ある日の午後、依頼がなくて暇だからとパチンコに行ったはずの銀時がすぐに戻って来た。

「どうしたんですか、銀さん」
「もう有り金スッてしまったアルか?」
「いーや。パチンコには行ってねェよ。今日、泊まりになったから荷物取りに来ただけ」
「泊まり?住み込みの依頼でもされたんですか?」
「仕事じゃねーよ。デート」
「「デートぉぉぉ!?」」

銀時の言葉に新八と神楽は心臓が飛び出るかと思った。

「何がデートネ!意味分かって言ってるアルか?」
「分かってますぅ。銀さん、恋人ができましたァ」
「「えぇっ!?」」
「いいいいつからいたんですか!?」
「今日だよ。さっき好きだって言われた」
「付き合ってすぐお泊りなんて、一体どこのどいつネ!?」
「トシだよ」
「トシって…どこのトシさんですか?」
「真選組のトシだよ」
「しっ真選組って、まさか…ひ、土方さん?」
「ああ」
「ななな何でですか!?」
「銀ちゃん、ホモだったアルか?」
「ンだよ…別にいーだろ。ずっと好きだったんだから。…あっ、もうこんな時間だ。じゃあ行ってくる」
「ちょっ…」
「待つネ!」

二人の制止を振り切り、銀時はお泊まりデートに出かけて行ってしまった。



トシとぎんと初めての体験



「どうしよう、神楽ちゃん…」
「まさか銀ちゃんに好きな人がいたなんて…」

新八と神楽が困っているのには理由があった。それは…

「銀さん、性の知識が全く無いのに…いきなり泊まりなんて大丈夫かなァ」

そう。坂田銀時二十●歳―彼はかぶき町で長年暮らしていながら「夜」の知識が全くと言っていいほどないのである。
新八と神楽もそのことを初めて知った時には驚き、このままでは悪い女に騙されかねないと心配もした。
しかし、銀時はメガネっ娘くノ一を筆頭とした女性たちのアプローチを悉くかわしていた。
そのため、性だけでなく恋愛に関する興味もないものと二人は思い、安心していたのだ。それがまさか…

「まさか、相手が男性だったとはね」
「そんなことはどうでもいいアル。今すぐに考えるべきは、どうやってマヨラーの魔の手から
銀ちゃんを救い出すかってことネ!」
「魔の手って…土方さんなら、銀さんに無茶させるようなことはしないんじゃない?」
「分からないネ。男は皆、狼ヨ!」
「…銀さんも男だよ」
「あっ、そうだったネ」
「それに、銀さん相手じゃ力ずくってワケにもいかないと思うし…」
「…それもそうアルな。銀ちゃんが本気出せばマヨラーなんか楽勝アル」

銀時が何も知らないと分かれば土方は驚くだろうが、銀時に被害が出る可能性は少なそうだと二人は思い至る。
安心した神楽が更に続ける。

「それに、マヨラーは受けかもしれないネ」
「受けって神楽ちゃん…」
「アイツ、銀ちゃんとドS野郎によく苛められてるヨ。だからきっと受けアル!」
「えっ、そうなの?」
「マヨラーが受けなら銀ちゃんは痛い思いしないし、好きなだけ乳繰り合えばいいネ」
「…そういう問題?でもまぁ、今更僕らでどうこうできる問題じゃないし、土方さんに任せておけばいいか」

不安がないわけではないが、いつまでも知らないままというわけにもいかない。
新八と神楽は銀時の交際を受け入れることにした。


*  *  *  *  *


泊まりの準備をした銀時は土方と居酒屋に来ていた。

「いや〜、明るいうちから飲むっていいよなァ」
「まぁな…」

現在時刻は午後の五時半頃。日の長くなった今の時季はまだ外が明るかった。
ほろ酔い加減で頬の染まった銀時が尋ねる。

「なァ、今日ってどこに泊まんの?」
「…その辺の宿じゃダメか?」
「あっ、じゃあ知り合いがやってる宿があるからそこ行かねェ?ほら、人気投票ん時の宿」
「構わねェが…ぎん、お前はいいのか?」
「へっ?何が?」
「知り合いなんだろ?俺と一緒にいるトコ見られても大丈夫なのか?」
「別にいいけど?…あっ、トシは俺とお付き合いしてるってコト隠したい?」
「いや…。敢えて知らせるつもりはねェが、だからといって隠すつもりもねェよ」
「良かった。俺、もうトシが恋人だって言っちゃったから、ダメだったらどうしようかと思った」
「…誰に言ったんだ?」
「新八と神楽」
「まあ、アイツらならいいか。…だが、気を付けろよ?お前が俺の恋人だと知ったら
攘夷浪士共に襲われるかもしれん」
「じゃあ、俺が襲われそうになったらトシが助けてね」
「…テメーで何とかできる分はテメーで何とかしろ」
「えー…トシってば酷ェな…」
「ハハハ…冗談に決まってんだろ。ぎんがピンチの時は必ず助けに行く」
「ふんっ。俺はトシより強いから大丈夫ですぅ」
「そうか、そうか…」

