土方さんの想いを聞かされた銀さん
ある穏やかな午後、銀時は甘味屋の店先に腰かけ、往来をぼんやりと眺めながら好物の団子を堪能していた。
そこへ制服姿の沖田がやってきた。
「旦那じゃねェですかィ」
「よー…って、なに隣に座ってんの?キミ、仕事中でしょ?」
「あっ、みたらし団子1つ」
「へい」
銀時には答えず、奥から出てきた店主に注文する。
「ちょっと…なに?何か用?」
「いや、別に。ただの見回り中でさァ」
「だったら団子なんて食ってねーで、見回りしろよな」
「大丈夫でさァ。ここからでもちゃんと見てますんで」
「ホントかよ…」
「こちとら市民の平和のために日々汗水たらして働いてるんでィ。
たまには団子くらい食ったっていいと思いやせんか?」
「たまに、ならね」
沖田が言うほど真面目に働いていないことは知っていたが、
だからと言ってそれを咎める立場でもないと思った銀時は適当に答えておく。
何より、彼と深く関わってもロクなことにならないと、経験上分かっている。
「そういやァ旦那、土方さんのこと聞きやしたか?」
「ああ?何が?」
「土方さんに好きな人がいるんでさァ」
「ああ、そうなの」
銀時は興味なさげに相槌を打った。
だいたい、誰が誰を好きなんて話題に食いつくような思春期真っ盛りはとうに過ぎている。
土方は見たところ自分と同じくらいの歳だろう。それなら気に入る女の一人や二人いてもおかしくない。
まあ、沖田にとっては土方をからかう材料が増えて楽しいんだろうが。
そんなことを考えながら銀時は再び団子を口に運んだ。そんな銀時の様子に構わず、沖田は話を続ける。
「その好きな人っていうのは、仕事中に出会った人で、歳は多分…土方さんと同じくらいだと思いやすね」
「何、会ったことあんの?」
「ええ。俺だけじゃありやせん。近藤さんや他の隊士たちも会ってます」
「ふうん」
「…どんな人か気になりやせんか?」
「別にー。まあ、あんたら公認っつーことは、そのうち2人仲良くその辺歩いてるトコに出くわすだろ」
「それが、そうもいかないんでさァ。あの人は昔っから言い寄られはしても自分から口説いたことがねェんで…」
「はあ…モテるやつはこれだから…」
「だから、その人に会っても嫌味ばかり言ってるんでさァ」
「小学生のガキかよ…」
「相手もかなり気の強い人で、たいがい怒鳴り合いのケンカになりやす」
「鬼の副長とケンカたァ、随分と肝の据わった人もいたもんだな」
「そうでしょう?時には刀抜くこともあるんですぜ?」
「おいおい…いくらなんでも抜刀はねーだろ」
「それが、相手も木刀で応酬してるんで」
「はあ!?木刀持ち歩いてんの!?ソイツ何者!?」
「…自営業らしいんですが、いつも金がないって言ってやすね。一緒にいるガキ2人もたいがい腹空かせて…」
「ナニ、子どもいんの?」
「あー、その人の子ってワケじゃありやせん。
従業員ってトコですかねィ…といっても、タダ働き同然にコキ使ってるようですがね。
しかもそのうち1人は不法入国した天人って噂で…」
「まさか自営業って…ヤバイ商売じゃないだろーな」
「まあ確かに何の商売してるかはよく分かりやせんね。
仕事してるより、甘味屋にいることの方が多いんじゃないですかねィ」
「ちょっと…大丈夫なの?おたくの副長でしょ?」
「御心配には及びやせん。そのうち俺が副長になるんで」
「はいはい…で、アイツはそんな不審人物のドコに惚れたのよ?」
いつの間にか、銀時は沖田の話に興味津々になっていた。
沖田はそんな銀時を見て腹の中で黒い笑みを浮かべていたが、銀時はそれに気付かなかった。
「不審人物ね…。ドコが好きかは分かりまやせん。
だいたい、土方さんからソイツのことが好きだと聞いたわけじゃねェんで」
「あれっ?だって、真選組の連中は知ってんだろ?」
「その人のことを知ってるってだけで、土方さんから紹介されたわけじゃありやせん」
「そうなの?じゃあ、本当に好きかどうか分かんねーんじゃ…」
「好きなのは確実ですぜ。土方さんの態度を見てれば分かりやす」
「あっそ。じゃあ…沖田くんから見たその人のいいところってドコ?」
「いいところねェ…」
「モテモテの副長さんが惚れるぐらいだから、何かあんだろ?
