(1)
二人:拍手ありがとうございまーす!

土:今回は季節に合わせた花見小説をお送りします。
銀:おい、そんなこと言って大丈夫か?
土:は?何が?
銀:拍手お礼文、何ヶ月放置するかも分からねェのに花見って……

土:そういや、前の拍手文は八ヶ月放置だったな。
銀:四周年祝いのアレな。もう五周年も近付いてきてるっつーの。
土:まあ、裏話はこの辺でやめておこうぜ。
銀:何?銀さんと早くいちゃいちゃしたいって?
土:今回、俺の出番は殆ど無いらしいぞ。

銀:俺とお前が満開の桜の下でチョメチョメとかそんなんじゃねーの?
土:いつもよりシリアスな話だと聞いている。
銀:シリアスってお前、このサイトで一番有り得ねェことだぞ?
土:分かってる。あくまでも「このサイトにある話の中では」ということだ。
実際のところ大したシリアス展開にはならねェはずだ。

銀:本当だな?そんなこと言っといて悲しい結末に……なんてことになったら、
  読んでくれる皆様に申し訳ないぞ。
土:大丈夫だ。「最後はハッピーエンド」これだけは覆らねェ。
銀:よしっ。じゃあ、「シリアスだけど結局はいつも通り」な花見小説、次からスタート!

(2)
※単独でも読めますが、「もう一度酔ったふりして上司のヅラ取れ」の続きという設定です。






桜前線北上中


四月の初めのある日、週末には桜が見頃だと結野アナが言っていた。近所の公園では既に先週から
場所取り合戦が繰り広げられているらしい。けれど俺の心は、結野アナの笑顔でも晴れない曇天
模様が続いていた。

花見には嫌な思い出がある。

正確に言うと、いい思い出だった花見が悪い思い出に変わってしまったのだ。
いつも一緒に花を見ていた土方がいなくなってしまったから。花見がきっかけで付き合い始めた
俺達は、毎年花見をしようと約束していた。なのにヤツは、俺を残し旅立ってしまったんだ。
手の届かない遥か遠い所へ――

(3)
銀:……本当に大丈夫なんだろうな?
土:だっ大丈夫……だと思う。
銀:でもお前が手の届かない遠くに旅立ったらしいよ?それって……
土:いや、さすがにそれはない……はずだ。
銀:ならいいけど。

土:俺の出番は「殆ど」無い。つまり、少しはあるということだ。
銀:回想シーンとかじゃないといいけど。
土:…………
銀:冗談だって!大丈夫大丈夫、なっ?
土:おおああ!大丈夫に決まってんじゃねーか。あっ安心して続きをどうぞ!

(4)
「お登勢さんが土曜日に花見をしないかって言ってますよ」
「行かねぇ」

結野アナの天気予報を襖越しに聞くようになったのはいつからか……新八が何を言おうと俺は
布団から出られなかった。メシが食えなくて起き上がる気力もないのだ。
こんな姿、アイツが見たら何て言うかな。呆れる?馬鹿にする?それとも、そんなに俺が好き
なのか、って笑いながらも喜ぶ?……やめよう。ありもしないことを想像しても虚しいだけだ。

「場所取りしたら、お弁当食べ放題アルヨ」
「仕方ねーな」

神楽に引っ張られ俺は久方ぶりに布団を出た。コイツらに心配かけるわけにはいかねぇよな。

「河原でいいか?」
「公ぇむぐっ!」
「銀ちゃんに任せるネ!」

公園と言いかけた新八の口を神楽が塞いだ。……もう心配かけちまってるな。
アイツと毎年花見をしていたのが公園だった。最初は偶然会っただけ。飲み過ぎて二人で
置いてきぼりにされてそれから……

「ハァ……」

やめやめ!昔のことを懐かしんでたって前には進めねぇ。大事なのは今、これから。

やはり食べる気は起きなくて朝メシはイチゴ牛乳だけにした。冷蔵庫を開けると使いかけの
マヨネーズが目に入り、自然と溜息が零れる。
こんなことではいけない。アイツがいなくてもこれまで通りに振る舞わなくては。沈んでいたって
土方は帰ってこないのだから。

(5)
銀:……帰ってこないらしいよ。
土:そうみたいだな……
銀:とりあえず次、行ってみる?
土:そっそうだな!

(6)
そんなこんなで迎えた土曜日。やや風は冷たいものの天気は晴れて花見日和と言えるだろう。
場所取り中に食えとババァに弁当を持たされて、定春も含めた万事屋総出で早朝の河原へやって
来た。数日前から泊まり込む猛者達に絶好の場所は奪われていたが、少し散り始めた木の下を無事
確保することができた。

早速弁当を広げる神楽に釣られ、新八も俺も風呂敷を開く。握り飯と沢庵なんていかにもババァ
らしい弁当だ。花見本番も同じもんだったら承知しねェぞ……だが久々に有り付いたまともな
食事に俺の胃袋は付いていけなかった。握り飯一つと沢庵三切れ食うのがやっとで、残りは定春に
やろうとしたものの食ってはくれなかった。

「また後で食べればいいじゃないですか」
「水筒にイチゴ牛乳入れてきたネ。飲む?」
「じゃあもらうかな」

また心配をかけちまった。普段通りっつーのも難しいもんだ。もう半年も経ったんだから、
いい加減アイツがいないのにも慣れてきたと思ってたんだけどな。

水筒の蓋に注がれたイチゴ牛乳を飲み干して、俺は横になった。視界に映える桜の木。
桜色と空色と萌黄色――こんな風に散り始めて若葉混じりの桜と、青空の共演が好きだったと、
気付けば土方のことを考えている自分を一笑に付して目を閉じる。
用意のいい新八はタオルケットを持って来ていて、遠慮なくそれに包まらせてもらう。
神楽と定春は魚を捕ると言って川へ下りていき、新八は手近な石でシートの四隅を留めている。

今年も楽しい花見になりそうだ。アイツなしでもきっと――

(7)
土:「殆ど」どころか全然出番がねェ。
銀:これからだよ、きっと。
土:どうせ回想シーンなんだ……
銀:そんなことねぇって!次、行ってみよう!

