日本語の勉強にと神楽に漫画を買ってやったのが間違いだった。
漫画なら振り仮名付きで出てくる言葉も簡単で、何より安くていいと思った。実際、ある程度読み書きは
できるようになったし、友達と漫画の話なんかもできて楽しんでるみたいなんだが…
その「友達」が問題なんだ。
神楽は最近、友達から漫画を借りてくるようになった。
…まあ、それはよくあることだ。むやみに同じものを欲しがらず借りるっつーのはいい。
問題はその借りた漫画の内容だ。

借りた漫画の影響で神楽は今、恋愛に興味津々だ。
つっても、色気より食い気のアイツに好きな男ができたわけではない。
神楽の興味は専ら、俺と土方の付き合いについて。恋愛漫画を読んでは俺達も同じなのかと聞いてくる。

ったく勘弁してくれよな…。漫画と現実が同じわけねェだろ…。
そもそも、神楽の漫画に出てくるのはガキで男と女で…俺と土方じゃ違い過ぎるってのに、
それを分かってねェ神楽は今日も…


「この作品はフィクションです」と言っても
作品自体は実在するから全てがフィクションとも言い切れない



「銀ちゃん銀ちゃん!銀ちゃんはトッシーのどこにときめくアルか?」
「と、ときめくぅ〜!?あのなァ神楽…何度も言ってっけど、漫画と俺達は別モンなんだよ。」
「じゃあ銀ちゃんは、トッシーに会っても胸がキュンってならないアルか?」
「ならねーよ。」
「じゃあ、トッシーのこと考えてご飯が食べられなくなることは?」
「ねーよ。…むしろアイツがいれば金のこと気にしなくていいから食が進むな。」
「そういうんじゃなくて、恋するオトメは彼のことを考えると胸がいっぱいで食欲がなくなるなるって
これに書いてあったネ!」

そう言って神楽はやたらキラキラチカチカした表紙の漫画を俺に見せてくる。

「だから…それはフィクション。つまり作り話なんだよ。」
「そうアルか…。じゃあじゃあ、滅多に見ない私服姿にドキッとすることはあるアルか?」
「ねーよ。だいたい、アイツの私服なんて珍しくも何ともねーだろ。」
「じゃあ銀ちゃんはいつキュンってなるネ!」

神楽はバンバンとテーブルを叩く。

「何キレてんだよ…」
「銀ちゃんが全然答えてくれないからアル!」
「答えるも何も…ないんだからしょーがねェだろ。」
「でも、トッシーは銀ちゃんのカレシでしょ?」
「まあ一応…。けど漫画は漫画。俺達とは違うんだよ。」
「…分かったアル。」
「やっと分かったか…」
「問題はトッシーアルな?トッシーが情けないから、銀ちゃんキュンってなれないネ。」
「…は?」
「ちょっと行って来るアル!」
「おいおい…」

神楽は例の漫画を持って出て行っちまった。多分…というか絶対ェ屯所に行ったな。
…まあ、いいか。土方からも話を聞けば漫画と俺達の違いを理解すんだろ…。どうせ今夜は土方が
ウチに来る予定だし、ってことはこの時間も大して忙しくないだろうし、土方に任せておこう。

そんな感じで悠長に構えて、俺は傍らにあったジャンプを開いた。



*  *  *  *  *



「よ、よう…」
「!?」

夕方、ウチに来た土方は黒のスーツにネクタイを締めて、目が悪くもねェのに何故か眼鏡をかけていた。
その恰好を見た途端、心臓が止まったかと思うくらい激しい衝撃を胸の辺りに感じた。
何だ?何が起きた?

「と、とりあえず入れよ…」
「ああ。」


事務所の長イスに土方を座らせ、俺もその向かいに座…ろうと思ったが、何となく土方をあまり視界に
入れたくなくて隣に座った。

「そ、その恰好…神楽か?」
「ああ。…昼間、いきなりやって来て箪笥をひっくり返し、お前に見せたことのない服はどれだ、と…」
「ふ、ふーん…それでスーツね。…その眼鏡は?」
「潜入捜査の変装用だ。…これもチャイナがかけて行けと。」
「なに言いなりになってんの?お前はもっと、自分のスタイルを持ってるんだと思ってた。」
「その…たまに、いつもと違う恰好をすればお前が喜ぶと言われてだな…」
「ガキの言うこと真に受けてんじゃねーよ。」

本当にバカだなコイツ…。こんなヤツにときめくとか無理だろ…。さっきのはアレだ。ちょっとビックリ
しただけだ。その証拠に今は別に…

「っ!!」
「…どうした?」
「い、いや、何でもねェ…」

ちらっと土方の顔を見ただけで、またあの心臓の衝撃が襲ってきた。チキショー、何だってんだよ!!
俺は土方から顔を背け、イスの端に移動した。

「…銀時?怒ってるのか?」
「べ、別に!そんなんじゃねーし!」
「俺だって本気でお前が喜ぶと思ったわけじゃねェぞ?ただ、チャイナが楽しそうだったから…」
「ケッ、どーだか…。ちょっとカッコイイとこ見せて、俺にサービスしてもらおうとか思ってたんじゃ
ねーの?へっ…その手には乗らねー。」
「…これ、カッコイイか?」
「バッ…ちちち違ェよ!そういう意味じゃねーよ!」
「なるほどな…。それでさっきから顔が赤ェのか。」
「はぁ!?」

えっ…俺、顔赤い?冗談だろ…。文字サイトで顔が見えないからってテキトーなこと言うなよ!

