「純情な二人と一つの布団」の続きです。
「ねえねえ銀ちゃあん……聞きたいことがあるの〜」
「……誰?」
万事屋での昼食時、普段の彼女からは想像もできないような甘えた声を出した神楽に銀時は
顔を顰めた。こんな時は大抵何かを強請られる時。
ンな金どこにあるんだ。ヨソはヨソ、ウチはウチ。無理なモンは無理……否定の返事を
しっかりと頭に描きつつ銀時は形式的に神楽に聞いた。
「何だ?」
「銀ちゃんは攻めアルか?受けアルか?」
「げほごほがはごふっ!」
想定外過ぎる質問に銀時は盛大に噎せ返る。
「うぎゃ〜汚いアル!」
「ちょっとォォォォ!こっちにも飛んできましたよ!」
向かいに座る神楽は卵かけご飯入りの丼を持ち上げて避難させ、その隣で黙って食事をしていた
新八にまで怒られる始末。しかし、悪いのは神楽だと銀時も言い返す。
「オメーが変なこと聞いたせいだろ!」
「ちょっと聞いてみただけネ!」
「十年早ェ!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて……」
見兼ねた新八が止めに入る、と思いきや……
「で、どっちなんです?」
「え゛……」
神楽側についたものだから銀時は驚きのあまり動きを止めた。
「銀ちゃん、どっちネ?」
「いや……」
「教えて下さいよ〜」
「あの……」
顔を真っ赤にして狼狽える銀時……何かがおかしいと感じながらも、これが「作戦」であるとは
思いもよらなかった。
純情な二人の意識改革
数日前、銀時と土方を大人な恋人にすべくいつもの四人―山崎、沖田、新八、神楽―が
集まっていた。まずは銘々に二人の近況を報告しあう。
「銀ちゃん、自分で布団敷けるようになったヨ」
「それのどこがすごいんでィ」
「最初のうちはダブルの布団見るだけで真っ赤になっちゃってたんで……」
「ハァ〜……」
「とっとりあえず、一緒の布団で寝るのは抵抗なくなったみたいで良かった良かった。ハハッ……」
ある意味予想通りの純情ぶりに四人は溜息を吐く。けれど落胆してばかりもいられない。
二人をクールでスマートでちょっぴり爛れた大人の恋人同士にするのが自分達の使命なのだと
奮起して、作戦会議を続ける。
「つーかあの二人、ヤり方知ってんのか?」
「流石にそれは……」
「まあ、隊長が疑いたくなる気持ちも分かりますけどね」
「惚れた野郎と一つの布団に入ってキス止まりだぜ?」
「お前らヘンだって二人に言ってやりたいアル!」
「それだ!」
神楽の発言で山崎が閃いた。
「副長達に、現状がおかしいってことを突き付けましょう!未だ清い関係だということが
恥ずかしくなるように」
「どうするんです?」
「こういうのは隊長が適任だと思うんですけど……」
この時山崎の思い付いた作戦こそ、冒頭にて神楽が実行していた、二人にベッドの中での役割を
聞くというもの。これで「身体の関係があって当然」ということを暗に伝えようというのだ。
「あの二人なら多分、そういう話題を出すだけで照れるだろうから、これくらい普通のこと、
大人なら皆してるって感じで二人に揺さ振りを掛けてみて……」
「それで、ヤる気にしていくんだな?」
「一度では無理だと思いますが……ほら、隊長なら副長に嫌がらせするの得意ですし、
何度も聞いても不自然じゃないというか……」
「まぁそうだな。……けど、その言い方は気に食わねェ」
「痛っ」
沖田にパシリと叩かれた頭を摩りながら、山崎が続ける。
「神楽ちゃんも、無邪気な感じで聞けば疑われないんじゃない?」
「任せるネ!私はいつでも無邪気で可憐な美少女アル!」
「どこがでィ……」
「どっからどう見てもネ!」
「まあまあ……」
ケンカに発展しそうな二人を山崎と新八で宥めて、この日の作戦会議は終了した。
* * * * *
再び作戦決行中の万事屋。
「銀ちゃん、顔真っ赤アル」
「だって……」
「勿体付けるから恥ずかしくなるんですよ。ささっと答えちゃってください」
「お前ら、何でそんなに知りたいんだよ……」
「どっちかなって思っただけネ」
「僕も神楽ちゃんが聞いたから気になっちゃって」
二人は作戦会議通りに単なる好奇心を装う。
「そっそんなの、どっちだっていいだろ!」
「……言えないわけでもあるんですか?」
「まさか銀ちゃん、言えないような酷いことトッシーにされてるアルか?」
「ちっ違う!土方はすげェやや優しいし……」
「実はもう、土方さんと別れたとか?」
「違ぇよ!俺と土方は今でもちゃんとつつ付き合ってるし……」
「じゃあ何で言えないネ?」
「そっそれは……お前らにはまだ早いからだ!」
「詳細を話せと言ってるわけじゃないんですよ?いいじゃないですか」
「秘密にされると余計に気になるネ」
「とにかく!お前らには早過ぎる!以上!」
無理矢理に会話を打ち切って、銀時は逃げるように外へ出てしまった。
* * * * *
同じ頃、巡回中の土方はペアを組んだ沖田に同じ質問をされていた。
「そそそそんなこと、テメーにゃ関係ねぇだろ!」
「いやいや、気になるじゃないですか。休みの度に万事屋行って、あの布団で寝てるんでしょう?」