性格は…かなりアレみてーだが、すごい美人とか、スタイルがいいとか…」
「まあ、顔は悪くないと思いやす。
体は…土方さんと互角にやりあえるくらいだから、かなり鍛えられてるんじゃないですかねィ」
「スタイルって…そういうことじゃなくて!胸がデカイとか、腰が細いとか…」
「胸は全くないですね。腰も…くびれとかはないと思いやす」
「じゃあ肌が白いとか、髪がキレイだとか…」
「色黒ではないですねィ。髪は天パなんで…」
「ああ、そう。ま、天然パーマに悪いヤツはいないからね…って、結局いいトコなし?」
「そうですねィ。万年金欠糖分依存症の銀髪天然パーマのドコがいいんでしょうね」
「きっと、副長さんにしか分からない何かがあんじゃねー…ん?銀髪?」
「ええ。ソイツは銀髪でさァ」
「へえー、何だか親しみが湧いてきたな。その人、この辺に住んでんの?」
沖田の話を聞いている限りでは銀時のタイプではない。
だが自分と共通点も多く、真選組副長にも怯まず向かっていくその女性に銀時も会ってみたいと思った。
「かぶき町に住んでいやす」
「かぶき町!?かぶき町にそんな女いたっけな…」
「女じゃありやせんぜ」
「はあ!?」
「だから女じゃありやせんって」
「女じゃねーって…」
「ええ。土方さんの好きな人ってのは男でさァ」
「へっ?アイツ、ホモだったの?」
「さあ?今までそんなことは無かったと思いやすがね」
「ふうん。じゃあ…沖田くん言ってたのは男の話?」
「…真選組副長相手に木刀振り回す女がいると思いやすか?」
「そりゃあそうだけどよ…」
「それに、いくら土方さんの中身がガキでも女相手に抜刀しませんぜ」
「それもそうか…」
そうか、男か…。そこまで考えて銀時はふと、今までの会話を思い返した。
土方の好きな人は…真選組とも面識があって、木刀を持っていて、ガキ2人と自営業をしていて、金欠で、
甘味屋によく行っていて、銀髪天パでかぶき町に住んでいて…。
会話を思い返した銀時は、何かの結論に至った。
「いや…それはナイって」
「旦那、どうしたんですかィ?」
「なあ、土方の好きなヤツって…」
「おっと、仕事の時間だ」
そう言って沖田は席を立つ。
「ちょっ…待っ…」
「それじゃあ」
銀時の制止も聞かず、沖田はスタスタと歩いていってしまった。
* * * * *
「何なんだよ!絶対ェ嘘だ!俺をからかって遊んでやがったんだ!チクショー!」
誰もいない万事屋に帰ってきた銀時は、沖田への怒りをぶつけるようにブーツを脱ぎ捨てて部屋に入り、
ソファに寝転がった。
変だと思ったんだよ。あのドS王子が何もなくて俺に声かけるわけねーんだ。
何か裏があるとは思っていたが…土方が俺を好き?ナイナイナイ!ありえないから!
どうせ、俺の注意を逸らすために作った話だろ?
俺の関心を他に向けといて、アイツは団子を食ってさっさと帰って俺に奢らせるって作戦だろ?
まんまとアイツの罠にはまって、アイツの団子代まで俺が払わされちまったぜ。クソー腹立つなー。
今度会ったら奢らせてやる!
しっかし、どーしてあんな嘘に騙されちまったのかなー。
土方が俺を…って、最初は俺だと思ってなかったからね?
最初は女だと思ってて、随分変わったヤツみてーだからどんな人なのかと…クソッ、これがヤツの作戦か!
やられた!しかも、コレは土方への嫌がらせにもなってやがる…末恐ろしいヤツだな。
それにしても、よくあんな話思いついたな。確かに俺と土方は会う度にケンカしてるが…それが好きの裏返し?
真実を少し混ぜた嘘は見破られにくいと聞くが…本当だったんだな。一瞬、信じちまったじゃねーか。
…いや、信じたところで銀さんホモじゃないし?
まあ、ぶっちゃけ、性別にあんまこだわりはねーけど…でもいきなり斬りかかってくる物騒なヤツは、ちょっとな…。
確かに土方は、顔はいいし髪もムカつくくらいさらっさらだし、仕事も出来て金も持ってるし…。
きっと、アイツに想われて嫌なヤツなんていねーよな。言い寄られることが多いっつーのも本当だろうな。
実際、アイツはどんな風に口説くんだろうな。
もし、本当に俺のことが好きだったら…アイツのことだから手紙とか電話とかじゃなく、直接言うんだろうな。
ここは…ガキ共がいるかもしれねーから来ねェな。だったら、どこかに呼び出すか?
まあ、アイツと俺は思考回路が似てっから、街で出くわすことも多いし、それを狙ってくるかもな。
で『話がある』とか言ってちょっと人気のない路地とかに入って『銀時、好きだ』って…
うわっ!な、何だ!心臓がいきなりバクバク!何で、アイツにコクられた想像だけでドキドキしてんの、俺ェ!?
ちょ…落ち着け、俺!ただの想像だ!想像で『銀時、好きだ』って言われただけだ!
そう、銀時、好きだ…って、あれっ?アイツって、俺のこと銀時なんて呼んでたか?呼んでねーよな?
普段アイツに何て呼ばれてたっけ?えーと、えーと、そうだ!万事屋だ!
…なんだ、普段と違う名前で呼ばれたからビックリしたのか。
んじゃ、改めて『万事屋、好きだ』…んー、なんかしっくりこねェな。だいたい、万事屋って社名じゃねーか!
依頼人ならともかく、何でアイツから万事屋なんて呼ばれなきゃなんねーんだよ。アイツのこと真選組って呼ぶか?
呼ばねーだろ?
ドS王子とかジミーとかは俺のこと旦那って呼ぶし、近藤は…基本万事屋だけど、銀時って呼ばれたこともあるな。
俺だってアイツのこと名前で呼んだことあるよ?それなのに…クソッ、今度会ったら絶対ェ名前で呼ばせてやる!
銀時は自分でもよく分からない決意をして転寝を開始した。
沖田の話が本当に作り話だったのか…それが分かるのは、銀時と土方が次に出会った時。
(09.08.12)
photo by NEO HIMEISM
自分の妄想にまでドキドキする銀さんが書きたかっただけです。こんな銀さんは、とてもかわいいと思います。ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
追記:これの後日談を書きました。よろしければどうぞ→★
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