土方さんの留守中に屯所を訪れてしまった銀さん
「よ〜、副長さんいる?」
万事屋の主・坂田銀時は、なかなか会えない恋人・土方十四郎を訪ねて真選組屯所へやって来た。
ちなみに銀時と土方の関係は、真選組隊士全員が知っているし、銀時が屯所に来るのも初めてではない。
「おや、旦那じゃねーですかィ」
門番が対応に迷っていると、後ろから一番隊隊長の沖田が出てきた。
「おー、沖田くん。副長さん呼んでくんない?」
「いません」
「へっ?」
「土方さんならいませんぜ」
「何?仕事?」
「まあ、そんな感じでさァ」
「じゃあ、中で待たせてもらっていい?」
「別に構いませんぜ。どうぞ」
「んじゃ、遠慮なく〜」
そう言って銀時は屯所内に入っていった。
門番は後で副長に怒鳴られやしないかとビクビクしていたが、沖田に異を唱えるのも怖いので黙って銀時を通したのだ。
屯所に入った銀時は迷うことなく、通いなれた副長室へと歩を進めていく。
その後ろを沖田は黙ってついてきていた。途中、山崎とすれ違い、後ろで沖田が山崎に何か言っていた。
山崎の「えー、俺がやるんですか」という嫌そうな返事が聞こえてきたので、また何か沖田がいやがらせを
したのだろう。
そんなことを思っているうちに銀時は副長室に辿り着き、襖を開けて中に入った。
副長室の中は整頓されていて余計なものは一切置いていない。
部屋の主がいないので、普段よりすっきりしているようにも見える。いつも土方が目を通している書類の山も、
いっぱいになった灰皿もない。
銀時が何となく寂しさを感じていると、再び襖があいて山崎が盆に緑茶の入った湯呑を三つ乗せて持ってきた。
「どうぞ」
「ああ、お構いなく」
銀時に声をかけて、山崎は湯呑を一つ文机の上に置く。
「はい、隊長」
「おお」
銀時に続いて副長室に入り、今や部屋の中央で堂々と横になっている沖田の近くにも湯呑を置く。
そして、山崎は残り一つの湯呑を持ってその横に座った。その光景に銀時が疑問を投げかける。
「あれっ?二人とも何してんの?」
山崎が沖田を見たが、沖田は答える素振りを見せない。仕方なく山崎が答える。
「沖田隊長が…その、部外者を一人で副長室に入れるわけにはいかないって…」
「はあ?入っていいっつったのは沖田くんなんだけど?」
「そうなんですが…さっき、廊下ですれ違った時に…」
銀時は、廊下での二人のやりとりを思い出した。
「ちょっと、沖田くん、どーゆーことよコレ?」
「俺は入っていいとは言いやしたが、副長室に、とは言ってやせん」
銀時の言葉に、沖田は面倒臭そうに起き上がって答える。
「はあ?黙って後ろをついてきたのはソッチだろ?」
「俺ァこの部屋で昼寝をしようと思って来たんですぜ。たまたま旦那が前を歩いていたから
追い越さなかっただけでさァ」
「何だよソレ…。で、何でジミーまで来てんの?」
「だから、沖田隊長が副長がいない間に部外者が不審な行動をとらないように見張ってろって…」
「おいおい…何も二人掛かりで見張らなくてもよー」
「旦那、俺は昼寝に来てるんで見張りじゃありやせん」
「はあー、そういうことか…つーか副長室に入っちゃダメなら、最初っからそう言ってよ」
「別に入るくらい構いやせん。土方はつまらねー野郎なんで、部屋に旦那の写真が飾ってあるとか、
そんな楽しいことは一つもねェんで」
「あっそ」
「でも、そっちの箪笥を開けると面白いモンがあるかもしれやせんぜ」
「えっ、マジ?」
「ちょっと、隊長!あー、旦那も、勝手に動き回らないで下さいよー!」
何やら怪しげな空気が漂い始めたのを山崎が制止する。しかし、そんなことで止まる銀時ではなく、
沖田の言う箪笥へと歩いて行ってしまう。
後ろで山崎が「副長に怒られますよ」だの「僕は止めましたからね」だのと言っているが無視して引出しを開けた。
「これって…」
銀時の手が止まったのを不思議に思った山崎が後ろから引出しの中を覗き込む。
そして、みるみるその顔が赤くなっていく。
