「んーっ?」
「あっ、起きたか?」

動かしたからか、冷たい夜風に晒されたからか、店から十分ほど歩いた所で土方は目を開けた。

「ここ、どこだ?」
「どこって…さっきの店から少ししか進んでねェよ。ほら、歩けるか?」
「…なんとか」
「しゃあねェな…屯所まで送ってやるよ」
「…お前ん家のガキ共はどうしてる?」
「へっ?」

何で今の流れでそうなる?
よく分からねェが、今日は志村家に行ったと伝えると土方の口から爆弾発言が飛び出した。

「今日、お前ん家に泊まってもいいか?」
「はぁ〜!?」
「タダとは言わねェ…」

それだけ言うと土方は、ふらつく足取りで近くのコンビニに入っちまった。
俺も慌てて後を追う。

コンビニで土方は、あるだけのマヨネーズと缶ビール六本入りの箱一つ、そしてプリンを一個買った。
俺が何を言っても「いいから、いいから」しか言わず、会計を済ませると勝手に歩き出した。
―屯所ではなく、万事屋方面へ向かって。

「お、おい土方、何でウチに…」
「店の二階が宿になってんだ」
「えっ?店って…あの居酒屋か?」
「ああ」
「…で、それが何か?」
「今日はそこに泊まるつもりだったんだ。なのに、いつの間にか外に出てて…」
「あー、そうだったのか。悪ィ」
「構わねェよ。言ってなかったしな。まあ、そんなワケで今日は帰らねェつもりだったから…」
「そういうことならウチに来いよ」
「ああ」

俺は土方と家に向かった。
…つーかコイツ、ビール買ってたよな。まだ飲む気か?今だってフラフラなのによ…。
まあ、帰る必要ねェから潰れるまで飲んだっていいけど…ていうかコイツ一回潰れてるよな。
よしっ、コイツにはあまり飲ませないようにしよう。

それより…土方がウチに泊まんのか。ちょっと…いや、かなりドキドキするな。
別に俺と土方で何かあるワケねェけど…でも好きなヤツと二人っきりっつーのは緊張するぜ。
…こういうトコは男同士のメリットだよな。男女だったら付き合う前に泊まりなんて…。

色んなことを考えているうちに万事屋に着いた。
そういやぁ、土方とほとんど会話しなかったな…まあ、上がってから話せばいいか。


「テキトーに座ってて。今つまみ用意すっから」
「…買ってきたからいい」
「買ってきたって…マヨネーズしか買ってねェじゃねーか」
「メシは店で食ったからいい…」
「そう?じゃあ、俺の分だけでも…」
「お前の分も買ってある」

あの大量のマヨネーズを俺と分けるのか?と少し心配になったが、土方はプリンを取り出してテーブルの上に置い た。

「あっ、これ俺のだったのね」
「おう。泊めてくれた礼だ」
「サンキュー」

土方からもらったプリンは何だか特別なプリンのような気がした。
でも、自分は大量のマヨネーズで俺はプリン一個って…多分、まだ酔いが醒めてないんだろうな。

「とにかく、コップとか皿とかも用意すっから座って待ってろ」
「分かった」

酒のせいで常よりポヤンとしてる土方が、居間のソファにちょこんと腰を下ろす。
俺が座って待ってろと言ったからか、手を膝に置いて黙って座っている。
…なんか、すっげェ可愛く見える。
もっと見ていたかったがそういうワケにもいかないので、台所に向かった。


「お待たせ〜…って、あれ?」

俺が台所にいたほんの五分足らずの間に、土方はソファに寝そべりスースーと寝息をたてていた。
…大分飲んでたから仕方ねェよな。
俺は滅多に見られない土方の寝顔を暫くの間じっと見つめていた。


…ヤバイ。マジでヤバイ。何がって、ナニが。
土方の寝顔を観察してたらムラムラしてきちまった…。ちょっとキス、とかしてみたい…。
そりゃあ俺だって健康な若者だし、好きなヤツに欲情するのは当たり前だと思う。
でも、今までそういうことを考えたことはなかったんだ。本当だって!
男同士ってこともあるんだろうけど、とにかく土方とはそういう関係じゃなくて、こう…
一緒にいてホッとできるような、癒されるような関係になりたいと思ってた…今でも思ってる。

思ってるんだけど…とにかく今はコイツとキスしてみたい。
それだけじゃなくて、色々、触れてみたい。でも、寝込みを襲うようなマネは卑怯だよな。
例えコイツが気付かなかったとしても、やっぱりダメなものはダメだ。
俺は思い留まってその場を離れ、布団の準備をしに和室へ向かった。


…布団くっつけて寝るくらいいいかな?いや、朝起きた時に土方が変に思うかもな。
ここは少し離して敷いた方が無難か…。

布団を敷き終えると、ソファで寝ている土方を担いでいって布団に寝かせた。
隣の布団に俺も入るが…寝られそうにねェ。
部屋の明かりは消えているが、それでも目が慣れてくると土方の姿が朧げながら見える。
あー、やっぱキスしてェ!!
俺は土方に背を向けて寝ることにした。

*  *  *  *  *

一時間くらい経っただろうか。土方がムクリと起き上がった。

「どうした?厠か?」
「…ああ」
「厠はアッチな。…気分でも悪いのか?」
「いや…」

土方は厠へ行き、すぐに戻ってきた。
…そして何故だか俺の布団に潜り込んだ!

「ひひひ土方…ねっ寝惚けてんのか?おおおおめーの布団はアッチ…」

こんな状況じゃ声が震えんのも仕方ねェよな…。

「…こっちがいい」
「じじじじゃあ、俺があっちに…」
「寒ィ…行くんじゃねェ」
「ひぃっ!」

土方が俺に抱きついてきた!ちょっ…何なのこれェェェェ!!
仰向けに寝ている俺に、土方はしがみ付くように抱きついて「あったけェ…」とか言ってる。
俺は湯たんぽかァァァ!!で、でも土方の湯たんぽにならなってもいい…じゃなくてェェェ!!

