※「俺が純情なマヨラーでアイツが純情な甘党で」の続きです。





純情な二人が耳を澄ませば


ひょんなことから愛しい人と入れ替わってしまった銀時と土方。外から見れば少しだけ、二人にとっては大きく関係が進展して元の体となり、そして今夜は本来の姿に戻って最初のデート。銀時の姿で何日かここで暮らしていたけれど訪ねるのは久しぶり――仕事を終え、私服に着替えた土方は懐かしい気分で万事屋の呼び鈴を押した。
深呼吸で緊張感を落ち着かせるのは今までと同じ。
「いっいらっしゃいませ」
「お、招き下さり、ありがとうございます」
すこぶる丁寧に挨拶を交わし、土方は草履を脱ぎ、銀時は右手を差し出す。土方の左手がそれに重なり土間を上がり、二人は手を繋いで廊下を進んでいく。
全てが元通りに思われた。
しかし、
「…………」
「…………」
この胸の高鳴りは何だ。触れ合う箇所から全身に熱が回り、息が上がり、それでも離れ難い。
居間に入って間もなく足が止まった。物事には押し並べて順序というものがある。今は並んで腰掛け、テレビでも見ながら茶を啜る場面。それは充分に分かった上で二人とも動けないのだ。
相手を身近に感じながらも、真の意味で触れることは叶わなかった生活からの解放。その幸せを謳歌したい。片手を繋ぐ程度では生温い。
「ぎ、ときっ!」
意を決して土方は行動に出た。繋いだ手を引き寄せて唯一無二の存在をきつく抱き締める。嫌われるかもしれないと頭の隅では思いつつも、彼ならこんな自分も受け入れてくれると信じて。
「とー、しろう……」
銀時の腕もきちんと土方の背中を捕らえ、恋人達は久方ぶりの抱擁を噛み締めた。
深く息を吸い込めば愛する人の匂いがして更に胸が熱くなる。僅かに顔を上げて銀時は、その横目に映る耳朶へそっと唇を寄せた。
「っ!」
ごめん――土方の体が強張るのを感じ、囁くように謝罪して体勢を戻す。その銀時の耳朶に、何かが優しく触れた。
「っ!」
今度は銀時が強張る番。同じことをされたのだと悟り、心臓がどくんと跳ねる。
それでも腕は離れない。
恥ずかしいけど心地好い。
もう一度、銀時は耳朶へ口付けてみた。
唇の先がほんの一瞬、触れるだけの口付けを。
「ん……」
先程のように驚かれることはない。そしてこちらを向いた土方の気配で次の動きを推し量り目を閉じ、耳に神経を集中させた。
「ひゃっ!」
予想だにしない湿った感触。舌先が当てられたのだと理解する前に体中が張り詰め、その後へなへなと膝から崩れ落ちてしまう。
「ハァ、ハァ……」
「すまない!」
素早くしゃがみ頭を下げる土方。乱れた息で言葉を紡げない銀時はひたすら首を横に振った。
「本当にすまなかった。つい、その……」
「ハァ……へーき……びっくり、しただけ」
「だが……」
ちらりと見上げた土方の表情は心から申し訳なさそうで、銀時は己の胸辺りの着物をきゅっと掴む。
「なっ舐めるって、分かってたら、多分、大丈夫だから……だから……こっちもしてっ」
「え……」
感情に任せて発した台詞は途轍もなく大胆なもの。右の耳を土方へ向けて銀時は顔を両手で覆った。
喉の鳴る音が聞こえる。
肩を抱く手が熱い。
柔らかな吐息が耳にかかる。
「んっ!」
土方の舌が耳朶を微かに押し、即座に離れた。銀時は鼻から抜ける声を漏らして、
「ふぅ……」
それから床へ寝そべってしまう。
「お、おいっ!」
「ごめ……思ったより、すごくて……ちょっと、休ませて」
「布団、敷くか?」
「い、い」
抱えきれないほどの高揚感と幸福感。移動すれば霧散してしまいそうで、みっともない格好だと思うものの留まることに決めた。


