「たたたた大変です、沖田隊長!!」
ある日の真選組屯所。食堂で夕飯をとっていた沖田の元へ、山崎が血相変えて駆け込んできた。
沖田は箸を止めずに問う。
「どうしたんでィ。あんぱんが売り切れだったのか?」
「ふざけてる場合じゃありませんよ!副長が、副長が……」
「どうした?」
食器を置いた沖田の目が鋭く光る。
「一人で、料亭に……」
「料亭?……まさか!」
土方と料亭で山崎が慌てる理由……沖田もすぐにピンときた。
「相手は?」
「幕府のお偉方としか……」
「……料亭の場所は分かってるな?」
「はい」
「乗り込むぜィ」
「はいっ!」
「俺も行きます!」
「俺も!」
周りで二人の話を聞いていた隊士達の何人かもガタガタと立ち上がった。
彼らは皆、土方に恋心を抱いている者達。
身内にこれだけ人気のある土方である。他の幕府関係者にも土方を狙う輩は多い。
単なる欲の捌け口、愛人、恋人……目的は様々であったが、その殆どは彼ら―土方を想う隊士達―の
水面下での活躍により仕事だけの関係に留められていた。ごく一部、僅かな隙をついて土方を
口説いた者もあったが、こういったことに疎い土方は誘われていることすら理解できない。
そのため土方の純潔は護られてきたのだが、
「旦那に気を取られててすっかり忘れてましたね」
「ああ」
銀時というノーマークな民間人に土方を奪われて以来、彼らのガードは緩んでいた。
そこを狙われたのか、恋人のせいで艶を増した土方に新たな欲が出てきたのかは分からないが、
土方のピンチであることは明らかである。
「何事だ、総悟?」
「近藤さん!」
物々しい雰囲気を感じ取り、局長室にいた近藤も外へ出てくる。
「土方さんが一人で接待に出かけたようです」
「何?そんな話、聞いてないぞ」
「俺もでさァ。だからきっと、何かよからぬことがあるんじゃないかと……」
「……トシが脅されるとでも?」
「そうでなきゃトップの近藤さんを差し置いて土方さんに声が掛りますか?」
「その気」のない近藤へは土方が危険に晒されているという可能性だけを伝えた。
それでも近藤を動かすには充分であった。
「総悟はトシを助けに行くのか?」
「俺だけじゃねぇです。手の空いてる連中全員で乗り込むところでさァ」
「よしっ、俺も行こう!」
土方を救出すべく、一行は料亭へとパトカーを走らせた。
* * * * *
とある高級料亭の一室。土方は膳を挟み、一人の官僚と向かい合っていた。
「本日は、お声掛けいただきありがとうございます」
心にもないことだが、一応目上の者への礼を述べる土方。若者との親睦を深めたいと食事に
誘われたものの、呼ばれたのが土方一人となれば、何か裏があることは明白であった。
(真選組が気に食わねェのか、それとも俺個人が目障りなのか……)
土方は警戒し、出された食事に箸を付けようとしない。
「どうぞお食べなさい」
「このようなお食事、田舎者の私には食べ付けないものでして……」
「これは失礼」
男は仲居を呼び「例の物を」と伝えた。一旦下がった仲居は業務用マヨネーズを持って戻って来る。
「キミはこれが好きだったね。好きなだけ掛けるといい」
「あ、いや……」
「どれ、私も一つ……」
男は自分の皿の隅にマヨネーズを少量絞り出し、刺身のつまに付けて口に運んだ。
「私の若い頃はこういう物を食べる習慣はなかったんだが、なかなか美味しいものだね」
「……そうですね」
「さあ、土方くんも遠慮せずに……足りなければ持って来させるから」
「で、では、いただきます」
地位も名誉もある官僚が態々自分の手を汚して毒を盛ることもないだろうと判断し、土方は
全ての皿をマヨネーズ塗れにしていく。好物を用意してまで土方と食事の席を設けた理由……
考えられるとすれば、公にはできない「仕事」の依頼であった。
(邪魔な輩の暗殺か、テメーの罪の擦り付けか……そういやコイツ、収賄の嫌疑があったな……)
何れにしても懐石料理一つで請け負えるものではない。面倒を押し付けられそうになったら
食事代を払って帰ればいい。高級料亭とはいえ、払えない額ではないと土方は料理に箸を付けた。
「土方くん……」
「はい」
「キミの活躍には本当に感心していてね……」
「ありがとうございます」
「キミさえ良ければ、私が後見人になってもいいと思っているんだよ。」
「勿体ないお言葉でございます……(黒い噂のある後ろ盾なんぞいるか!)」
「遠慮することはない。そのために互いをよく知らなくてはと、この席を設けたんだよ」
「大変ありがたいのですが……」
「隣に、床の用意はできてる」
「は、あ……」
土方は何を言われたのか分からなかった。
(床って……ここに泊まれってことか?何のために?)