「銀時…」
「ちょっ…」

土方はいつも間にかくっ付くくらい近くにいて、俺の耳元で名前を呼びやがった!

「ふふふふざけんなテメー!俺をからかうとはいい度胸じゃねーか!」
「ハハッ…悪かった。…オメーが本当に喜ぶのはこっちの方だろ?」
「へっ?」

そう言って土方は高級和菓子店の包みを俺に手渡した。

「そ、そーだよ!分かってんじゃん!よしっ、茶を淹れて来てやろう。」

和菓子はとりあえずテーブルに置いて、俺は台所に向かう。
…なんか疲れた。手土産もらうだけに何時間かかってんだ?
そう思って時計を見てみたが、土方が来てから五分しか経ってなかった。



「どーぞ。」
「おう。」

二人分の湯呑を持って戻り、一つを土方の前に置いて俺はその向かいに座った。
…やっぱり、土方の近くには座らない方がいい気がする。今日の土方は神楽を味方に付けて調子に乗ってる。

俺が座る場所を変えたのにも構わず、土方は煙草を一本咥えてライターで火を点けた。

「………」

煙草を吸う姿なんて飽きるほど見てきたってのに、どういうわけか目が離せない。
なんか…絵になる感じ?ドラマのワンシーンみたいな、そんな感じがして、自分ん家だってのに
土方の周りだけ別世界みたいに見える。
それと、空気が薄くなったような…何だか分からねェけど息苦しい。

「銀時、食わねェのか?」
「あっ…ああ、食うよ!食うに決まってんだろ。」

内心の動揺を悟られまいと、俺は態とぞんざいに包装紙を破り捨てて箱を開ける。
中には色とりどりの上生菓子。

「おー…さすが高級店!見た目もいい感じだな。」
「気に入ったか?」
「おう…っ!!」

礼を言おうと顔を上げた瞬間、フッと笑みを零した土方と目が合い、俺は反射的に顔を背けた。

「あー……サンキューな。」
「おう。」

ダメだ…。やっぱり今日の俺は変だ。きっと「マヨラーとまともに話せない病」に罹ってしまったに
違いない。…いや「ヘビースモーカーを見たら呼吸不全になる病」かも?
よしっ、こんな時は糖分だ。甘いモン食えば全てが上手くいく。糖分は偉大だからな!
さて、どれから食おうかな…

「………」
「どうした?遠慮せずに好きなだけ食え。」
「うっうるせェな!今、選んでんだよ。」

マジで俺、ヤバイかも…。こんな美味そうな高級和菓子なのに、全く食う気がしねェ。
おかしいだろコレ!糖分王たるこの俺がどうして…

その時、俺の頭の中で神楽の声がした。

 『恋するオトメは胸がいっぱいで食欲がなくなるネ』

いやいやいや…それはナイ!絶っっっっっ対にナイ!!
高級品だから勿体なくて食えねェだけだ。別に、土方がスーツで眼鏡とか関係ねーし…
そもそも俺オトメじゃねェし、土方とはもっとドライな関係であって恋とかじゃねーし…

「おい…食わねェのか?」
「い、いや…明日、新八達が来てから一緒に食おうかなァって…ハハッ。」
「そうか?じゃあ…メシ食いに行くか?」
「そ、そうだなっ。」

土方は灰皿に煙草を押し付けて立ち上がった。

「ま、待て!お前、その恰好で行く気か!?」
「…ダメか?」
「お、俺はいつも通りなのにお前だけそんなんじゃ、変だろ…」
「それもそうか…。着替え、持って来といて正解だったな。」

土方は眼鏡を外してテーブルに置き、ネクタイの結び目に指を掛ける。

「―っ!」
「…ん?何だ?」
「べ、別にっ。…俺、厠行って来る!」
「おう…」

マズイ…。またなんか変な感じになるとこだった…。
決して、土方が眼鏡やネクタイを外す姿に色気を感じた訳ではないぞ。
これっぽっちもドキドキとかしてねェけど、野郎の着替えなんか見ても楽しくねェから部屋を出たんだ。



それから、いつもの着流し姿になった土方とメシを食いに行った。
…メシは普通に食えた。

ほら見ろ。やっぱアレは高級菓子に遠慮しただけだったんだ…。土方にときめくとか有り得ねェよ。
所詮、漫画は漫画だ。明日になったら神楽にその辺のこと、よーく言って聞かせないとな…。


(11.04.22)


7万打記念リク第二弾はな様の「男前な土方さんと乙女な銀さん」でした。リクエストは土銀だったのですが、絡みが全くないため「土銀土」表記にしてます。

ご了承ください。「男前」って見た目じゃなくて精神的な方かもしれませんが、銀さんは土方さんの外見が好きで、土方さんは銀さんの内面が好き、って設定が好きなんです。

…もちろん「外見も内面も全部好き」が基本ですよ。それが根底にあって、でもどちらかといえば外見/内面の方が…ってことです。けれどツンデレ銀さんは素直に好きだと

認められないし、鈍い土方さんは銀さんを魅了していることに気付いていません。そんな、ラブラブすれ違い土銀が大好きです^^ それから、タイトル長くて済みません。

何とか纏めようと数日考えたのですがダメでした。そのうちいい纏め方を思い付いたらタイトルが少し変わってるかもしれません。

それでは、リクエスト下さったはな様、ここまでお読み下さった皆様ありがとうございました!

 

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