銀時が起き上がれたのは一時間以上も後のこと。背中をさすったり頭を撫でたり、土方が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるものだから、なかなか興奮冷めやらず余計に時間が経過してしまった。途中で土方も気付き、見守ることに専念してくれていたけれど。
「ごめんね」
「いや」
ばつが悪そうに頬を掻き、土方の袖を引く。
「あっちに布団、敷いてあるから」
「っ――」
寝室へ誘う銀時の瞳に見たことのない艶が宿っていて、土方は息を飲んだ。自分達にとって寝室は、文字通り眠るための部屋であったはず。けれど今の銀時の目は別の意味を持っているようで。
「ふ、布団って……」
「とっ十四郎を、床に這い蹲らせるわけには、いかないもんね」
「あ……」
自身が床に伏せる原因となったことを仕返そうとしているのだ。
「あの、俺は……」
「いや?」
「そういうわけじゃ……」
話しながらも徐々に襖が近付いている。最早脱出は不可能。否、元より銀時を拒絶する気など皆無なのだ。
銀時が襖を開けて土方はおずおずと和室へ足を踏み入れた。

「じゃあ……」
「っ!……すっ座ってもいいか」
部屋の中央に用意された二人の布団。その脇まで来たところで銀時に肩を抱かれ、反射的に距離をとってしまった。決して逃げたのではないと主張するかのように、また己を鼓舞するかのように、ずかずかと布団へ上がり正座する土方。
後を追う銀時が自分の横で膝を折るのを確認し、土方は観念して目を閉じた。
「…………」
恋人の横顔を見詰め銀時は唾を飲み込む。己のされたことをしてみたくなったのは事実。けれどもいざその時になると極度の緊張に見舞われたのだ。
「いっいくよ」
「っ!」
元々閉じていた目をよりきつく結び、来たる時に備える。顎の下に添えられた銀時の手は震えていた。自分の耳にしてくれた土方を心底尊敬する。あれほどまでに甚大な衝撃を与える行為を、よくしてくれたものだと。
そして先に「経験」してしまったがため、不安も増大していく。己と同じ状況になるはずだとここへ連れて来たものの、土方のように上手くできなかったらどうしよう――
「はぅっ!」
ええいままよと舌を伸ばし、目標地点へ到達した瞬間、土方は仰け反って布団へ倒れ込んだ。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
目を見開き、天井を仰ぎ、肩で息をする。銀時が動く気配に慌てて左の耳を塞いだ。それはまだ無事である方の耳。
「十四郎?手を……」
「むっ無理だ!これ以上はっ――」
あのような刺激を立て続けに与えられては身がもたない。今日はこれで勘弁願いたいのに、
「でっでも、両方しないと……」
経験者は知っている。片側だけがじくじくと熱を持つ感覚に耐え続けるのも辛いのだと。
案の定、自ら押さえた土方の左耳がちりちりと鈍い痛みを訴え始める。逆側もしてほしいと言った銀時の気持ちが痛いほど理解できた。
「ね?」
「う……」
銀時の手が土方の左手を柔らかく撫でる。
そろそろと耳から手が離れていった。
「あっ!」
左の耳朶をつんと押されて土方は反対方向へ転がり、銀時もかつての自分を重ね合わせ、耳が熱くなるのを感じて畳へ転がるのだった。

この日、彼らは数年ぶりに別々の布団で眠りにつく。二人にしてはとても淫らな行為に耽った感覚。そんな日に相手の体温を感じる位置で寝ることなどできなかったから。

(15.05.22)


当初、久しぶりで盛り上がって何度もキスしてしまう感じの二人を書く予定だったのですが、書いてみたら耳をぺろっとやりだしちゃってビックリしました*^^*
純情な二人は私の想像以上に成長していたようです。といっても、世間一般から見ればまだまだですけれどね。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
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