「キミにとっても悪い話じゃないだろう?」
「申し訳ありませんが、この後は屯所に戻らなければなりませんので……」
「何も朝までとは言わん。ほんの二、三時間だ。いいだろう?」
「仰る意味がよく分からないのですが……」
床の用意があると言われたかと思えば泊まれというわけではないと言う。
一体何を求められているのかと土方は考える。考えるが、分からないものは分からない。
けれど男は話が通じていないなどとは微塵も思っていないようで、
「こういうことができるのも若いうちだけだよ。何事も経験じゃないか」
「いや、ですから……」
「試しに一度だけ。な?」
「あの……」
質問する隙も与えず迫っていく。
全く要領を得ないことに苛立った土方は、とりあえず怒鳴って黙らせようと大きく息を吸い込んだ。
「だから……っ!?」
その時、全身がカッと熱くなるのを感じ、土方は思わず自分自身を抱き締める体勢をとった。
「薬が効いてきたみたいだね」
「く、すり……?」
「後遺症が残る類の物じゃないから安心したまえ」
「な、にを……」
体どころか頭も上手く働かない状況に土方は焦りを見せる。
「怖がらなくていいよ。キミを傷付けたいわけじゃないから」
そう言って男は襖を開けた。
「土方くんを隣に……ん?おい、どうした?誰かいないのか!」
武闘派ではない官僚一人の力では、抵抗できないとはいえ大の男を移動させるのは不可能で、
そのために用心棒か何かを連れて来たようであったが、廊下には誰もいない。
「チッ……仕方がない。ここでいたすことにしよう」
「何をするんですかィ?」
「ひっ!!」
部屋に引き返す官僚の喉元に刀が伸びる。
「きっ貴様は……」
「トシ、大丈夫か!!」
「近、藤さん……」
沖田の刀で官僚の動きを止め、近藤が土方の元へ駆け寄る。
「すっすま、ない……」
「毒か?すぐ病院に連れて行ってやるからな!」
近藤が土方を抱え上げて店を出る。沖田も男に蹴りを一発入れて後に続く。
そして残った隊士達で官僚を捕え、屯所へと連行した。
銀さん教えてレッスン17
「トシ、着いたぞ!」
「んっ……」
山崎の運転するパトカーが止まったのは病院ではなく、スナックお登勢の前。
再び近藤が土方を抱えて二階への階段を駆け上がり、沖田もすぐ後ろを付いていく。
三人の降車を確認してから山崎はパトカーを目立たぬ場所まで移動させた。
「営業時間はとっくに……十四郎!?」
呼び鈴を連打され、酷く不機嫌な様子で出て来た銀時は近藤に抱えられた恋人を見て、
奪うように抱き寄せた。そしてすぐに熱を孕んだ身体に気付く。
銀時は近藤と沖田を交互に睨み付ける。
「どういうこと?」
「すまん万事屋……」
「いいから説明しろ!」
「土方さんを狙う野郎に、一服盛られやした。それ以上のことはされてやせん」
「……神楽、悪ィけど今日はバァさんとこで寝てくれるか?」
必要最低限のことだけ聞いて、銀時は後ろで心配そうに見ていた神楽へ声を掛けた。
ただならぬ雰囲気を察し、神楽は「分かったアル」と答えて着の身着のまま玄関を下りる。
「お登勢さんには俺達から事情を説明しよう。お前は、トシを頼む」
「ああ」
「本当にすまない」
近藤は銀時に深々と頭を下げ、沖田も沈痛な面持ちで頭を下げた。
危険を未然に防げなかったこと、自分達では今の土方を救えないこと、銀時も神楽もお登勢も
巻き込んでしまうこと……後悔と自責の念に満ちた二人の表情を見れば、銀時も何も言えない。
そして何より、早く土方と二人になる必要があった。
玄関の扉が閉まった瞬間土方の甘い声が聞こえ出したが、近藤・沖田・神楽は気付かないふりをして
足早に階下のスナックへ向かった。
* * * * *
「ああっ!ああっ!ああっ!」
万事屋和室。銀時用の布団の上、土方はスラックスと下着を腿まで下ろされた状態で
四つん這いになり、後ろから銀時を受け入れていた。銀時も着衣のまま前だけを開き土方を揺さぶる。
「ああぁっ……!!」
