※「トシとぎんと初めてのお付き合い」の続きです。
※前作をお読みになっていなくても、二人は性の知識皆無だということが分かれば大丈夫です。
トシとぎんと恋人の定義
純粋培養の銀時は、同じく純粋培養の土方と順調な交際を続けていた。
「今日はトシと映画を見に行ったんだ!」
「そうですか。良かったですね」
「楽しかったアルか?」
「まあ、それなりに。…でも、トシが隣にいるからすげェドキドキした!」
「ハハッ…映画館のイスは隣とくっついてますもんね」
「そうなんだよ!あれはちょっと心臓に悪いよな…」
「でも銀ちゃん、トッシーに近付けて嬉しかったでしょ?」
「そ、それはそうだけど…」
銀時は顔を真っ赤にして、それでも嬉しそうに笑った。
一方その頃、真選組の食堂では、土方が銀時とのデートの報告をしていた。
「今日は、ぎんと映画を見に行ったぞ」
「そうか…楽しかったか、トシ?」
「それなりに。…だが、ぎんが隣にいるからあまり映画に集中できなかった」
「ん?万事屋が隣にいると何でダメなんだ?」
「ダメじゃねェけど…近いから、なんか、ドキドキする…」
「ハッハッハ…好きな人が近くにいれば胸が高鳴るもんだ。だが、楽しかったんだろ?」
「そ、それはそうだけど…」
土方も顔を真っ赤にして、それでも嬉しそうに笑った。
こうして二人は、身内からも温かく見守られながら微笑ましいデートを重ねていた。
しかしここに、それをおもしろくないと思う男が一人。―沖田総悟である。
沖田は、土方をからかうつもりが逆にキューピッド役になってしまった。
しかも相手の銀時も純粋培養だったため、無垢な土方が大人の付き合い方を知って衝撃を受けるところも見られず
今のところ「二人を恋人同士にした良い人」になっていることが非常に不満なのだ。
これまでにも偏った性の知識を土方に植え付けようとしては、幾度となく他の真選組隊士に阻まれていた。
以前から土方と性については、隊士達は異様なほど過敏に反応していたが、
銀時という恋人ができてからは、更に酷くなった気がすると沖田は思っていた。
(旦那なら無理矢理ヤってくれるかと思ったのに、旦那も土方さんと同じだったなんて…つまんねェ)
けれど、土方イジメに命を懸けている沖田はそれくらいで諦めきれず、隙を見て渡そうと懐にある物を忍ばせていた。
* * * * *
そんなある日、沖田は副長室に呼び出された。
「何ですかィ?」
「何ですかィじゃねーよ。この前の始末書、ふざけてんのかテメー」
「どこかマズかったですかねィ?俺ァ、ちゃんと書いたつもりですが…」
「あぁ!?『以後気を付けます。ごめんなさい』…これのどこがちゃんとしてんだ!」
「むしろどこが悪いのかサッパリ…。簡潔にまとまってていいと思いますがねィ」
「簡潔すぎんだよ!何をどう気を付けるのか、重要なことが全く書かれてねェだろーが!書き直しだ、書き直し!」
「はいはい。仕方ねェな…」
「何で俺が我儘言ってるみたいになってんだよ!テメーが悪いんだぞ!?」
「はーい、分かってまーす」
「…真面目に書き直すんなら下がっていい」
「はーい」
副長室を出ようとして、今が絶好のチャンスだと沖田は思う。
「そうだ…土方さんにこれ、差し上げます」
「何だ?…漫画か?」
沖田が懐から取り出したのは一冊の漫画本。
「マガジン以外の漫画、局内で読むことなかれ…局中法度を忘れたか?」
「まあまあ…これは、旦那とのお付き合いの参考になればと思って持って来たんで大目に見て下せェ」
「…ぎんと?」
「マガジン派のアンタは知らないでしょうが、世の中には男同士の恋愛を扱った漫画もあるんですぜィ」
「そうだったのか…」
土方の興味を引けたことで沖田はニタリと口角を上げる。
「ってことで、どーぞ」
「…テメーがただの親切でこんなことをするとは思えねェ」
「酷いですねィ。旦那と付き合うきっかけを作ったのだって俺ですぜィ」
「それはそうだが…」
「アンタが旦那とくっついて、そのまま万事屋に行っちまえばいいなんて思ってませんぜ」
「そういうことか…。俺ァ、ぎんと付き合ったって真選組を辞めねェからな!」
「まっ、そういうセリフはこれを読んでから言いなせェ」
「おいっ」
意味深な言葉を残し、沖田は副長室を出て行った。
実を言うと、漫画を読むことと土方が真選組を辞めることとは無関係である。
沖田も土方が万事屋へ行くなどとは一欠けらも思っていない。
ただ、漫画を読ませるために土方を炊き付けただけなのだ。
沖田が土方に渡したのは、男同士の性描写がある成人指定の漫画である。
土方が漫画を読み終えた頃に再び副長室を訪問し「恋人同士はこういうことをするもんだ」と吹き込むつもりなのだ。
沖田が副長室を出てから三十分ほど経った頃、今度は山崎が副長室を訪れた。
