土方さんは銀さんの写真をきっと持ってると思う!

 

 

 

「副長、お疲れ様です!」

「おう」 

 

土方が公用車で屯所に戻ると、数人の隊士たちが出迎えた。

本日土方は部下を連れて、ある攘夷党の検挙に向かった。敵は大量の武器を所持しており、

捕らえるために戦闘は避けられなかった。

だが、相手の数は然程多くなく、アジトも事前に監察を使って調べさせておいたので、

真選組には一人の犠牲も出さず検挙できた。

 

そして、捕らえたものを連行してからは、土方だけが現場に残って後処理をしていたのだった。

 

 

「副長、スカーフに血が…」

「ん?」 

 

自室に向かう廊下の途中で出会った山崎に、血が付着していることを指摘される。

コイツはこういうところに目敏い。さすが監察といったところか。

…そういやァ今日もコイツがアジトの出入口やら間取りやらを調べてくれたおかげで、

無事に任務を終えられたんだったな。そんなことを考えながら土方は返事をする。 

 

「連中を斬った時の返り血か…」

「副長、お怪我は?」

「俺ァなんともねーよ。…ん?あーよく見ればコッチにも血が飛んでんじゃねェか」 

 

そう言って土方は上着とベストを見つめる。スカーフと異なり黒いそれは、一見すると

普段通りにも見える。だが、よくよく見ると血液が付着し、ところどころ斑になっていた。

上着の前はいつも開けたままなので、中に着ているベストまで血が飛んでいるようだった。 

 

「あの、副長。良かったらソレ、洗っておきましょうか?」

「そうか?じゃあ、頼む」 

 

土方は上着のうちポケットから煙草とマヨネーズ型ライターを取り出すと、

ズボンのポケットにしまう。そうしてから上着を脱いで山崎に手渡す。

それからスカーフをはずしベストも脱いで山崎に託し、自室へと向かっていった。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

「ふぅーっ」

 

自室へ戻った土方は、障子を開けて庭を眺めながら煙草に火をつけた。

真っ青に晴れ渡った空を見ていると心が穏やかになり、つい先程まで敵の返り血が

付いた服を着ていたとは到底思えなかった。

 

「ご苦労だったな、トシ」

 

一服中の土方の下へ近藤がやってきた。 

 

「こうして、今日も無事に皆が帰ってきたのもお前のおかげだ。よくやったな、トシ」

「よしくてくれや。俺ァただ、いつも通り仕事をこなしただけだ」

「いやいや。実際、お前がいなかったらあの人数で全員を捕らえることなんか出来なかった。

一緒に突入したヤツらも、トシがいるから安心して戦えたと言っていたぞ」

「そ、そうか…」

 

こうして正面から褒められると、土方は何となくいたたまれなくなってしまう。

これ以上この話を続けたくなくて、土方は強引に話題を変える。 

 

「そ、そういえば…今年の夏はそれ程暑くないな」

「そうか?俺は今日も汗だくだぞ」

「まあ、日中はそれなりに暑ィが、夜は寝苦しくないっつーか…」

「おお、確かにそうだな!お妙さんの所で呑んでて、酔い潰れて外で寝ると少し寒いくらいだからな」

「…ほどほどにしとけよ」

 

土方自身、スナックすまいる前で寝ている近藤を屯所まで連れ帰ったことが幾度もある。

近藤は酔い潰れたと言っているが、酒よりもお妙の暴力によって動けなくなるのが多いことも

知っている。それでもお妙のことを追い続けているのだから信じられない。

だいたい、真選組局長がこうも頻繁に無防備なところを晒してしまっていいのかと心配になる。

だが、泣く子も黙る武装警察のトップがここまで醜態を晒すとは誰も思わないらしく、今まで大事には

至っていない。実際お妙だって、自分に付き纏う客が真選組局長だとは暫くの間気付かなかったようだ。 

 