土方の身体がぶるりと震え、一物を握る銀時の指の隙間から精液がぽたぽたと滴り落ちる。
「ハッ、ひぅっ!……ああっ!!」
土方が達しても銀時は止まらず、むしろ更に激しく腰と手を動かし続ける。
既に土方は二度吐精しているが銀時はまだ一度も達していない。
それどころか、達するほどに高ぶる気配すらなかった。
薬のせいで常より敏感になった土方が乱れれば乱れる程、腹の底から冷え込むような感覚であった。
「ひあぁっ!」
「……外に響くからこれ咥えといて」
「んむ……」
銀時は土方のスカーフを外し、その口に捩じ込んだ。
自分でも驚くくらいに冷たい声が出たけれど、言い直す気にはなれなかった。
「ンんっ……!んっ、ん〜〜っ!!」
立て続けに攻められた土方は三度目の絶頂を迎えたところで腕に力が入らなくなり、
さして柔らかくもない布団に倒れ込んだ。その拍子に銀時との繋がりが途切れる。
口からスカーフを取り出して酸素を吸い込む土方のモノはまた膨らんできていて、
銀時はチッと舌打ち台所へ向かった。
「……はい」
「ああ、悪ぃ……」
無愛想に差し出されたグラス。土方は申し訳なさそうにそれを受け取って水を飲んだ。
「どういうことか説明してもらえる?」
「ああ」
空になったグラスを布団の脇に置き、土方は熱を帯びたままのモノを強引に押し込めて
衣服を整え正座する。銀時もその前にどかりと腰を下ろした。
「親睦を深めるって名目で、食事に誘われたんだ」
「……誰に?」
「官僚」
「ふぅん……」
質問しておいて銀時は興味のないような返事をする。何の感情も映していない銀時の表情に
怯みながらも土方は話を続けた。
「何か、よからぬことを企んでいるんだということは分かっていた。ただ、俺の存在が邪魔
なんだとしても、自らの手を汚す真似はしないだろうと、出されたメシを食った。それに薬が
入っていたらしい。……俺の考えが甘かったんだ」
「…………」
心情の読めない瞳で、銀時はただじっと土方を見詰めることで先を促した。
「……それから、床の用意をしてあると言われて……」
瞬間、銀時の表情が強張ったものの何かを言うわけではなく、黙って話を聞き続ける。
「そう言われても、急に泊まれるわけねェから帰ると言って……だが、『数時間で済む』とか、
『何事も経験』とか『一度だけ』とか、訳の分からねェことを次々と……」
「…………」
相変わらず沈黙したままの銀時であったが、その表情は幾分和らいでいた。というより、今回の
一件で土方に教えなければならないことがあると気付いた。土方は自分がどんな目に遭おうと
していたのか、未だ理解できていない。これまでそういうことを知る必要もなかったのだろう。
「言い返そうとしたら急に体が熱くなって、そしたら、銀時のことで頭がいっぱいになった」
「……俺の?」
漸く口を開いてくれたと土方はやや安堵していた。
「どういうこと?」
「薬のせいだと思う。好きな人のことしか考えられなくなる、みたいな……」
「でっでも、カラダが熱くなったんでしょ?エッチしたくなったんでしょ?」
「銀時のこと考えると、したくなっちまうんだ」
「えっと……誰でもいいからセックスしたい、とかじゃなくて?」
「俺が好きなのは銀時だけだ」
「それは分かってるよ。分かってるんだけど……あれぇ?」
今、銀時の胸の内にあるのは純粋な疑問のみ。怒りは何処かへ追いやられていた。
「……こんな形でセックスさせたから怒るのは当然だと思う。だからといって、銀時以外と
セックスしたいなんて思わねェよ」
「あ、うん。ありがと……」
「だが、あの野郎が何でそんな薬を使ったのかがさっぱり分かんねェんだ」
純真無垢な土方と話しているうちに、銀時はすっかり毒気を抜かれてしまった。
「あのさ……十四郎が飲んだのは、セックスしたくなる薬なんだけど……」
「そうなのか!?ていうか、何で知ってるんだ?」
「何でって……ウチ来た時の十四郎、めちゃくちゃヤりたそうだっただろ?チンコ勃ってるし、
ハァハァ言ってるし、近藤達がいても俺に抱き付いて離れないし……」
