※銀さんと土方さんは恋人設定ですが、銀土か土銀かはたまたリバなのかの判断は読む方にお任せします

 

 2009年銀誕記念〜温泉へ行ってらっしゃい〜

 

 

「おめでとうございまーす!大当たりー!温泉旅行ペアでご招待でーす!」

 

カランカランと鈴を振り係員が大声で祝いの言葉を述べる。ここ大江戸商店街は秋の大抽選会を開催中で新八と神楽は買い出しの時に

集めた抽選券を使って、各々一回ずつ抽選に参加した。新八は残念賞のポケットティッシュ。そして次の神楽が特賞の温泉旅行を引き当てたのだ。

 

「すごいよ、神楽ちゃん!姉上とでも行っておいでよ!」

「いいアルか?万事屋の買い出しでもらった抽選券なのに、銀ちゃんも新八も行けなくて…」

「神楽ちゃんが当てたんだから神楽ちゃんが行きなよ!僕は…ティッシュだったし」

「そうアルな!じゃあ姉御といくネ!」

 

 

神楽はのし袋に包まれた招待券を受け取ると、足取り軽く万事屋に帰った。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

数日後

 

銀時のいない万事屋で一人掃除をしている新八に、定春と戯れていた神楽が声をかけた。

 

「新八ィ…この前の温泉、やっぱり行かないことにするヨ」

「えっ、どうしたの?僕や銀さんに遠慮することなんかないんだよ?」

「そうじゃないネ。私、温泉を銀ちゃんのプレゼントにしたいアル」

「プレゼント?…あっ!そうか、もうすぐ銀さんの…」

「誕生日アル。でもお金無いから、コレを私と新八からのプレゼントにするネ!」

「えっ?僕も混ぜてもらっていいの?」

「もちろんネ!一緒に買い物行った抽選券で当てたものヨ」

「ありがとう。じゃあ、コレは銀さんへのプレゼントにしよう!」

 

そこで新八はあることに気付いた。

 

「そういえば、これペア券だよね?もう一枚は誰に渡すの?あっ、銀さんに二枚渡して好きな人と行ってもらえばいいか」

「何言ってるカ。銀ちゃんの好きな人なんて一人しかいないアル!」

「でも、あの人は忙しそうだし…銀さんが誘っても行ってくれるかなぁ」

「じゃあ私たちが先に話つけとけばいいネ」

「話って?」

「銀ちゃんとこの券で温泉行くように言うアル」

「僕らの言うことなんか聞いてくれるかなぁ」

「弱気になってるんじゃないネ!プレゼントするなら完璧な状態で贈りたいアル。アイツ付きでこの券を渡さないと完璧とは言えないネ!」

「それもそうだね。頑張って頼んでみよう!」

「それじゃあ行くアル」

「ええっ!今から?」

「もたもたしてたら銀ちゃん帰ってくるネ。さっさと仕度するアル!」

「ま、待ってよ神楽ちゃん」

 

慌てて掃除用具を片付け割烹着と三角巾を外すと、新八は一足先に出発した神楽の後を追った。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

特別武装警察真選組屯所―門の前で新八はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「な、なんだか緊張するね。悪いことしたワケじゃないけど、なんとなくドキドキするというか…」

「そんなんだからお前はいつまで経っても新八ネ。私たちは、銀ちゃんの誕生日プレゼントの準備に来ただけネ。

堂々としていればいいアル」

「それはそうなんだけどさ…ちょっと!勝手に入っちゃマズいよ!」

 

挙動不審な新八とは正反対に、神楽は堂々と門をくぐると建物の中に入っていった。

 

「ニコ中ー!ニコチン中毒はどこアルかー!!」

「ちょ、ちょっと神楽ちゃん!もうちょっと大人しくしてようよ!」

 

中に入った途端、大声で目当ての人物を呼ぶ神楽を新八が止める。だがそんなことを聞く神楽ではなく、ズカズカと入り込んでは大声で叫んでいた。

すると、騒ぎを聞きつけたのか局長の近藤がやってきた。

 

「新八くんにチャイナさん、今日は一体何の用で?」

「ゴリラ、ニコ中を出すネ!さもないと…」

「待って神楽ちゃん!近藤さんに先に言っておこうよ!」

「ゴリラは関係ないネ!」

「僕に考えがあるんだ。…近藤さん、実は折り入ってご相談が…」

「何、相談?よしっ、未来の兄たる俺に何でも話してくれたまえ…」

 

近藤は新八の肩をポンポンと叩くと、二人を局長室に通してくれた。弟になる気はありませんという突っ込みはこれからの相談を考えて

心の中だけにしまっておいた。

 

 

「で、相談とはなにかね?」

「実は、土方さんのことで…」

「トシの?」

「はい。僕ら偶然、温泉のペア券を手に入れたんです」

「ほうほう」

「それで銀さんの誕生日が近いので、銀さんと土方さんの二人で行ってもらおうかと…」

「それはいい考えだな。うん、さすが我が弟だ!」

「近藤さんも賛成してくれますか?」

「もちろんだ!トシのやつ、なかなか休みを取らないから有給もいっぱい余ってるしな」

「良かった。…ちなみに今、土方さんは?」

「副長室にいるぞ。案内してやろう」

「ありがとうございます」

 

近藤から副長室の場所を聞くと、二人で目的地へ向かう。その間に神楽が「ゴリラに何の意味があるネ」と聞いてきたが

それには「後で分かるよ」とだけ新八は答えた。

そして遂に目的の副長室へ到着し、新八が襖をノックしてから開けた。

 

