この話は「土方さんの想いを聞かされた銀さん」の後日談となります。
そちらをお読みになってからどうぞ。
土方さんに名前を呼ばせたい銀さん
銀時がかぶき町を歩いていると見知った制服姿の二人を見付けた。
真選組副長の土方十四郎と一番隊隊長の沖田総悟である。
「よーやく会えたぜ…こないだの借り、きっちり返してもらうからな!」
「やれやれ土方さん、また旦那とケンカでもしたんですかィ?」
「はぁ?何のことだか…」
「沖田くん、おめーだよ!」
「俺が何かしやしたか?」
「てめー、公僕のくせに善良な市民から金を巻き上げるたァいい度胸じゃねーの」
「総悟…お前、また何かしでかしたのか?」
「何もしてませんぜ。俺はただ、旦那にとびきりのネタを差し上げたんで、その謝礼として
団子を奢ってもらっただけでさァ」
「何がとびきりだ。あんなガセネタ!」
「ガセ…そこまで言いきるからには確かめたんでしょうねィ」
「へっ?た、確かめるって?」
「だから、俺の言ったことが真実かどうか本人に確認しやしたか?」
「ほ、本人って…」
銀時がちらりと土方の方を見ると、それに気付いた土方が口を挟む。
「何だ…また俺の悪口でも言ってやがったのか?」
「悪口だなんて…俺ァ真実を言ったまででさァ」
「テメーの言う真実ほど信用ならねェもんはねーな」
「じゃあ、確認してみたらどうですかィ?」
「確認?」
「そう。旦那に俺が何て言ったか聞けば、それが真実かどうか分かるってモンだ」
「んなまどろっこしいことしねェでも、お前が言えば済むことじゃねーか」
「俺は仕事中なんで…」
「総悟!」
「あっ、旦那ァ…土方さんこんな格好してますが、今日はオフなんでさァ。
それなのに仕事してちゃ部下も気ィ遣って休めねェんで、旦那の力でどうにかしてくだせェ」
「どうにかって…」
「どこかに連れ込んでもいいんで、しばらく屯所に帰ってこれねーようにしてくだせェ」
「総悟、てめっ、俺がいない間にサボる気か?」
「だから仕事するって言ってんだろ土方コノヤロー…とっとと旦那に連れ込まれちまえ」
「あ?連れ込むって何だ…てめーの代わりに団子でも奢ってやれってか?ふざけんな!」
「あーはいはい、お好きにどうぞ。…つーわけで旦那、後は頼みましたぜ」
「えっ…ちょっと…」
「お、おい。待て、総悟!」
見た目だけは爽やかな笑みを浮かべて、沖田は走り去っていった。
「ったく、なんだってんだ…」
「…おめーよ、マジで今日休みなわけ?」
「あ?だったらどうだってんだ…」
「いや別に…ただ、休みの日までそんな堅っ苦しい格好して大変だなーと思ってさ」
「午前中にどうしても近藤さんと城へ行かなきゃならなくてな…で、屯所に帰ったら見回りに
出てるはずの総悟が昼寝してやがるから…」
「一緒に付いてきたってワケね。よくやるねーお前も」
「るせー。…そういえば、さっきのアレ、何だったんだ?」
「へっ?アレって?」
「総悟に言ってただろ?ガセネタがどうのって…」
「あー…あれ、ね…」
「俺のことなんだろ?どうせ俺を陥れるためのネタだろうが…」
「あー、うん…まあ、そんな感じ?」
「あん?歯切れが悪ィな…」
「べ、別にいいじゃねーか。沖田くんが適当に作った話なんだからよ!…あっ、そうだ!
おめー休みなんだったらよ、団子でも食いに行かねェ?」
「はぁ?何でお前と…って、本気で奢らせる気か?」
「いやいや、休みの日まで仕事してる可哀相な土方くんを労ってやろうとだね…」
「ちっ…てめーの分はてめーで出せよ」
「おー」
* * * * *
なーんか成り行きで誘っちまったけど、どーすんだコレ?嘘とはいえ、沖田くんからあんなこと
聞かされた後じゃ、微妙に気不味いじゃねーか…。いや、どうせ嘘だから気にしなくていいんだけどね。
つーか、うん、俺も気にしてないから。ちょっと、コイツに告白されたら、とか想像しちまったけど別に
気になってなんかないからね。…あ、そういえばコイツに会ったら名前呼ばせようとか思ってたんだった。
よし、作戦開始!