「というわけでトシ、今夜お妙さんの所に行かないか?」

「あっ、いや…今日は、ちょっと…」

「何だ?仕事はそんなにないだろ?」

「それは、そうなんだが…」

「ん?約束でもあるのか?」

「や、約束っつーほどのモンじゃねェんだが…」

「だったら行こう!お前を連れて行くと、女の子たちが喜ぶんだ」

「いや、だから、今日は…」

 

今日は仕事が早く終わりそうだから、手土産でも持って恋人の家である万事屋へ

行こうとしていたのだ。ここのところ攘夷党検挙の準備で忙しかったため、街ですれ違う以外で銀時とは

会っていない。今日ヤツらを検挙したことはテレビのニュースでも流れたので、銀時も仕事が一段落したと

判ったはずだ。特に約束はしていなかったが、万事屋で待っていてくれるのではないかと土方は思っていた。 

 

ふと、土方は何かを思い出したのかバッと立ち上がった。土方の急変振りに近藤は驚く。 

 

「うおっ、ど、どうしたんだトシ?…トシぃ!?」 

 

近藤の呼びかけにも応えず、土方は部屋から飛び出した。 

 

…向かった先は山崎のもと。

 

 

「山崎ィィィィ!」

「ひいっ!どどどどどうしたんですか副長!?」 

 

洗濯場にいた山崎は、土方のあまりの剣幕に震えながら応えた。

大した距離ではないが、自室からここまで全力疾走した土方は、息も絶え絶えになりながら言葉を発する。 

 

「はあ、はあっ!お、俺の…服…」

「へっ?さっき預かったヤツですか?」

「あ、ああ…」

「それならソコに浸けてありますよ。結構時間が経ってたんで、そのまま洗っても落ちないと思って…」

「お、遅かっ…」 

 

タライに入った制服を見付け、土方はヘタリとその場に座り込んでしまった。 

 

「ちょっ…副長!大丈夫ですか?」

「あ、ああ…」 

 

返事はあるものの、心ここに在らずといった土方に山崎は一枚の紙を差し出す。 

 

「あの、コレ…」

「―っ!」 

 

土方は山崎の差し出した物を慌てて奪い返す。 

 

「あ、あの…洗濯前に一応ポケットの中身を確認しておこうと思って…そしたらコレがベストの

内ポケットに入ってて……あ、あの、俺、見てませんからっ!べ、別に、誰の写真かとか見てませんから!」

「あ、ああ…」

「そ、それに…たとえ、例えばの話ですよ?たとえ見たとしても…絶対、何があっても、誰にも言いませんから!」

「あ、ああ…。その…悪かったな」

「いいえ!俺は、洗濯してただけですから!」

 

山崎の言い方からして、おそらく写真を見たのだろう。だが、そうさせたのは自分の不注意であるし、

山崎が他言しないと言うなら信じられる。

土方は受け取った写真をワイシャツの胸ポケットにしまうと自室に戻っていった。

途中で心配顔の近藤とすれ違ったが、「何でもない」とだけ言って部屋に引き返した。

近藤は心配そうに付いてこようとしたが、土方が断った。早く一人になりたかったのだ。

 

いつもより肌の近くに写真がある…それだけで土方の身体は熱を帯びてくるようだった。

自室に戻り、胸ポケットから写真を出した土方は、はぁっと溜息を一つ吐いて裏返しのまま写真を

文机の引き出しにしまった。 

 

今日は万事屋に行けねーな。アイツの顔みた瞬間、どうにかなっちまいそうだ…。

畳の上にゴロリと横になり、土方はそんなことを考えていた。 

 

写真の入った引き出しも暫くは開けることができず、後日土方の留守中に部屋へ入った沖田に

写真を発見され「このことを皆に知られたくなかったら副長の座を譲りなせェ」と脅されることになる。

(09.08.19) 

 photo by NEO HIMEISM


土方さんの留守中に屯所を訪れてしまった銀さん」の感想で、タイトルのような拍手コメをいただき、「そうだ、そうに違いない!」と思った

勢いで書きました。ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

ブラウザを閉じてお戻りください