「…………」
どうやら記憶はあるようで、土方の顔が真っ赤に染まる。
「それとね……十四郎に薬を盛った野郎は、十四郎とセックスしようとしたんだよ。床の用意は、
そこでセックスしようって意味」
「はあぁ!?」
薬の正体を知った時以上に土方は驚いた。
「ンなわけねーよ。アイツは結婚してるんだ」
「嫁さんがいても他の人とセックスしたいって思ってるヤツもいるの」
「……嫁さんが嫌いになったのか?」
「まあ、そういう場合もあるっちゃあるけど……十四郎、浮気とか不倫とかって知ってる?」
「ちゃんと相手がいるのに、別のヤツと付き合うことだろ?」
「そう。官僚の野郎は、十四郎を浮気相手にしようと思ったんだよ」
「けど俺は、告白なんかされてねーぞ」
浮気でも不倫でも、付き合うからにはきちんと交際を申し込むのだと土方は考えているようで、
銀時はそこから訂正していこうと説明を続ける。
「向こうは、まともに告白したら十四郎が断わることも分かってたんだよ。それでも十四郎と
セックスしたいから、権力使って二人きりになって、セックスしたくなる薬を盛った」
「それだと、俺が好きな人とセックスしたくなるだけで、アイツとしたくなるわけじゃねェだろ」
「そこが誤算だったんだよ。世の中にはね、色んな人とセックスしたいって人もいんの」
「……一度に大勢を好きになるのか?」
「違う違う。恋愛感情とは別で……色んな人とセックスすると、色んな人から好かれてるって
考えるヤツもいるんだ。だから、金払ってセックスする人もいる」
「付き合ってもねェヤツと?」
「うん。」
それは土方にとって想像だにしないことであった。そもそもセックスは、銀時に教わってやっと
できるようになったもの。それを他の人とすることなど考えもしなかった。
「……そんなことして、いいのか?」
「考え方は人其々だからね。互いにそれでいいって思ってるなら、それもアリだと思う。
ただ今回の場合は、十四郎の意見も聞かずに薬で言うこと聞かせようとしたからダメだ。
まあ幸い、十四郎は俺としかセックスしたくないから、薬を使っても無駄だったけどね」
「……もし俺が、色んな人とセックスしたいって考えだったら、アイツとしたくなってた?」
「うーん……そういうことは考えたくないな」
「悪ィ……」
「あともう一つ」
「何だ?」
完全に薬が抜けきっていない土方は、先程からぎゅうぎゅうと股間を押さえ付けていた。
早く解放してあげたいとは思うものの、銀時にはまだ、土方に伝えておくべきことがあった。
「相手がその気にならなくても、体の自由を奪えば強引にセックスすることは可能だ」
「えっ……でも……」
「もちろんそれは犯罪行為だよ。ただ、法律で禁止されていたってやるヤツはやるってこと、
十四郎ならよく知ってるだろ?」
「あ、あ……」
「それだけ知っておいてほしかったんだ。セックスは本来、俺達みたいに愛し合う者同士で
することだと思うけど……」
「ん……」
銀時は土方を抱き寄せて優しく唇を合わせると、丁寧に着ている物を脱がせていく。
「中にはそれを悪用するヤツもいるってこと。十四郎が被害者になるかもしれないってこと」
「分かった。……銀時、ごめんな」
「……俺の方こそ、さっきは乱暴にしちゃってごめんね」
「あれくらい、平気だ」
土方の服を脱がせ終わると自らも服を脱ぎ、二人は漸くいつものように抱き合った。
(12.01.12)
急に話の雰囲気を変えてすみません。真選組(一応)公認になって、二人はいちゃらぶエロまっしぐら!の予定だったのですが、
ふと、媚薬盛られる十四郎というのを思い付き、そこから爛れた大人の世界もちょっと教わってもらいたくなってしまいました^^;
次はきっといちゃらぶエロです。今回こんなだったので、いつも以上にラブラブな感じにしたいです*^^*
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
追記:続きを書きました。→★