中編


別の日。この日も天気は快晴で、気温もこの時季にしては高めだったから、今日は団子日和だと
団子屋の店先に腰掛けた。

「団子一皿あんこ多めで」
「あいよっ」

毛氈の赤が眩しい腰掛けに、出てきたのは熱い緑茶と山盛りの団子。何時から増量したのか……
以前は、一皿といえば二串だったのに。

「俺ァ二本分の金しかねーぞ」
「お代なんかいいよ。これはお祝いだから」
「祝い?」
「またまた惚けちゃって。銀さん、いい人できたんだろ?」
「は?」
「イケメンのお侍と河原でキスしてたって聞いたよ。若い人は大胆だねェ」
「…………」
「大丈夫大丈夫。オジサンこう見えて理解あるからね」

熱い熱いと自分の顔を手で扇ぎながら店主は店の奥へ。
くれるというものはありがたく頂戴するとして……団子をかじりつつ銀時は考える。

最近のキスといえば土方しかいない。白玉餡蜜の時のを見られていたのか……。だが親父の
口ぶりだと相手が誰かまでは知らないようだ。目撃者については聞けなかったが、鬼副長の顔を
よく知らなかったのだろう。制服姿でなくて良かった。
まあ、今後気をつけていけばこれ以上の噂は広まらないだろうし、また何か聞かれた時には
別れたとでも言えばいい。何にせよタダで団子が食えてラッキー……そう軽く考えて銀時は
皿いっぱいの団子を平らげた。



*  *  *  *  *



「よう」
「チッ……」

次に銀時と会った土方は、制服姿で部下と一緒だった。
また舌打ったよこのコは……もしかしてこれが正しい挨拶だとでも思ってんのかね。
今は機嫌がいいから許してやるけど。

そう、銀時は今、頗る上機嫌だった。銀時に恋人ができたという情報は意外に広まっていて、
団子屋の一件以降も祝いと称して奢ってもらえたりツケをなくしてもらえたり……良いことずくめ
なのだ。当然、相手は誰だと問われるものの、向こうに迷惑がかかるからとかそれらしい理由を
付けてはぐらかしていた。

「今日はもうパフェ食ってきたから安心して」
「そうか、じゃあな」
「まあまあ待ちなさいって」

お決まりの台詞で引き止め、隣の部下に「ちょっとお借りします」と告げて土方の腕を引く。

「離せ!」
「えっ、ここでいいの?」
「お前まさか……」

ここで何を、とは言わなかったが最近の流れからしてアレしかないだろう。というか、何故さも
当然のように誘ってくるのだ。だがしかしこの場で押し問答するのは得策でない。部下が何事かと
怪しんでいる。土方は部下へ先に行くよう指示を出し、近場の路地裏に銀時と向かった。



「それじゃあ……」
「まっ待て!」

人気のない所へ着くなり口付けようとする銀時を押し止め、土方は何でだと尤もな疑問を呈する。

「だから今日は奢ってもらわなくていいからキスをね……」
「何でどっちか必ずする感じになってんだ!」
「ん?そういや何でだ?」
「テメーが言い出したんだろーが……」
「まぁとにかくお前の顔見たら、キスしていいんじゃないかなーと……」
「ふざけんな!」
「まあまあ」

いいからいいからと銀時は土方を壁際に追い詰め、その唇に吸い付いた。

「んー……っ!」

唇同士をぴったりと付け、舌を出してみたところ土方の口が僅かに開いた。
それに気をよくして滑り込ませた瞬間、銀時の舌は土方の歯に思い切り挟まれたのだ。

「いってぇ……」
「調子に乗るからだアホ」
「マジで痛ェよ!くっそ〜……鬼の副長に舌齧られたって触れ回ってやろうかな〜」
「待て止めろ!」

そんな風に言ったら、二人が口付けする関係にあると言っているようなものではないか。

「落ち着け万事屋」
「あー痛ェ。超痛ェ……」
「ちょっとやりすぎた。悪かったよ」
「ごめんで済んだら警察いらねーんじゃね?」
「チッ……じゃあ今度、何か奢ってやる。それでいいだろ?」
「……いや、今キスさせて」
「はあ?」

