2009年銀誕後編

 

「あっ、銀さん!もう見送りの皆が来てますよ」

「あー、見送りィ?おいおい…たかが温泉行くくらいで大袈裟じゃね?」

 

万事屋三人が駅に着くと、改札前はちょっとした人だかりができていた。お登勢、キャサリン、たまのスナックお登勢三人組、新八の姉お妙と九兵衛、

マダオ仲間(?)の長谷川、なぜか宇宙海賊の変装をした桂とそれに合わせて黒眼帯をしているエリザベス…その他銀時がこれまで依頼やら何やらで

出会った人たちがたくさん集まっていたのだ。

 

「漸く来たのかい…」

 

お登勢が呟くと、人垣の後ろの方で「えっ!もう来たの?ちょっと待って!」と言う声が聞こえた。

 

「ちょーっと待ったァ!まだプレゼントのラッピングが…」

「えー、まだなんですか?九時って言ったじゃないですか」

 

人垣から出てきたゴリラと新八が何やらヒソヒソ話している。なんでゴリラまでいるんだよ…こんなことしてっから、アイツの仕事が

忙しくなったんじゃねェの?銀時は人だかりの中にいない恋人のことを考えていた。

 

「おーい、終わったぜィ」

「遅いアル!主役を待たせるとは何事ネ!」

「仕方ねーだろィ。プレゼントが無駄にデカくてリボン巻くのが大変だったんでィ」

 

(おいおい、沖田くんもいるのかよ…。つーかデカいプレゼント?嬉しいけど、これから温泉行くんだろ?荷物になるんじゃねーか?)

 

「えーでは改めまして…」

 

ゴホンと新八が咳払いして「せーの」と掛け声を上げる。

 

「「「お誕生日おめでとうございまーす!!」」」

 

集まった皆で一斉に拍手と共に祝いの言葉を述べる。道行く人が何事かと振り返っていく。何だか全身がむず痒い…早く温泉でもどこでも

行きたい、本気でそう願っているところに「えー、ではここでプレゼント贈呈です」と、いつの間にやら司会になっていたらしい新八が言った。

 

(プレゼントねェ?まあ、さっき真選組の問題児二人がラッピングとか言ってたし、今もエリザベスの後ろでリボンがちらちら見えてるし…)

 

「ほら、早くもらわれなせェ!」

「総悟てめー!」

 

エリザベスの後ろから引っ張り出され、沖田に背中を押されて銀時の前に差し出された「プレゼント」は…

 

「土方…」

 

頭には花の形に結われたリボンを乗せ、両腕にも胴体にも色とりどりのリボンが結ばれ、首には小さな鈴付きのリボンが巻かれた、

銀時の恋人―土方十四郎であった。周りの皆が満面の笑みで拍手し「銀さんおめでとう」「お幸せに」などと、誕生日というより結婚式のような

祝いの言葉を述べている中、土方だけが青筋を立ててフルフルと震えていた。

 

「ああああ!もう、やってられっかァァァ!」

 

遂にキレた土方が頭のリボンを外して地面に投げ付け、自分の身体に巻かれたリボンをブチブチと腰の刀で切っていった。

 

「何するんでィ土方コノヤロー。せっかくの旦那のプレゼントが…」

「プレゼントは温泉旅行だろーが!何で俺が差し出されるみたいになってんだよ!!」

「まったく…土方さんは冗談が通じないお人で困りまさァ」

「あー、はいはいそこまでー」

 

土方と沖田のいつものやりとりを銀時が強制終了させる。

 

「旦那からも何か言ってやってくだせェ。せっかくのラッピングがぐちゃぐちゃでさァ」

「あー銀さん別に包装とか拘らないから。中身が同じなら問題ないから」

 

言いながら土方にまだ巻きついていたリボンを解いていく。最後に首のリボンを外すとチリンと軽快な金属音がした。

「じゃあ、この鈴が付いたヤツだけもらっとく」そう言って銀時は荷物の入った風呂敷の端に鈴を結び付けた。

 

「で、結局コレは俺と土方で行くってことでいいのか?」

「そうです」

「その通りアル」

 

ペア券を取り出してパタパタと振りながら新八と神楽に尋ねると、笑顔と共に肯定の返事が来た。

 

「銀ちゃん、嬉しいアルか?」

 

キラキラとした眼差しに見つめられながら問われれば否とは言えない。…もちろん土方と旅行するのは嬉しいに決まっているが。

 

「ああ、ありがとな」

 

神楽の頭を撫でながらそう言うと、神楽は本当に嬉しそうだった。

 

「じゃあ言ってくるな」

 

まだ何やら嫌がらせを企んでいるらしい沖田から土方を引き剥がすと、二人は改札に向かっていった。切符は既に土方が買ってくれていたので、

そのまま改札を通り電車に乗り込み並んで座った。電車が駅を出ると土方がホッと一息ついた。そんな土方を見て

銀時は先程から疑問に思っていたことを聞いてみた。

 

「お前さー、最近、仕事忙しかったのって…」

「ああ、そうだよ。今日休むために色々と準備をしてたんだよ」

「そっかぁ。…アイツらがお前に直談判しに行ったわけ?」

「ああ。しかも先に近藤さんに話を通しとくっつー悪知恵まで働きやがって…あれはテメーと一緒にいるせいだな」

「ははっ…やるな、アイツら。全く気付かなかったぜ」

「そうなのか?」

「ああ。今朝起きたら温泉行くって言われたんだぜ?しかも誰と行くのかも知らされずに駅まで連れてこられてよー…」

「そうだったのか…。ま、せっかくガキ共が用意してくれたんだ。存分に楽しめよ」

「オメーもな」

「俺はいいんだよ。お前の誕生日なんだから」

「あのなぁ、二人で旅行して俺だけが楽しめるワケないだろ?」

「…それもそうか」

 

