※「純情な二人と周りの人々(土方版)」の続きです。













「土方の野郎……一丁前にこないだのデートのこと、自慢してたらしいぜ。」

毎度お馴染み、銀時と土方を大人の恋人にするため頑張る会。
今日の第一声は沖田で、先日近藤から聞いた話を報告した。

「デートっていうと……ホテルに泊まった時のことですか?」
「ああ。」
「ということは、何か進展が?」

漸く二人が大人らしいことをしたのかと新八は期待を込めて聞くが、それには神楽が、

「あの二人にそんな大それたことできるわけないネ。」

先回りして否定の答えを出した。そしてそれに沖田も溜め息混じりに頷く。

「ああ。一つのベッドに入ってキスしたってのを得意げに話していたんだと。」
「やっぱり、その程度ですか……」
「予想通りアル。」
「いや、予想以下だよ。」

落胆する新八と呆れ返る神楽に追い打ちを掛けたのは、近藤の話を一緒に聞いていた山崎。

「どういうことですか?僕はキスくらいすると思ってましたけど……」
「それは俺も同じだよ、新八くん。ただ問題は、副長がそれを自慢したってことなんだ。」
「自慢はだめアルか?」
「自慢したってことは、少なくとも副長はキスを凄いことだと思ってるってことだろ?」
「そんなこと分かってらァ。」

何を今更と沖田の横槍が入るのも構わず山崎は説明を続ける。

「二年も付き合っててキス止まりが自慢なんですよ?これって、副長にしては今のペースがむしろ
速いくらいに思ってるってことじゃないですか?」
「あ……」
「言われてみれば……」
「そうアルな……」
「でしょ?俺は今まで、二人が恥ずかしがるからゆっくり進展するしかないんだと思ってました。
でも今回の件で、副長はこれでいいと感じているんだと分かりました。『ゆっくりしかない』と
『望んでゆっくり』は大分違いますよ!」
「だな……。」
「でっでも、まだ銀さんもそうとは……」
「銀ちゃんだって、現状に不満はないアルヨ。」
「そう、だよね……」

ここへ来て四人は「二人の意識変革」という大きな壁にぶつかってしまった。
そしてこういう時、頼りにされるのは最年長の山崎であった。

「何かねェか?」

沖田の問いに山崎は頭を抱えた。

「副長に関しては、局長の言うことなら聞き入れると思うんですけど……」

銀時を信頼しきっている今の土方では近藤でも五分だという気もしたが、自分達が言うよりは
遥かにマシだと思えた。しかし、

「近藤さんが身体の関係を勧めるとは思えねェな……」
「ですよねー……」

自らも長年一人の女性を追い回し続けている男である。爛れた大人の付き合いなど推奨する
はずもない。それどころか、下手をしたら現状を讃えかねない。

「あとは、他の幸せな大人のカップルを見て触発されるとか……」
「あの二人、自分達が最高に幸せだと思ってるアル。他を見る余裕なんてないネ。」
「となると、地道に突いていくしか……。恥ずかしさがなくなれば進展する気になるかもしれない。」
「今まで通り、僕らが頑張るしかないってことですね。」
「やるしかねェか……」
「頑張るアル!」

会議というよりは決起集会の様相を呈してきた。

「やはり慣れてもらうしかねェよな。」
「ベッドでキスはできたんだから、今後も一緒に寝られれば……」
「ウチの布団、一コ捨てちゃえばいいネ。」
「流石にそれは……」
「じゃあ、二つの布団を縫い付けるアル!」
「だったらダブルの布団を買わせればいいんじゃねェか?」
「……土方さんが買うんですか?」
「あの人ァ、タバコとマヨネーズ以外に金の使い道を知らねェから大丈夫でィ。」
「銀ちゃんだって、トッシーのためなら頑張れるネ!」
「では、二人でお金を出し合って買うってことで。」

これで、今回の集まりは終了となった。



純情な二人と一つの布団



「銀ちゃん、トッシー用に布団買うアル。」
「は?」

ある日、唐突にそう言われた銀時は、一瞬何のことだか分からなかった。

「だからー、トッシーがお泊まりする時の布団、買ってあげようヨ。」
「布団ならあるじゃねーか。」
「銀ちゃんは大事な恋人を、いつまで使い古した布団で寝させるアルか?」
「そうだね。寒くなってきましたし、いい布団じゃないと土方さんが可哀想ですよ。」

偶然聞き付けた体を装って新八も話の輪に加わった。

「昨年も一昨年もあの布団だったけど、土方は別に寒そうじゃなかったし……」
「本当ですか?」
「銀ちゃんはトッシーの寝てるとこ、ちゃんと確認したアルか?」
「うっ……」

