※「2010年年末記念作品:純情な二人と年賀状」の続きです。

※「倉庫」の純情シリーズ未読の方へ:この二人、誰もいないところでは必ず手を繋いでいます。



2011年年始記念作品:純情な二人と年賀状


一月一日朝。神楽は新八と共に志村家から万事屋へ向かっていた。
神楽が志村家にいたのは、昨夜から万事屋に土方が泊まっていたから。ただ、銀時と土方は付き合っていても
一般的な大人の恋人同士がするようなことは一切しない。…というより、恥ずかしがってできない。
相手のことを考えるだけで心拍数が跳ね上がる二人には、大人の付き合いなどまだまだ先の話であった。

なのになぜ神楽が志村家に行くのかというと、いつまで経ってももじもじしている二人を
見ていたくないからである。

「今年こそは銀ちゃんとマヨラーを大人の関係にしたいネ。」
「う〜ん…どうなんだろう…」
「諦めちゃだめアル、新八。銀ちゃんがずっと、もじもじでもいいアルか?」
「流石にずっとは困るよ。ただ、未だに『恋人』って単語ですら吃ってまともに言えないんだよ?
今年中には難しいかもと思って…」
「それもそうアルな…」
「けど、できる限り進展してもらおうよ。僕だって、何でもかんでも恥ずかしがってる銀さんはあまり
見ていたくないし…」
「そうアル。もじもじし過ぎててキモイアル!」
「そうなんだよねぇ…。今日、耐えられるかな…」

大の男が年甲斐もなくもじもじしている姿は、二人にとって見るに堪えないものがある。そんな二人が
銀時と土方のいる万事屋へ向かっている理由は…

「もらうモンもらったらすぐ出るアル!」
「ハハハッ…まあ、その方が二人もゆっくりできていいかもね。」

子どもの特権・お年玉。それも、普段からロクに給料も支払わない銀時からではなく、安定した収入のある
土方からのお年玉であった。


*  *  *  *  *


「あけましておめでとーアル!」
「おめでとうございます。」
「おう…」
「おめでとう。」

新八と神楽が玄関の扉を開けると、銀時と土方が揃って出迎える。

「新年早々仲いいアルな…」
「ななな仲がいいなんてそんな…」
「おおお俺と土方は、えっと、その…」
「二人は恋人同士なんですから、仲が良くていいじゃないですか。」
「「お、おう…」」

新八に「恋人同士」と言われ、二人の頬がポッと染まる。新八と神楽は今年最初の溜息を吐いた。

「これくらいで照れないで下さいよ…」
「だだだって新八…お前が、急に…こっ恋人とか、言うから…」
「新八は本当のことを言っただけネ。二人は恋人同士アル。」
「そそそそーだけど…な、なぁ、土方?」
「えっ?…あ、ああ…こっこんな、朝から話題にすることじゃ、ねーよな…」
「そうそう。」
「ワケ分からないネ。…いいから部屋の中に入れるアル。いつまでもレディをこんな寒い場所で立たせてて
いいと思ってるアルか?」
「じゃあ…入れよ。」

新八と神楽は玄関を上がり、炬燵のある和室に向かった。



「そうだ銀ちゃん、年賀状来てたアルよ。」
「「あっ!」」

神楽から「年賀状」と聞き、銀時と土方は揃って声を上げた。

(あの束の中に俺が出した年賀状もあるんだよな…。ど、どうしよう…目の前で読まれるなんてこと想定して
なかった!しかもガキ共にも見られちまう!…あんな恥しいこと書くんじゃなかった!ていうか、一日に
会うなら年賀状出さなきゃよかった!でも今日休めると分かったのは三日前だし、その時にはもう、
年賀状出してたし…でも、でも…あああああ…どーすればいいんだ〜!)

(土方への年賀状、もう屯所に届いてるよな…。ど、どうしよう…他の隊士達が先に見ちまう!こんなことなら
あんな恥しいこと書くんじゃなかった!そもそも土方って集団生活してるから、例え今日屯所にいたとしても、
他のヤツらに俺の年賀状見られる可能性だってあったじゃん!でも出したもんは取り消せねェし…
でも、でも…あああああ…どーすればいいんだ〜!)

