ご馳走から初エッチまで(銀時視点)


最近アイツの様子がおかしい。
アイツっつーのは、真選組の副長…つまり土方だ。
この前は団子を奢ってくれた。それから大福をくれたこともある。
そんでこないだ、非番らしく私服のアイツと会ったと思ったら昼メシに誘われた。

どうやらアイツは友達がいねェみたいで(まあ、そんな気がしてたけど)
休みの日も暇を持て余しているらしい。それなら飲み友達くらいにならなってやってもいいか…。
そんな上から目線で俺はアイツの次の非番の日にも会う約束をした。


*  *  *  *  *



約束の日。約束の時間ちょうどに待ち合わせの居酒屋に行ったら既にアイツはいた。
几帳面なアイツのことだから、遅れることはないと思って時間ピッタリに来たんだけど…
もしかして五分前行動ってヤツか?デートでもねェのにすげェな、アイツ。


「…そんでその時、総悟の野郎がバズーカぶっ放しやがって…」
「はははっ…沖田くんらしいな」
「笑い事じゃねェよ。後始末は全部こっちに回ってくんだ。…それに引き換えお前んトコのガキは
素直そうでいいよな」
「いやいや…そうは言うけどウチの神楽だってあの馬鹿力だろ?抑えるのが大変なのよ」
「そうか…オメーも苦労してんだな」
「分かってくれる?」
「ああ…まあ、飲めや」
「おう」

土方ってこんなに話せるヤツだったのか?
元々思考回路が似てるとは思ってたけど…妙な因縁ふっかけてこなきゃ、意外と楽しいじゃねェか。
そういやぁ、同年代のダチって俺もいないような…。ヅラのアホは一緒にいると疲れるからダチじゃねェし
坂本のアホも一緒にいると疲れるし、そもそも地球にほとんどいねェ。長谷川さんはああ見えて
一応かなり年上だしな。なるほど…たまにはガキでもオッサンでもアホでもねェヤツと酒を飲むのもいいな。

「なあ土方…オメー次の休みっていつ?」
「…△日」
「空いてる?」
「ああ」
「じゃあ、また飲みに行かねェ?…今度は屋台でどうだ?」
「ああ」

次の非番の日も、アイツと会う約束をした。



*  *  *  *  *



「銀さん、今日お登勢さんが焼肉屋、連れて行ってくれるそうですよ」
「マジでか!?…あー、今日はダメだ。オメーらだけで行ってくれ」
「えっ!先約でもあるんですか?」
「まあな。…帰りは遅くなるかもしれねェから神楽、オメーそのままババァんトコに泊めてもらえ」
「それはいいアルが…焼肉より大事な用って何アルか?」
「大事っつーか…先に決まってたのは向こうだし、アイツ結構忙しいから変更すんの難しいしな」
「もしかして、土方さんですか?」
「ああ」
「最近よく飲みに行きますよね」
「まあな。アイツ、友達いねェから」
「じゃあ私も友達になってやるネ。そしたら酢こんぶ食べ放題アル!」
「神楽ちゃん…それ、友達じゃないよね?」
「いいじゃねェか。…酢こんぶ買ったら友達増えるって言っといてやるからな」
「きゃっほーぅ!」

案外面倒見のいいアイツのことだ。友達はともかく、神楽とも仲良くやれんだろ。

それにしても肉…惜しいことしたなァ。アイツと飲むのも楽しいけど、でも、肉かァ…。
こうなったら今日はとことん飲んでやる!



