僕の雇い主―万事屋銀ちゃんこと坂田銀時は、真選組の副長と恋人同士らしい。
僕はつい最近その事実を知ったのだが、神楽ちゃんに言わせると、随分前から二人は好き合ってたようだ。
最初は男同士ってことに驚いた。でも、二人がいいなら周りがどうこう言うことじゃないなって思うようになった。
…そう、二人の問題ってことは重々承知してる。承知してはいるのだが…どうしても疑問に思うことが一つだけある。
それは…土方さんは銀さんのどこが好きかということだ。
土方さんは特別武装警察の副長で、収入もかなりあるに違いない。
前に近藤さんが姉上の店でドンペリを何本も注文していたと聞いたことがある。
ドンペリってとんでもなく高いんだよね?それを何本も注文できるってことは、近藤さんはかなりお金を持ってるってことで
近藤さんのすぐ下の役職である土方さんも、結構稼いでるってことだ。
そして土方さんは見た目も格好いい。女性にもモテそうだ。そういえば近藤さんが「真選組一のモテ男」とか言ってた気がする。
…まあ、真選組にそれ程モテる人がいるかどうかは分からないから、「真選組一」っていうのがどれだけ凄いのかは分からないけど。
それだけじゃない。土方さんはとても真面目で仕事熱心だ。真選組の頭脳とか呼ばれるくらいだから、仕事もできるんだろう。
田舎から出てきたって話だから、小さい頃から勉強してたってわけじゃなさそうだ。
それなのにできるってことは、努力も怠らないんだろうな。
とにかく土方さんは同じ男として羨ましいというか、見習いたいというか、凄いところがいっぱいある人だ。
…マヨネーズのこととなると急に頭が悪くなるみたいだけど…それを差し引いても、やっぱり凄い人だと思う!
それに引き換え銀さんは…マダオだ。
確かに、いざとなったら頼りになるし、とても強い人だとは思う。
でも、普段は真面目に仕事しないし、それで失敗すると人に押し付けるし、僕や神楽ちゃんに給料くれないし
天然パーマだからモテないって言ってるし、向上心の欠片もないし…土方さんとは正反対だと思う。
どうして土方さんは銀さんを選んだんだろう?
銀さんに聞いたら「アイツが俺を選んだんじゃなくて、アイツがどーしてもっつーから、俺が付き合ってやってんの!」って言われた。
これって本当だろうか?銀さんのことだからテキトーなことを言って誤魔化してるのかもしれない。
機会を見つけて、土方さんに聞いてみよう!
銀さんのどこが好きか、土方さんに聞いてみた
ある日、土方さんが万事屋に来た。時間は午後3時頃。
いつもの制服姿じゃないところを見ると、今日は休みなのかな?でも…
「あの…すいません。今、銀さん出かけてて…いつ戻るかも、その、分からないんです」
「仕事か?」
「いえ、違うんですけど…その…」
「…パチンコか?」
「あ、はい、多分…すいません」
「いや、別に構わねェ…あー、ちょっと中で待たせてもらってもいいか?」
「えっ!あ、はい、どうぞ」
「悪ィな」
ど、どうしよう!神楽ちゃんも遊びに行ってて居ないし…何だか気まずいな。銀さん早く帰って来ないかなー。
昼前に出て行ったからそろそろ帰ってくるかな?つーか、土方さんと約束してたんだったら、パチンコ何か行くなよ!
…そんなことを思いながら土方さんにお茶を出した。
「あの…ホントにすいません」
「お前が謝るこたァねーだろ」
「いや、まあ…そうなんですけどね」
「それに、約束してたわけじゃねェしな」
「あっ、そうなんですか?」
なんだー、銀さんが悪いわけじゃなかったのかー。
「これ…よかったら食ってくれ」
「あっ、いつもすいません」
土方さんは白いケーキ屋のロゴが入った箱をくれた。おそらく、銀さんの好きなケーキが入っているんだろう。
そして、銀さんの分だけじゃなく僕や神楽ちゃんのも…こんな風に気が利くのもモテる秘訣なのかな。
…ここまで考えながらケーキの箱を冷蔵庫にしまおうとした時、ふと「今しかない」と思った。
常日頃から疑問に思ったことを、今なら聞ける!僕は意を決して土方さんの向いのソファーに座った。
「あの…土方さん」
「…なんだ?」
「土方さんに、その…聞きたいことが、ありまして…」
「ああ?聞きたいことォ?」
「は、はい…」
ちょっとォォ!この人、何でこんなに怖いの!?僕まだ何も言ってないよ!
