※単独でも読めますが「他人は思い通りに動かない」の続きとなります。
※お読みになっていない方でも、二人がバカップルだということが分かっていれば大丈夫です。
甲斐甲斐しい銀さん
「ふっふふ〜ん♪」
本日は晴天なり。気温・湿度ともに快適。
そんな麗らかな陽気の中、銀時は足取り軽く鼻歌交じりに歩いていた。
目的地は恋人の職場兼自宅―真選組の屯所である。
「よ〜ジミー。十四郎いる?」
「あっ、旦那…副長は今、ちょっと出てるんですよ。でも、すぐ戻るから待っててくれって言ってました」
「そう?じゃあ、お邪魔しま〜っす」
勝手知ったる様子で銀時は屯所に入っていく。
この二人、毎日逢いたいというだけの理由で土方が市中巡廻中に万事屋へ寄ったり
こうして銀時が屯所を訪ねてきたりしている。
逢ったからといって何をするわけでもなく(大抵、土方は仕事中なので)
「元気?」とか「いい天気だな」などと一言二言話して終わる。
初めのうちは真選組メンバーも他の万事屋メンバーも毎日飽きずに続く逢瀬に驚いていたが
今ではすっかり日常の一コマになっていた。
そんなわけで、山崎は何の疑問も抱くことなく、土方の留守中に銀時を土方の部屋へ案内した。
「…どうしたんですか?」
副長室の襖の前まで来て、銀時は立ち止まってしまう。
何やら考え込んでいる風の銀時に山崎が声を掛けた。
「あのさァ…このまま入って大丈夫?」
「へっ?旦那なら大丈夫ですよ。…まあ、本来は隊士以外を入れるのはマズイんですけどね」
「いや、そういうことじゃなくてよー…このまま入って、十四郎の部屋が汚れねェ?」
「…はぁ?」
山崎は銀時の言っていることが理解できなかった。
それを感じ取り、銀時は「やれやれ」といった体で説明する。
「だからさァ…もし廊下が汚れてて、そのまま中に入ったら十四郎の部屋が汚れんじゃん。
俺の足の裏が汚れんのはどうでもいいけどよ…留守中に部屋を汚すワケにはいかねェだろ?」
「はぁ…」
「で、どうなの?ちゃんと掃除してる?」
「あ、はい。新人が毎日交代でやってます。それに…」
「そっか。それなら良かった」
まだ何か言いたそうな山崎を置き去りに、安堵の表情で銀時は襖を開け…
ようとして思い留まり、着物で手を拭いてから襖を開けた。
「うっわ…」
部屋の中を見た銀時は絶句した。
出かける直前まで喫煙していたのだろう。閉め切った部屋は空気が淀んでいて昼間なのに薄暗い気がする。
畳の上には机に乗りきらなかった書類が山になっており、一部雪崩を起こしている所もある。
山崎は先程言えなかったことを今なら言えると思った。
「ねっ?副長の部屋の方がアレなんで、廊下の汚れとか気にすることないですよ。
…何だったら別の部屋で待ってますか?」
「いつもはこんなんじゃねェのに…何で?」
「局長が出張中なんで、そのツケが全部副長に回ってるんですよ。
尤も、年度が変わるこの時期は色々作る書類も多くて、局長がいても大差ないですけどね。
局長の部屋だって…」
「ジミー、掃除用具貸してくれる?」
土方以外には興味がないようで、またしても山崎は話を途中で遮られる。
だがそれ以上に山崎は、自分の話を遮って発せられた銀時の言葉に驚きを隠せなかった。
「もしかして旦那、この部屋を掃除するつもりですか?」
「当然だろ?十四郎にはいい環境で仕事してもらいてェし」
「あ、いや…でも、そういうことなら手の空いた隊士にでもやらせますから…」
「いいって。他のヤツらも十四郎程じゃねェにしたって忙しいんだろ?旦那の部屋くらい俺が掃除するって」
「はははっ…そ、そうですか。…じゃあ、俺、掃除の道具取ってきますね」
「よろしく〜」
引きつった笑みを浮かべながら山崎は廊下を走って行った。
すれ違う隊士に「旦那が旦那とか言って掃除する気なんだけど!何だよ、あのバカップル!」と
言われた方は何が何だか分からない不満を漏らしながら、掃除用具が置いてある場所まで行った。
「これでいいですか?」
「サンキュー」
銀時は山崎からホウキとチリトリ、水を汲んだバケツと雑巾を受け取った。
