真面目に働こうと決意してから数日経った日の夜7時頃、俺はコンビニで働いていた。

昼間は新八と神楽も一緒だったが、さすがに朝から夜までガキ共を働かせるわけには

いかねェから、夕飯前に長谷川さんと交代させた。

 

「いやー長谷川さんが無職で助かったぜ」

「好きで無職なんじゃないからね。俺は全然助かってないからね」

「バイトとはいえ、こうして仕事にありつけんだから長谷川さんだって助かってんだろ?」

「そりゃあそうだけどよ…」

「だったら客のいねェ今のうちに、床磨いといてー」

「銀さんもやれよ!」

「俺はもしものためのレジ番だよ。コンビニ強盗とか来たら大変だろ?」

「ちぇっ、自分だけ楽してよー」

「何言ってんの?俺は真面目に働こうと決めたんだよ?」

「はいはい、そうですか…」

 

全く信じてないっつーのを隠そうともせず、長谷川さんは床掃除のモップを取りに行った。

すると自動ドアの開く音がした。

 

「いらっしゃいま…あっ!」

「げっ!」

 

入ってきたのは土方だった。まだ仕事中なのか制服姿である。

 

「なんで万事屋がこんな所に…」

「バイトだよ、バイト。ここの店長が家族旅行するっつーんで店を任されたんだよ」

「そうか…メガネとチャイナもいんのか?」

「昼間はいたけど、長時間になるから夕飯前に別の人と交代させた」

「そうか…」

「そうそう、銀さんそういうトコはちゃんとしてっからね」

「自分で言うなっ」

「ははっ…そういうオメーこそまだ仕事?」

「ああ、書類が溜まっててな…今日は徹夜になりそうだ」

「お巡りさんも大変だね。で?夕飯のマヨネーズでも買いに来たの?」

「夕メシはもう食った…煙草が切れたんで買いに来たんだ」

「ああそっちか。…お前の吸ってるのってコレだっけ?」

 

俺はいつも土方が吸っている煙草を一箱レジカウンターに置くと、土方が驚いたような顔をした。

 

「…よく覚えてたな」

「そりゃあ、あんだけ吸ってるトコ見れば嫌でも覚えるって」

 

嘘だ。本当はコイツのことなら何でも覚えてる。

 

「そうか…じゃあ、それを1カートンくれ」

「はいよー」

 

後ろの棚から煙草を出して振り返ると…土方がいねェ!ん?何だ…しゃがんでんのかよ。

金でも落としたか?いや、様子が変だぞ。

 

「お、おい、ひじかt…」

「何でもねェっ。これっ、釣りはいらね、から…」

「あ、ああ…じゃなくて!お前どうしたんだ急に?顔赤いし汗だくだし…熱でもあんのか?」

「だい、じょぶ、だ…くっ!」

 

カウンターに手を付いて立ち上がり、金を置くと煙草を持って土方は店を出た。

足取りはフラついていて呼吸も荒く、明らからに大丈夫じゃない。

ちょっと前まで普通に話してたのに…こんな所を攘夷浪士に見つかったらマズいんじゃねェの?

 

「長谷川さん、あと頼む!」

「ええっ!?ちょっと銀さん!」

 

俺は店を飛び出した。ここから屯所はそれほど離れてない。

あの状態の土方でも無事に帰り着けるかもしれないが、でも…

 

「…!」

 

走り出すよりも前に店の裏で人の気配がした。俺は気配を殺してそこに近づいた。

 

「ひじかた?」

「ひっ!よ、よろずや…」

 

店の裏にいたのは土方だった。俺と土方が店を出た時間差からして、襲われたわけではなさそうだ。

服が多少乱れてるのは、具合が悪くてここに倒れ込んだからか?