「……ンなのは、俺達の勝手だろ」
「具体的にナニしてるかまではいいんで、どっちがネコかだけ教えて下せェ」
「だからテメーにゃ関係ねぇって言ってんだろ!仕事中に余計な話するんじゃねェェェェ!」
それから沖田が何を言っても土方は無視を決め込み、巡回をこなしていった。
「え〜、俺が聞くんですか?勘弁して下さいよ隊長〜……」
巡回を終え、自室へ戻った土方の元へ山崎が茶を入れて持って行く。
そこを沖田が捕まえて、巡回中に答えがもらえなかったことを代わりに聞いてこいと言っていた。
勿論これも作戦のうちで、二人は敢えて副長室の襖の前で言い合いをしている。
「さりげなく聞いてこいって。お前も気になるだろ?」
「そりゃ、ちょっとは興味ありますけど……」
「だろ?上手く聞き出せたら真選組ソーセージやるから」
「別にいらないですよ。そんなこと聞いて副長に怒られる方が嫌ですし……」
「なら例の写真、バラまいてもいいんだな?」
「ちょっ……それは秘密にしてくれるって約束だったじゃないですか!」
「じゃあ聞け」
「うぅっ……分かりましたよ」
山崎は沈痛な面持ちで副長室の襖に手を掛けた。
当然のことながら「例の写真」など存在しない。二人の会話が土方に筒抜けなのを分かっていて、
山崎が脅されているフリをしているのだ。
「副長、お茶をお持ちしました」
「おう。それと、総悟も入れ」
「えっ!」
「おやおや、よくお気付きで……」
「廊下で騒がれりゃ嫌でも聞こえる」
山崎に続いて沖田も副長室へと入っていった。
沖田が土方の近くに腰を下ろすと、土方は山崎が座るのを待たずに話し始める。
「何でそんなに知りたいんだよ……」
山崎に差し出された茶を啜りつつ土方は呆れたように言う。沖田の斜め後ろに山崎は正座した。
「何でも知りたいお年頃なんでさァ」
「どっちだっていいだろ……」
「じゃあ旦那に聞いてこようかな〜……」
「そっ、それはやめろ!」
立ち上がりかけた沖田を土方は制止する。恥ずかしい質問から恋人を守るために。
「じゃあ土方さんが教えて下せェ」
「……分かったよ!言やぁいーんだろ!」
「「!!」」
上手くいった……二人は固唾を飲んで土方の言葉を待つ。
「きっ……決まって、ねーよ……」
「決まってない?リバってやつですかィ?」
「いや……」
「言うって言った割に歯切れが悪いですねィ。侍なら潔く言え、土方コノヤロー」
「侍関係ねーだろ!……チッ、だから……その……俺と、坂田はまだ……その……」
坂田が恥ずかしい思いをしないようにと自分で引き受けた質問だが、やはりこういったことを
他人に話すのは抵抗がある。そもそも、恋人本人とだって恥ずかしくて話せないのに……
土方は組んだ足首の上に両手を重ね、視線を彷徨わせつつ言葉を紡ぐ。
「だから……その……だから……その……」
「さっきから、『だから』と『その』しか言ってませんぜ?どっちがネコか、言えばいいだけ
なんですけどねィ」
「だから……決まって、ねーんだって……」
「それが分からないんでさァ……。交代でネコやってるわけじゃないんでしょう?」
「だから……そういうことは、まだ、してなくて……だから……」
「はあ?」
沖田は思い切り怪訝そうな顔をする。
「まさかまだ『清い関係』とでも言いたいんですか?」
「そっ、そうだ」
「……そんなんで誤魔化されると思ってるんで?」
「誤魔化すって……」
「アンタらが付き合ってもう二年以上ですよねィ?それなのに清い関係って……俺もそこまで
ガキじゃないんで、それくらいの嘘は見抜けますぜィ」
「もしかして副長、自分が女役だから恥ずかしいと思ってるんですか?」
「違っ……」
「副長と旦那が互いに思い合ってるのは知ってますから、どっちだって恥ずかしくありませんよ」
「さっさと白状しろ土方ァ」
山崎と沖田は、土方と銀時の間に身体の関係があることを前提に話を進めていく。
「だから、違うって……」
「はいはい……本当に副長は照れ屋なんだから……」
「どうせアンタがネコなんだろ」
「違ぇよ……」
否定の言葉は弱々しく、充分に揺さぶりを掛けられたと山崎も沖田も感じていた。
「もしかしたら二人だけの秘密なのかもしれませんし、この辺で許してあげたらどうです?」
「仕方ねェな……」
山崎に諭されて沖田は漸く重い腰を上げた。
まだ何か言いたそうにしている土方を置いて、二人はさっさと部屋を後にするのだった。
(12.06.26)
およそ半年ぶりの純情シリーズです。前作(布団の話)を書いた時は冬まっただ中で、一つの布団でぬくぬくほかほかが丁度いい季節だったのですが
ご無沙汰しているうちに暑くなってきてしまった^^; 古い布団じゃ寒いからと(ダブルの)新しい布団を買わされたはずが……。季節に合わせてダブルの
夏掛けも買わされた体でお願いします(笑)。まあこの二人、エロい感じじゃないならくっ付いてるの好きなんで、今更別々の布団で寝ませんよ。
後編は二人のデートになります。アップまで少々お待ち下さい。
追記:後編はこちら→★