※第五百五十一訓ネタです。



まだ始まってもねぇよ

真選組が江戸を発つ前日、それぞれ思い入れのある者への見送りを済ませ、万事屋三人は桂の用意した部屋に身を寄せた。
「このヘタレが!」
「見そこないましたよ銀さん!」
「は?」
激昂する神楽と新八に、訳が分からないといった様子の銀時。騒ぎを聞き付けて桂が現れた。
「何事だ?」
「銀ちゃんが何もしないで帰って来たアル!」
「メシ食って話してきた、つってんだろ」
「それだけか?」
「あ?」
本当にそれだけなのかと詰め寄る桂に気圧されつつもそうだと応えれば、大仰に溜め息を吐かれてイラッとくる。この年になってまでなぜ、交友関係に口出しされねばならないのだ。それに、
「そのうちまた会えんだから餞別もいらねーだろ」
強がりでも何でもなく再会を確信していた。それは桂とて同意見ではあるけれど、これまで近所に住んでいた存在が遠くに行くのも事実。
「暫く会えなくはなるのだ。熱い抱擁の一つくらいしたのだろう?」
「アホか……恋人同士じゃあるまいし」
「何ィ!?」
「ぎっ銀さん!?」
「どういうことネ!?」
聞き捨てならぬと新八・神楽も迫り来て、胡座をかいていた銀時は背中を反らせ、まあまあ落ち着けと両手を上下させた。
「オメーら誰の話してんだ?土方だぞ?」
「他に誰がいるアルか!」
「恋人同士じゃないって、まさか別れたんですか!?」
「遠距離恋愛程度で諦めるな!」
肩を揺すられ背中を叩かれ、終いには土方と連絡が取れないかと銀時を置いて画策する始末。一応まだ江戸にはいるけれど、覚悟を持って出立せんとする者の邪魔をするなと銀時は嗜めた。
その上で改めてツッコミを入れさせてもらう。
「誰と誰が遠距離恋愛だって?」
「お前と土方に決まっておろう!」
「テメーがここまでバカだとは思わなかったぜ……」
新八と神楽にそれを吹き込んだのもお前かと桂に向かい眉を潜めてやった。しかし、バカはそっちだと二人は桂に味方してしまう。
「ちょっと会えなくなるくらいで別れる銀ちゃんは大バカアル!」
「今ならまだ間に合います。縒りを戻して来て下さい!」
「オメーら何か勘違いしてねぇか?俺と土方はそういう関係じゃねーぞ」
「何言ってるネ」
「僕らもうとっくに知ってるんですよ」
彼らだけではない。かぶき町に住む銀時の知人も真選組の者達も、殆どが二人の関係を知っている。当人達から報告があるまではと見守り続けて今に至っていたのだ。
桂は諭すように言う。
「真選組も今や我等の敵ではない。隠す必要はないぞ」
「だからァ、隠すも何も違うっつーの!」
「何が違うと言うのだ」
「俺と土方は付き合ってない!」
きっぱりと放たれた言葉に周囲は凍りついた。真実を述べただけの銀時が誤ったかのように錯覚するほど。
「あの……俺、何か変なこと……」
「「「マジでかァァァァァ!!」」」
静寂の後に訪れた驚愕の叫び。反射的に耳を塞ぎつつ銀時も驚いていた。
「誰に聞いたんだよそんな噂」
「噂というか、暗黙の了解のような……」
「よく二人っきりで出掛けてたアル!」
未だに信じられないが嘘を吐いているわけでもないらしい――ならば「疑惑」を突き付けてみようと神楽。それには深い溜め息が返ってきた。
「二人で飲むなんざ他のヤツともあっただろ?」
「飲みに行ってただけアルか?他のことは一切してないアルか?」
「時間あれば映画とか……あとは、トッシーに供えるとかでアニメのグッズ買いに行ったこともあったな。アイツが一人じゃ恥ずかしいっつーから」
「ほら、デートしてるネ」
「デートじゃねぇよ」
やはり交際しているのではないかと神楽は何故か勝ち誇る。それもはっきり否定されれば、だったら……と追求の手が新八に交代。
「腕組んで歩いてたじゃないですか。抱き合ってるのを見たって人もいるんですよ」
「んん〜……?」
そんなことをしたかと首を捻る銀時。思い当たることといえば……
「飲み過ぎて支え合ってたアレか?」
「では、かまっ娘倶楽部のことはどう説明するのだ」
桂もまだ引けない。アルバイト先に客として土方を誘い、楽しげに接客した上、最後は一緒に店を出ていたと証言した。
「客に愛想よくすんのは当然だし、アフターっつーことにすりゃあ店の片付けもしなくて済むし……」
ついでに言えば他の客の相手をしなくても済む。化け物と呼ばれる顔ぶれに混じればパー子は美人の部類。それゆえセクハラ紛いのことをする輩もいた。もちろん、それをあしらう術も身に付けてはいたが、隣に座り酌をするのみでよいならそれに越したことはない。
そういう意味で土方の来店を歓迎していたのだ。
「……土方さんは、単なる友達なんですね?」
「ああ」
新八の最終確認は迷いなく肯定。黙りこくった三人を見て銀時は、妙な誤解が漸く解けたかと安堵の息を吐いた。
だが三人にとって、分かっていないのは銀時の方である。顔を見合わせ頷いて、銀時を残し表へ出た。