 

「お前…具合悪いんだろ?店の奥に従業員の休憩室があるから、そこで休んでいけば?」

 

俺が歩み寄ると土方はズリズリと座ったまま後退していく。

 

「くっ、来るな!」

「来るなって…お前の状態フツーじゃねェだろ?」

「い、いいからっ、ほっとけ!」

「ほっとけるワケねーだろ!」

「やめっ!」

「…えっ?コレって…」

 

 

どこまでも意地を張る土方にちょっとイラついて、俺は素早く近付くと土方の腕を掴んで

無理矢理立たせた。そこで俺は服が乱れていた本当の理由を知った。

 

 

 

*  *  *  *  *

 

 

 

「きょ、局長大変です!」

「どうしたんだ?メシくらい落ち着いて食わせてくれ…」

「それ、食べちゃダメです!」

 

部屋中に響き渡る声で隊士は叫んだ。驚いて他の隊士たちも動きを止める。

ここは真選組屯所内食堂。今からまさに夕飯という時に、一人の隊士が慌てて駆け込んできたのである。

 

「食べちゃダメって、どういうことだ?」

「それが、先程捕まえた攘夷浪士が屯所の食事に毒を盛ったと吐いたんです!」

「なにィ!屯所に忍び込んだアイツか?」

「そうです!それでとにかく早く食事を止めさせようと…」

「そうか!よくやった、おかげで皆助かったぞ!」

「は、はい。間に合って良かったです」

「いやー、良かった良かった。じゃあ、今日は出前でも取るか?」

「あ、あの…局長…」

 

少し離れたところで二人の会話を聞いていた山崎が蒼褪めた顔で会話を遮る。

 

「どうした山崎?」

「そ、その…仕事が間に合わないから、食事を部屋に運んでほしいと言われて…俺、副長に…」

「何ィ!?早くトシに知らせるんだ!」

「そ、それが…少し前に食事を終えて、煙草を買いに…」

「もう食っちまったのか!?」

「ど、どうしよう…俺のせいで、副長が…」

「お前のせいじゃない!よしっ、皆で手分けしてトシを捜すんだ!そんなに遠くには行ってないはずだ!」

「は、はい!」

「だが慎重にな。くれぐれもトシが弱っていることを他の連中に悟られないようにするんだ」

「分かりました」

「総悟!」

「へい」

「お前はココに残って、捕まえた攘夷浪士に毒の種類を吐かせろ!何をしても構わん」

「分かりやした」

 

 

*  *  *  *

 

 

数時間後、疲弊しきった顔で屯所に戻ってきた近藤を沖田が迎える。

 

「近藤さん…」

「すまない。トシを見付けることができなかった」

「安心して下せェ…食事に混入したのは死ぬようなモンじゃありやせんでした」

「ほ、本当か?」

「はい。毒っつーより、薬といった方がいいかもしれやせん。症状が完全になくなるまで

一週間ほどかかるようですが、命の危険はないようですぜィ」

「そ、そうか…。で、どんな症状が出るんだ?」

「ああ、これが薬の資料でさァ。それなりにメジャーなものらしくネットで簡単に調べられやした」

「お、おい総悟これは…」

「まあ、下手に帰ってくるより一人にさせてあげた方がいいと思いますがね」

「それはそうなんだが…もし誰かに襲われでもしたら…」

「その点は大丈夫でさァ。さっき土方さんの携帯から連絡が入りやした」

「な、なんて!?」

「今かぶき町内のホテルにいるみたいで、とりあえず薬の説明をしておきやした」

「ホテル…」

「連絡があってすぐ山崎をそのホテルに向かわせて、極秘捜査のため一週間その部屋を借りる

手続きをさせやした」

「そうか…よくやったな総悟。俺なんか気が動転して、携帯のことすら忘れていたよ」

「これで安心して寝られますねィ」

「そうだな」

 

 

近藤は気付いていなかった。沖田が「土方から」ではなく「土方の携帯から」連絡が入ったと言った意味を。

沖田に連絡してきたのは土方ではなく、土方の携帯電話を使った銀時だったのだ。

 

(09.09.19)


土方さん一服盛られました。続きは微エロ注意です。こちらからどうぞ