「副長、この前の報告書できました」
「おう」
「あれ?副長、何読んでるんですか?」
「これか?総悟が置いてったんだが…イマイチ内容が分からねェんだ。山崎、分かるか?」
「沖田隊長が?どれどれっ……!?」
山崎は土方から漫画本を受け取った瞬間、表紙の「R18」マークに呼吸が止まるかと思った。
もしかしたらグロテスクなホラーなどで成人指定なのかも、と微かな希望を胸に漫画を開いた山崎であったが
すぐにその希望は打ち消された。
「なあ山崎…コイツら、なんで裸なのか分かるか?」
「えっと、それは、その…」
土方が山崎に見せたページは、まさに性行為の真っ最中。
けれど、土方にそんなことを教えたくない山崎は何とかならないかと必死に考える。
山崎がなかなか答えないのを前後が分からないからだと思った土方は、漫画のあらすじを話し出す。
「コイツらは恋人同士なんだ。そんで、一緒に飲みに行って、宿に泊まることになったんだけど
『寝る』って言ってたのにイキナリ布団で脱ぎ出したんだ。なあ、これってどういうことだか分かるか?」
「ええええっと……ふっ風呂にでも、入るんじゃないですか?」
「…風呂は入ってたぞ。ほら」
土方はページを少し前に戻し、シャワーシーンを見せる。
「えーっと…じゃあ………あ、暑いから!暑いから脱いじゃったんですよ!」
「暑い?これ、冬の話みたいなんだが…」
「ここっ、この漫画の舞台は、冬でも気温が三十度を超えるんですよ!」
「…この国が舞台じゃねェのか?」
「そそそそうです!この漫画は冬でも暑い、灼熱の雪が降る星が舞台です!」
「そんなこと何処にも…」
「このテの漫画は宇宙が舞台と相場が決まってるんです!だから敢えて描かなくても読者は分かるんです!」
「…そういうもんなのか?」
「そういうもんなんです!」
かなり強引だとは思ったが、とにかく土方に無垢なままでいてほしい一心で山崎は話を作り出す。
「そうか…。俺ァ、漫画といえばマガジンだから、他のはよく分かんねェな…」
「漫画なんて、好きなものだけを読めばいいと思いますよ!副長はマガジンのヤンキー漫画とかで…」
「それはそうなんだが…男同士の恋愛を扱ってる漫画だから、ぎんとの付き合いの参考になると総悟が…」
「ううう宇宙の恋人同士だから参考にならないですって!」
「…それもそうか。ちなみに…コイツら何で『あっ…』とか『うっ…』ばっかり言ってんだ?」
「宇宙だからですよ!」
「服脱ぐまでは普通にしゃべってたぞ?」
「じゃあ、寝苦しくて呻ってるんじゃないですか?すっごく暑い星だから…」
「いや…ここで目を開けてるから眠ってねェだろ。それにここで『気持ちいい』って言ってるが、何がいいんだ?」
「そっそれは、その…う、運動を、してるんだと…」
「運動?灼熱の中でか?」
「そうです!暑い時はむしろ体を動かして汗を流した方がスッキリするでしょ!?それで気持ちいいんですよ!」
「そうなのか…。確かに、二人とも汗だくになってるな」
「でっでは、疑問が解けたところで、さっさとその漫画を沖田隊長に返しましょう!…いや、俺が返しておきます!」
「あ…」
山崎は土方の返事を待たずに漫画を抱えて副長室を後にした。
そして向かう先は局長室。
「局長、大変です!副長がこんなものを!」
「どうした、ザキ!トシに何かあったのか!?」
「見て下さいよ、これ!沖田隊長がこっそり副長に渡してたんですよ!」
「総悟が?…なっ、なんだこれは!?」
山崎の異様な慌てように、近藤はすぐさま漫画を開いた。
「まままままさかトシがこれを?」
「大丈夫です、局長。副長は内容が理解できず、俺に聞いてきました」
「そそっそれで!?お前はトシに教えたのか!?」
「そんなことするワケないじゃないですか!頑張って誤魔化しましたよ!」
「誤魔化すって言ったってこれは…」
「この漫画は宇宙が舞台で、ものすごく暑い星だから裸になってるって言っておきました」
「それで、トシは納得したのか?」
「ええ。マガジン派の副長には合わないってことで回収してきました」
「でかした!それにしても総悟のヤツめ…やってくれるな」
「最近、大人しくなってくれたと思ってたんですが…どうやら機をうかがっていたようですね」
「全く…困ったものだな!」
「これは一度、隊長と話した方がいいんじゃないですかね?」
「そうだな。よしっ、総悟の所に行こう!」
「はい!」
近藤と山崎は鼻息荒く沖田の元に駆け付けた。
「総悟!これは一体どういうことだ!」
近藤はバンッと乱暴に沖田の前へ例の漫画本を置いた。
「何でィ…もう見付かっちまったのか…」
「その口ぶりだと、悪いことしたって自覚はあるようですね」
「山崎…俺が土方さんにプレゼントしちゃ悪いってのか?」
