※「夜明け前の逢瀬」の続きです。


俺が夜明けに向かっていてアイツも夜明けに向かっていて


「おい起きろ!」
「ん〜……」
恋人と熱を分かち合いながら無事の再会を誓った翌朝、銀時は聞き慣れているようでいてそうでもない声に叩き起こされた。必ずまた会えるとはいえ別れの朝。こんな日くらい穏やかに「昨日のキミは最高だったよ」なんて言えないものか。
「……おやすみ」
重い瞼を渋々開けて、映る銀髪にまだ夢の中だと結論付けた。だっておかしいじゃないか。銀髪は自らの頭上にあるものなのだ。目の前にあるはずがない。つまりは夢。もう一度目を開ければピッタリV字ヘアーが昨日のキミは最高だったと……
「起きろ!また入れ替わってんだよ!」
「…………」
必死に目を逸らしていた現実を突き付けられる台詞。うっすらと開けた視界にある手は確実に恋人のそれ。自分の意志で動いてしまうことに溜息が漏れた。
「ええええええ!!」
「やっと起きたか」
呆れ顔で煙草を吹かす「己」の顔。念のため辺りを見回してみるも、大仰な卵かけご飯製造機は影も形もない。では何故このような事態に陥っているのか。相方に尋ねたところで答えは見付からず、仕方なくそれぞれ体に合った服を着てホテルを出た。これからそう短くはない期間、別々の道を歩むのだと前夜に覚悟を決めただけに、若干の照れくささを纏って。

「この後どうすんの?」
土方の姿をした銀時が道すがら聞けば、港へ行くのだと返ってくる。今日は真選組が江戸を離れる日。
「その格好のまま行くのか?」
「ンなことしたらテメーが困るだろ」
どうしてこうなったかは未だ不明。だがおそらく、元に戻るためには二人揃っている必要があることは予想がついた。
「後から合流するしかねェよ」
「そうだな」
現状はまごうことなき異常事態。しかしそれが二度目ともなれば周りの対応も慣れたものだろうと、連れ立って真選組の集合場所へ向かうのだった。

*  *  *  *  *

「土方さんアンタ……」
銀時の顔を見るなり土方に唾を吐く沖田。恋人同士であることは知っているけれど、挨拶は前日に済ませておくというのが暗黙の了解であったではないか。自分も近藤も、所帯を持つ隊士らですら今日ここまでは一人で来たというのに。
「違うんだ総悟」
原因は分からないが再び二人の魂が入れ替わってしまったのだと、銀時姿の土方が説明をする。だから申し訳ないが自分抜きで先に行っていてくれと。
「旦那、そんな冗談に付き合ってる場合じゃないんですが」
「冗談じゃねーよ」
「万事屋、トシと離れたくない気持ちは分かるが、ここは明るく送り出してほしい」
近藤にポンと肩を叩かれて、土方(見た目は銀時)は苛立ちを露わにする。
「俺が土方だ!」
「ああ分かりました。旦那は土方銀時になったんですね」
「そうか!お前たち遂に結婚……」
「そういう意味じゃねェェェェェ!俺が土方十四郎、あっちが坂田銀時なんだよ!」
「はいはい、お二人は一心同体なんですね。じゃあ旦那、そろそろ船を出す時間なんで」
何をどう言っても信じてもらえない。やはり現状は異常事態。当事者以外には俄かに受け入れがたい状態であったのだ。
「もういいよ」
ずっと静観していた銀時(見た目は土方)が土方に一歩近付く。
「入れ替わりでも結婚でも、続きはまた今度にしよう」
「は?」
「キープボトルが空になったら戻ってくるからな」
「え……」
「新八と神楽と定春と、仲良くやれよ」
「…………」
近藤らに迎え入れられ、振り返らずに船へと進む「自分」の姿。動揺のあまり土方は、言葉を失いそこへ立ち尽くすのだった。

(15.09.21)


萌え(551訓)に萌え(入れ替わり篇)を足したらもっと萌えるかなと思いました。続きはしばらくお待ちくださいませ。

追記:続きはこちら