そういえば旅行なんてほとんどしたことなかったと土方はぼんやり思っていた。田舎にいる時は今ほど交通機関が発達していなかったし

そもそも暢気に旅行なんてするくらいなら剣の稽古に時間を費やしたかった。江戸へ出てきて真選組の副長になってからは出張で地方に

行くことはあったが、それも旅行とは違う…急に物思いに耽り始めた土方に、銀時が面白くなさそうに声をかける。

 

「おーい、急に黙んなよ…俺とお前しかいねェんだからよ」

「あ、ああ…悪ィ」

 

そうはいうものの土方はこういう時にどうしたら良いか分からなかった。銀時と恋人同士になってそれなりの期間が過ぎ、

周囲にもかなり知られた仲となってはいるが、元来話下手の土方は未だにこういった目的のない会話が苦手なのだ。

普段のデートは、食事をするか映画を観るか、そうでなければラブホテルといった具合なので、話をしなくても間を持たせることができた。

だが今は何もせずに電車に乗っているだけだ。煙草を吸おうにも、禁煙車両に乗ってしまった。せっかく座席を確保したのに今から

喫煙車両に移る気にはなれない…どうしたものかと考え込んでしまった土方に、銀時が笑いながら話しかける。

 

「お前ね、難しく考えすぎなんだよ。別に俺を楽しませようとか思う必要ないから」

「そうなんだが…」

「まあ、いいや。それよりさ、この宿どんなところか知ってる?」

「いや…」

「俺も知らねェんだよなー…あっ、券と一緒にパンフレット入ってたぞ。ほら…」

「おう…」

 

二人で一冊のパンフレットを、へーとかほーとか言いながら読んでいく。

 

「おっ、別料金で貸切風呂もあるみてーだぜ?なあ土方、コレ入ってみねェ?」

「ああ…」

「さすがに混浴はねーのな」

「…そういやテメーは覗きで逮捕歴があったな」

「違うからっ!ちょっと話聞かれただけで逮捕とかじゃねーし!」

「けっ…どうだか」

「なんだよー。オメーだって混浴あったらテンション上がるだろ?」

「別に…誰と入ろうが風呂は風呂だろーが」

「はいはい…モテる男は違いますねー」

「モテてねーよ」

「どうだかねェ」

「だいたい、最近はどこ行ってもテメーの話しかされねーよ」

「ははっ…いつのまにか広まってたもんなぁ、俺たちの仲」

「一人で歩いてるだけで『銀さんは?』って聞かれる身にもなれってんだ」

「そうなのか?俺はそんなに聞かれねーけど…」

「テメーと違って俺が忙しいってのは分かってるんだろーよ」

「まあ、そうかもなー」

 

思いのほか会話は弾み、あっという間に目的地へ着いた。

 

 

 

*  *  *  *  *

 

 

「へー、結構広い部屋だな」

「そうだな」

 

旅館に着き、部屋に通された二人は向かい合って座椅子に座り寛いでいた。二人の前には、部屋に案内してくれた仲居が煎れた緑茶と

茶菓子が置いてある。部屋は風呂と厠の付いた十畳ほどの和室だ。風呂は二人で入れるような大きさではないが、大浴場も貸切風呂もあるので

それで充分だろう。

 

 

 

こうして二人は一泊二日の温泉旅行を満喫して江戸に戻った。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

十月十一日夕刻

 

「銀さんが帰りましたよー」

「おかえりなさい」

「おかえりアル!」

 

万事屋に帰った銀時を新八と神楽が揃って出迎えた。

 

「あれっ?土方さんは?」

「屯所に戻った。…多分、仕事してんじゃねーの?」

「大変ですね、土方さんも」

「銀ちゃん!これ、お土産アルか?」

「そうそう、温泉饅頭な。…あっ、でも一箱だけだぞ!他のは食うんじゃねーぞ」

「一箱だけって…こんなに沢山どうするんですか?」

 

銀時は両手に大きな紙袋を幾つも持っていて、その全てに同じ饅頭の箱が入っているようだった。

 

「…あれだけ見送られちゃ、買わないわけにいかないだろー」

「えっ?もしかして、出発の時に見送りに来た人全員分?」

「まあ、日頃世話になってる礼も兼ねて買った方がいいと……土方が言ってた」

「まさか…これ全部土方さんが?」

「俺だってそこまでしなくていいって言ったんだよ?でもアイツがさァ…」

「…買ってくれちゃったものは仕方ないですね。銀さんと土方さんからってことで皆に配りましょう」

「お、おう」

 

 

 

新八と神楽も荷物持ちを手伝いながら、銀時は翌日の夜までかかって土産を配り終えた。

 

 

 

生まれてきてよかったな…空になった大きな紙袋を眺めながら、銀時は心の中だけで呟いた。

 

 

 

 

(09.10.01)

 


公認過ぎるほどに公認カップルですね。肝心な温泉でのあれこれを端折ってすみません。そこは年齢制限とカップリング表記が必要になるので、

二人のいちゃいちゃパラダイス@温泉旅館はおまけとして書きます。カップリング別に三種類書く予定ですので、暫くお待ち下さい。できれば銀さんの誕生日に間に合わせたいと思っております。

10/4おまけ三種できました。18禁です

 

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