「なあ、土方…」
「あ?」
「あ、あのよー土方…」
「ああ?」
「だ、だからさー土方…」
「ああ?とっとと話せや」
ダメだ!こっちがいくら呼んだってコイツは呼びやしねェ。
つーか、人が話しかけてやってんのに「あ?」で返すってどうよ?いい大人なんだからもうちょっとこう…
「…ずや、万事屋!」
「…えっ!な、なに?」
「なにじゃねーよ!テメーから話振っといて無視か?あ?」
「あ、ああ…悪ィ。ちょっと考え事を、な」
「考え事ォ?少ねェ脳みそで一体何を…」
「ま、まあ、ちょっと…あっ!」
「ど、どうした?」
「いや…何でもねェ」
「おかしなヤツだな…」
さっき、万事屋って呼ばれた時に「俺は万事屋なんて名前じゃねェ」って言えば良かったんじゃねーか!
なに普通に返事してんだよ俺ェ!くそー、もう一回呼ばねェかな…。
「…い、おい!」
「へっ?」
「お前…本当に大丈夫か?いつも変なヤツだが、今日は更に変だぞ?」
「へ、変ってなんだよ!」
「…熱でもあんじゃねーのか?」
「なっ!ち、近い近い近い!」
「熱があるかみるだけだって!…つーか顔も赤ェし、やっぱ熱あるんじゃねーか?
そういや団子もあまり食ってねェな。食欲ねェのか?」
な、なんだよコイツ。おでこに手ェ当てて熱測るとか…急に優しくなりやがって。
なんか変だ…コイツに触られた所が熱い。マジで熱あんのかな。呼吸もしずらくなってきた…
んだよ、人のほっぺ叩くんじゃねーよ。
「…い、万事屋!しっかりしろ!」
「えっ…」
「やっぱ変だぞ?急にボーっとなって…」
「あ、いや…それはお前が…じゃねェ!万事屋!?」
「うおっ!な、なんだ…」
「てめー万事屋っつったか?」
「そ、それがどうし…」
「俺の名前は万事屋じゃねェ!!」
俺の顔に触れていたコイツの手を払うと、犯人はお前だ!みたいなノリで言ってやった。
「………はっ?」
「だから、俺は万事屋なんて名前じゃねェっつーの!」
「…んなこたァ分かってる」
「じゃあ今から名前で呼べ!」
「はぁ?なんだよ今更…」
「るせー!今更だろうが何だろうが、ちゃんと呼べ!」
「わーったよ。じゃあ……坂田」
「…俺のこと、名字で呼ぶヤツほとんどいねェんだけど…」
「オメーだって俺のこと名字で呼んでんじゃねェか…」
「いや、オメーは皆から名字で呼ばれてんじゃん!むしろ名前で呼ぶヤツなんて
ほとんどいねェだろーが!」
「他のヤツらは関係ねェ。オメーが名前で呼んだら、俺も呼んでやる」
「ああ?何で上から目線なんだよ!」
「オメーが呼んでほしいっつったんじゃねーか!」
「万事屋はナイだろーが!」
「だから坂田って呼んでやったんじゃねーか!」
「だから普通に下の名前で呼べって言ってんだろ!」
「普通ってなんだよ!だったらテメーも俺のこと下の名前で呼べや!」
「あ?何で俺がテメーのことを十四郎なんて呼ばなきゃいけねーんだよ!」
「うっせー!テメーが呼んだら銀時って呼んでやるっつってんだよ!」
「だいたい、十四郎って言いにくいんだよ!」
「ああ?銀時だって言いやすかねーよ!」
「じゃあ銀さんって呼んでみるか?あん?」
「何でさん付けしなきゃなんねーんだよ!テメーなんざ、銀時で充分だ!
むしろ俺にさん付けしろ!」
「はぁ?十四郎さんってますます言いにくくなってんじゃねーか!テメーこそトーシローで
充分なんだよ!トーシロー!」
「せめて漢字にしろ、銀時!」
「十四郎でもトーシローでも発音一緒じゃねーか!」
「んだ…やるかァ、銀時…」
「やってやらァ、十四郎!」
「上等だ、銀時!!」
「表へ出ろ、十四郎!!」
銀時!十四郎!と大声で呼び合いながら、二人は団子屋を後にした。
(09.09.04)
photo by NEO HIMEISMこの後、土方さんは吹っ切れて銀時呼びになりますが、銀さんは我に返って恥ずかしくなり、土方呼びすらできなくなったら可愛いと思います。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
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