奢ってくれる存在は今いくらでもいる。だから土方には土方にしかできないことを……
そもそも何故土方限定なのか、この時の銀時は考えようともしなかった。

「銀さんの傷付いた舌を舐めて治してくださーい」
「……わっ分かったよ。やりたきゃ勝手にやれ!」
「では……」

やけくそ気味に目を閉じた土方に、にんまり笑って口付ける。ぺろりと唇を舐めてやれれば、
ビクッと肩が震えたものの今度は齧られることなく受け入れられた。

「んっ……」
「ハァッ……」

土方の舌を追いかけ絡め吸い寄せる。一旦、舌を引っ込めて二人分の唾液をこくりと飲めば、
火が点いたように全身がかっと熱くなった。
銀時は土方を抱き締めて身体を密着させ、再び舌を土方の咥内へ。

「んぅっ!」

銀時の舌が上顎を撫でると土方の身体が微かに跳ねて声が上がった。
ここがイイのか……銀時は息を荒げながらそこばかり刺激していく。

「ん、っ……んっ!」
「ハッ、ん……」

自分と銀時の間に腕を入れ、何とか逃れようとする土方を、壁と両腕を使って放すまいとする銀時。
僅かでも抵抗を示せばそれを上回る力で抱き締められて、けれどこのまま身を任せておくわけには
いかないと土方は必死だった。こんな口付けを続けられたら自分は……

「っ!?」
「ふぶっ……」

下半身に硬いモノの存在を感じ、土方は下に逃げた。真下に身を屈めて口付けを解き、
銀時の腹を押して距離を取ることに成功。後頭部と背中が壁に擦れて痛かったが構わない。

「しっ、仕事があるから!」
「待てよ!」

口元を手の甲で拭い、土方は通りの方へ走り去ってしまった。


「何だよ。アイツだって感じてたくせに……。あっ……」

キスに夢中で気付かなかった股間の膨張。このせいで逃げられたのかと納得。
そして銀時は分かってしまう。自分がここまで土方に執着している訳が。

「あ〜……マジでか……」

土方を押し付けていた壁に凭れ掛かり、ずるずるとしゃがんで頭を抱えた。



*  *  *  *  *



「よう、万事屋!」
「――っ!」

この日は向こうから声を掛けてきた。
といっても、相変わらず土方は碌な挨拶をせず、一緒にいた近藤が笑顔で手を振ってきたのだが。

「どーも」
「…………」

土方の様子がおかしい。ここ最近、銀時がやらかしたことを思えば無視されるのは分かるけれど、
明らかに動揺している。そういえば先程も舌打ちではなく息を飲んだように見えた。何かを
恐れているような…………この前の硬い股間?次に会ったら犯されるとでも思ってた?いやいや、
例えそうだとしてもコイツはそれで怯えるような奴じゃない。むしろどう返り討ちにするかを
考えてあくどい笑みを浮かべそうだ。では何故……?

考えても考えても自分を前に落ち着かなくなる原因などそれしか思い付かなくて、それならば
今後の関係を円滑にするためにも軽く詫びておこうという結論に達した。
土方への感情を自覚した今、出来る限り印象を良くしておきたいのである。

「なあ、ひじか「こっ近藤さん!早く行こうぜ!」

詫びるどころか話すらさせてもらえなかった。

「えっ、もうそんな時間?」
「そうだよ!ほら早く!」
「でも今なんかトシに言おうとしてなかったか?」
「あの……」

珍しく近藤のフォローで再び話す機会を得た銀時であったが、

「ねぇよ!コイツと話すことなんか」

吐き捨てるように言った土方の瞳が「黙っていろ」と凄んでいて、何も言うことができなかった。
ここを強行突破すれば今後の関係に大きな亀裂が入ってしまうから。

「行こうぜ、近藤さん」
「でもよ……」
「じゃーあねー」

腑に落ちない近藤へ別れを言ってやれば土方はホッとしたような表情になり、近藤の腕を引いて
仕事に戻っていく。

程なくして、二人の話し声が聞こえないほど距離が開く。けれどまだその姿は捉らえることが
できていて、自分は向けられたことのない笑みを湛える土方に、心臓を握り潰された思いがした。


土方が男相手もいけそうだというのは前回の口付けの反応を見て分かっていた。
舌を噛まれはしたものの、本気で嫌ならその前にもっと抵抗しているはずだし、そもそも声を
掛けた時点で今日のように逃げられてもいいくらいだ。前回だって仕事中だったわけで。

それは必ずしも男色の気があるということではなくて、男達で共同生活しているから抵抗感が
薄れているのだろうと予測していた。
銀時との「初めて」がそうであったように、酔った上でのキスくらい珍しくないのかもしれない。

けれど今、銀時が見出だしてしまったのは、土方には既に好きな男がいるのではないかという
可能性。もしそうだとしたら、相手が「ヤツ」しか思い当たらず、それならば先程の土方の態度が
おかしかったのも頷ける。
一緒にいたのが「ヤツ」だったからだ。「ヤツ」には決して知られたくなかったのだ……