軽い言い合いも二人には愛情表現の一つで…酒の力も手伝って、徐々に二人の距離は近付いていった。



「…そろそろ出るか?」
「うん」

土方の言葉に銀時が頷く。
二人は寄り添うようにして居酒屋を出た。


「あー…結構飲んだかも。泊まりで良かった…」
「そうかよ。なァぎん、宿はそこの角を右でいいんだよな?」
「違ェよ。左だよ、左」
「ぎん…左はただの壁なんだが…」
「あー、バレた?実は右でしたー。さっすが真選組の頭脳!」
「この酔っ払いが…」

銀時は当てにできないと、土方は記憶を頼りに銀時の知り合いが経営するラブホテルへ向かった。


*  *  *  *  *


「おら、着いたぞ」

ホテルの部屋まで来ると、土方は銀時をベッドへごろりと転がす。
そして備え付けてある冷蔵庫から水の入ったボトルを取り出し、銀時に渡した。
銀時はボトルに直接口を付けて水を飲む。大分、酔いも醒めたようである。

「…一回しか来てねェのによく道が分かったな」
「そう思うんならちゃんと道案内しろや」
「へへへ…トシならできると思ってた!」
「ったく、調子のいいこと言いやがって…」

悪態を吐くものの、土方は何となく嬉しそうであった。
ふと枕元に目をやった銀時は「真選組の頭脳」にかねてからの疑問を聞いてみようと思った。
枕元の小さなビニールの包みを土方の前に晒す。

「なァ、トシ…これ、何か知ってる?」
「まだ酔ってんのか?それとも羞恥プレイのつもりか?」
「何言ってんの?俺はこれが何かを知りたいだけだって」
「…マジで言ってんのか?」
「ああ。俺、たまに酔って帰れねェ時とかココに泊まるんだけど…どの部屋にも置いてあんだよ。
何だか分かんなくてオヤジに『これさァ…』って言ったら『一人じゃ必要ないよな』とか言われて
それから俺が泊まる部屋にはなくなったんだ。でも今はあるし…」
「そりゃあそうだろ。俺と二人で入ったんだからよ…」
「これって二人で使うモンなのか?」
「ぎん、オメー本当にコンドーム知らねェのか?」

銀時が手にしているのはコンドーム。
土方はまだ、銀時が酔っているか土方をからかっているかだと思っている。

「こんどーむ…へェ、これはそういう名前なのかァ」
「マジで知らねェのか?男としてマズイだろ…まあ、今後は必要ねェけどな」
「ん?これって必要ないもんなのか?」
「俺と付き合う限り、オメーには必要ねェよ。…俺はちゃんと使ってやるぜ」
「トシが使うの?じゃあ、使うトコ見ててもいい?」
「当然だろ。ぎんの前でしか使わねェよ。これはな、ヤる時にナニに被せるモンなんだよ」
「…やるって何を?」
「セックスに決まってんだろ。セックスん時、ガキができないようにナニに被せるんだよ。
まあ、俺らじゃガキはできねェが、コレ使った方がお前に負担を掛けなくて済むからな」
「???よく分かんねェんだけど…とりあえず、ナニって何?」
「…チ○コだよ」
「えっ!チ○コに被せんの!?こんな平らなのに?」

銀時は繁々とコンドームの袋を見つめる。土方はハァ…と溜息を吐いた。

「オメー、そんなんでよく今まで生きてこれたな。相手がしっかりしてたのか?」
「へっ?何のこと?」
「まあ、いい。これは丸まって入ってんだよ。広げると細長い風船みたいな形になってる」
「へぇ〜…それをチ○コに被せてどうすんの?」
「だから、セックスの前にこれを着ければ中に出さずに済むだろ」
「…何を出すの?」
「精液に決まってんだろーが」
「せいえきって何だ?」
「はぁ?チ○コから出るだろ」
「出るって…小便?」
「違ェよ!セックスん時の話してんだ。誰も厠の話なんかしてねーよ!」
「何でちょっとキレてんだよ!オメーの説明が分かりにくいからいけねェんじゃねーか。
そもそも、さっきから言ってる『せっくす』って何だよ!」
「………は?」

遂に銀時から決定的な一言が飛び出し、土方は時が止まったかのように硬直した。

「おい、何で止まってんだよ。せっくすが何か、早く教えろよ」
「ぎん…お前、マジで言ってんのか?」
「あ?当たり前だろ。トシなら頭いいから色々知ってると思って聞いたのによー…
何だよ。俺のことバカにしやがって…」
「そっそんなつもりじゃねェんだ。だが、その、お前の方が色々と詳しそうだと思っていたから…」
「俺、トシみたいに頭よくねェもん」
「そんなことはないだろ。…だが、まあ、知らないってんなら教えてやる」
「本当か?…難しい言葉使うのもナシだからな」
「お、おう」

了承したものの、セックスも知らない銀時にコンドームの使い方まで教えるのは至難の業だと思った。


(10.05.21)


銀土で連載していた「ぎんトシシリーズ」終了記念第二弾です(第一弾はその他小説)。ぎんトシシリーズと同じ「性の知識皆無の銀さん」でCP逆にしたら更に萌えるのではないかと常々思っておりました。

二人が「ぎん」「トシ」と呼び合うようになった経緯は…ご想像にお任せします(笑) 何も知らない銀さんに土方さんが色々教える紫の上計画…果たして上手くいくでしょうか?続きは18禁です