(8)
「ご苦労さん」

昼になり、ババァが重箱と共に到着した。キャサリンとたまもいる。いつの間にか長谷川さんも
シートの上に座っていた。

「なかなか良い場所じゃないか」
「依頼料は来月の家賃でよろしく」
「何言ってんだい」

今日のメシが依頼料だという言葉は聞こえないふりで伸びをして、タオルケットを小さく畳み
端に置く。

「アンタにいい物が届いてるよ」
「あ?」
[こちらです]

場所取り中に届いた宅配便を代わりに受け取ったそうだ。たまから梱包された発泡スチロールを
渡され、贈り主を確認した俺は息が止まりそうになる。

「ひじ、かた……」
「トッシーからアルか?」
「どれどれ……あっ、毛ガニって書いてありますよ!」

何かの間違いか、さもなくば誰かの嫌がらせか……アイツがこんなものを送れるわけがない。
そう否定してみたところで送り状に記された字は確かに土方のもの。テープを剥がす手が震える。
このくらいで意気地のねぇ……俺の緊張を感じ取ってか、周りのヤツらも黙って発泡スチロールに
視線を集中させていた。


蓋を開けるとわっと歓声が上がる。立派な毛ガニが五杯――だが俺はそれよりも、カニの上に
置かれたビニール袋入りの封書に目を奪われた。白い、何の変哲もない封筒の中央に縦書きで
俺の名前。送り状と同じ字だった。
俺は手紙を手にするとカニの蓋を一先ず閉じて脇に置く。少し生臭い封筒を裏返せば、やはり
送り状と同じ字で「土方十四郎」と書いてあった。

「ラブレターアルか?」
「ンなわけねぇだろ……」

動揺を隠すようにわざと乱雑に封を切る。本音を言えば一人になってこの手紙を読みたい。
例え「カニを送ります」なんて、見たら分かるぞ的な一文だけであったとしても、今の俺には
感動巨編と映るに違いない。こんなことで感激している姿など見せたくない。
見せたくはないが、コイツとのことで心配かけちまってる手前、ここで読むしかないだろう。

封筒の中には、こちらもまた何の変哲もない白い便箋に文字が綴られていた。
「拝啓 桜花の候」なんて始まりこそ仰々しいものの、中身はいつもの土方だった。

(9)
――拝啓 桜花の候
 元気でやっているか?蝦夷に来て半年、仕事は順調に進んでいる。だが江戸にいた頃と比べて
 時間の流れがすこぶる遅い。正直「まだ」半年なのかと感じている。出発前、三年という期限は
 あっという間だと思ったものの、そう簡単にはいかないようだ。
 ところで金は貯まったか?お前のことだから、食う物も食わずに貯めてはギャンブルなどで
 増やそうとして失敗してるのではないか?カニでも食って栄養付けろよ。

 冗談はさておき、すぐに会えるから電話もするなという約束で今日まで来たが、もう限界だ。
 お前に会いたい。
 同封した航空券で来てはくれないか?都合が悪ければせめて声が聞きたい。情けないことを
 言ってすまない。お前の存在がこれ程までに大きいものだったのかと離れて漸く気付いた――

「…………」

エドとエゾを間違えて上陸してしまった某星大使の顔を立てるため、彼の地の開拓が急ピッチで
進められることとなった。そんな下らない理由で役人の何人かが駆り出され、土方を始めとした
真選組の一部も期限付きで大使の警護等の任に当たっている。忙しくて俺のことなんか思い出す
暇もねェもんだと踏んでいたんだがな。

封筒の中を覗けば、文面通り航空券――しかもファーストクラス――が入っていた。
涙を堪えるので精一杯。情けないのは俺の方だ。冗談抜きで手紙に書いてある通り、俺は旅費の
工面に失敗し続けている。電話をしないと決めた時には本当にすぐ会いに行くつもりだった。
だが現実は厳しく、半年かけても目標には程遠い。せめて声だけでもと何度電話をかけようと
したことか。その度に間もなく金が貯まるからと自分に言い聞かせて思い留まった。

「おっ俺、ちょっと野暮用を……」
「土方さんにお返事書くんですね?」
「ついでに婚姻届も送ればいいアル」
「坂田サンモ宅急便デ送ルトイイデスヨ」
「るせー!」

カニは食うなよと言い置いて俺は走って帰った。先ずは電話でカニとチケットのお礼を言って、
それから、それから……後は会ってからでいいか。僅かな貯金はマヨネーズに変えよう。
あちらの桜は開花もまだと聞く。折角だから花見ができるまで居座るつもりだ。金を貯めて会いに
行くという約束を反古にしちまった分、一緒に花見をする約束の方は果たしてやろうじゃねーか。
待ってろよ土方!

遠い北の大地に思いを馳せながら、俺は受話器を取った。


〜終〜

(10)
最後までお付き合いいただきありがとうございました!

(14.08.30)


2014年4〜8月のお礼文でした。死ネタに見えて死ネタでない話に挑戦。
銀魂の土方さんは史実と異なり天寿を全うしてくれそうなので(電池編(?)参照)、北海道に行っても元気に帰ってくるよ、
というのを書きたかったんです。
ここまでお読み下さりありがとうございました。


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