掃除用具を渡しても部屋から出ようとしない山崎を銀時が不思議がる。
「あれっ?ジミーも掃除、手伝ってくれんの?」
「ええ、まあ…。書類の整理なんかは、俺の方でやりますんで…」
「仕事に関しちゃジミーの方が詳しいもんな。じゃあ、そっちはヨロシク〜」
「はい」
実を言うと、山崎も近いうちに土方の手伝いがてら部屋を片付けようと思っていたのだ。
土方のことに関しては常に頭の中が春爛漫の銀時と一緒にいるのは辛いが、これも仕事だと割り切ることにした
。
山崎が書類を締め切りの早い順に積み直し、何処からか持ってきた箱に詰める。
銀時は灰皿を空にし、書類が全て箱に納まったのを確認してから障子を開けて新鮮な空気を取り込む。
「十四郎はすげェよなー。面倒な仕事もちゃんとこなしててさァ」
「そうですね」
「それに十四郎はすげェよ。書類仕事続いてる時でも剣の鍛練欠かさねェんだぜ」
「そうですね」
「本当に十四郎ってすげェよ。一緒に仕事ができてココのヤツらは幸せだよなァ」
「そーですね」
山崎は何を言われても某お昼の人気番組の観客のような返事しかしなかった。
銀時の話を聞いていないのではなく、下手に土方の話をして銀時の「十四郎自慢」に拍車がかかるのを危惧して
いるのだ。
それでも銀時は土方が如何にいい男かを滔々と語っている。その間も掃除の手は止めない。
どのような方法を用いたのかは分からないが、銀時が掃除した場所は壁から畳から全て新品同様の輝きを取り戻
していた。
(すごい…普通に水拭きしてるだけに見えるのに、煙草のヤニでくすんだ壁も真っ白だよ。
何コレ?どんな魔法?)
銀時に掃除のコツを聞いてみたいとも思ったが「十四郎の部屋だから頑張った」とか返ってきても反応に困ると
思い
山崎は疑問をそのままにしておいた。
大方掃除が終わったころ、土方が戻ってきた。
出てくる時と全く別の部屋のようになった自室を見て、土方が目を丸くする。
「すげェな…」
「あっ、十四郎おかえり〜」
「銀時…お前が掃除してくれたのか?」
「うん。お仕事、頑張ってね」
「ありがとな。気合い入ったぜ」
「じゃあまた明日」
「ああ」
「えっ…」
あんなにも雑然としていた部屋をこんなにも綺麗にしたと言うのに
銀時はいつも通り少し言葉を交わしただけで帰っていった。土方もそれを特に名残惜しいとは思っていないよう
だ。
山崎だけがこの状況をおかしいと感じていた。
(本当に旦那帰っちゃったよ…。まあ、確かにこれからあの大量の書類を片付けなきゃいけないから
旦那といちゃつかれても困るけど…あっ、もしかして旦那はそれが分かってて?そうなのかァー。
バカップルとか皆に言われてるけど、副長のことを第一に考えられる旦那は凄いと僕は思いました)
* * * * *
翌日、今度は土方が万事屋を訪れた。
「いらっしゃい」
「昨日は掃除ありがとな。おかげで仕事が捗ってるぜ」
「そう?良かった」
「ああ。明日の夜にはゆっくり会えると思う」
「マジで?だってあんなにたくさん書類があったのに…」
「お前のおかげで気合が入ったんだって」
「そっか…でも、あんま無理すんなよ」
「ああ。…じゃあまたな」
「うん」
宣言通り、土方は残り二日で全ての書類を片付け、久々の甘い夜を過すため万事屋へ向かうのだった。
(10.03.31)
タイトルにあるように、銀さんが土方さんの部屋を掃除してあげる話なのですが、あまりに土←銀っぽくなってしまったので、翌日の話を付け加えました。
それでもあまりバカップルっぽくならなかった^^;前に書いた土銀小説が別れ話だったので、甘い感じの話が書きたくなったんです。もっと甘い話が書きたい!バカップルが書きたい(笑)!
バカップルに大人の分別を付けたらバカップルでなくなることが分かったので、次は大人気ないバカップルを書きたいです^^ ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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