「どうしたネ?銀ちゃん…」
「土方さんも…何かあったんですか?」

叫んだきり黙ってしまった二人に新八と神楽が声を掛ける。我に返った二人は何とか平静を装おうとした。

「い、いや、何でもねェ…」
「気にすんな…」
「変な銀ちゃん…。それで、年賀状はどうすればいいネ?」
「っ!!」

神楽の言葉に土方の心臓がドクリと跳ねる。土方は「見るな見るな」と念を送っていた。

「と、とりあえず汁粉食おうぜ。俺、準備してくる!」
「じゃあ、銀ちゃん宛てと私宛てに分けておくネ。」
「っ!?」

炬燵から出て台所へ向かう銀時に安堵したのも束の間、神楽の言葉に再び土方の心臓が跳ねる。

「僕も手伝うよ。」
「お、俺も手伝おう!」
「土方さんはお客さんなんだからいいですよ。…そこまで枚数多くないですし。」
「い、いや…することなくて暇だから…」
「じゃあ、お願いするアル。…はい。」

神楽から年賀状の三分の一をもらい、土方は祈るような気持ちで宛名別に分けていく。自分の書いた年賀状が
あれば、帰る時までこっそり持っていようと思っているのだ。

「神楽ちゃんって結構いっぱいもらうよね。」
「かぶき町の女王なんだから、これくらい当然ネ。」
「………」

新八と神楽が話しながら作業しているのに対し、土方は黙々と選別していた。

「…(違う、これも違う!)」
「あっ、土方さん…銀さんに年賀状書いてくれたんですね。」
「!?」

土方の願いも空しく、それは新八に発見されてしまった。神楽が身を乗り出して言う。

「マヨラーの年賀状、見たいアル!」
「やめっ…」
「ダメだよ神楽ちゃん。これは銀さん宛てなんだから…」

そう言って新八は年賀状を伏せて銀時宛て年賀状の山の上に置いた。けれど神楽はこれくらいで諦めない。

「何て書いたアルか?」
「えっ!」
「見ちゃダメなら本人に聞けばいいアル。ねぇ、何て書いたアルか?」
「べ、別に…」
「それじゃ分からないアル!…ちょっとは恋人らしいこと、書いたアルか?」
「そそそそんなことは…」
「…真っ赤になって慌ててるってことは書いたアルな?」
「ちちち違っ…」
「まあ、いいネ。後で銀ちゃんに何て書いてあったか聞くアル。」
「そそそそれだけは…」
「嫌なら酢こんぶ一年分…「おい神楽、土方を苛めんじゃねーよ。」

神楽がどさくさ紛れに好物を強請ろうとした時、銀時が人数分の汁粉を持って戻って来た。

「さ、坂田…」
「大丈夫か?なんか神楽に脅されてたみてェだけど…」
「あ、それは…」
「脅してないネ。ただ、年賀状に何書いたか教えてって言っただけアル。」
「年賀状?」
「ああああ…そそそそれは、その…」
「土方さんから銀さんに、年賀状が届いてますよ。」
「えっ!」

新八はわざわざ土方からの年賀状を一番上にして、銀時宛ての年賀状を渡した。銀時は土方の書いた宛名を
じっと見詰める。

(土方が俺のために…。あー…やっぱり字ィ上手いなぁ。それになんか、土方が俺の名前書いてくれたって
思うとドキドキする。直接呼ばれたわけじゃないのに…)

無言で表面を見続ける銀時に土方は少し不安になってくる。

(宛名だけをずっと見て…どうしたんだろう。…もしかして、字が間違ってたとか!?出す前に十回は
確認したんだが…)
「銀ちゃん、どうしたネ?マヨラーからの年賀状、見ないアルか?」
「見てんじゃん。…土方って、字ィ上手いよなぁ…」
「そ、そうでもねェよ…(間違ってたんじゃなくて良かった!)」
「字なんてどうでもいいアル。そんなことより、何て書いてあるか知りたいアル!」
「あああ〜!そ、それは…」
「えっ?」

神楽に言われて年賀状を引っくり返そうとしていた銀時は、土方の大声に驚いて手を止める。

「で、できれば…俺が、帰ってからに…」
「そっか…。目の前で読むもんじゃねェよな。」
「ああ…」

銀時は年賀状をタンスの上に置いて炬燵に戻った。つまらなそうにしていた神楽であったが、銀時に
「汁粉を食おうぜ」と言われて機嫌が直り、満面の笑みで炬燵に入った。
四角い炬燵のそれぞれの辺に一人ずつ座る。入り口から最も遠い位置に「客」である土方が座り
以下、左回りに銀時、神楽、新八と続く。四人で揃って「いただきます」と言って食事を始めた。

神楽は瞬く間に汁椀を空にし、炬燵中央の籠からミカンを取って頬張った。銀時はちらちらとタンスの
上の年賀状を気にしながら汁粉を啜っている。

(土方…年賀状に何て書いたんだろう。目の前で読まれたくないってことは、何か特別なことか?
もしかして…「今年はもっと真面目に働け」とかだったりして。それどころか「ちゃんとできないなら
別れる」とかだったらどうしよう…。むしろ「もう別れたい」とかかもしれない!そんなの嫌だ〜!!)
「そういえば、銀さんの年賀状も今頃屯所に届いてるんじゃないですか?」
「えっ!坂田のって…もしかして、俺宛てか?」
「決まってるじゃないですか。ねえ、銀さん?」
「あ、うん…」

