イルミネーションで華やぐ町並みに、見ているだけで心が躍るそんな季節。
家族と、恋人と、友人と、一人で、家で、外で、仕事場で……誰と過ごしても何処で過ごしても
色々な意味で思い出となるイベント、それがクリスマスである。
2011年クリスマス記念作品:とことこ〜一世一代のクリスマス〜
「銀ちゃん銀ちゃん、今年のクリスマスデートはいつアルか?」
十二月に入ったばかりの万事屋銀ちゃん。
何年か前に買った小ぶりのツリーを新八と飾り付けながら神楽が銀時に問う。
「ん〜……分かんねぇ。」
炬燵に入りジャンプへ視線を落としたまま答えた銀時に、神楽は頬をぷぅと膨らませ、ツリーから
手を離して銀時の元へ向かう。
「分かんないじゃ困るネ!ウチのパーティーの日が決められないアル!」
「わーったよ。今度会った時、聞いとくから……」
万事屋では毎年、クリスマスにパーティーを開いていた。ツリーを飾り、時に階下の大家達と
合同でケーキやチキンといった料理を食べ、賑やかなクリスマスを過ごすのだ。
基本的には十二月二十四日の昼間に行っているのだが、銀時に恋人ができてからはそちらの予定を
優先させていた。その日取りを決めるのが「今度」と言われても、神楽は納得できない。
「今度っていつネ?」
「さあ?……まあ、一週間以内には会うんじゃね?」
「そんな先アルか?早く予約しないとケーキ売り切れちゃうアル!」
「大丈夫だって……。クリスマスっつーのはケーキ食う日なんだからいっぱい売ってるぜ。」
「ウチの準備もそうですけど、銀さん達の方こそ早く予定決めなくていいんですか?レストランとか
ホテルとか予約しないと……」
「あ?予約なんてしねぇよ。最近はその辺の店入って、空いてなきゃウチに来るパターンだし。」
「そうなんですか!?クリスマスですよ!?」
「ンなこと言ってもよォ……もう何年付き合ってると思ってんだ?そりゃ、最初の頃は俺も土方も
ちっとは気合い入れて準備もしたけど、今はまあ、とりあえずその前後に会っとくかーくらいで……」
「プレゼントはしないアルか?」
「あー、一応な。でもそれだって誕生日もやってるし、もう毎回考えるのキツいから、土方には
そん時食いたいケーキとか買ってもらって、俺はタバコとマヨネーズって決めてるし……」
「そんなの間違ってるアル!」
両手で強く天板を叩き、神楽は立ち上がった。
「クリスマスは恋人がいちゃいちゃする日だってパピーが言ってたアル!」
「そうとも限らねェよ。」
「でも、お付き合いしてる人とクリスマスを過ごすにしてはテキトー過ぎますよ。」
「何年も経ちゃ、こんなもんだろ。一応、プレゼント交換してるだけいいと思うぜ。」
「よくないネ!今年はもっとちゃんとやるアル!」
「ちゃんとって何だよ……」
「ちゃんとプレゼント考えて、ちゃんとした所でご飯食べて、ちゃんとしたホテルに泊まるアル!」
「ンな金が何処にあんだよ……」
「今から頑張れば間に合うネ!」
「そうですよ銀さん。頑張りましょう!」
新八と神楽は当人よりも熱心に、どうやってデート代を稼ごうか、プレゼントは何がいいかと
議論を始めた。その様子を銀時は完全に他人事のように見ていたのだが……
「クリスマスデートといえば、夜景の見えるお洒落なレストランじゃない?」
「それネ!」
「ちょっと待て。」
勝手にデートプランまで決められそうで、そこにはストップをかけた。
「何処に行くかは土方と決めるから。」
「そんなこと言って、またその辺の居酒屋に行くつもりアルな?」
「別に居酒屋だっていいだろ?高級レストランじゃマヨネーズ持ちこめねェし。」
「そういうことならまあ……」
「居酒屋でも許してやるアル。」
土方のマヨラーぶりは誰もが認めるところで、確かにあれでは高級店でもムードは出ないなと
渋々ではあるが子ども達も理解した。
「でも、プレゼントは真面目にやるネ!」
