かぶき町を巡るたび、あの銀色を捜すようになったのは何時からだろう。
あの銀色を見るたび、声を聞きたいと思うようになったのは何時からだろう。
あの声を聞くたび、その手で触れてほしいと思うようになったのは何時からだろう。
銀さんへの想いを自覚した土方さんがお付き合いを始めるまで
「土方さん、いいコトお教えしやしょうか」
ここは真選組の副長室。見回りという名のサボりから戻った一番隊隊長は、自分に背を向けて書類と格闘している土方に声をかけた。
「…おめーの『いいコト』が本当にいいコトだった例がねーな」
「まあまあ、人の親切は受けとくもんですぜィ」
「…親切って言葉がこれ程似合わねェヤツも珍しいな」
「まあ聞きなせェ。さっきまでかぶき町を巡回してたんですがね…」
かぶき町、という言葉に土方の肩がピクッっと揺れた。それを見た沖田は笑みを濃くしながら話を続けた。
「とある甘味処の前で、万事屋の三人に会ったんでさァ」
「……」
土方の返事はないが、気になっているのは一目瞭然である。今や筆を机に置き、完全に沖田の方へ向き直り、話を聞く体勢になっている。
「しかし何時まで経っても店に入る気配がないんでワケを聞いたら『ツケを払うまで入店禁止になった』と言ったんでさァ」
「…ろくでもねーヤツだな」
「俺も奢ってくれって言われたんですが、仕事中なんで仕方なく断って、自分の団子を食うだけにしやした」
その光景が目に浮かぶようで、土方は万事屋の三人を少し可哀相に思った。
「ところで土方さん、そろそろ巡回の時間ですよねィ」
「…何が言いてェんだ?」
「旦那には『ここで待ってたら、そのうち瞳孔開いた財布が歩いてくる』って言っておきやした」
「おい、まさかそれは俺のことじゃねーだろうな?」
「アンタ以外に誰がいるってんですかィ?」
「おいィィィ!てめー、何勝手なこと言ってやがる!」
「旦那と話すきっかけ作ってやったんだ、感謝しろよコノヤロー」
「誰がするかァァァ!何で俺が、万事屋と話せて感謝しなきゃなんねーんだよ!!」
「へいへい…じゃあ、俺はこれから昼寝の時間なんで失礼しやす」
「仕事しろォォォ!!」
* * * * *
やりかけの書類もそのままに、土方はかぶき町巡回に出た。
(べ、別に、万事屋に会いに行くわけじゃねー。俺は決められた仕事をしているだけだ。
も、もし、総悟の言う通り甘味処の前に万事屋がいたとしても、何の問題もねェ。
店の邪魔になってるようなら、警察として声をかけるだけだ。そう、これはただの仕事だ。)
脳内で誰も聞いていない言い訳をしつつ、沖田のいう甘味処へと歩いていく。
「おー、やっと来たか…待ちくたびれちまったぜ」
「…俺はてめーに会いに来たわけじゃねェ」
「つれないこと言うなよー。俺とお前の仲じゃねェの」
「お、お前と俺は無関係だ!」
「えー、ひどいなー。結構長い付き合いじゃねーか」
「ちちち近い!か、顔を近付けるな!耳元でしゃべんなァ!!」
「じゃあ奢ってくれる?」
言いながら土方の耳にフッと息を吹きかける。
「……っ」
「ねェねェ。奢ってくれないと、もっと近づいちゃうよー。んっ?ソッチの方がいい?」
「ふふふふふざけんなァァ!ああもう、団子でも何でも奢ってやるよ!」
「わーい、土方くん愛してる」
「!!」
「あれっ?顔、真っ赤だよ?どうした?」
「ううううるせー。さっさと店に入りやがれ!」
「はいはい。新八、神楽、行くぞー」
二人のやりとりを黙って見ていた子どもたちに銀時が声をかける。
「きゃっほう!団子食べ放題ネ!」
神楽が店に入っていく。
「こらこら、奢ってもらうんだからちったァ加減しろよー」
銀時も神楽に続く。
「土方さん、すいません」
新八も謝りながら二人に続き、その後ろから土方は店に入った。
* * * * *
「ふー、食った食った」
「土方さん、ごちそうさまでした。それから…ホントすいません」
結局、神楽が店のほとんどの団子を平らげてしまった。
新八は怖くて伝票を見ていないが、とんでもない金額になっていたことは分かるので、土方に謝っておく。
「ああ、もういい。じゃあな」
「あっ、ちょっと待ってよ」
仕事に戻ろうとした土方を銀時が呼び止めた。
「あ?まだ何かあんのか?」
「なあ、この後ヒマ?」
「おちょくってんのかテメー。俺は仕事中だ。」
「ああ、そうか…じゃあ夜は?屯所にいんの?」
「…ああ」
「ふーん。じゃあまた夜に」
「はっ、てめー屯所に来る気か?」
「まあまあ、身体キレイに洗って待っててよ」
「な、何でそんな!」
「ハハっ、じゃーまたなー」
(09.07.29)
photo by 素材屋angelo