そう言われてしまうと銀時は黙るしかなかった。普段から恥ずかしくて土方の方は見られない。
寝ているところなどは見たことがないと言ってもいいくらいだった。
もしかしたら気付かなかっただけで寒さに震えていたのではないか……銀時の脳裏に一抹の
不安が過る。と同時に、それを感じ取った新八と神楽は目配せで作戦の第一段階成功を喜んだ。

「今日は依頼もないし、布団を見に行きましょうよ。」
「でも、金が……」
「見るだけでもいいじゃないですか。」
「銀ちゃん値切るの得意だから今あるお金で買えるかもしれないヨ。」
「じゃあ、行ってくるか……」
「お供します。」
「私も行くネ。」

こうして、万事屋三人は買い物に出かけた。


*  *  *  *  *


「あれぇ〜、トッシーアル。おーい!」

目的地の寝具店が見えてくると、その前に制服姿の土方と沖田がいるのを「偶然」発見した。

「おやおや旦那方、おそろいで……」
「こんにちは、沖田さん、土方さん。」
「こんにちは、トッシー。」
「さ、坂田……」
「おいバカップルその二、かぶき町の女王が挨拶してるのに無視アルか?」
「あ……こ、こんにちは。」
「ほら、銀さんも御挨拶して。」
「こ、こんにちは。」

二人は視線を下に向けたままペコリと頭を下げた。

(坂田と会えた……)
(土方と会えた……)
((今日はいい日だ。))
「いい加減にしろヨ、バカップル。」

途端、フワフワした空気を醸し出す二人に神楽は怒りのツッコミを入れた。

「その言い方やめろよ神楽。土方と俺は普通のカ、カッ、カッ、プ……」
「言えないなら言おうとするんじゃないネ。」
「と、ところでお二人は巡回中ですか?」

一向に先へ進みそうもないと新八は沖田へ話を振った。

「今は休憩中でィ。ちょっくら買い物にねっ、土方さん?」
「あ、ああ……」
「へー……僕らもなんですよ。」
「トッシーのお布団買いに来たアル。」
「えっ!」
「こりゃ奇遇だねィ。土方さんも、旦那ン家で使う布団を買いに来たんでさァ。」
「そうだったんですか。」
「い、いつも貸してもらっちゃ悪いから……。あれ、お前も使うんだろ?」
「気を遣っていただいてすみません。」
「じゃあ一緒に行くネ。」
「そうしやしょう、土方さん。」
「あ、ああ……」
「銀さんも行きますよ。」
「あ、ああ……」

打ち合わせ通りに二人を寝具店へ連れていくことができ、作戦第二段階も無事成功した。



「銀ちゃん、どれがいいアルか?」
「土方が使うんだから、土方が選んだ方が……」
「ですって、土方さん?」
「でっでも、坂田の家に置くんだから坂田が選んだ方が……」
「……僕らで選んでいいですか?」

どうせ互いを意識し合って布団など見る余裕はないだろうと、三人で勝手に物色し始める。
取り残された銀時はほんの少しだけ土方との距離を詰めて言った。

「あの……今まで古い布団でごめんね。」
「ち、違っ……。これは、そういうことじゃなくて、世話になりっぱなしだから……」
「そんなに、気を遣わないでね。」
「ああ(坂田は優しいな……)」
(土方って優しいよな……)

いい恋人に巡り合えた幸せに浸る二人にイラつきながらも、三人は目当ての布団を探し当てた。

「土方さん、これなんてどうです?」
「あ、いいんじゃねぇか……」

実のところ、隣に恋人がいる緊張で正常な判断などできない状態ではあったものの、布団なら
どれも大差ないだろうと、土方は適当に返事をした。けれど、

「それじゃあ店員さん、このダブルの布団セット一つ頼みやす。」
「「ダブルぅ!?」」
「ありがとうございます。」

不穏な単語に二人は覚醒し、慌てて三人の元へ。

「だだだダブルって何だよ総悟!俺の布団だぞ!?」
「土方さん……アンタだけ新品の布団で温まるたァ、流石は鬼の副長だねィ。」
「そそっそれならもう一組買えばいいだろ!」
「シングル二組買うより、ダブル一組の方が安かったんで……」
「ウチは貧乏アルからな。」
「そういうことなんで、すみません土方さん。」
「土方ごめん。俺が貧乏なばっかりに……」
「いいいいや、泊めてもらってるこっちが悪いんだから……」
「いちゃついてないで金払えバカップル。」
「「あ……」」

謝り合いは沖田によって強制的に止められ、銀時と土方で半額ずつ支払い、布団は後日配達して
もらうことに決まった。

(12.01.08)


純情な二人は安住の地をどんどん奪われている感じですね^^; 遂に万事屋の布団がダブルになってしまいました。続きはこちら