「真面目に、つってもよー……アイツの好きなもんといえばタバコとマヨネーズだし……」
「そういう、使ったらなくなるものじゃなくて、もっと形に残る物がいいですよ。」
「形にねぇ……」
「じゃあ、プレゼントは銀ちゃんが考えるとして、後は頑張って稼ぐアル!」
「へーへー、分かりましたよー……」
何とも面倒なことになったと溜め息を吐きつつ銀時が横になろうとすると、早速仕事を探しに行くと
起こされ、外へ連れ出されてしまった。
そう簡単に仕事が見付かるわけがないと高を括っていた銀時であったが、誰もが忙しい師走。
すぐに近所の老夫婦から大掃除の手伝いの依頼を受け、その後も夜まで依頼は尽きなかった。
* * * * *
その日の夜遅く、銀時は土方に電話をかけた。
「俺だけど……まだ仕事中?」
『いや。今日はもう終わった。……どうした?』
「あのさ、クリスマスってどうすっかなぁと思って。」
『ああ。……二十日でもいいか?』
「んっ、了解。そんでちょっとお願いがあるんだけど、プレゼントは食いもん以外にしてくんねェ?」
『何かほしいものでもあるのか?』
「いや、実は新八と神楽がクリスマスデートにもっと気合い入れろ的なことを言い出して……
夜景の見えるレストランで食事っつーのは何とか回避したんだけど、そしたらプレゼントは形に
残る物にしろとか煩くて……」
『形に残る物……』
「まっ、何でもいいからテキトーに買ってよ。俺もそうするからさ。」
『分かった。』
「悪いね。子どもの我儘に付き合わせちまって。」
『構わねェよ。ガキに夢を与えんのがクリスマスだろ?』
「そういやそうだな。じゃあ、そういうことで。」
『おう。』
こうして二人は、久方ぶりに「恋人らしい」クリスマスデートをすることになった。
* * * * *
それから数日後。土方はとある店の前にいた。
(形に残る物で恋人に贈るつったらこれだろ。……だが、流石に重いような……だが、これなら
メガネとチャイナにも分かりやすいよな……。だが、些かやり過ぎのように思えなくもないような……
だが、下手なもん贈って気合いが足りないと思われても、だが……)
「いらっしゃいませぇ。何かお探しですか?」
「あ、いやっ……」
長いこと店の前で立ち尽くしていたため、遂に店員が出てきてしまう。
声を掛けても立ち去らないことで客だと認識したのが、店員は営業トークを始めた。
「奥様へのプレゼントですか?」
「いや、その……」
「ただいまクリスマスセール中でお得ですよ。」
「そのっ、俺は……」
「どうぞゆっくりご覧下さい。」
元々少しは買う気持ちがあったために断りきれず、土方は店内に足を踏み入れた。
* * * * *
別の日。銀時はとある店の前にいた。ここは偶然にも何日か前に土方が入った店。
(形に残る物で恋人に贈るつったらこれだろ。……でも、流石に重いような……でも、これなら
新八と神楽にも分かりやすいよな……。でも、ちょっとやり過ぎのように思えなくもないような……
でも下手なもん買ったら気合いが足りないって言われるし、でも……)
「いらっしゃいませぇ。何かお探しですか?」
「あ、いやっ……」
長いこと店の前で立ち尽くしていたため、やはり店員が出てきてしまう。
そして同じように営業トークが始まった。
「奥様へのプレゼントですか?」
「俺、独身なんで……」
「でしたら彼女へ?」
「いや、そうとも言えないような……」
「どなた宛てでも、ただいまクリスマスセール中でお得ですよ。」
「安売りしてんなら、まあ……」
「どうぞゆっくりご覧下さい。」
銀時もまたその店へ足を踏み入れたのだった。
(11.12.14)
クリスマスには少し早いですが、リクエストいただいたのが11月なので早めにアップします。リクエスト内容は後編の後書きにて。
さて、二人が入った店とは?って、もう予想付いてますかね?後編はこちら→★