土方の年賀状が気になって仕方がない銀時は、上の空で返事をした。

(坂田からの年賀状…どんなのだろう。もしかして、総悟辺りが勝手に読んでるんじゃないか?
メールで確認してみるか?いや、もしまだ気付かれてないんだとしたら、メールがきっかけで読まれる
かもしれねェ。できるだけ早く帰って確認するしかねェか…。だが、急に帰るわけにもいかねェし…)

土方はちらちらと時計を見ながら帰るタイミングを計りだす。
そわそわしている二人を見かねた新八が助け舟を出すことにした。

「あの、土方さん…早く帰った方がいいんじゃないですか?」
「な、なんで…」
「屯所は沢山の人がいますし、もしかして銀さんからの年賀状が他の人に読まれるかも…。銀さんだって
早く土方さんに読んでもらいたいですよね?」
「は、早くってそんな…。でも、なるべく土方以外の人には見せたくないかも…」
「そっそうか。…あっ、俺のも、なるべくお前以外は…」
「うん。俺だけしか見ないから安心して(説教が書いてあったら新八達に見られたくねェし…)」
「じゃあ、行くな?」
「うん。」
「待つネ!」

炬燵から立ち上がった土方に神楽が待ったをかける。

「お前、私に渡すものがないアルか?」
「渡すもの?………ああ、お年玉か。」
「そうネ!今日はそのために来たアルヨ!」
「おい神楽…お前、いくらなんでも失礼だろ!」
「構わねェよ。子どもにとって、正月はお年玉もらえる日だもんな。」
「その通り!分かってるじゃないか、マヨラー!」
「ちゃんと用意してるぜ。……ほらよ。」
「きゃっほ〜!」
「ありがとうございます、土方さん。」

土方は着替えなどが入った風呂敷包みからぽち袋を二つ取り出して、新八と神楽に手渡した。

「なんか、悪いね…」
「気にすんな。お、俺は、その…お前の、かっ家族に渡せるのが、嬉しい、から…」
「土方…」

顔を真っ赤にして喜びの言葉を述べる土方と、その言葉に感動している銀時―ふわふわとした空気に
包まれた二人を見て新八と神楽は「また始まった…」と溜息を吐いた。

「私、酢こんぶ買いに行ってくるアル!」
「あっ、僕もちょっと買い物に行こうかな…」

子ども達はそそくさと万事屋を後にした。


「あ、あの、俺も…」
「うん。…玄関まで送るよ。」
「ありがとう。」

和室から玄関までの短い距離を二人はいつものように手を繋いで歩き、そして土方は屯所へ帰っていった。

玄関が閉まった瞬間、銀時はタンスに向かって勢いよく駆け出した。
タンスを倒すような勢いで年賀状を掴み取り、一番上―土方からの年賀状―を裏に返す。
年賀状を読んだ銀時の頬に一筋の涙が伝った。

「ありがとう土方…」

銀時はそれから新八達が帰ってくるまでの数時間、年賀状を見詰め続けていた。


*  *  *  *  *


一方、全力疾走で屯所に戻った土方は、山崎から「副長宛ての年賀状、部屋に置いておきました」と
言われ、再び全力疾走で自室まで向かった。

息を切らし、震える手で自分の文机に置いてある年賀状を手に取る。

(本当に坂田からだ…。「土方十四郎」って、坂田が書いてくれるとなんか、ドキドキするな…。
直接名前を呼ばれたわけじゃねェのに…。よしっ、裏も見てみよう…)

土方はゆっくりと年賀状を裏返す。

「こ、これは…」

銀時の年賀状を読んだ土方は目頭が熱くなるのを感じた。そこにはウサギの耳が生えた自分の大好物と
そして、土方が銀時に宛てて書いたものと全く同じ文面が書かれていた。



あけましておめでとうございます 今年もよろしくお願いします


(11.01.01)


2011年最初の更新は、予告通り純情年賀状です。年末編で銀さんと神楽が描いたウサ耳マヨネーズ、意外と好評だったのでドット絵作ってみたのですが…微妙^^;

でもウサマヨの実力はこんなもんじゃないはずです。どなたかもっと可愛く描いて下さい(笑)!それから、年賀状の文があれだけだったら、むしろ手抜きだと思いそうですが、

この二人の場合は「自分と今年も過ごしたいと思ってくれてる」と感動する年賀状になるんですね。 きっと純情な二人は今年も、もじもじでラブラブです^^

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。今年もよろしくお願いします。

追記:純情シリーズの続きはこちら

 

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