五分後。
「銀ちゃん、ちょっと顔貸すネ」
「あ?」
戻って来た新八と神楽はやけに真剣な面持ちだった。もしや敵対勢力が接近してきたのではと気を引き締め、木刀を腰に立ち上がる。
それから二人の先導でアキバの町を歩いていった。
雑多な店が建ち並ぶ様はかぶき町に似ているようでいて、その内は大きく異なるサブカルチャーの町。トッシー行きつけの店に目を細める銀時をちらりと見遣り、二人は自分達のすることが間違っていないと確信するのだった。

「ここで待つアル」
十五分ほどで待ち合わせ場所に到着。といっても銀時にはただの路地にしか思えなかった。
「誰が来るんだ?」
「土方さんです」
「……は?」
終わったとばかり思っていた話題を再び持ち出され、間抜けな声が出る。仰々しく連れて来たのは土方と会わせるため――ふざけるなと銀時は激昂した。
「アイツの状況は分かってんだろ!?」
「だからこそネ!離れ離れになる前に、お付き合いを始めるアル!」
「俺と土方はそういうんじゃねぇんだよ!」
「まあまあ、銀さんは気付いてないんですよ」
「はあ!?」
銀時を宥めながら、新八は二人の関係について周りがどう見てきたかを説いていく。
どの友人よりも近しく、仲間ともまた異なる信頼を寄せる相手。互いに互いが唯一無二の存在であることは容易に見て取れて、明確な宣言はなくとも、言わずもがなといったところだろうと信じていた。
「小銭形さんが土方さんのことで相談に来たの、どうしてだと思います?」
松平と共に近藤が捕われ真選組が解散となり、土方が同心として不安定な日々を過ごしていた時のこと。歓迎会に銀時を招待したのは、二人の間柄を思えばこそだった。
「だからそれは、オメーらの勝手な思い込みだろ?」
「思い込みかどうか、よく話し合ってみて下さい」
「話すだけなんざ生温い」
「あ……」
もう一人の主役を引き連れて来たらしい沖田が割って入る。その横には近藤もいた。
二人共、悲壮感含みの別れを済ませた相手との早過ぎる再会に、若干の気まずさを纏っている。
「まさかまだだったとはな……いくら待っても紹介してくれないはずだ」
「見損ないましたぜ旦那ァ」
「あのなァ」
どいつもこいつも何なんだ。お前もそう思うだろうと賛同を得たい相手の姿はまだなかった。
「隊長〜……」
「遅ェぞ」
「人目を避けてたんですよ」
山崎と鉄之助が担いで来たのは簀巻きにされた土方。辛うじて表に出ている顔から寝ているらしいことは分かる。現在の真選組の立場でこんなに目立つ「荷物」を持って歩くのは苦労しただろう。
「副長のこと、よろしくお願いします!」
鉄之助から託されて転がしておくわけにもいかず、一先ず両腕で抱えれば、お姫様抱っこだなんだとはしゃぐ観衆。銀時の額にぴきりと青筋が浮かぶ。
「いい加減にしろ!つーか土方に何してんだよ!」
「安心して下せェ、穿いてません」
「穿い……はぁ!?」
某芸人のごとき沖田の台詞で思わず簀の子へ視線が落ちた。まさかこの下は……銀時はじっとりと嫌な暑さを覚える。
「一発キメてやれば成仏するんで」
「死人じゃねーよ!」
「明日の朝迎えに来る。それまでトシとよろしくやってくれ」
「ちょっ……」
気付けばここは宿の裏手。わざわざありがとうございますと新八が近藤らに頭を下げ、部屋の準備はバッチリだと何処からともなく桂が現れ、銀時は土方とその一室に押し込められてしまうのだった。

(15.12.18)


最早幾つ目か分からない馴初め話です^^ 後編は温めの18禁になる予定です。
クリスマス話を書いてから続きを書きますので、少々お待ち下さいませ。

追記:すみません。予定を変更して全年齢対象となりました。 

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