可能性が確信に変わった。


土方は近藤に惚れている。


*  *  *  *  *


その夜、銀時は土方を自宅へ呼んだ。神楽も定春も志村家に行かせて。
新八達の耳にも勿論例の噂は届いているから色々勘繰られはしたけれど、時期が来たら話すと
告げて納得してもらった。

日付が変わってから現れた土方はいつもの仏頂面を纏っていて、それが銀時には少し嬉しかった。
近藤さえいなければ普段通りの土方に出会えると。

「何の用だ」
「まあまあ……」

草履も脱がず立ち話で済まそうとする土方を何とか居間まで上げてソファーに座らせる。
銀時もその横に腰を下ろした。

「何の用だよ」
「分かんねぇ?」
「おい……」

肩を抱けば批判めいた視線を向けられたもののそれ以上の抵抗はない。

「キスしていい?」
「お前……何なんだよ最近」
「人肌恋しくなることってない?」
「あ?」
「生きてるとよ、自分ではどーにもなんねぇキツイこととか出てくるだろ」
「まあな」
「そういう時、誰かの温もりがあると、ちょっとの間だけだけどそれを忘れられる……」
「…………」
「土方もない?そういうこと」

こちらを向かせて軽く唇を合わせてみたがやはり抵抗はなかった。
土方の片思いがいつからかは知らないけれど、お妙に対する近藤の思いは揺るぎないだろう。
だからきっと土方は、叶わぬ思いを抱えて苦しんでいるにちがいない。自分だって、土方に好きな
男がいると分かって胸が張り裂けそうだったのだ。
せめて自分といる時くらい近藤を忘れられるように。そしてそのうち自分だけを見てくれるように……

「キツくても、逃げるわけにはいかねーだろ」
「強いね、土方は」

そうして長年、親友として男の側に居続けたのだろうか。だが今後もそれを続けさせる気はない。

「俺はダメ。ちょっとでいいから、忘れさせてくんねェ?」
「…………」

土方は迷っているようだった。銀時はここで昼間の非礼を詫びる作戦に出る。

「今日会った時、他にも人がいたのに声掛けて悪かった。その前も仕事中だったよな?
もう、そういうことはしねェから……な?」
「…………たまに、だぞ」
「ありがとう!」

大袈裟なくらい喜びを表して、銀時は土方を抱き締め唇を重ねた。

「んっ……」

すぐに舌を滑り込ませ、先日知ったばかりの性感帯を舌先でちろちろ。

「んんっ……」

土方の手が銀時の着物をきゅっと握った。
それがまるで自分を求めているように思えて、銀時の興奮は一気に高ぶる。
唇だけでは飽き足らず、土方を押し倒して身体ごと重ねた。

「ハァッ……」
「う、んっ……」

押し当てられた硬い膨らみに土方の身体は強張る。しかし銀時は構わず口付けを続けていく。
土方も同じように興奮してしまえばいいと。



「ハァ……ん……」
「んぅっ!んっ!んーっ!」

暫くすると、土方は銀時の肩をパシパシと叩いて離れるよう訴えだした。
銀時は渋々口付けを止め、けれど土方の上には乗り上げたまま何、と聞く。

「これ以上は……」
「何で?」

土方の下半身もいい具合に張り詰めてきて、むしろここからだというのに……

「何でって、だから……あっ!」

高ぶりで高ぶりを刺激してやれば、土方は目を閉じて喘いだ。

「こんな状態で止めたら、お互い辛いだろ?」
「だが、このままだと着物が……」
「ああ、なんだ……」

銀時は土方の帯に手を掛ける。これでは自分でやると僅かな抵抗に遭うものの、上にいる銀時に
分があった。いいから寝ててと宥めつつ土方の帯を解き、合わせを開き、下着のゴムを引っ張れば、
ぴょこりと「頭」が顔を出す。興奮に上気していた頬を更に赤く染め、気まずげに視線を逸らせた
土方に喉が鳴った。

土方の下着を脱がせると自分も素早く着物の下に履いている服を脱ぐ。そのまま再び抱き合うと、
興奮しきった銀時の先走りで土方のモノも濡れた。

「んっ……」
「っ……」


唇を重ね、舌を絡ませ、一物同士を擦り合わせる。
このまま俺に惚れちまえ――そう願いながら。

(12.12.27)


年内には完結できると思いますので、続きは少々お待ち下さいませ。

追記:続きはこちら(18禁ですが直接飛びます)