片想いの銀さんが告白するまで〜序〜

 

 

坂田銀時が店先のいすに腰掛けて団子を食べているところに、土方十四郎が通りかかった。

巡回中なのか制服姿である。

銀時が何気なくそちらに視線を送っていると、それに気付いた土方が顔を顰めて近付いてくる。

 

「あ?ナニ見てんだコラ」

 

おー怖っ。ホントに警官かよコイツ。チンピラ警察とか言われてっけど…ただのチンピラじゃね?

 

「おいコラ、無視してんじゃねェぞ」

 

いくら顔見知りだからってさァ、制服のままこんな往来で、一般市民の俺にケンカ腰ってヤバイだろ。

でも一番ヤバイのは…

 

「黙ってねェで何とか言ってみろやボケ」

「…なんとか」

「なめてんのかテメーは!」

 

そんなコイツを可愛いとか思ってる俺だよな。見たところ俺と体格もほとんど変わらない、どうみても男の

コイツを…。最初はからかいがいのあるヤツとかって思ってた。こっちの冗談にいちいち本気で返してくる

コイツは見ていて飽きない。調子に乗りすぎて斬られそうになったことも幾度となくあるが、

俺の反射神経ならかわせない程じゃない。

 

それがいつの間にか、ガキみてェに突っかかってくるトコが可愛いとか思うようになって、

それからサラッサラの髪がキレイだなぁとか、モテそうな面してんなぁとか見た目も気に入って…

気付けばどんな悪態吐かれようと、睨まれようと、斬りかかって来られようと、コイツに会うのが嬉しくなってた。

 

こうなるともう、どうしようもない。男同士とか元攘夷志士と幕臣だとか田舎にいた頃からの想い人がいるとか、

色々と理屈付けたところで感情を押さえ込めるレベルじゃなくなってる。そもそも男同士って時点で抑えが

効かなかったんだから、今更何言われたって諦められるモンじゃねェんだ。

 

「おい、大丈夫か?頭ん中までパーになったか?」

「ああ…ちょっと考え事」

「考え事?…何かあったのか?」

 

さっきまでケンカ腰だったってのに、こんな時はすぐに心配してくれるんだ。

 

「まあ、たいしたことじゃねェよ」

「そうか」

「…あっ、やっぱりたいしたことかも」

「どっちなんだよ…」

 

面倒臭そうにしながらも、土方は俺の隣に腰掛けた。俺から話を聞いてくれるように

仕向けておきながら、本当に聞く態勢になってくれると嬉しくて思わずニヤケそうになる。

ダメだダメだ。深刻な悩みを打ち明ける感じにしねェとコイツは俺にからかわれたと思っちまう。

 

「お前ェはさ…」

「ん?」

「絶対に結ばれない人を好きになったらどうする?」

「……それは、アイツのことを言ってんのか?」

「あっ…悪ィ。そういうつもりじゃねェんだ」

 

アイツというのは土方の想い人のことだ。今はもうこの世にいないんだから、絶対に結ばれない人だ。

…まあ彼女が生きていたとしても、土方は彼女と一緒になる気はなかったんだ。互いに好きあってたのにな。

 

「そうじゃなくて、俺の話だよ」

「万事屋…お前ェに好きなヤツでもいんのか?」

「まあね。…つーか、そんなに驚いた顔しなくてもいいじゃん」

「あ、ああ悪ィ。…で、どうして結ばれねェんだ?」

「まあ、色々あって…」

「人妻か?」

「いや、独身」

「恋人でもいんのか?」

「いや、いねェよ」

「…天パアレルギーとかか?」

「お前ね…珍しく銀さんが真面目に話してるってのに」

「すまん。だが…向こうに相手がいねェなら望みはあんじゃねーの?」

「そういうワケにもいかねェの」

「そんでテメーの想いを伝えもせずに諦めんのか?」

「…簡単に諦められたら苦労しねェよ」

「じゃあ想いを伝えりゃいいだろーが」

「だから伝えても無駄なんだって…」

「伝えてもいねェのに何で分かんだよ。テメーはそいつと一緒になりたいんじゃないのか?」

「一緒になるっつーか…そりゃあ一緒にいたいとは思うけど…」

 

男同士だから一緒になるのは無理だ。…例え無理じゃなかったとしても俺とコイツは絶対に無理だと思う。

 

「だったらウジウジしてねェで、とっとと告白してこい」

「いや、だからダメなんだって…」

「伝えなきゃ絶対に実らねェ」

「伝えたって…」

「伝えたらもしかして実るかもしれねェ」

「……」

「『絶対』と『もしかして』は大分違いがあると思うがな」

「…それもそうだな。サンキュー土方。今すぐ告白とはいかねェが…やれるだけの事はやってみるわ」

「ああ、そうしろ。…じゃあな」

「おう」

 

土方は煙草に火を付けて立ち上がると、振り返ることなく巡回に戻っていった。俺は何だか楽しくなっていた。

さっきまで絶対無理だと思ってたのに、もしかしたら…って思えてきた。土方の言う通り「絶対」と「もしかして」は

大違いだ。とりあえず、こうやって話を聞いてくれて励ましてくれるんだから嫌われてはいない。

よしっ、次に会ったら「今日のお礼」とか言って飲みに誘ってみよう!そのためには金を貯めなきゃな。

誘っておいて割り勘じゃカッコ悪ィもん。 

 

 

俺は万事屋開業以来初めて真面目に働こうと思った。

(09.09.18)


銀土馴れ初め話:銀→土版です。いつもなら多少長い話も前中後編まとめてアップするのですが、この話はそれより長くなりそうなので「序」としました。

珍しくシリアスな感じになると思います。まあ、私の書くシリアスなのでそんなにシリアスじゃないかもしれませんが(^^; 続きはこちら