「お前ら…何でここに…」

「近藤さんに聞いたらココにいるって…実は土方さんに、折り入ってご相談があるんです」

 

先程と全く同じ話を新八は繰り返す。

 

「僕ら偶然、温泉のペア券を手に入れたんです。それで銀さんの誕生日が近いので、銀さんと土方さんの二人で行ってもらおうかと…」

「…俺は仕事で忙しいんだ。温泉ならお前らで行けばいいだろ」

 

さすがに返事まで近藤と同じというわけにはいかなかった。

 

「そこを何とか…」

「無理だ。…だいたい、何で俺なんだよ」

「ペア旅行券と誕生日なんて、カップルのためにあるような組み合わせネ!だからお前と銀ちゃんで…」

「俺がもう一人分の旅行代出してやるから万事屋三人で行ってこい。それでアイツの誕生日を祝ってやればいいだろ…」

「それじゃダメネ!お前とのペア旅行をプレゼントするって決めたアル!」

「勝手に決めんじゃねェ。仕事が忙しいんだから仕方ねェだろ」

「仕事仕事って…お前、仕事と銀ちゃんとどっちが大事アルか!?」

「仕事」

「ムキーッ!もう我慢ならないアル!こうなったら力ずくでも…」

「神楽ちゃんストップ!」

 

実力行使に出ようとする神楽に、新八は遂にあのことを話す時が来たと思った。

 

「止めるな、新八ィ!」

「大丈夫だって!近藤さんが賛成してくれたんだから、土方さんだって行ってくれるよ!」

「おい…なんで近藤さんが出てくるんだ?」

「実はここへ来る前、近藤さんに会って今回の計画を話したんです」

「話したのか!?近藤さんに!?」

「はい。そしたら近藤さんは大賛成だって。有給もいっぱい余ってるから好きなだけ休んでいいと言ってくれたんです」

 

多少の脚色を交えて近藤の言葉を土方に伝えると、土方は諦めたように溜息を吐いた。

 

「はぁ…分かった。近藤さんに話がいってるんじゃ仕方ねェ。ここで俺が断っても無理矢理休まされるだけだ」

「じゃあ、銀さんと温泉に行ってくれるんですね?」

「…行けばいいんだろ、行けば」

「ありがとうございます!銀さんの誕生日当日、十月十日に一泊でどうですか?」

「…もう何でもいい」

「では銀さんにペア券、渡しておきますね。お邪魔しました。…行くよ神楽ちゃん」

「お、おうネ」

 

入って来た時とは逆に、新八を追う形で神楽が後に続いた。土方の近藤に対する忠誠心を見事に利用した新八を、神楽は少し見直していた。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

十月十日朝

 

「銀さん、起きて下さい」「銀ちゃん、起きるアル」

「あー、何だようるせェな…」

 

新八と神楽に叩き起こされた銀時は、ボリボリと頭を掻きながら和室を出て居間のソファに腰掛ける。

 

「今日は依頼入ってねェだろーが…ゆっくり寝させろよ」

「早く準備するネ!」

「朝ごはん、できてますよ」

「あー、何をそんなに急いでんだよ?」

 

ダルそうに応える銀時を子ども二人が早く早くと急かす。

 

「今日は温泉に行く日アル!」

「は?温泉?…んな金どこにあると思って…」

「「じゃーん!」」

 

二人は得意気に銀時の目の前に例の温泉ペア招待券を翳した。

 

「…これは一体」

「神楽ちゃんが商店街の抽選会当てたんですよ!」

「でも宿の予約とかは新八がやってくれたネ」

「…でもよー、これペアって書いてあんぞ?三人で行けんのか?」

「何言ってるんですか。僕らは留守番ですよ」

「そうヨ。お土産楽しみにしてるアル」

「は?俺だけが行くのか?何で?」

 

悪戯が成功した子どものような表情で二人は顔を見合わせ、銀時に向き直るとニッコリ笑って言った。

 

「お誕生日おめでとうございます!」「お誕生日おめでとうアル!」

「そうか…今日は俺の…」

「そうネ!だからコレ、銀ちゃんにプレゼントするアル」

「抽選で当てた物だけってのもアレなんで、ケーキも買ってきたんですよ…コンビニのですけど」

「お、お前ら…」

「一緒に行く人にもちゃんと休みを合わせてもらってますからね」

「そういやぁ、お前らは留守番って…俺は誰と行くんだ?」

「それは後のお楽しみアル」

「というわけで、早くご飯食べて準備して下さい」

「はいはい…」

 

実は誕生日のことで銀時は拗ねていた。二人で何やらコソコソやっているのを感じて今月くらいは、と給料を渡そうとしたら

「それよりも家賃に回せ」と受けとってもらえなかった。その後もプレゼントを買いに行く素振りもなければ、何かを作っている

気配もないので、誕生日のことなど忘れられていると思っていた。せめて恋人とは一緒に過ごしたいと、何日も前から飲みに

誘っているが「仕事が忙しい」と会ってもくれなかったのだ。だからまさか当日にこんなサプライズが来るとは思わなかった。

 

誰と行くのかは分からないが―どうせヅラとかマダオとかその辺だろう―せっかくのプレゼント、思いっ切り楽しんでやろうと決意した。

 

 

 

 

(09.10.01)

 


よくあるネタではありますが…初の誕生日企画なのでやはりベタにいきました。後編はこちら