪ィ…土方は決まったのか?」
「ああ」
「じゃあ俺も同じのでいい」
「…Bセット土方スペシャルか?」
「あっ…マヨネーズは抜きでお願いします」
土方はBセット土方スペシャルと普通のBセットを注文した。
「ところでよー…返事は?」
「はい?」
運ばれてきたメシを食ってる最中、土方が突然聞いてきた。
土方が口動かしてるのを見てると何かイケナイ妄想が膨らんでいきそうだったので、俺は食事に集中していた。
そのせいで土方が何を言っているのか、いまいち理解できない。
…いや「返事は?」じゃ、誰だって分からねェか。
「はいって、その返事じゃねェよ。昨日の返事を聞かせろって言ってんだ」
「き、昨日って…」
「覚えてねェのか?…しょーがねェ酔っ払いだな」
「えっ?…つーか、昨日酔っ払ってたのはテメーの方だろ?」
「でもテメーと違って忘れてねェよ」
「だから何のことだよ」
「…好きだっつったろ?」
「ぶほおぉっ!!」
俺は盛大に吹き出した。
「きったねェな…。なんだ?これは否定の返事か?」
「違っ!つーかオメー覚えてたのか!?」
「覚えてたっつーか、思い出した。今朝起きた時は居酒屋でオメーに会ったことと
オメーん家に泊めてもらったことくれェしか覚えてなかった」
「いつ、思い出したんだ?」
「屯所に戻ってからだな。…そんでオメーから返事を聞いてなかったと気付いて、次に会ったら聞こうと思ってたんだ」
「聞いてないっつーか、オメーが言ってすぐ寝ちまったんじゃねェか」
「ああ悪かったな。…で、返事は?まあ、あそこまでして拒否しねェ時点で決まったようなモンだけどな」
「…っ!」
土方はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。チクショー、なんか悔しい。悔しいけどカッコイイなコイツ。
酒の勢いはあるにしてもサラッと告白して堂々と返事聞いて…ガキに応援されてる俺が情けなく思えてきた。
「おい銀時…」
「…ぎっ!?」
「ぷっ…んだよ、名前呼んだくれェで。オメー、結構ウブなんだな」
「ちっげぇよ。イキナリ呼ぶからちょっと驚いただけだ」
「分かった分かった。…で、返事はイエスってことでいいんだな?」
「お、おう」
「そうか。…じゃあ、これからよろしくな」
「よ、よろしく」
こうして俺は土方と恋人同士になった。
* * * * *
「つーかお前、いつから俺のことを?」
メシ屋を出て万事屋へ向かう途中(いつの間にか土方に送られることになってた)俺は思い切って聞いてみた。
「いつからって…そんなモン、気付いたら惚れてたに決まってんだろ?そういうオメーはどうなんだ?」
「俺も、そんな感じ」
「恋愛なんてのはそんなモンだろ」
「そうなのか?」
「そうなんだよ」
…そういうモンか?
未だに土方と両想いになれたのが信じらんねェ。
周りがフワフワして夢ん中にいるみてェで、何処を歩いてるのか分からねェ。
気付いたらババァの店の脇、万事屋に続く階段の前にいた。
「休みが分かったら電話するな」
「お、おう」
「銀時…」
「えっ?」
ほんの一瞬の出来事だった。
土方が近付いたと思った次の瞬間には離れてた。
でも唇には確かな感触が今も残っていて…
「銀時、顔真っ赤だぞ?」
「ううううるせェ!」
「ははっ…可愛いヤツだな」
「バカにすんな!」
「はいはい…じゃあまたな」
「おう…」
土方の背中が見えなくなるまで、俺はその場から動くことができなかった。
(10.01.31)
土方さんの真意なんて大したもんじゃありませんね。酔った勢いで告白しただけでした。サクッとくっ付いた二人ですが、実はこれからがメインです。続きはこちら→★