何か不機嫌なんですけど!お茶が薄いのは…いつものことだしな。じゃあ何で…。
「おい」
「は、はい!」
「言いてェことがあんなら、さっさと言え」
「あっ、はい」
こ、怖ェェェ!!さすが鬼の副長…じゃなくて!この状況で「銀さんのどこが好きなんですか?」なんて下らない質問できないよ!
どーしよう…考えろ、考えるんだ新八!土方さんは何で不機嫌なのか。…土方さんといえばマヨネーズ。
でも、さすがにお茶には必要ないだろう。銀さんが帰ってこないから?
いや、来てから10分も経ってないし、それはないよな。あとは…あっ!煙草!そうだ、きっとそうだよ!
「あの…良かったらコレ、使って下さい」
「ああ、悪ィな」
あっ、ちょっと笑った!良かったー。灰皿がないからイラついてたのかー。
…それにしても煙草ひとつでこんなに不機嫌になるなんて…土方さんのマイナスポイントってマヨネーズだけじゃなかったんだな。
…あっ、でも煙草吸ってる姿は様になってるな。
「…で?」
「はい?」
「聞きたいことってのは何なんだ?」
「ああ…大したことじゃないんですが…その、銀さんの、どこが好きなんですか?」
「………は?」
あ、あれっ?僕、何か間違えた?つーか、聞いちゃいけなかった?
「いや、その…土方さんは格好いいし、仕事もできるし…でも、銀さんはマダオだし…」
「まあ、その通りだな」
えっ?自分がいい男だって認めたよこの人。
確かに凄い人だけど、普通こういう時って「いや、そんなことは…」とかなるんじゃないの?
「あ、あの…だから、そんな土方さんが、銀さんとどうして付き合っているのかなって…」
「ああ、そういうことか」
「は、はい。で、どうなんですか?」
「…アイツのいいところか…思いつかねェな」
「えっ!?じゃあ、何で銀さんと付き合ってるんですか?」
「そ、それは……どうでもいいだろ!」
「よくないですよ。知りたいんです」
「つ、付き合う理由なんざ、決まってんだろーが」
「えっ、何ですか?僕、お付き合いとかってしたことないから分からなくて…」
「…す、好きだからに決まってん、だろ」
うわー顔真っ赤。何だか僕まで恥ずかしくなってきた…。
あっ、でも、結局どこがいいのか答えてもらってないぞ。
「あの…それで、銀さんのどこが好きなんですか?」
「……」
あれっ、黙って俯いちゃった…。えっ、そんなに言いにくいことなのかな?
も、もしかして、爛れた大人の事情とか…うわー、そうだったら聞きたくないなー。聞かなきゃよかったなー。
「あ、あの、土方さ…」
「…るせー」
「えっ?」
「うるせェよ!アイツのどこが好きかなんて知らねーよ!気付いたら惚れてたんだよ!お前、もう黙ってろ!」
「あ、はい。すみません」
な、なんで急に怒り出すんだよー。さっきまで真っ赤になって照れて…て、あれっ?今も真っ赤だ。
もしや怒ってるんじゃなくて恥ずかしいのか?よくよく考えてみれば、答えにくいこと聞いてるよな。
あー、でも、銀さんがすごく好きなんだってことは分かった。銀さんって幸せ者だなー。
…あれっ?ってことは銀さんが言ってた「アイツがどーしてもっつーから、俺が付き合ってやってんの!」って事実なんだろうか?
よし、今度は銀さんに聞いてみよう!
(09.08.02)