「これのどこがプレゼントだ!こんな、こんな卑猥なもの…」
「そうですよ!…まあ、副長は読んでも分からなかったみたいなんで、大事には至りませんでしたけど…」
「…あの野郎にも理解できるよう漫画にしたってのに、絵付きでも分かんねェのか…」
沖田は呆れたような溜息を吐く。
「総悟、いい加減トシにこういったことを教えるのはやめてくれ」
「知ることは悪いことじゃないでしょう?」
「トシが必要性を感じていないんだ。教える必要はないだろう?」
「土方さんには恋人がいるんですぜ?」
「その恋人の旦那だって副長と同じなんです。だから知らなくても問題ないんです」
「そうだぞ」
「…身体の関係なしで本当に恋人って言えるんですかィ?映画見てメシ食って…そんなの俺達と同じじゃねェか」
「本人達がそれでいいならいいんです!」
「そうだ。どう付き合うかはトシと万事屋が決めることであって、俺達がとやかく言うことではない」
「………」
「総悟、分かってくれるな?」
「……はい」
近藤に詰め寄られ、沖田は渋々頷いた。
* * * * *
その夜。土方は仕事終わりに万事屋を訪れた。
新八と神楽が出迎える。
「土方さん、いらっしゃい」
「おう。これ、皆で食ってくれ」
「何アルか?」
「プリン」
「きゃっほ〜!」
神楽は目を輝かせて土方からプリンの箱を受け取った。
「いつも悪いね」
夕飯の支度をしていた銀時が台所から顔を出し、土方に礼を言う。
「気にすんな。夕メシご馳走になるんだからこのくらい当然だろ」
「ありがと」
こうして土方と万事屋三人の夕食が始まった。
「トッシー、今日は泊まっていけるアルか?」
「ああ」
「やったアル!じゃあ一緒にピン子のドラマ見るネ」
「俺も続きが気になってたところだ」
「土方さんも見てるんですね」
「まあな」
共通の話題が見付かり、新八も神楽も嬉しそうである。
銀時も会話に加わる。
「あのシリーズはついつい見ちゃうよね〜」
「そんなこと言って…銀ちゃんはたまに酔い潰れて見逃してるネ」
「なんだよ…。トシだって飲みに行くことくらいあるだろ?」
「そうだな」
「ほら見ろ。大人は色々忙しいんだよ。ガキみたいにテレビばっか見てられねェの」
「銀さんは遊びで飲んでるだけじゃないですか。土方さんは接待とかでしょ?」
「まあ、そういう時もあるが…仲間内で飲みに行くことも多いぞ」
「そうなんですか…」
「でも、酔っ払ってゴミ捨て場で寝るなんてしないデショ?」
「ごっ!?…もしかして、ぎんはそんな事してんのか?」
「そうネ」
神楽の言葉を銀時は慌てて訂正する。
「違うから!大抵ちゃんと帰って来てるから!」
「大抵って…毎日帰れよ」
「これからは気を付けます!あの…でも、たま〜にだからね?」
「分かった、分かった」
会話を楽しみながら食事をしているうちに、例のドラマの時間になった。
土方の持って来たプリンを食べながら、四人でテレビに向かう。
暫くドラマを見ていると、銀時が誰にともなく疑問を投げかけた。
「…なあ、ガキってどうしてできるんだ?」
「ぎ、銀ちゃん!?」
「きゅっ急に何言ってるんですか!?」
それまでの一家団欒のような雰囲気が一変。新八と神楽は慌てふためく。
「今よー…『子どもが生まれた』って言ってただろ?そんで、何でかなァと…」
確かに、ドラマの中に赤子を抱く女性が出てきた。
だからといって全てを説明するわけにはいかない新八と神楽は口籠ってしまう。
子どもには分からないと思った銀時は、土方に聞いてみることにした。
「なあ…トシは知ってる?」
「…結婚したら、できんだろ」
「あっ、そうかァ」
「さ、さすが土方さん!」
「物知りアルな!」
土方の説明で納得した銀時を見て、新八と神楽も乗っかる。
「トシはすげェな…」
「そんなんじゃねェよ」
照れくさそうに笑う土方と、本気で感心している銀時。そして、そんな二人を温かく見守る新八と神楽。
こうして万事屋での夜は今日も平和に過ぎて行った。
(10.06.28)
無垢同士のその後でした。実はこれ、続く予定ではなかったのですが、とある方から「続きを楽しみにしてます」というコメントをいただき、書くことにしました。
前回はデートの様子が書けなかったので今回は!と意気込んだのですが…デート?二人っきりでもないし、ただの一家団欒ですね^^;
この二人だと、二人っきりでも同じ感じだと思います。というわけで、この続きはない…と思います(笑)。これ以上のことは二人に起こりませんからね。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
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