「万事屋、何か嫌なことでもあったのか?」
「あぁ?何でもねェよ」
「それにしちゃ、やけに飲むペースが速くねェか?」
「何でもねェって」

まさか「焼肉食いたかったけどお前と約束してたから…」なんて言うわけにもいかず
俺はひたすら酒を呷った。



「おい、万事屋、大丈夫か?フラフラじゃねェか…」
「らいじょーぶ、らいじょーぶ」

ったく…これくらい余裕だってのに土方の野郎は過保護だな。
なんかウチまで送ってくれるみたいだし、お言葉に甘えて楽させてもらおう…

「ったく、少しはテメーの足で歩け!」
「はいはーい」

あー…もうウチに着いたのか…。じゃあ、寝てもいい、よな…。
なんかアイツにおんぶされてる気もしたけど、すげェ眠かったから寝ることにした。



「う゛ー…」

やべェ…気持ち悪ィ。ここ…玄関か?ここで吐いたら新八に怒られる…。

「どうした?吐きそうか?」
「う゛ー」
「ちょっと待て!」

何とか頷くと、アイツが俺のブーツ脱がせて厠へ連れて行ってくれた。…セーフ!



「あ゛ー…」
「大丈夫か?…ほら、水」
「どうも…」

全部吐いたら大分楽になった。
土方は俺を事務所の長イスに座らせて、台所から水を汲んで持って来てくれた。

「今日はもう寝たらどうだ?」
「うん、そうする…」

俺はそのままイスに横たわった。

「おい、布団で寝ろよ」
「…ここでいい」
「ったく…」

アイツが何かごそごそやってる音がしたが、俺はとにかく眠かったので寝ることにした。



*  *  *  *  *



「んー…?えっ?ひじ、かた…?」

目が覚めたら至近距離に土方の顔があった。
しかも俺の頭の下には土方の腕…これって腕枕ってヤツじゃね?えっ?何で?

「んっ?ああ…起きたか」
「おはよう…って、えっ?」
「ンだ…覚えてねェのかよ…」
「えっと…昨日、一緒に飲んで、それから…」
「酔ってフラフラなオメーを俺がここまで連れてきたんだ」
「あっ、そうなの?それはどーも」
「どーいたしまし…っ!」

俺に続いて起き上がろうとしたアイツの動きがピタリと止まる。…どうしたんだ?
なんか、ストレッチみたいなことやってる…。腰、さすってる?えっ、腰、痛いの?まさか…

「あの…体、どうかした?」
「ん?ああ、大したことねェよ。俺も酔ってたしな…」
「俺、全然覚えてねェんだけど…何かした?」
「別に…。まあでも、あんま飲みすぎんじゃねェぞ」
「う、うん…」

えっ…ナニその含みのある言い方。「大したことねェ」とか「別に」とか言ってんのに
「飲み過ぎるな」ってことは…絶対、俺、何かしただろ!何ってまさか…ナニか?
いやいやいや…それはナイ!だって相手は土方だよ?俺、ホモじゃねェもん!
でも起きたら腕枕だったし…。いや、だけど…

何があったかよく分からないけど、とりあえず土方にメシ作ってやって体力回復させてから帰ってもらった。



気になる!メシ食ってた時も帰る時も土方は何も言わなかったけど、やっぱり気になる!
昨日、何があったんだ?思い出せねェなら状況から推測するしかねェ。
…まず、起きたら土方の顔が目の前にあって、腕枕だった。…一つの布団で寝たのは間違いねェよな。
つーか布団って俺が敷いたのか?…無理だろ。俺がフラフラだったから送ったって土方言ってたし。
ってことは、布団は土方が敷いたんだよな。…一組だけ?もしかして…俺、襲われた?

いや、アイツは酔って意識朦朧としてる相手をヤるようなヤツじゃねェよ。
それに、俺ちゃんと服着てたし。…ちょっと帯とベルトが緩んでたけど、パンツもズボンもちゃんと
履いてたから、襲われたってことはねェな。カラダに違和感もねェし。それどころかスッキリしてるし。

…スッキリ?そういやぁ何で泥酔した翌日なのにスッキリしてんだ?
ままままさか…俺が土方を襲っ……ンなわけねーよ!そっそりゃあ確かに帯とベルト緩んでたけども!
でも…そう!土方だって服着てたし!……アイツ、着流し一枚だよな?ペロっと捲ればヤれるよな?
…いやいやいやいや!違うって!だって、えーっと………ダメだ。アイツがパンツ履いてたかどうかなんて
確認してねェ。いや、でもさァ…いくらなんでもそれは…。

そういえばアイツ、腰辛そうにしてたな…。でっでも、襲われたら抵抗するだろ?
酔っ払いの俺なんか、アイツの敵じゃねェよ。そうだよ!だから違う!きっと、違う!
…アイツ「俺も酔ってたしな」とか言ってなかったか?「俺も酔って」たから何なんだよ!
ヤっちまったのか!?酔った勢いで!?

