中編


「あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜!!!!」
「銀ちゃん、うるさいアル!!」
「あ、すんません。」

翌朝、俺は自分の家の自分の布団の中で目を覚ました。
ズキズキと痛む頭に「ああ、いつもの二日酔いか」なんて思って、そこで昨夜のことを思い出し、
俺は思わず叫んじまった。だってそうだろ?男相手に手扱き、フェラ、口内射精に顔射って……
しかも、俺のこと好きだって言ってフッた相手だぞ?鬼畜とか外道とかいうレベルじゃねェよコレ。
どうしたって顔合わせるヤツだから、フッても気まずくならないようにとか考えてたのに、
自ら台無しにしてんじゃねーかァァァ!!

「あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜!!!!」
「朝っぱらからなに騒いでるんですか!」
「あ、すんません。」

既に出勤していたらしい新八にも注意されたが、俺は昨夜自分が(正確にはムスコだけど)しでかした
落とし前をどうつけるかで頭がいっぱいだった。
これで相手が女なら、間違いなく「責任取って結婚を」とか言われるところだ。
だが相手は男だ。俺も男である以上、結婚はできない。

いや、そういう問題じゃねーよ。つまりは、人の一生を左右しかねん重大なことをしでかしたってことだ。
酔った上での出来事とはいえ、やっちまったもんは仕方ねェ。責任を取ろう!


俺は朝メシをテキトーにかき込んで真選組の屯所に向かった。


*  *  *  *  *


「何の用だ?」
「き、昨日のことで……」
「……場所変えるぞ。」
「あ、うん。」

近くにいた部下に「ちょっと出て来る」と告げた土方の後を付いて昼でも薄暗い路地に入った。

「で?」

必要最低限の言葉で俺に話を促し、土方は懐から煙草を取り出して火を点けた。
俺はバッと頭を下げる。

「昨日のこと、本当にごめん!俺、責任取ろうと思って……」
「責任?」
「ちゃんと、お付き合いしよう!」
「いらねェ。」
「ちょっ……」

話は済んだとばかりに土方は路地を出ていこうとする。

「待てよ!冗談だと思ってる?俺、本気だから!本気で責任取るから!!」

路地の入口―やや人通りのある所―で声を張り上げた俺に舌打ち一つして土方は元の位置に引き返す。

「いらねェつってんだよ。俺も酔ってたし、お互い様だ。」
「でもお前は、ちゃんと気持ちがあったから……」
「そんでテメーは『気持ち』もねェのに責任感だけで一緒になるってのか?ふざけんじゃねェ。
その程度の『気持ち』なんざいらねェんだよ。」
「で、でも昨日のアレはやっぱり俺が悪いワケだし……」
「だからって、無理して付き合ってもらいたかねェんだよ。」
「無理っつーか、ああいうコトできたんだから俺だってお前のこと嫌いじゃないと思うし……」

土方の言うことは尤もだ。今だって「嫌いじゃない」が精一杯で、それだって恋愛感情かと問われたら
多分違うと言わざるを得ない。けれど俺は土方に対して何かしなければいけないんだ。

次の言葉を探しあぐねているウチに土方から「万事屋」と呼ばれた。

「な、なに?」
「来週の水曜、空いてるか?」
「あ、うん。」
「じゃあ夕メシ奢れ。それでチャラにしてやる。」
「えっと……」
「また七時に同じ居酒屋でいいな?」
「………」
「いいな!?」
「わ、分かった!好きなだけ飲み食いしてくれ。ドンペリのドンペリ割りでも構わねェから!!」
「ンなもん、居酒屋にあるかよ。」
「っ!?」

フッと土方が笑った瞬間、背中がゾクゾクして全身に鳥肌が立った。何だ?一体何が起こったんだ?

「じゃあ水曜日にな。」
「あ、うん。」

何とか返事だけはして、土方が見えなくなってから俺はその場にへたり込んだ。
呼吸も脈も速くて汗が滝のように次から次へと流れ落ちる。

それから暫くの間、俺は立つこともままならず仄暗い路地で息を切らして座り込んでいた。



*  *  *  *  *



約束の水曜日、その日は朝からソワソワ落ち着かなくて、意味もなく部屋の中をぐるぐる歩き回って
新八と神楽にウザがられて追い出されちまった。
仕方がないのでその辺を散歩してたら今夜行く居酒屋の前に来ていた。やることもないので店の前を
行ったり来たり行ったり来たり行ったり来たり行ったり来たり……

「何してんだい、銀さん。」
「ちょっと、考え事。ハハッ……」

通りすがりの知り合いに声を掛けられ居酒屋前往復は終わった。
ていうか、何してんだ俺。デートの下見なんてガキじゃねェんだからよー……デート?いやいやいや、
これはデートじゃないから。お詫びで奢る会だから。それだけだから。

「………」

一本の路地が俺の目に入る。この路地は「あの路地」だ。俺が土方に……色々させちまった路地。
俺はその路地に足を踏み入れた。

ゴクッ―

何故だか分からねェが喉が鳴った。
昼間でも暗いその場所はあの日の夜の記憶を容易に引き出してしまう。

この辺だったか……

あの日、俺が立っていた辺りに立ち、寄りかかっていた壁に寄りかかる。そして、視線は下に。


「―っ、ハァ……」


途端、息苦しさを感じて大きく息を吐く。けれどそれでは治まらず呼吸はどんどん浅く短くなっていく。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


目の前に靄がかかり、あるはずのない人の影が見えた気がした。
この感じはヤバイ―俺は咄嗟に目を瞑り、幻から目を逸らそうとした。けれど、本来見えてるもんを
見なくしたせいで、本来見えてねェもんだけがくっきり見えるようになっちまった。

俺の足元に蹲る黒い人影。

「ハァッ!」

慌てて目を開けるとそこには当然誰もいなくて、ホッとしたのも束の間、

『万事屋……』
「!?」

今度は頭の中で声が響く。


『溜まってんのか?』


ぶんぶんと頭を左右に振ったが幻聴は消えてくれない。


『ヌいてやろうか?』

ドクリ。

限界を超えたんじゃないかってくらい心臓が収縮し、一気に体中の血流量が増える。
そして、増えた血液はある一点……俺のムスコの元へ。



「ハァッハァッハァッハァッ……くっ!!」



路地裏で俺は、鮮明に蘇ったあの日の記憶をネタにヌいた。


(11.07.11)


銀←土のはずが、銀さん視点のせいで銀→土っぽくなってきましたね^^; 続きはこちら