「よろずや…」
「ははははいっっっ!」
「………」
「…………えっ?」

万事屋と呼ばれて振り向いたら土方の顔がやたらと近くて、どんどん近付いてきたと思ったら
唇にムニッて…ムニッて感触が!!ここここれはアレだよな?ひひひ土方のくくく唇がおおお俺のくくくくち…

「よろずやァ…」
「ななななにかっ!?」
「すきだぜ」
「…………」

今…土方、何つった?す…き?つーか、また唇にムニッて…つーか、まだ唇くっついて……
つーか、舌入ってんですけどォォォ!!あっ、土方キス上手い……じゃねーよ!!何だコレ!!
夢!?夢なのか!?キスしてェとか思いながら寝ちまったからか!?
ああああ…夢なら早く覚めねェと!このままいったら勃っ……あっ、土方が離れた。
…まだ抱きついたままだけど、とりあえず口は離れた。土方はもう眠っている。
やばかった…あと少しでもう一人の俺が覚醒するトコだった。…でもちょっと残念。


*  *  *  *  *


その後、土方は俺に抱きついたまま朝まで眠り続けた。
何度か土方を剥がそうとしたが、俺の服をしっかり握って放さなかった。
…そりゃあ、力ずくで剥がそうと思えば剥がせないこともないけど…それは勿体ない気がした。
この状態で目覚めたら土方どう思うかな?でっでも土方からこうしてきたんだし、俺は別に何も…
なんて通じるかな?…酔って覚えてないフリした方がいいかも。
どうせ土方も覚えてないだろうし…。俺に、きっキスしたこととか、すすすきって言ったとか…
マジであれは何だったんだ?今でも夢じゃないかって思えるくらいだ…一睡もしてないけど。

あっ…土方の目が開いた。

「………」
「…おっおはよう」

目を開けてすぐ体を起こし、土方は左右を見回して何かを思い出したように「ああ」と言った。

「昨日はお前ん家に泊まったんだったな」
「お、おう…」
「…世話になった」
「べっ別にこんくらい」
「じゃあな…」
「えっ?」

土方は立ち上がって襖に手を掛ける。えっ、もう帰っちゃうの?

「まっ待てよ。朝メシくらい…」
「…飲み過ぎて食えそうもねェよ」
「あっ、じゃあ味噌汁だけでも…なっ?」
「そうか?」
「すぐできるから、座ってて」
「悪ィな…」

ふー、何とか土方を引き止めるのに成功した。
それにしても…やっぱ昨日のことは覚えてねェのかな?
ここに泊まることになったのは覚えてるみたいだけど…キス、とか覚えてたらもっと反応あるよな?
ていうか、俺と同じ布団に寝てたのはスルーですか?まさかコイツ、酔うとあんななのか?
酔い潰れて起きたら隣に知らない男が寝てて…なんてよくあることなのか?
…いや、俺は知らない男じゃねーけど。

味噌汁飲んだ後、土方は財布から金を出した。
宿代なんかいらねェって言ったら昨日の飲み代だと言われた。俺が立て替えたのも覚えてんのか。
そんでアイツは今度こそ帰っちまった。

帰る時に玄関で新八、神楽と鉢合わせたが「よう、邪魔したな」とだけ言って玄関を出た。
新八達はポカンと口を開けて俺と土方の顔を交互に見ていたが
そんなことを気にも留めず何事もなかったかのように土方は帰っていった。


土方の姿が見えなくなり、やっと正気に返った新八と神楽が勢いよく聞いてきた。

「ぎっ銀さん、どうしたんですか!?」
「上手くいったのカ?マヨラーとくっついたアルか?」
「…そんなんじゃねェよ」
「じゃあ一体…。土方さん、泊まったんですよね?」
「ああ…。昨日、オメーらの言う通り居酒屋に行ったら土方がいてよ…そんで、ウチに来て飲み直すってなって
でも土方が途中で寝ちまって…そんなトコだ」

昨日のことを適当にかいつまんで説明した。もちろんキスなんかのことは秘密だ。
二人は「へー」とか「ほー」とか言いながら実に楽しそうだ。

「とにかく、仲良くなれたってことですよね」
「良かったアルな」
「ま、まあな…」

協力してもらってありがたいとは思うが、やはりこういう時は照れくさい。

「あっ、銀さんアレ…」
「へっ?…あっ!」

新八が指差す方を見れば、コンビニの袋に入った大量のマヨネーズ―昨夜土方が買った物だ。

「…どう見ても土方さんの忘れ物ですよね?」
「ああ」
「じゃあ銀ちゃん、届けに行ってくるヨロシ」
「はぁ?今から?…すぐ腐るもんじゃねェし、後でもいいじゃねーか」
「何言ってるアル!マヨラーに会うチャンスネ!」
「チャンスって…さっきまで一緒にいたんですけど」
「銀さん意外と消極的ですね。ダメですよ、そんなんじゃ」

何だよ、恋人もいねェガキが偉そうに…。
そりゃあ土方にまた会えるのは嬉しいけど、昨夜のことがあるから少し気まずいというか…二人にゃ言えねェけど 。

決心が固まらないうちに、俺はマヨ入り袋と一緒に外へ出されてしまった。
仕方ねェ…渡してすぐ帰ればいいか。

俺はできるだけゆっくり歩きながら屯所に向かった。


(10.01.28)


中途半端な所で切ってすみません。土方さんの真意は次くらいで分かります。続きはこちら