その中には大量の写真―ちょっと見ただけだが恐らく全てに銀時が写っていた―と所謂大人の玩具、
それも前ではなく後ろに使うものと、ローション、コンドームなどが幾つか入っていた。
「うわぁぁぁ!!」
山崎が叫びながら引出しを閉める。そこへタイミングがいいのか悪いのか、土方が帰って来た。
「お前ら…人の部屋、勝手に入って何騒いでやがる」
「ななな何も見てません!僕たちは何も見てませんっ!!そうですよね!?旦那!!」
「お、おう」
「あん?山崎てめー、何か隠してんのか?」
「いいいいえ、ななな何もっ!!」
「そうでさァ。別に箪笥の引出しなんて見てやしませんぜ」
「たたたた隊長!」
「箪笥?…何かあったか?」
「だだだだから、何も見てませんって!!」
「ったく、何だってん…」
そう言って土方は箪笥の引出しを開け、固まってしまった。
後ろでは山崎が頭を抱えて「うわぁーもうダメだー」と喚いている。
それを無視して土方は銀時を睨みつける。
「おい」
「あー、別に、銀さんは…そのー、いいんじゃない?」
「何ワケ分かんねーこと言ってやがる。これはテメーの仕業か?」
「はい?」
「だから、こんなモンをここに入れたのはテメーかって聞いてんだ!」
「えっ…あれっ?土方じゃ、ねェの?」
「誰が入れるかァァァ!俺ァ、こんなモン持ってた覚えはねーぞ!だいたい何でテメーの写真がこんなにあんだよ!!」
「知るか!何だ、いつもの照れ隠しか!?別にいーじゃねーか!うん。むしろ銀さん大歓迎!オメーが俺で抜い…」
「それ以上言うなァァァ!そして違ェェェ!!俺じゃねーっつってんだろーが!!」
「はあ?ここ、お前の部屋だろ!?お前じゃなかったら誰が…」
そこまで言って銀時は気付いた。そもそも箪笥のことを言い出したのが誰だったか。
そちらの方を見ると、土方も何か気付いたようだった。
「総悟、まさか…テメー」
「何睨んでやがる、土方コノヤロー。優しい俺がせっかくプレゼントを入れておいてやったっていうのに…」
「やっぱりテメーの仕業かァ!いつからだ!?いつから入れてやがった!?」
「アンタと旦那が付き合い始めてから少しずつ…」
「そそそんな前から…」
「なのにちっとも気付きやがらねェんで、ちょうどいいから旦那に差し上げようかと…」
「えっ、何?俺にくれんの?いやー、ありがと…」
「ざけんなァァァ!万事屋テメー、こんなんもらってどーするつもりだ!」
「えー、そりゃモチロン土方くんをあんあん…」
「言うなァァァァ!!」
「ホモのケンカはよそでやってくれませんかねィ」
「ここは俺の部屋だ!オメーが出て行け!!」
「へいへい。じゃあ、後は旦那とよろしくヤってくだせェ。ほら、山崎行くぜィ」
「あっ…は、はい」
ずっと放心状態のままだった山崎を連れて、沖田は副長室を出ていく。
「土方…」
「…っ!」
銀時の呼びかけに、土方は身体を強張らせた。銀時は柔らかい笑みを浮かべながら土方に近づく。
「なあ…制服じゃないってことは、今日休みなんだろ?」
「あ、ああ」
「どこ行ってたの?」
「昼メシ、食いに行ってた」
「そうだったんだ。じゃあ…映画でも行かね?この前の依頼人からタダ券もらったんだ」
「お、おう」
箪笥の中身に触れられなかったことで、土方の身体から余計な力が抜けていった。
それからすぐに二人は屯所を出て、映画館までの道のりを並んで歩いて行った。
(09.08.13)
photo by 素材屋angelo
2人を振り回す沖田ってのが好きです。そして気を抜くと山崎が空気になってしまう…さすが山崎です(笑)
箪笥の中身はそのうち使われると思いますが、とりあえず暫くは「あんなモン使われてたまるか!」と土方さんが頑張るので使いません。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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