…いくら酔ってたからって野郎相手に勃つか?
土方と一緒にいるのは楽しいと思ってるけど…でも、それはダチとしてであって恋人とかそういうんじゃ…。
けど…ヤっちまったんだとしたら男として責任取らなきゃいけねェよな。…土方も男だけど。
考えてみれば、今までだってデートだと言えなくもないことしてたし…一夜を共にしたわけだし
好きか嫌いかで言えば、もちろん「好き」だし、焼肉よりもアイツとの約束優先させたし…。

もしかしたら気付いてなかっただけで、本当は土方と恋人同士になりたかったのかもな。
酔ったせいで本音が飛び出したってヤツ?あー…だとしたら納得かも。
よしっ!土方にきちんと俺の想いを伝えよう!


*  *  *  *  *


翌日、俺は土方に電話をかけた。
好きだと自覚したからか、受話器を持つ手が震える。

暫くコール音がした後、電話がつながった。

『はい』
「あっ土方?俺だけど…今、仕事中?」
『ああ』
「そっか。じゃあ、かけ直…いや、夜、そっちに行ってもいい?」
『あ、ああ…』
「何時くらいなら大丈夫?」
『そうだな…七時以降なら…』
「分かった。じゃあまたね」
『おう』

ふー…緊張した。
電話で言ってもよかったけど、やっぱこういうことは直接伝えた方がいいからな。

*  *  *  *  *

「どうしたんだ、今日は」
「あー…えっとね…」

夜になり、俺は約束通り屯所に行った。…いざとなるとすげェ緊張するな。
心なしか土方の表情も強張っているように見える。言うぞ…ちゃんと言うぞ…。

「あっあの…昨日のことなんだけど…」
「昨日?」
「あっ、昨日っつーか、一昨日の夜っつーか…」
「ああ…お前ん家に泊まった時のことか?」
「うん」

あー…心臓がバクバクうるせェェ!鎮まれェェェェ!!

「あの日が、どうかしたのか?」
「どうかっつーか、その、俺…あんま覚えてねェけど、起きたらオメーが隣で寝てて
その…ビックリしたっつーか、えっと…」
「…互いに酔ってたんだし、別に気にするこたァねーよ」
「そうなんだけど、でも土方は…カラダ辛そうだったし…」
「あれくらい、どうってことねェよ」

コイツは酒の上の戯言だと思って、無かったことにするつもりらしい。
それじゃダメだ!俺の気持ちを伝えねェと…

「それで俺、一人になって冷静に考えてみたら…その…俺、お前のことが…すっ好きだ!…と、思う」
「はっ?」
「い、いきなりで驚いたかもしんねェけど…俺も気付いたのは今日だけど…でも
あんなコトをしたのは、きっと、前から土方のことが…」
「万事屋…」

土方は俺を見つめたまま黙っちまった。
そうか…コイツは完全に酔った勢いでヤっちまっただけだったんだな…。

「あ、あの、土方?急に変なコト言って、その…ゴメン」
「謝ることなんかねェよ。俺だってずっとお前のことが…」
「えっ?」
「好きだ、よろっ……銀時。お前が、好きだ」
「ひじかた…」

今、初めてコイツに名前呼ばれた…。

「これからもよろしくな、銀時」
「ああ。こちらこそよろしく」

こうして俺達はハッピーエンドを迎えた。


…はずだった。まさか、あの日の真実があんなコトだったなんて…。


(10.04.19)


銀さんは大きな勘違いをしています^^ 続きはこちら